「前鬼様、それ好きですよね」
「前鬼様、それ好きですよね」
「うん」と私は返した。
出かけた時によく寄るお店って、誰でも一つや二つないだろうか。
私の行きつけといえばこの甘味処だ。大通りから少し細めの路地に入り、ちょっと古めの看板が目印。所謂、老舗の甘味処だ。老舗といっても甘いものなら何でも出す、というこだわりからか、はたまた粋狂なのか、普通の甘味処にはないようなものまである。
今日はあいにくと時間がなかったので、持ち帰りができるものを選んだ。
少し行儀が悪いが歩きながら食べるのもまた良い。大通りは屋台のような雰囲気のお店が多いからか、普段から食べ歩きの人が多いのだ。
両手で持っている紙袋の中には、揚げたパンに砂糖ときな粉をまぶした揚げパンだ。甘い衣の中には素朴な味わいのパン。一口、一口と頬張る度に口の中が幸せになるのだ。ぽろぽろときな粉や砂糖が道に落ちていくのを見るたびにがもったいなく感じる。
あっという間に無くなってしまい、紙袋をくしゃくしゃと丸める。
食べ終わった後、後鬼ちゃんがちらちらと見てくることに気が付く。
「後鬼ちゃん、どうしたの?」
「口の周り、きな粉だらけですよ」
「あ」
忘れていた。慌てて口の周りを手でくしくしと払う。
「これで大丈夫?」と後鬼ちゃんに尋ねる。
「まだ頬の方に付いてますよ」
「こっち?」
左の頬を擦る。
「それともこっち?」
今度は右の頬を擦る。
「そっちのもう少し上に付いてますよ」
「ここ?」
右に方の、もう少し上まで擦ってみた。
はぁ、と目をつぶり、溜め息を出す後鬼ちゃん。
「ここです」
そう言いながら彼女は屈み、私の顔に顔を近づけてくる。
ぺろり、と頬に付いている砂糖かきな粉を舐めとられた。
思わぬ後鬼ちゃんの行動に顔を赤らめてしまう。なんだかとってもどきどきした。といっても、他人から見ると頬に粉を付けた子供……先程の光景を想像したら、余りにも子供っぽくて恥ずかしい。
「あ」
後鬼ちゃんが声を漏らす。
「頬に付いてただけでも、かなり甘いですね」
「そりゃ、あのお店だもん」
行きつけの店だけに誇らしげに返す。
「でも、頬に付けて……とっても可愛らしかったですよ」
子供っぽいと散々からかわれて、それに私は文句を返すのであった。




