「前鬼様、そろそろ爪を切りませんか?」
「前鬼様、そろそろ爪を切りませんか?」
ハサミを持った後鬼ちゃんにそう言われ、自分の爪をまじまじと見る。
なるほど、言われてみれば確かに伸びている。
普段から切ればいいのだが、どうも私は爪を切るのが苦手だ。
怪我をしてしまいそうで怖い、というのとは少し違う。
ハサミで爪を挟む瞬間、あのなんとも言えない指の拘束。
無機質なハサミ、あたかも指を支配されているような感覚。
ハサミが爪を触る感覚に、身体の力が抜けてしまうのだ。
つまるところ私は一人で爪を切ることは愚か切られることも苦手だ。
例え信頼している後鬼ちゃんと言えども、どうしても身体が怯えてしまう。
「では座ってくださいね」
「……分かった」
流石にこれ以上伸ばすと怪我をしてしまうので素直に諦める。
後鬼ちゃんの前、ちょうど二人羽織の様に私は座る。
仰け反らないように、いつもこれで後鬼ちゃんに身体を任せる。
「怖くないですからね」
あやす様な、そんな言葉。決して怖くはないと何度言っても分かってくれない。
ハサミの感覚に支配されないように、爪を挟まれる瞬間に備える。
爪を挟まれる。まるで身体が挟まれたかのようにキュッと縮こまる。
爪の拘束、意識の拘束。脳が蕩けるかの如く、身体から力が抜けていく。
一呼吸おいて爪が切られる。無機質な拘束から逃れる。
しかし先ほどと打って変わり、拘束から逃れたことによる浮遊感で力が抜ける。
また拘束。一呼吸おいて解放。何度も何度も力が抜け馬鹿になりそうだ。
二本目の指で我慢できなくなり、目を閉じてそのまますべてを委ねた。
「はい、おしまいです」
手の指が終わり、やすりで爪を整える。こればかりは平気だ。
ゴリゴリという確かな感覚が現実に引き戻してくれる。
なんといっても、後鬼ちゃんに指を委ねるのが心地よい。
時間をかけ丁寧に、やすりが終わる頃には身体に力が戻る。
「ありがとね」
「そういえば足の爪も伸びてますね」
「ま、まだいいもんっ!」
あの感覚を日に二度も味わいたくないので私は逃げた。




