「前鬼様のせいですからね! 」
「前鬼様のせいですからね! 」
「ごめんなさい」
後鬼ちゃんに怒られる。
自身がしでかした事の重大さにしっかりと反省しながら。
後鬼ちゃんは寝る前に本を読むことが少なくない。布団の中で読む本は格別だ。しかも忙しくない日の前日などは、お茶を淹れてきて、少し行儀が悪いが寝転んだままちびちびと飲みながら、行灯の薄明かりで読むのが大好きらしい。
さっきはつい出来心だったのだ。明日は朝早くから出かけるので、まさか本を読むことは無いだろうと調子に乗って、後鬼ちゃんの弱点である背中をくすぐった。
「ひゃう! 」と面白い声を上げた彼女が次に発した言葉は「熱っ! 」だった。運んできたお茶を盛大にぶちまけたのだ。
幸い火傷らしい火傷はしなかったのだが、当然しこたま怒らる理由には十分過ぎる。しかも溢したお茶は見事に私の布団を濡らしてしまった。それどころか、後鬼ちゃんの布団の一部も濡れてしまった。びっしょりとした布団は少なくとも今すぐには使えないだろう。
普段から後鬼ちゃんの布団に眠りに行ったり、逆に後鬼ちゃんが眠りに来たりすることはあるのだが、怒られてとて~も気まずい。
なんとかご機嫌を取ろうにも、余計悪化させてしまうのではないかと竦む。
早く何とかしないと、本当に放置される勢いだ。今日はとても寒いのに。
「えいっ」
急に後鬼ちゃんが毛布を敷いた……と思えばくるりと私の方を向き、肩を掴まれた。何をされるのかとびくびくとしてしまう。
「ここに、寝てください」
されるがまま、毛布の片隅に寝転がされる。その横に後鬼ちゃんが揃うように寝転ぶ。私の目の前を彼女の腕が通り過ぎる。その腕は毛布の端を掴みと「えいっ」と声と共に毛布を引っ張る。私の身体が持ち上がる。
「くるくるくる~」と楽しそうに漏らしながら、私ごと毛布に包まる。まるで巻き寿司の様に。抵抗しようものなら何を言われるかわからないので、私は何もできなかった。
私の息が苦しくないようにと彼女なりの配慮かも知れないが、ちょうど後鬼ちゃんの首元の匂いを嗅ぐような、逆に私は髪の匂いを嗅がれるような体勢が恥ずかしい。
逃げることもできず、彼女の寝返りに合わせ身体が浮いたりちょっと息が苦しくなったり。顔を直接見るのが怖くて、起きていてわざとなのか、はたまた本当に寝返りなのか分からない。
一つだけ分かることは、後鬼ちゃんにとって私の身体はそれほどまでにも軽い、ということだった。
気まずい空気の中、温かい巻き寿司と後鬼ちゃんの匂いに、私の意識は沈んでいくのであった。




