「後鬼ちゃん、帰ろう!」
「後鬼ちゃん、帰ろう!」
午後の講義。蒸し暑い講義室。講義が終わればさっさと帰り支度をする。
講義室とは違い、風通しの良く涼しそうな場所で飲み物を飲んでいた前鬼様と合流する。
「はい、これ」
売店で買った飲み物。冷えてる具合からはつい先程買ったものだろう。
「ありがとうございます」
後で甘味処に行くのに……と思いながらも、先程まで蒸されていた事もあって、ありがたく頂戴した。確かにこの暑さだ、着く前に倒れてしまったら元も子もない。
じめじめとしたこの季節。外に出た途端、むわっとした熱気が肌に触れる。
「あつい~」
「暑い、ですね」
大通りに出ると更に人の暑さも加わり、前鬼様の機嫌が悪くなる。
始めはお喋りしていたが徐々に口数が減り、彼女の不快感が伝わってくる。
だが少し細い路地に入ると途端に前鬼様の機嫌が良くなる。
この先だ。行きつけの甘味処は。
「いらっしゃい~」
外から中に入ると一気に暗くなる。ひんやりとした空気がとても心地よい。
いつもの席に座り、「いつもの!」と言おうとした前鬼様が固まっていた。
「どうしたのですか?固まって」
「あれ……」
前鬼様が指差した方向を見ると何やらお品書きに氷菓子が追加されていた。
「最近、暑いからね~。新しく始めてみたんだよ」
「これにする!」
「はい、スイカの氷菓子を一つね」
女将が言い終わる前に一番大きな果物の氷菓子を注文する。
「私は…」と考えていたのだが、その必要がなくなる。近くの別の客の集団と目があった。恐らく先程の注文の読み上げに気付いたのだろうか。見るとたぶん前鬼様が注文したのと同じ氷菓子を食べようとしていた。それも三人で。
しばらくして出てくる大きな氷菓子。半分に切られたスイカの中に、ふわふわの氷状になったスイカの実がこれでもかと盛られている。その上には、いくつもの果物が小さく切られ飾られている。
「いただきます」
「いただきます」
思い切って一口、掬って食べる。冷たい!同時に頭に鋭い痛みが走る。ちょっと涙目になる。目の前の前鬼様は痛くないのか、はたまた痛くても我慢しているのか、次々と口に放り込んでいた。
二口目、今度は味わって。氷自体は少し酸っぱい。掛けられている果実を混ぜただろう蜜は甘い。
三口目、場所によって蜜の種類が違うのだろうか味が違う。一口一口がとても楽しい。
私を差し置いて、どんどん掬っては口に運ぶ前鬼様だが、飾られている果物がちょうど半分残されているのは、私への配慮だろうか。
ちらりと三人組の方に目をやると、また目があった。食べ終えた後の雑談の途中だったのだろうか、きっと前鬼様の食べっぷりで話している。絶対そうに決まっている。だって、三人が食べ終わった時にはこちらは半分近く減っていたのだ。もちろん私もある程度は食べているが……前鬼様が氷を掬う速度は依然落ちていないのだ。
普段、あまり菓子を食べ過ぎないようにさせているが……これほどの勢いで食べる彼女に半分感心していた。
氷の量が減ってくると、徐々にスプーン同士をぶつけてしまい、カチャカチャとなる音が、とある風鈴の音色の様で心地良かった。
「あー、おいしかった!」
とても満足そうな顔でにこにことしている前鬼様。
「はい、美味しかったですね」
氷が溶け始めると味が変わるなど、手が込んだ氷菓子に満足する私。
「後鬼ちゃん、帰ろう!」
「はい」
勘定を済ませた私に、元気な声で出発を促す彼女。
後日、お腹を壊した前鬼様の看病をしたのは言うまでもない。
それでも、また食べたいというのだから懲りないものだ。




