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083 やっぱり 凄いよ 一番ボール君

 リーナさんの【鑑定】スキルが、まさかの100レベル越えに留まらず、2倍どころかさらにその上を行く高さを誇っていた事にビックリです。

 極めつけはここ10年間まったく上昇していないというそのお言葉!

 まったく、どれだけ苦行なスキルなのでしょうか。


 もしかしたら299が限界レベルで、成長が止まってしまっているのかもしれませんけれども。

 現実のゲームのように攻略サイトがある訳でもありませんし、リーナさんレベルの【鑑定】を持っていらっしゃる方が他にいるとも思えません。


 他の例がないなら、上昇する可能性を信じてリーナさんは鑑定を続けていくしかありませんよね。

 うう、涙ぐましい努力。私なら心が折れる。


 そういえば鑑定遠征とかは未だに続けていらっしゃるのでしょうか。気になったので聞いてみましたが、返ってきたのは意外なお答え。


「あー【鑑定】がレベル250を超えた辺りで行かなくなったかなぁー」

「やっぱり体力的に辛いとかでしょうか?」


 流石に背負い袋にマナポーション満載で何度も旅に出まくるとか、想像しただけで苦行なのは勿論の事、お薬や旅路で消費されるお金もバカにならないのでしょうか。

 私がお出掛けしたと仮定するならば、お薬関連は現地で材料調達をする事により緩和できますけど。

 リーナさんはほぼ【鑑定】一本でお仕事してるってカイムさんも言ってたもんね。


 私がそのような想像をしつつリーナさんの返答をお待ちしておりますと、ちょっと苦笑しつつリーナさんからの返答が。


「うん、まぁ鑑定遠征が辛く厳しい道なのはいつもの事なんだけど……怪我の危険が無い安全な場所にある物だと、全然【鑑定】のレベルが上がらなくなっちゃったんだ……もう一回の遠征に対して収穫が少なすぎて、行く気が全然起きなくなっちゃってね」


 ぐぐっと眉間のあたりに皺を寄せつつ、ハァーと深いため息と共に呟くリーナさん。

 時間もお金も労力も大量消費して得られる物が微々たる物になった、という事ですね。


 辛い遠征も大きい実りがあるならば頑張れますが……流石にそれだと行く気を失うのは納得です。


 私からのご愁傷様エネルギーをはらんだ視線を受けたリーナさんが、アハハと笑って両手をブンブン振りつつ『気にしない気にしない!』と言って場を紛らわせております。


 うん、やっぱり私じゃ【鑑定】を極める事は無理だ! 取得見合わせてよかった。

 よし、此処は一つ空気を変えるために、一番ボール君をリーナさんにお見せして元気を出してもらおう!


「あの、実はもう一つ貴重なアイテ」

「是非見せて下さいお願いします!」


 私はメニューを開いて伝説級(レジェンダリ)である一番ボール君の事を説明しようとしたのですが、物凄い食い気味のタイミングでリーナさんが私の肩をガッシリと掴んできました。超反応。


 【鑑定】が趣味というか生き甲斐という事もあるのでしょうけれど、【鑑定】のレベルを300へと到達させる為に頑張っているのかな、とも思います。恐らく両方の理由っぽい。


 とりあえず一番ボール君を出して見て貰いましょうか。

 鑑定というかアイテムの詳細はもう判明しているのですが、何かしら【鑑定】スキルの成長の肥やしにでもなれば良いですからね。


 私がメニューを操作していると、エスメラルドさんがリーナさんの後ろで呆れたようにため息を吐きながら、私に顔を向けて困ったような声で話しかけてきす。


「まったくもーこの子は……フワモちゃんは今日のご予定の方は大丈夫なのかしら?」

「あっはい! まだまだ試したり確認したい事は一杯ありますけれど、そこまで急いでいる訳じゃないので、問題ないです!」


 そう返答しつつ、この後他に何かやる事あったかなーと少々考えてみましたが、大体は疑問に思った事を実験してみよう! という感じの急いでやる事もない好奇心に基づいた雑事でした。

 あっ、リアさんに差し上げる予定である焼き菓子の詰め合わせだけは、忘れないように後で買わないとね!


「そう? それなら良いのだけど……もし迷惑なら、この駄目エルフにガツーン! と言ってくれて良いからね! ホントこの子は直情的っていうか……変わり者のヘッポコエルフだからねぇ」

「ぐはぁ! 変わり者エルフなのは認めるけど、もうちょっとソフトな表現でお願いぃ!」


 自分の背後から投げつけられる容赦のない、けれども愛のある罵倒に対して、後ろを振り向きつつ悶絶するリーナさん。


 うん、申し訳ないけれど私が見ても変わり者だなーって思います。ヘッポコな所も同意。

 口に出しては言いませんけど。お口にチャック。


「いえいえ! それよりもお店の営業を長時間邪魔しちゃって、こちらが申し訳ないというか」


 そうなのです。話が長くなりそうな雰囲気を察して、店主であるエスメラルドさんが自ら『準備中』の看板を出してくれた状態ですし。ご好意に甘えているのはむしろコチラです。


 よし、それならば素早く一番ボール君を出して、その後に営業を再開してもらうのが吉か!


 そう考えた私は、アイテムボックスから一番ボール君を取り出し、ワイワイとエスメラルドさんに向かって苦情を述べているリーナさんの眼前に、何気ない感じでヒョイっと両手で差し出します。


 見た目は平凡なボールだから、実はこの一番ボール君が世界に一個しかない、非常に貴重なアイテムだとか普通は判らないですよね。果たしてリーナさんの反応は如何に!


 ……あれ、リーナさんからの反応が有りませんね?


「……こっ……こっこっこっ!」

「ニワトリですか!?」


 一番ボール君を指差しつつ、口をアルファベットのOの字そのままの形で硬直させたリーナさん、ギギギと音が鳴りそうな動きで顔だけを私に向け、微妙に焦点の合っていない両目を激しく泳がせながら、壊れたレコーダーの様な音を口から発し始めました。


 えええええ!? まさかの一番ボール君で命に別状が!?


「ちょっと!? ほらリーナ! シャキッとしなさいな!」


 光の消えた空ろな瞳で『こっ……こっ!』と発し続けているリーナさんの背中を、バシリと大きい音をたてて一発叩くエスメラルドさん。

 その衝撃でこちらの世界へ戻ってきて下さったリーナさんが、両目をパチパチさせたあとに一番ボール君ではなく私の顔を両手で挟んできました。ぬぅぇぇ!?


「こっ、これ何処で手に入れたの!?」

「んぇー、話すとぅ色々とぅ長くぬるとぅいうくぁ、判っとぅもらうるのくぁ謎ぬぬどぅすぐぁ……」


 両頬を押さえられてて喋りづらい。

 今現在の私の口は『3』状態になっていましてですね?


 ……発音が怪しすぎて伝わっているのか不安なのですけど。

 もうちょっと手加減して挟み込んでいただけると、正確な言葉を発する事が可能になるのですが。


 微妙に聞き取りづらい私の言葉を、ちゃんと理解してくださったご様子のリーナさん、両手を私の頬から話すと懐から何やら小さい小瓶を取り出します。小さいスプレーの様なアイテムですね?


 先ほどまで両手に装着させていた手袋を、乱暴に手から引っこ抜きいて床にペチンと投げ捨て(エスメラルドさんが嫌な顔をしてました)懐から違う色の手袋を取り出して口にくわえます。


 その後スプレーを自分の両手に一度づつ吹き付けると、揉み手をするようにその液体を手に馴染ませ始めました。何やら物々しい雰囲気ですね? あの液体は一体なんなのだろうか。

 揉み手を終えたリーナさん、さっきの白い手袋とは真逆の真っ黒な手袋を両手に装着すると、キリっとした表情で私に向き直ります。


 先ほどまでとは全く違う、まさにエルフなその表情と雰囲気に驚きです。

 

「入手した経緯は置いといて……もー我慢できない! 撫で回して味見して頬ずりして良い!?」

「あーはい……そのつもりで取り出したので大丈夫ですよ」


 あー……表情とか立ち居姿は出来るエルフって感じでも、発言が既におかしい。

 その表情でその発言は、ギャップが凄すぎて思わず噴出しそうになりますから止めて下さい。


「うひょー!! 今日はここ100年で最高の日だぁー!」


 キリっとした表情があっという間に崩れ、デレデレの表情になるリーナさん。

 うっすらと涙まで浮かべておりました。そこまでなのか。


 そのリーナさんの後ろで、両肩をすくめ頭を振っているエスメラルドさんと目が合いました。

 お互い苦笑いしつつ、心を通い合わせます……やっぱり駄目エルフだ、と。

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