「後鬼ちゃん、遅いよ~」
「後鬼ちゃん、遅いよ~」
前鬼様が私を先導するように歩いている。曇天の夜道を提灯を提げて。
今日は二人で買い物に出掛けていた。しかし突然の夕立に家に帰れずにいた。
とりあえずと夕食を済ませていると雨も上がり、帰り際に貰った提灯で帰路につく。
いつもは暗いところが苦手の前鬼様も、提灯を持つと探検気分だ。
普段の道を、全く別の雰囲気で味わう、そう考えると確かに面白そうだ。
時々、水溜りを避けたり飛び越えたり。左右交互に避けるなど随分楽しそうだ。
飛ぶ度に揺れる提灯。その度に壊れないかとヒヤヒヤする。
だが、提灯より気にしなければいけないことがあった。
それは、ぬかるみである。先程から前鬼様は何度か足を取られそうになっている。
数回は転ぶことを免れていたが今度のぬかるみはそうはいかなかった。
「危ないっ!」
間一髪、倒れる前になんとか前鬼様を抱える事ができた。しかし……
「あっ」
咄嗟に手を離してしまったのか、落とした提灯は水溜りへ。
火が消えてしまったため辺りは闇に包まれる。
「怪我は無いですか?」
まずは前鬼様の確認をする。
「うん、でも……」
曇天のためか月明かりはかなり弱いが見えないこともない。
だが問題は前鬼様だ。暗くなった途端、怯えるようにまとわり付いてくる。
「また転ぶと危ないから」
前鬼様はそう言って手を差し出してくる。そして弱々しく私の手を握る。
握り返すと安心したようで今度は私が先導するように道を往く。
水溜りは若干の月明かりを反射しているため、なんとか避けることができる。
問題は件のぬかるみだ。先程の件もありかなり慎重に歩いてくる。
私に密着するようにゆっくりと歩く……つまり歩きにくい。
それを一番承知しているのは当の前鬼様本人である。
「後鬼ちゃん?」
「なんですか?」
「さっき、足捻っちゃったかも」
要はおんぶをご所望のようだ。一つ返事で私は前鬼様を背中に載せる。
そこから家に着くまでは前鬼様の温もりを背中で堪能したのであった。




