「前鬼様、眠いのですか? 」
「前鬼様、眠いのですか? 」
「うん」
太陽が傾き始めるこの時間帯。私の頭もうつらうつらと傾き始める。
なんだかここ最近夜に眠れない所為か、日中どうしても眠くなってしまう。その上、水が凍ってしまいそうな季節も終わり、お昼だけはぽかぽかと暖かくなって……眠くならないわけがない。
といってもまだまだ肌寒い季節。しかし、だからこそ、たった一枚の毛布でも包まれば……温かいのだ。
お昼寝をしてしまえば、また夜に眠れなくなる。夜に眠れなければ、またお昼寝をしてしまう。でも、こんなにも眠いと抗うことができない。
私を包む毛布の端を少し枕の様に頭の下に敷く。一枚の毛布が敷布団、掛け布団、毛布、枕。すべてを演出するのだ。とても憎たらしい。
温かいだけではない。ちょっとくすぐったいぐらい、その肌触りもまた私を眠りの世界へと誘惑する睡魔という名の悪魔であるのだ。
「もぅ。また夜に眠れなくなって……一人でお手洗いに行けなくなっても知りませんよ? 」
「一人でも行けるもん」
私にはっきりと聞こえるように、ちょっと意地悪そうに言ってくる後鬼ちゃんにそう返したが、確かに夜は怖いものだ。明るい時は何とも感じないのに、どうして暗くなるとあれほどまでに心細く感じてしまうのだろう。
そして夜に目が覚めると、なんだかお手洗いに行きたくなるのは何故だろうか。一人では行きたくないと身体に言い聞かせても、私の身体はそんなことお構いなしに行きたくなるのだ。その度に背に腹は代えられず、後鬼ちゃんを起こすのだ。
「前鬼様……」
後鬼ちゃんがにじり寄ってくる。ちょうど私の身体を枕にする様に横になる。私の身体に後鬼ちゃんの上半身の重さがのしかかる。
安心感。すぅーっと、頭に浮かんだ言葉。彼女の寝息、彼女の匂い、彼女の温かさ……どれをとっても、懐かしい気持ちが頭の思考を鈍らせる。
もう何も考えることができない。それに何より後鬼ちゃんも同罪なのだ。お昼寝という名の罪。彼女も夜に眠れなくなれば、私にとっては御の字だ。
ぷに。
頬を摘ままれる。その指の力は弱く……まるで寝ぼけているかの様だ。そのままぷにっと頬を引っ張られる。不思議と痛くは感じず、ぼーとする頭では逆に心地良くすら感じてしまう。
引っ張った後は頬をすりすりと擦られる。後鬼ちゃんの手と私の頬の擦れる音が脳に薄っすらと響く。と思ったら今度はぺちぺちと叩かれる。叩かれるといってもとても優しく、優しく。ちょっと頬を膨らませると、ぽんっぽんっと私の口から音が響く。とても面白い。
一通り頬を楽しんだのか、後鬼ちゃんの手が止まる。すーっと手が伸び今度は……頭を撫でられる。私の髪を掬うように。なんだか直接頭に触れられているのか触れられていないのか。不思議な感覚。
もどかしい。いっそのこと、がしがしと頭を強く撫でてほしい気持ちもある。でも、そう思っても声に出すのが恥ずかしいし、そして面倒だ。何より私は今……。とても……眠い。
「ふぅ~、ふぅふぅ。ふ、ふぅ~ふぅふぅ。ふぅ~ふぅ、ふぅ~」
後鬼ちゃんの口から、弱弱しい音が聞こえてくる……子守歌だ。
とても……懐かしい気持ちがする子守歌。私はこの子守歌を良く知らない。初めて聞いく様な気もする。でも何故かそう、懐かしく感じるのだ。
頭を撫でられながら、歌詞の無い子守歌。小さい時に後鬼ちゃんにしばしばされていたのではないか。そう考えているうちに私の意識は……深く、深ーく。沈んでいった……




