「後鬼ちゃん、分かっているくせに……」
「後鬼ちゃん、分かっているくせに……」
どうしてそれだけ残すのですか?という私の問いに、彼女は小さく呟いた。
先日、ちょっとした記念の式に参加した前鬼様、と付いていった私。
その時貰ったのが、宝石の様に綺麗でカラフルな飴が入った缶である。
アカは……ミドリは……と色ごとに異なった味で飽きが来ない。
私は一缶であったが、彼女は欲張って五つぐらい貰ってきた。
式で余ったからと子供には余分に配られていたのだが、前鬼様は嬉しそうに追加分を貰っていた。といってもみんな五つぐらいは貰っていたと思う。
普段なら子供扱いは嫌がるくせに、都合がいい時だけ幼くなる前鬼様。
かこん。
その音に前鬼様の方に目をやる。また缶の中から飴を取り出していた。
じゃらじゃら。
一度取り出した飴を戻して、もう一度取り出す。赤い色の飴が出た。
それを口にひょいっと入れ、缶を閉じるのであった。
「前鬼様……」
ぼそっと声を漏らしてしまう。それに気付いたのか彼女と目が合う。
「どうしてそれだけ残すのですか?」
白い飴。薄荷の飴。それが出る度に戻して……つまり残していた。
「分かっているくせに……」
口の中の飴を転がしながら、不満そうに頬を膨らませ答えてきた。
「でも、ちゃんと残してないよ」
缶が一つ差し出される。受け取り、振ってみると音がしない。空である。
「あー、凄いですね」
てっきり薄荷味をすべて残しているものと決めつけていた私は、思わず素の感想を漏らす。だが「凄い」という言葉に対して、前鬼様が少し目を反らしたのを私は見逃さなかった。
戸棚の上から私の缶を取る。ほとんど食べていないのでまだまだたくさん入っている……が少し多すぎないだろうか。
紙を持って来て、その上にじゃらじゃらと中身を並べていった。明らかに薄荷の割合が多いのだ。何回か食べた時に薄荷が多いなと感じていたのだが、中を見ると……考えれば簡単なことだ。
「前鬼様~」
「な、なに…? 」
明らかに動揺する彼女の腕を掴む。腕を引っ張って座らせる。そのまま羽交い締め……をしようと考えたが、暴れられても困るので、やさしく背後から抱き着いた。私が片手で紙の上の白い飴を摘む。
「い、いや……」
私が何をしようとしたのか気付いたようだが、しっかりと腕で抱いている。口元に飴を近付ける。
「いやっ! いやっ! 」
いやいやと首を振る前鬼様……その口を開けた瞬間に飴をやさしく放り込む。その後は手で口をしっかりと押さえつける。吐き出させたりはしない。
「!」
急に時間が止まったかのように、固まって動かなくなる。うーー、と呻く声だけが聞こえ始める。
「ちゃんと食べてくださいね~」
耳元で囁く。先ほどとは違って、いやいやと首を振る動きが小さい。
「むー」
ずっと呻いているが、ふと手に水滴を感じる。泣かせてしまった。
「え……そんなに苦手……ですか? 」
彼女は目で頷く。鳴くほど嫌いなのか。
「仕方ないですね……」
捕まえていた腕を離し、彼女の前に回り込む。
「はい」
前鬼様の口元に、私の口を近付ける。
貰った飴は、ほんの一瞬だけ甘みを感じた。




