078 蜘蛛 と メリア と フワニウム
やっと『冒険』ぽい事に目を向けるフワモさん。
冒険者的には特に急ぐ必要の無いことですが、私にとってはそろそろ緊急を要する事柄である所の、ナチュラルな柔らか素材生命体が現存するのか確認する為、ガルドスさんに詰め寄って質問いたします。
「こう、手触りが柔らかい素材を手に入れたいと思っているのですが、そういった感じの程よい柔らかさを持った生き物とか魔物みたいなのは何処に居るんでしょうか?」
「うん? 何だい布団でも作るのかい? 防寒具や柔らかい衣服の素材だと……そうだな、町の東側の門を出ると、そのへん一帯が畑や牧草地帯になっててな……そこで飼育されてる『メリア』っていう生き物の毛が良く使われてる感じだ」
「東門の方ですね! わかりました!」
外見はどの様な感じの生き物なのかちょっと聞いてみたのですが。
特徴を聞いてみるに、多分ですがそのままヒツジさん? なのかな。
判り易い特徴としては、先が丸くて硬い角がオスには3本、メスには2本頭に付いているそうです。お肉も中々の美味らしく、此処以外の他の町や村でも良く飼育されている生き物だとか。
いちおう町にあるお店でも『メリア』の毛は販売しているみたいですが、素材量を確保したいなら直接交渉しにいった方が良いだろうとの事。
次に魔物でそういった柔らかい素材を持っている相手が居ないか聞いてみました。
「そうだなぁ 一応各地の森で良く見かける『ディスパイダー』の糸とか、加工の仕方によってはフンワリするって話だが……その辺の詳しい話は俺も判らないんだよなぁ」
「えーっとその『ディスパイダー』っていうのは……」
「ああ、クソでかい蜘蛛だ。近寄らなければ襲ってこないタイプの魔物だな」
あああああ……今朝見かけた物凄い大きな蜘蛛の事でしたか。
蜘蛛の糸ってヤツですね……どうにかしてアレを倒さないとそのお話に出ている糸は手に入らないのか。
その他にも糸を出すイモムシの様な魔物が居るらしく、東門からでて牧草地域を抜けた先にある、背の高い草が生い茂っている草原に生息しているようです。
イモムシかぁ……見た目にもよりますが、巨大蜘蛛よりは巨大イモムシの方が私の感覚ではマシな感じがします。
毒々しい極彩色の見た目とかでなければですけどね……
噂のイモムシ君が緑色とかの落ち着いた色彩である事を祈りましょう。
「その他にも色々と獣系の魔物が皮や毛を出すとは思うが……ああ、お嬢さんと話してて思い出したが、今朝仕事場に着いたら神殿から通達が届いててな。昨日お嬢さん達祝福の冒険者がこの世界に来た頃に、各地で色々と異変が起こったらしくてなぁ」
「異変……ですか?」
一体何でしょうか? 唐突かつ大量に沸いて出たプレイヤーのせいで、何処かうかがい知れない様な場所で色々大変な出来事でも起こってしまっているのでしょうか。
私が不安げな表情をしている事を察して下さったのか、ガルドスさんが苦笑いしながら私の肩を叩き、声を掛けて下さいました。
「いやいや、一概に悪い事って訳じゃないから安心しなって! 良い事だって起こってんだからよ!」
「良い事ですか?」
「おうよ! 安寧の女神様のお力が少し強まっているらしくてな、女神の加護が行き渡る範囲が拡大している事が昨日の夜辺りに確認されたらしいんだよ」
加護の範囲と言いますと……安全エリアが広がったって思えば良いのでしょうか?
私はこの町と北門を出た辺りにある平原や森にしか足を踏み入れてないので、言葉だけではちょっと想像がつかないですね?
首を傾げて唸っている私の表情を見て、ガルドスさんが再度苦笑いしつつ首を振っておられます。
あはは、申し訳ないデス詳しく説明していただけると助かりますハイ。
「あーお嬢さんに判りやすく簡単に言うとだな。加護が広がるってー事は、町がでかくなるって事だ!」
「なるほど! 建物とか建てれる範囲が広がってるって事ですね!」
非常に判りやすい喩えをどうもありがとうございます。
あれでしょうか、プレイヤーでも家を持ったり出来るようにする為に、安全に行動できる範囲を拡大させたのでしょうか?
自宅とまでは行かなくても、何か簡単に栽培できる果物とかを育てる為に、狭い範囲で良いので好きに植物を植えたり出来る土地が欲しいですよね。
まぁ、絶対にお金が必要になると思うので、資金調達が済むまでは保留の形でしょうか。
「あと昨日から、今まで見たことも無い様な魔物が、辺境や町から離れた所に出現しているのが確認されたそうだ」
「やっぱりそれも、祝福の冒険者がこの世界に来た事が原因なんでしょうか?」
「詳しい話は俺には判らんが、タイミング的にはぴったり合致するみたいだな。まぁなんだ、本当に辺境って言われてるような、強力な魔物が跋扈している未開の地にでも行かない限り、ほぼ影響は出てないし危険は無いと判断されたみたいだが」
そういう情報は一体どういった所から出てくるのでしょうかね?
遠くの町の事がお話に出てきていますし、何かしらの通信手段があると見ていいと思うのですが、無線みたいな魔道具が存在するのでしょうか?
そういう通信手段は個人で持てたりする様な代物なのでしょうかね。
そこの所が少々気になったので……安寧の女神様の神殿の方々は、どうやってそういった情報を入手しているのか、とガルドスさんに聞いてみた所。
なんと、各地に存在する安寧の女神様の神殿同士は、女神様の残した秘宝を通じて瞬時に連絡を取り合えるという事らしく、緊急の要件などはそれを利用して各地に拡散される様になっているみたいです。
魔素迷宮が出現した時なども、この機能を利用して各地に所在地が通知されるとの事でした。
ふむふむ、流石は女神様の残したアイテム、プレイヤーに優しい便利機能満載ですね。
「まぁそれで俺がなにを言いたいかと言うとだな、その『見たことも無い様な魔物』てのの中に、お嬢さんが探しているような相手が存在する可能性もあるんじゃないか、って事を言いたいわけよ」
うん? 見たことも無い様な魔物が出現しているのが確認されて……その魔物の中に、もしかしたら私の求める肌触りと感触を持った相手が居る可能性がある、ということは……ということは!?
「……つまり凶悪な魔物がすむ辺境の地とやらへ、一人で吶喊しなさいという事ですか!?」
「いやいや!? そこまで言ってねぇよ! 辺境の『魔の域』に一人で行けとか拷問以外の何物でもねぇからな!?」
ガルドスさんが私の叫びに対して鋭い返答を返して下さいました。
良かった、町周辺のノンビリとした草原から、いきなり最終ダンジョンの最深部に行けって言われている気分でしたよ。
「要するに、町から離れた場所を探索してみたらどうだって言う話だ」
「新しく現れた魔物目当てって事ですね」
「おう、そういう事だな!」
もとよりフワニウム(柔軟的毛皮存在成分)を確保する為に遠出をしようと思い立っていた所です。
先ほどガルドスさんの言葉に紛れていた『魔の域』とやらには行く気はありませんが、それっぽい柔らかさの魔物を探す為ならば、少々無茶をしてもいいと思っておりますので!
ゲーム開始後初の【死に戻り】もやぶさかではありませんデスコトヨ!
思わず口調も変になっちゃう位には不安要素てんこ盛りですけど!
ガルドスさんに、遠征するのにお勧めの方角はあるか聞いて見ましょう!
「んーそうだなぁ、人の出入りが少ない様な場所のほうが、新しい魔物と出会えそうだよな……それなら東は平原が広がってて比較的ゆるい場所だから人通りも多いし無しとして……南は海だから『柔らかい素材』っていうイメージじゃぁ無いよな」
「ですねー……つまり西か北に行くと良い感じでしょうかね?」
「そうだな、でも西は『平野の町』に続く街道が伸びているから人通りは結構あると思うぜ」
そうなると、北の平野から森を抜けた先に行って見るのが良いのでしょうか。
北側って何がありましたっけ……いかん、大体採取の為に地面と睨めっこをしていた事しか思い出せない! 森の中でも、しゃがみ込んでカサカサ移動しつつ、茂みの中とか木の根元ばかり凝視していた記憶しかないですよ!?
へい私!? もっと楽しもうよファンタジー世界!
「北の森を抜けた先ってどうなってましたっけ……」
「おいおい! もうちょっと周囲を観察すると言うかだな……まぁいいや、お嬢さんらしいっちゃらしいからな。門を抜けて北の森を進んでいくと、北部山岳地帯に入るぜ」
北に行くと山登りが待っているという事ですね。
その後のガルドスさん的な判りやすい説明よると、切り立った崖などは少なめらしくて、道もある程度ですが整備されている為、徒歩でも十分山頂付近まで登る事が可能だとの事。
色々と準備してハイキング気分で出発してみても良いですね!
山登りなんて、現実だと小学生の頃の修学旅行以来ですよ!
VRゲーム内の疲れにくい身体なら息切れも安心だし、出発がちょっと楽しみになってきました。
「じゃあ、北の山に登ってみることにします!」
「ちゃんと色々準備していくようにな! それで無くとも、装備品身に付けないで冒険に旅立ちそうになる位には忘れっぽいんだからよ!」
ニヤリと笑って私の背中をポンと叩き、生暖かい視線を下さるガルドスさん。
えーとデスネ? あの時は色々とハイテンションなハートとかが色々作用しててデスネ?
普段はもうチョット、アレより2割増し位はまともなのですよ? 本当ですよ?




