「前鬼様、大丈夫ですか?」
「前鬼様、大丈夫ですか?」
激しい雨音の中、密着した後鬼ちゃんが聞いてくる。
「止まないね」
出掛けていた帰り、急に雨が振り始めた。
雨宿りしようにもいい場所が見つからず、雨は止みそうにもなく。
幸い小さな傘を持っていたが、一つしか無い。
その一つの傘を頼りに、私たちは歩いている。
後鬼ちゃんが傘を持ち、私は寄り添うように傘に入る。
風こそ少ないものの、確実に雨は私達を濡らしていく。
服が湿って冷たい。足が濡れて気持ち悪い。
でも、繋いでいる後鬼ちゃんの手だけは温かくて気持ちいい。
雨の中、この傘だけが私達の領域。二人だけの小さな居場所。
そう考えるとなんだか楽しくなってくる……と都合の良いことばかりではない。
ますます強くなる雨に、風も吹き、いよいよ本格的に服が濡れ始めた。
そもそも背の低い私は上半身も濡れ、傘に入っている意味が無くなってきたのだ。
「後鬼ちゃん、一人で使っていいよ」
そう言い、握っていた手を離し、傘から出る。
「濡れちゃいますよ」
「もう、濡れてるから関係ないもんね」
心配する後鬼ちゃんに、振り返り意地悪そうな顔で返す。
傘から出るとあっという間に髪までびちゃびちゃになる。
まとわり付く髪の毛、髪から滴り落ちる雨粒。
顔に当たり続ける雨。濡れてくっつく服。
傘からの解放は、雨から逃れる事を放棄するのと同じだ。
何も気にしなくて良い……であれば雨を楽しめば良い。
大きな水溜りに足を入れたり、雨水を手に溜めてみたり。
身体が冷えるので少しはしゃいでみる。温もった身体では雨が冷たくて気持ち良い。
「風邪はひかないでくださいね」
「大丈夫ぅ~」
後鬼ちゃんの心配に、元気に返す。
まだまだ雨の楽しみ方は幾らでも思いつく……
案の定、翌日風邪をひいた。




