「前鬼様…どうされました? 」
「前鬼様…どうされました? 」
私は見上げた時に見えたそれに「あっ」と呟き立ち止まった……それがそもそもの始まりであった。
買い物の帰り、散歩気分で家まで歩く。随分と暑くなってきた。鼻をくすぐる風と、青臭い緑の匂いが心地よい。
背の高い木々に囲まれた、森の中の道。目に木漏れ日が当たった私は上を見上げる。生い茂る木の間から太陽がちらりちらりと見え隠れする。
普段通る道とは言え、改めて気付く木の大きさに感心する。注意深く木を見ていると鳥や小動物が木の枝に止まっていた。
他には何がいるのだろうか……と楽しみながら歩いていると、垂れてきている枝があった。
「あっ」
ちょうど見えてしまったのだ。その枝から今にも落ちそうな細長い生物。くねくねと動く緑色。芋虫。
私の声に立ち止まった後鬼ちゃん。それがまずかったのだ。
ちょうど立ち止まったところに芋虫が落ちてきて……後鬼ちゃんの頭に乗る。
「ん? 」
頭の上に何か乗ったのが分かったのか、彼女は手で払おうとする。
「ちょっと待ってて! 」
私は制止する。後鬼ちゃんは芋虫が大の苦手だ。下手に手に芋虫が付いてしまえば、びっくりするに違いない。私が取ってあげなければ……
「取ってあげる」
後鬼ちゃんを屈ませて頭の上を探す。……居たっ!髪の中に隠れていた。
慎重に、丁寧に……指で優しく摘もうと手を近付ける。だが実のところ、私も芋虫は苦手だ。でも、後鬼ちゃんは私と比べ物にならないほど苦手だ。
丁寧に摘もうとして……指の周りにくるんと巻き着いてきた。
「ひゃっ! 」
「ひゃっ! 」
二人で揃って声を出す。
焦って芋虫を逃してしまった。その芋虫は……吸い込まれるように後鬼ちゃんの襟から服の中に入ってしまった。
「な、なにっ!? なにっ? 」
背中への不思議な違和感を持つ感触に、焦って声をあげる後鬼ちゃん。もぞもぞと動くそれが何なのか検討がつくと……また慌て始めた。
「む、虫? 芋虫? い、いやっ! いやっ! 」
「後鬼ちゃん落ち着いてっ! 」
そのまま暴れていれば、芋虫を潰してしまわないかと彼女を止める。
「で、でも……」
後鬼ちゃんは半泣きになりながら、どうすればいいか分からなくなっている。
「今度こそ、絶対取ってあげるから! 落ち着いて! 」
「は、はい……お願いします」
私の真剣な口調に、なんとか落ち着く後鬼ちゃん。
「うぅ……もぞもぞ動いています」
「じゃあ、入れるね」
後鬼ちゃんの襟から腕を突っ込む。
「冷たいっ! くすぐったいっ!」
「我慢して! 」
後鬼ちゃんの背中をやさしく触りながら、手探りで芋虫を探す。
「もうちょっと、下…かなぁ? 」
「くすぐった過ぎて、分かりません! 」
「あっ」
指先にぷにっとした感覚が……すかさず手で覆う。
「捕まえた! 」
手の中に芋虫が居ることを確認して、丁寧に指で摘む。そのまま、慎重に取り出せば……私の指に挟まれた芋虫は、離せと言わんばかりに暴れていた。
芋虫が背中から居なくなった安心感からか、後鬼ちゃんはその場にへたりと座り込む。その表情は半泣きを通り越して、完全に泣いていた。
この一件で、私は芋虫に触れるようになったのだが、後鬼ちゃんはより一層芋虫が苦手になった。




