「後鬼ちゃん、あついよ~」
「後鬼ちゃん、あついよ~」
「そうですね…」
雨上がりのじめじめとした嫌な空気。
「泳ぎに行けないね」
「そうですね…」
行きつけの川は雨で増水してとても泳げそうにない。
「あついよ-っ!」
叫んだ前鬼様が畳にぐでんと倒れる。
暑がりの彼女にはここ数日の暑さは堪えるらしい。
食欲も低下しているしそろそろ心配だ。
なんとかしようと大きな桶を庭に持って来る。
私は何度か井戸と桶を往復し、冷たい水を溜める。
これぐらいでいいだろうか。涼むだけなら半分ぐらいでいいだろう。
ほんの少し薄荷を入れれば清涼感とともに、爽やかな匂いが鼻腔を刺激する。
「前鬼様ぁ~。こっちに来てください」
「ぅん?」
畳の上をぐるぐる転がりながら前鬼様が縁側に近づいてくる。
立ち上がり、石の足場を裸足で跳んで近づいてくる前鬼様。
「わーい!ありがとう!」
「ちょっと待ってください」
「えっ」
そのまま入ろうとした前鬼様を止める。
「服は、脱いでください」
ここ数日洗濯物の乾きが悪いので、と付け加える。
いそいそと戻り服を脱いで裸の前鬼様が桶に身体を収める。
汲んできた水を頭から掛ける。
「つめた~い!」
きゃっきゃとはしゃぐ前鬼様。数日ぶりに元気な声を聞いた気がする。
私は薄荷の効いた水を手に取り、彼女の身体に擦り込んでいく。
肩、背中。胸、お腹。太腿、脚。腋や膝など汗疹ができそうな場所は念入りに。
「えいっ!」
調子に乗った前鬼様が私に水を掛けてきた。服がびしょびしょになる。
「……」
喋らない私に気付いたのか、前鬼様の顔が真っ青になる。
「服が乾かないって言いましたよね」
私は濡れたままの前鬼様に抱き着く。服に水が染み込んでくる。
「ご、ごめん…」
謝る前鬼様。どれほど冷えているのだろうか。がたがた震える彼女が可愛らしい。
まぁ、元気な声も聞けたし、怯えて可愛らしい姿も楽しいし許してあげましょう。
もう少し、遊んだら……




