080 アイテムマニア の リーナさん
雑貨屋さんでの買い物を終了させて表に出た後、さて次は何処に向かいましょうかねーと考え始めた矢先に、バタンと雑貨屋さんの扉が押し開けられた音と共に、突然誰かが私の右肩をガッシリと掴む感触が。
ちょ!? 突然何事でしょうかね!?
完全な不意打ちタイミングで掴まれたので、ビクリと身体を硬直させてしまいました。
あっ……尻尾がブワっとなっている様が視界の端に見えました。きっと耳も同じようになってるぽい。
恐る恐るですが後ろを振り返りますと……先ほど店内で唸り声を上げて商品を吟味していた方が、俯き加減の状態で何故か私の右肩に手を添えておられます。
何故か、フゥフゥと荒い呼吸をしているのが聞こえる程に興奮していらっしゃる模様。ちょっと怖い。
な、何か失礼な事でもしてしまいましたでしょうか。
少々不躾な思考(変なお客さんだなぁと云う意味で)を脳内で巡らせていた事は否定できませんが、私の心境に気づかれたような素振りはなかったのですけれども!?
雰囲気で察知されてしまったのでしょうか!? 怒りのグーパンですか!?
その方は何やら急いで飛び出してきた様で、雑貨屋さんの扉は大きく開き放たれた状態で固定されてしまっています。
雑貨屋さんの出入り口の向こうから、エプロンの店員さんが右手を頬に当てながら困ったような笑顔を浮かべつつ、私とフードのお客さんにどうしたものかといった感じの雰囲気満載な視線を送ってきております。
店員さんにとっても想定外の出来事だったのでしょうか?
私が『あのー困っています!』という念を強くこめた視線をエプロンの店員さんに送りますと、苦みばしった笑いを浮かべた店員さんが、何故か私に両手を合わせて拝むような感じでペコペコと謝罪の意を送ってこられました。
相手をしてやって欲しい的な意図を滲ませております……えええ?
何故に店員さんが申し訳ないような表情をするのでしょうか?
少々脳内がこんがらがってきましたが、私が思考を巡らすより早いタイミングでフードのお客さんが息を整え終わった様で、コホンと一つ咳をすると私の顔に詰め寄り声をかけてきました。
「あ、貴女から貴重なアイテムの気配がするわ! 是非見せていただけないかしら!」
「え……えええぇー!?」
アイテムマニアだコレー!?
どうやって私のアイテムボックス内部の事情を察知したのかが全くわかりませんが、一応珍しいアイテムを持っているという点に関しては正解です。100%間違っておりません。
しかし、突然引き止められたかと思ったらこのような事態になるとは……
全く想定しておりませんでしたよ、とほほ。
取り合えずコブシが飛んでこない事に胸をなでおろし、事態の収拾を求めて開け放たれた出入り口向こうで頭を抱えている、雑貨屋さんの店員さんに顔を向けて一応声を掛けてみます。
「えーっと、これってどうしたら良いでしょうか……」
「ごめんなさいねぇ……その子ったら一度そうなると視界がこう、狭まっちゃうっていうかねぇ……」
呆れたように首を左右に振りつつ、大きく息を吐いているエプロンの店員さん。
ああ、お二人は知り合いだったりするのでしょうか。
私が買い物している間、このフードの方が唸りつつ品物を見ていても、全く気にする素振りを見せていませんでしたし。そういった事を思い出しつつ店員さんにこの人の素性を聞いてみようかなと思った矢先。
私の右手をガッシリと掴んだ怪しいお客さんが、ブンブンと頭を振ってフードをバサリと振りほどくと(なんとエルフの女性でした)お祈りをするかの如く跪いて『お願いしますぅー! 気になるんですぅー!』と私に懇願してくるのでした。
ちょ、ちょっと周りの人に悪目立ちするんで止めて頂けますか!?
「良かったらでいいのだけど……この子のお願いを聞いてあげてくれないかしら。もしもの場合の保証は私もするから」
私の焦る姿をみて、そう声をかけつつ慌てた様子でお店の外まで出てきてくれたエプロンの店員さん。
何故かグニグニと私の右手に額を押し付けているエルフの女性を眺めて、コメカミを押さえて大きい溜め息を一度つくと『ほら! 困ってらっしゃるから離しなさいな!』と言いつつ、バシリと結構容赦ない音がする強さでエルフのお客さんの頭をはたき、苦笑いしつつ私に頭を下げてこられます。
動き的には乙女っぽい手付きでしたが威力は凄そうな店員さんの一撃で、髪の毛ボッサボサになったエルフさんですが……その目は私の答えを待って期待に輝いております。え、えーっと?
「は、はぁ……まぁ見せるくらいならば特に問題ないですけれど」
「ホント!? やったぁ!」
アイテム見せるくらいなら良いのですよ、良いのですが!
その前にですね、付近を歩いていたプレイヤーさんらしき人達が、足を止めて何事かとコチラを眺め始めている事案が気になりすぎますので!
一旦雑貨屋さんの中に逃げ込んでも宜しいでしょうかね?
私が周りを見てオロオロしている様を見て、色々と私の心情を察して下さったっぽいエプロンの店員さん、エルフの女性と私をその大きい身体で隠す感じでゆっくりと背中を押し、雑貨屋の店舗内へと私たちを引き入れて下さいました。
ああ、色々と察して下さる方で助かります。
女子力高いです。気遣いとか見習いたいですね。
バタンと扉が閉まる音と共に外の喧騒が小さくなります。
ふー……ひとまず落ち着いて会話が出来そうで良かったです。取り合えず、今だ握られたまま離してくれない私の右手を開放してもらうべく、エルフの女性に声をかけます。
「逃げたりしませんので、取り合えず私の右手を開放していただけると助かるのですがー」
エルフの女性がハッとした感じで自分の両手に視線を向けます。
私の右手を現実ならちょっと痛い位の強さで握っていた事に漸く気が付いた様で。
「え……あわわ、ごめんなさい!」
ワタワタと慌てた感じで、両手を上にばっと上げる動きをしつつ私の右手解放して下さいました。
何だか私よりも慌ててる人を見るの初めてかもしれませんね。
わーい! 駄目な意味でのお仲間ですよ!
ようやく落ち着きを取り戻してきたエルフの女性は、今度は急に焦った感じでモジモジしつつ、乱れた髪の毛を撫で付けたり、跪いて汚れた膝の部分をパタパタとはたき始めました。
なんだろうか、動きが可愛らしい方ですね。
「こんなのでもねぇ……実は百年単位で生きてるのよぉ まったくぅこの駄目エルフ!」
「んああ! 駄目とか言うなし!」
エプロンの店員さんが、オホホとワザとらしい感じで口に手を当てて笑いながらその様な事を仰いつつ、ゴリゴリと右コブシをエルフの女性の頭に擦り付けております。顔は全く笑っておりませんです。
そのゴリゴリ攻撃から逃れようと頭を左右に振りつつ、駄目称号に対して抗議の声を上げるエルフの女性でしたが、ゴリゴリ攻撃は全く回避できておらず全弾ヒットしております。命中率高いな店員さん。
「そうねぇ……まずは自己紹介でもしようかしら? 私は【エスメラルド=ノーティウス】見ての通り雑貨屋さんの店主をしてるわ。お店で売るアイテムも半分位は自分で作成してるのよぉ!」
「えっと、私は祝福の冒険者でフワモと申します! 私も生産職をしてます!」
「あらぁ! お仲間ねぇ! ウフフ!」
「はい! えへへ」
こう、腰の入ったモデル立ちっぽいポーズで自己紹介してくださったエプロンの店員さんが【エスメラルド=ノーティウス】さん。
視線でホンワカと語り合うエスメラルドさんと私。色々作れる生産は楽しいですよね!
「はいはーい! 私! 私も混ぜて下さいー! 私は【ノアスリーナ=ディレアム】です!」
ピョンピョンとジャンプしつつ、右手を上げたポーズで追随して自己紹介してくれたのが、怪しい唸り声の主でエルフの女性である【ノアスリーナ=ディレアム】さんですね……んん? あれ?
何処かで……聞いた記憶のある……お名前ですね?
記憶を辿って思いついた事が一つ。
腰の辺りをぐいっと前に突き出しつつ、質問を投げかけます。
「あの……この私の腰に巻いているベルトを見ていただけませんでしょうか」
「はいはいなんでしょう? ……あれ!? これカイムのベルトじゃないですか!」
ガシっとベルトの両脇を掴まれてグイグイと揺さぶられる私。あー腰にくるぅー!
やっぱり、この方って噂の鑑定遠征を敢行した【鑑定】持ちの『リーナ』さんだよね!?