085 鑑定終了 と 簡易結界
最近、何故かブックマークがジリジリ伸びてるのですが。
一体何事でしょうね……いやはや、ありがたい事です。
その後テンションダダ上がりになったリーナさん、十分に一番ボール君を堪能した後、私に返却して下さいました。それにしても予想通り内容は殆ど判明しなかったみたいですね。
そうなると通常の手段では伝説級のアイテム詳細は判明されないのでは……だってリーナさんの【鑑定】ってレベル299ですよ?
これ博物館とかで管理する場合はどういった手段を取っているんでしょう?
私の疑問を受けたリーナさんは、黒い手袋を両手からはずして懐に収納し、手のひらを合わせてマッサージするように揉み手をしつつお答えしてくれました。
「えっとね、高い踏破難易度を有してる魔素迷宮内で入手できる、凄ーい貴重なアイテムで……比較的高い確率で対象の詳細を判別できる物があるんだぁ」
「そんなアイテムがあるんですか?」
「うん、判別精度的には大体7割位だけどね」
そう言いつつ指のストレッチを始めるリーナさん。
そんな便利な鑑定用アイテムが存在するのなら、それこそ成長させるのに膨大な手間が掛かる【鑑定】スキルは、お役御免になってしまうのではなかろうか?
そう思ってリーナさんに聞いてみたのですが、そのアイテムは一度使うと壊れてしまう消耗品アイテムだそうです。しかも十年に1個市場に出れば良い位の物だとか?
まぁ大体売りに出されたその鑑定アイテムは、情報を聞きつけた博物館経営を任されている、国のお偉い人が買い取ってしまうらしいですけど。
そのアイテムの名前は【流転の女神の視線】という物らしいです。
そんな名称のわりに、見た目は美しい細工が施された虫眼鏡で、特定のワードを発しながら鑑定対象をレンズ越しに覗き込むと詳細が判明する、との事。
その後、虫眼鏡は砕け散って霧散してしまうようです。
アイテム形状的には何度も使えそうな雰囲気なんですけど、壊れちゃうのですね。
それで、虫眼鏡を使った人がある程度高いレベルの【鑑定】スキルを有していないと、詳細を把握したアイテムを『識別化』出来ないらしく、そういったときに【鑑定】第一人者のリーナさんへ国の機関から連絡が届いて王都に呼びつけられる(王都とかあるんですね)と仰っておりました。
国の機関に頼られるとか流石ですね。
芸は身を助く、というヤツでしょうか。
リーナさんって通常生活的には駄目っぽい雰囲気を出してますし。
私も人の事は余り言えませんけどね。基本的に出不精。
「どうかしらぁ……満足できた? リーナー?」
「いやぁー堪能したー! あとラルドぉ! 握力やばい! 頭、頭絞まってるからぁ!」
エスメラルドさんが右手一つでリーナさんの頭を鷲掴んで固定しつつ、自重しろといわんばかりの、口の両端を上に吊り上げる形の笑顔で、指をワキワキしているリーナさんに声をかける。凄いプレッシャー。
そんな状況にも関わらず、非常に満足感のある爽やかな雰囲気を発しながら、すがすがしい笑顔で私に語りかけてくるリーナさん。だが頭部はガッチリ固定中。
なんというか、こう……エルフの人って何故に大体全員『特徴的』(オブラートに包んだ表現)な人ばかりなんでしょうかね。図書館勤務のアルシェさんも程よく特徴的な方でしたし。
「ほら! 一方的に貴女の欲望を満たさせて頂いたんだから、改めてしっかりがっちりとフワモちゃんに御礼を言いなさいな!」
「イエスマム! フワモさんどうもありがとう! もー最高でした! ひゃっはーでした!」
「こちらこそ【緑石のペンダント】の『識別化』ありがとうございました!」
最初呼び止められた時は、一体何事かと思いましたけれど。
知識欲を満たすついでにですが、あちらから提案してくれた事とは言え、リーナさんの生活の種である【鑑定】を無料でして頂けたのですからね。
一番ボール君が被ったセクハラ(?)は報酬としては妥当? なのかな?
前例が無いから良く判りませんが。いや、前例があっても困りますけど。
結果的には被害はゼロだと思いますし、むしろお得だったのでは。
とても魅力的なお二人とも、知り合いになれましたし!
エスメラルドさんが『コラ! お礼の言い方!』と言いつつ、リーナさんの頭をガッチリと掴んだままの右手に、ギリギリとパワーを籠めておられます。
リーナさんが頭を抱えつつ『のわー! 割れる! 頭割れる!』と涙目になっておられます。
ああ、エスメラルドさん程よく手加減して差し上げて下さいませ。オネェパワー凄い。
「それでは、長時間営業妨害してしまって済みませんでした」
「いいのよぉ! これに懲りずにまた来て頂戴ね、フワモちゃん! 何か自作した小物を持ち込んでくれたら買い取りもするわ♪」
「おお! それはありがたいです! 是非よろしくお願いします!」
ニッコリ笑顔で私の左肩をポンポンと優しく叩きつつ、そう仰ってくれたエスメラルドさん。
右手一本でリーナさんを引きずりつつ、表に提げておいた『準備中』の看板を取り外しておられます。
リーナさんの首根っこが頑丈すぎて凄い。日常茶飯事なのだろうか。
それにしても、意図せず新しい取引先をゲットしましたよ!
今度【革細工】で何か作ったらエスメラルドさんの所へ持ち込んで金額査定してもらおう!
あ、そうだ! キャンプ用品みたいな物がないか一応お伺いしてみようかな?
遠出したら外でログアウトしないと駄目な可能性があるから、ある程度安全を確保できるような品物があったりすると、非常に助かるんだけどな……どうだろう?
表から戻ってきて、リーナさんをカウンター前にストンと着地させたエスメラルドさんに、表で長時間活動する時に便利なアイテム等を取り扱っていないですか、と聞いてみた所。
エスメラルドさんが何か言う前に、なぜかリーナさんが『はい! はいはいー!』と言いつつ、右手を挙手してこられました。何故に!?
続きを促す感じでリーナさんに顔を向けますと、フンスと鼻息も荒く、懐から何やら怪しげな物体を取り出したリーナさん。
それを私の眼前に差し出してきました。何でしょうかコレ。
というか色々と出てきますね? リーナさんのポッケ。
首を傾げた私の前で、丸められた革の巻物の様なそのアイテムをカウンターに置いたリーナさん、止め紐を解いてバラリとそれを展開します。中に収納されていたのは4本の金属製の杭? と、片手で持てるサイズの金槌みたいなアイテムでした。
杭の表面には細かい模様がビッシリと刻まれていて、その側面に恐らくは【魔石】っぽい物が填め込まれています……という事はこれって魔道具じゃ?
「じゃじゃーん! 携帯用簡易結界ー! かっこ中古品ー!」
「結界?」
私が一体どういうアイテムなのだろうと思案しておりますと、杭を一本取り出したリーナさんが私の眼前にそれを掲げつつ、説明をして下さいました。
「この杭を大体四角い形になる様に地面に打ち付けると、囲われた場所が安全地帯になるのです! 出力が弱めだから広範囲はカバー出来ないけれど、一人旅なら問題ないのである! ちなみに魔物に気づかれなくなる効果と、物理的接触を拒む効果がありまーす!」
「おおー!」
パチパチと思わず拍手です。
それでその【携帯用簡易結界】とやらが凄いアイテムであるのは判りましたけれども、それを如何しろと云うのでしょうか。こういう物があるよ、といった意味で購入の目安として見せてくれたのかな?
取り出した杭を元の位置にしまったリーナさんは括り紐を縛って、なんと私に差し出してきます。
コレはもしかして、遠出する私の為に貸し出してくれるという事でしょうか! ありがたい!
私が両手を差し出すと思っていた通りの様で、リーナさんはその【携帯用簡易結界】を私の手の上にポンと置いてくださいます。非常に助かりますよー!
その後、キリリとした表情でリーナさんが一言。
「今日のお礼に差し上げます」
「……ええ!? まさかの贈呈!?」
相場とか全く判りませんけれど、絶対これって安い物じゃないですよね!? 私の現在の所持金である1500ゴールドとかじゃ確実に買えない物ですよね!? ちょっとリーナさん!?
「気にしなくていいの、鑑定遠征いかなくなってウン十年なの、使ってないの、持ち腐れなの、あげるの」
なのなの言い始めたリーナさん。幼児か。
お話によると、こうやって使わないで放置しているだけでも、填め込まれた魔石のエネルギーは自然減衰してしまうらしいのです。簡易結界としては安いものらしく、魔石の交換も出来ない使いきりのタイプとの事。
リーナさん曰く、このまま持っていても言葉通りエネルギー切れで腐らせるだけという事で。
あー……何だか非常に申し訳ありませんが、お言葉に甘えてありがたーく頂きました。
交換条件と言っては何ですが……いつ機会があるかは判りませんが、珍しいアイテムを手に入れた際は絶対リーナさんに【鑑定】をお願いする、という約束をしておきました。本人はそれを聞いて凄く喜んで下さっている様なので、まぁ良いのですけれど……
「じゃあじゃあ! 次また会えたら一番ボール君のこと再度【鑑定】していい!?」
「アッハイ」
そっか、一日たったら挑戦権が復活するんでしたっけ。
鑑定デスマッチ(?)リベンジですね。了解です!
来週なのですが、毎度お馴染みの投稿不安定期間になりそうです。
何時も通り、間に合えば投稿いたします。
どうか、ご容赦の程をー




