「後鬼ちゃん……しーしーするの。ぃゃぁ」
「後鬼ちゃん……しーしーするの。ぃゃぁ」
そう彼女は涙目で私に訴えるのであった。
「後鬼ちゃん……」
寝る前に少し目を離していたら、すぐにこれだ。見つかった同様か、身体を揺らす前鬼様。口の中では今も尚、ゴロゴロと何かを転がす音が続いている。
「さっき歯を磨きましたよね。どうして金平糖を食べているのですか? 」
未だに口の中で金平糖を転がしていた彼女の口が、ふと何かを思い出したかのように開いた。
「甘いものって……眠くならない? 」
なんとも言えない言い訳に呆れた私は、彼女に歯を磨くように言う。ちょうど私が言い終わる前に、前鬼様の口はガリッと音を立てる。
「しーしーするの、嫌っ! 」
しーしー。何の事か……と少し考える。歯磨きに使う粉に含まれている薄荷のことだろう。私は全然気にしていなかったが、子供舌の彼女には気になるのであろう。
「はいはい。歯を磨きに行きましょうね~」
促すように背中を押す。しぶしぶと歩き始める前鬼様。
「しゃがんで」
「はい? 」
呟くようにしゃがむ事を指示してきた彼女に、戸惑いながらもちょうど頭が同じ高さになるよう膝立ちになる。依然、私にはうなじしか見せない前鬼様に声をかけようとする。ちょうどその時だ。
「えぃ! 」
突如振り向き、私の目の前に指で摘んだ金平糖を見せたかと思えば、そのまま私の口の中に入れてくる。細い指でぐいぐいと押し込まれ、すっと口の中に入る。甘い香りがいっぱいに広がる。
「これで同罪だね! 」
私の唇から指を引き抜いた前鬼様が、意地悪な顔で嬉しそうに言ってくる。悪戯好きの彼女の本領。当然、愛らしい顔だ。
ごろごろと金平糖を転がす私……ふと気付いたことに声を上げる。
「今、手に隠していたやつって……もう一個食べるつもりだったのですかっ!? 」
急に叫んだためか、びくっっとする前鬼様。逃げ始めたのを私は見逃さない。肩を掴み羽交い締めにする。
「しーしー、いやぁ~」
今度は私が、嫌がる彼女の口で遊ぶのであった。




