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081 ダメダメエルフ と オネエ鬼人

 骨盤の辺りを激しく揺さぶられつつ、とりあえず私の脳内にあった記憶は間違っていなかった事を再確認する事ができました。

 グイグイ揺さぶられながら、あーそういえばこんな感じでグリグリするフィットネス器具のベルトみたいなのあったなー、と脳内で思い浮かべてしまいました。このベルトの動力は人力ですが。


 10秒程で腰部分への激しい揺さぶりを停止して下さったリーナさんですが。

 今度はベルトと共に腰に装着されている【#03 懲戒必罰 ギランステルム】に気が付いた様で、視線を私の顔と腰のベルト部分の間を行ったり来たりさせ始めました。

 ああ、そりゃ自分が鑑定した事のある、本来ならば知り合いが所持している筈の装備品が、どういった経緯で私の貧相な腰周りに装着される事となったのかなんて、説明が無ければ理由が全く予想できないですよね。


 私だってこんな豪勢な装備をセットでポンと無料進呈! とか思いもしませんでしたし。


 まずは、どの様にしてこの装備を現在此処に居る私が腰に帯びているのか、その理由を説明する所から始めると致しましょう。


 『どう見てもカイムの装備で間違いないよね……』等と呟きつつ屈みこんで、私の腰周りをベルトと武器を巻き込みつつ撫で回しているリーナさんの手を、そっと優しく引き離しつつ声をかけます。


 その辺りは絶妙にくすぐったいので撫でるのはご勘弁を。身悶える。


「えっとですね、色々ありましてカイムさんとは懇意にさせて頂いておりまして」

「なるほど……フワモさんはカイムと知り合いなのね」

「はい、それで私が装備品の事で悩んでいたら、何故かカイムさんがこの武器とベルトを譲ってやろう! といった流れになってしまいまして……」


 出会った経緯その他を細かく説明すると長くなってしまいますので、カイムさんとは知り合いである事と犯罪行為で入手した装備品ではない事、ちゃんとした手順というか『その装備何処で売ってますか』『ならタダでやろう』といった流れでこの装備を身に付ける事となった流れを、個人的解釈満載で掻い摘んで説明するだけにいたしました。


 ウィットな会話など無理なボキャブラリーの欠如。ええい、ある程度意味が通じれば良いのだ。


 この場はご老体を襲撃して無理やり奪った物でないのです! と言う事を理解して頂ければ良いのです! うんうん。


 私の端折りに端折った簡潔な説明でしたが、それとなーく理解を示して下さったリーナさん、私に両手を掴まれたままスッと立ち上がりますと、私の手を握り返しながらも何やら微妙に納得したような表情で数度頷かれております。


「なるほどぉ……カイムは色んな武器を持ってるから一本位プレゼントしても大した事無かろう! とか言って渡しちゃいそうだわー」

「ああー……実際そんなノリで私の手に強引に捻りこんできましたよー」

「あー、だよねぇー」


 私とリーナさんは顔を見合わせて頷きあいます。あのお爺様は何時もそんな感じですよね。

 その様な感じでリーナさんと目線で理解しあっていますと、私の後ろで話を聞いていたエスメラルドさんが声をかけてきます。


「ねえリーナ、カイムさんってあの【笑う鬼神】の異名で有名な名誉騎士様のことよねぇ?」

「うん、カイムは人族だから今じゃヒゲもっさりのオジーチャンだけどね!」

「以前は噂とか貴女から色々聞いてたけれども、最近は話を聞かなくなったからてっきり……」


 両手を口に当てて語尾を濁すエスメラルドさん。ああ、寿命でポックリ逝ってしまったのでは、と思われていたのでしょうか?

 まぁ言っては何ですが、カイムさんは程よいお歳でしょうからね。


 でも今朝拝見した動きから察するに、まだまだ長生きしそうな雰囲気が満載です。

 結構な距離を全力で突っ走って、殆ど息切れしない位には元気ですからね。


 ……うん? 『以前は』聞いてて『最近は』お話を聞かなくなったって事は……?

 えーっと、ちょっと気になる事が……失礼に当たるかも知れないけど凄い気になるので意を決して質問をば。


「あの、エスメラルドさん……ちょっと質問良いでしょうか?」

「あら? 私に何か?」


 両手を頬に当てて唇を尖らす感じで、右足をキュっと内股へ締める感じのポーズで私にお返事をして下さるエスメラルドさん。うーんオトメチック。ではなくて。

 怒られるかもしれないけれど……思い切って。


「失礼とは存じますが、エスメラルドさんのご年齢をお伺いしても……?」

「あらま! ちょっと恥ずかしいけど……これでもリーナと同じ位の歳なの……嫌だわ! あまり他の方々に言いふらさないで頂戴ね?」


 頬を染めて口に手を当てつつ笑った後、エスメラルドさんは恥ずかしそうに回りに聞かれたくない様な動きで、私の耳元に口を寄せますと(他にリーナさんしかいないのですけど)半ば予想通りの年齢を告げてくださいました。

 見た目はオデコにツノがくっ付いている以外は、三十代前半位のガッチリとした筋肉質の男性にしか見えません。

 髪の毛もキッチリとセットされた艶やかな黒髪ですし、どうみてもリーナさんとご一緒(百年単位)のご年齢とは思えません!


 感嘆しつつ口を開けてエスメラルドさんを眺めていると、リーナさんの右手が私の背中の中央をポンと叩きます。振り返った私に対してリーナさんが、エスメラルドさんの右腕の辺りをペシペシ叩きつつ、説明をして下さいます。


「ラルドはねー【鬼人】っていう希少種族で、寿命も凄い長いのよ!」

「【鬼人】ですか?」


 私がエスメラルドさんの種族に対して食いついたのが嬉しいのか、ニッコリ笑顔を浮かべるとそれはもう嬉々として【鬼人】に関しての情報を色々教えて下さるリーナさん。

 エスメラルドさんが『話が長引きそうねぇ……』と呟きつつ、雑貨屋さんの扉に【準備中】の吊り下げ看板を出しに行く位には長時間説明して下さいました。凄い内容が細かい。


 聞いた内容の要点を説明いたしますと。


 【鬼人】は【狐人】と同じく、南の海を越えた所にある島国で暮らしている種族であること。


 【精霊族】であるエルフと同じ位に長い寿命を持つこと。


 頑強な身体を持ち、非常に戦闘能力に優れた種であること。


 でもエスメラルドさんは生産職をやりたいという事で、海を越えてこの大陸へと移り住んだ事。


 エスメラルドさんのオネエ体質は、可愛い物好きが心に影響を及ぼして形成されたとの事。


 等々、後半は何故かエスメラルドさんの昔話に摩り替わっていたのですが。色々と楽しくお話を聞けたので良いのです。


「ほら! 私の昔話はもういいから! フワモちゃんにアイテム見せてもらうんじゃ無かったの!?」

「しまった! そうだった! 楽しいからつい話し込んじゃった……」


 自分の昔話を延々と語り始めたリーナさんの背中を、腰をくねらせつつ恥ずかしそうに手で口元を押さえたエスメラルドさんがバシリと平手で叩きます。何度見ても力強い一撃です。


 今日思いついてやろうとした事は大体終わっているので、時間的にはまだ問題ありませんから大丈夫ですよ。後でなにか思い出して悶絶する可能性は否定できませんけど。


「それでは早速! 貴女の貴重なアイテムを! 拝見! 鑑定! ご返却ぅ!」

「ノリノリですね!?」


 それはもうニッコニコなお顔で私がアイテムを取り出すのを待っているリーナさん。

 貴重なアイテムって【※ 一番ボール君 ※】の事かなーと最初は思っていたのだけれど……すれ違っただけのリーナさんが反応したアイテムって、もしかして現在絶賛装備中のリアさんから貰ったペンダントの方なのかも?


 取り合えずどちらに反応したのか判りませんので、先に身につけたままで即座に差し出す事の出来る【緑石のペンダント】を首元から引っ張り出して取り外し、リーナさんに差し出します。


 私の手のひらに乗っている【緑石のペンダント】を覗き込むように見詰めるリーナさん。


「おおぉ……ビシバシ感じるこのレア感。早速【鑑定】させてもらっても良いかな……?」

「はい、どうぞどうぞー」


 何処からともなく白い薄手の手袋を取り出したリーナさん……それを慣れた手つきで装着した後に、これまた何処かから取り出したヘアバンドで前髪を纏め、スーハーと何度か深呼吸をしています。

 見ている私にも緊張が伝わってくる様です。


 本当なら鑑定料金を払ってお願いするような事柄にも関わらず、幸運な事に無料でやっていただけるのですから、鑑定を拒否する謂れは全く御座いませんからね。失敗したらアイテムが壊れるわけじゃないだろうし……ないよね?

 さぁさぁ! どうぞ鑑定の程よろしくお願いします!


 慎重な手つきで私の手から【緑石のペンダント】を受け取ったリーナさん、ぐっと眉間に皺を寄せて視線に力をこめると【鑑定】と緊張した声で宣言します。


 私はとくにする事もありませんので、じーっとペンダントを見詰めたまま瞬きもしないリーナさんを眺めつつ鑑定が終了するのを待ちます。

 【鑑定】発動から恐らくは10秒程経過した頃でしょうか。

 ふぅーと息を吐いたリーナさんがフニャリと表情を崩して微笑むと、コチラに視線を向けてきました。


「凄いよこれ! 遺物級(レガシィ)とか久しぶりに見た!」

「あらぁ! フワモちゃん凄い装備持ってるのねぇ!」


 手放しで褒められて、私の口からアハハと乾いた笑いがでました。

 元はといえば『チュートリアルで採取したーい!』というなんとも俗っぽい思考を元に入手した装備ですので……凄いのはリアさんですよ、うん。


 幸運が重なって手に入った物なのです。慢心良くない。何時も心はチュートリアル。


「全部は判明しなかったのだけど、良かったら『識別化』しちゃっても良い? あっあのね『識別化』っていうのはね!」

「あの! カイムさんから『識別化』の説明は聞きました!」


 先回りするタイミングで繰り出された私の言葉で説明を遮られ、口を尖らせてちょっとションボリしたリーナさん。

 危ない危ない! 話が長くなりそうな気配を感じて、素早く遮っておいて正解だったようです!

 説明魔ですよねリーナさん。職業柄でしょうか。


 リーナさんの後ろでエスメラルドさんがニッコリ笑って頷きつつ、右目でバチンとウィンクをして下さいました。

 ふふふ、今のは我ながらナイスな機転のきかせ方だったと思います! 自画自賛!

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