「前鬼様、変な顔ぉ~」
「前鬼様、変な顔ぉ~」
うぇぇ……と声を漏らしす。顔がくしゃくしゃになってしまうほど目をぎゅっと閉じてしまう。
口の中に不思議な匂いと共に、酸味と苦味が混ざりあった何とも言えない味が広がる。
珈琲。炒った豆を挽き、熱湯で溶いたもの……らしい。
知り合いから頂いた珈琲豆と、手で豆を挽く粉砕器。最近の後鬼ちゃんのお気に入りだ。
「でも、飲んだら眠くなくなるんでしょ」
私が後鬼ちゃんに聞く。なぜならそろそろ寝ようかという時間だ。こんな時間に飲むものではないのは確かだ。
「調子に乗って、挽き過ぎてしまったので……」
首を傾げながら罰が悪そうに目を瞑る後鬼ちゃん。先程、私が珈琲を飲んだ時にした顔に、甘さを加えたような可愛らしい反応。実にあざとい。
挽いたら直ぐに飲む。調子に乗って挽き過ぎた。どうも挽く時の感覚や音が好きらしい。
私はあまり好きではない。苦いし、その度に後鬼ちゃんにいじられるし……
うんとお砂糖を入れてなんとか飲み干すことができない。
さて、そろそろ眠ろうか。お布団にもぐりこんだ私は目を閉じる。
どれほどたっただろうか。どうにも寝付けない。意識し始めると尚更だ。
もう少しで眠れそうで、でも眠れない……とても、もどかしい。
うとうととするのに、はっと目が覚めてしまう。
まるで眠気を水に浮かべ、水面をつんつんと揺らしているようだ。
夢……だろうか。暗闇から何か出てくるような、嫌な夢。目が覚めてしまった。しーんと静まり返った寝室。ふと、耳を澄ましてしまう。
かた、かた……かた、かた、かた……と音が聞こえる。誰かが近くを歩いているような音。意識すれば意識するほど気配すら感じられる。途端に恐ろしくなった私は、息を潜め、ぎゅっと目をつぶる。
目を開けるな、目を開けるな。でも、何が起きているのか見ないと安心できない。
何もいませんように、何もいませんように。でも、目を開けるのが怖い。
怖い、怖い。いっそ寝てしまえば……今眠れないことはどんなに不幸なことか。
ゆっくり、ゆっくりと……手を近づけていく。
見られてないだろうか。この謎の気配に。視線すら感じる、この気配に……
いつもなら、これぐらい手を伸ばせば後鬼ちゃんに触れられるはずなのに……
手が届かない恐怖と、じりじりと手を近づけていく緊張に包まれる。
手に何かが触れる。後鬼ちゃんの手だ。力の入っていない彼女の手に、自身の指を絡めてゆく。
布団から手だけを出して、彼女と繋がっている安心感。
その安心感に私は、あっという間に意識を奪われるのであった。




