「後鬼ちゃん、それ何?」
「後鬼ちゃん、それ何?」
「漬物ですね」
私は好きですよ、と付け加える。
たまに友人に数口頂く程度だったが、思い切って壺で買ってきた。
実はこの漬物かなり辛い。それが美味しいのだが。
「ちょっとだけ貰うね」
「辛い、ですよ?」
「漬物は辛いものでしょ?」
私の忠告が正しく伝わらないまま前鬼様は一掴み口に入れた。
葉野菜の咀嚼音が聞こえる。そして飲み込む音。
「そんなに塩気強くないよ?」
そんな入れ違いの言葉にようやく違和感が現れる。
「か、辛いっ!」
両手で口を抑える前鬼様。目には涙を浮かべている。
「み、みずゅっ!」
目の前の急須を持ち上げて自身の湯のみに注ごうとする。
ちょろ、と湯のみを濡らす程度のお茶に焦りが現れる。
前鬼様は突然机の上で何かを探すように首を振る。
その探していたものとは私の湯のみだった。そして今ちょうどその最後の一口を私が飲んでいる。
「まって!」
そう言いながら前鬼様は勢い良く私の口に吸い付いてくる。
私の口の中のお茶は溢れ出す。生温い僅かながらのお茶。
しかし、それは前鬼様の口の中を軽く洗い流すには十分だった。
私が固まっているとまだ口の中に違和感があるのか前鬼様に急かされる。
「早く、おかわり淹れてきて!」
「はい、只今!」
急須を片手で持って立ち上がる。私のもう片方の手はにやけた口元を隠すのに精一杯だった。




