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072 エルフさん と ご忠告

 受付に座っているウサギ耳のお姉さんからの、生温かーい視線を背中に受けつつ、読み終わった最後の本を本棚へと戻しに行く為、椅子から立ち上がります。

 とりあえず背中にまとわりつく感覚は気にしない方向で! もー恥ずかしい!


 一度お腹がなった後ならば、暫くはお腹の音二射目は装填完了にならないはず!


 図書館内では恐らく飲食行為はアウトでしょうから、表に出て食事しないといけませんからね。

 まだ串焼きが余っていた筈ですので、外に出たら胃袋へ叩き込んでしまいましょう。

 ヤツ(腹の虫)を黙らせてやるのだ! 空気の読めないヤツめぇ……


 しかし、そんなにお腹が減るほど時間が経過していたとは気が付きませんでした。

 やはり集中して読書すると時間の経過がヤバイですね。これじゃVRゲーム始める前の現実世界での私と、まったくもって同じ時間の使い方ですよ。


 ファンタジー世界(VRゲーム内)に来てまで読書しなくても良いじゃないか、って言う話にもなるのでしょうけれどね。折角疲れを知らない頑丈な体に生まれ変わった(?)のですから、もっと冒険者風味な事をした方が宜しいのでは無かろうか、と脳裏の端っこの方では思うのですが、まぁそこはご愛嬌。


 所詮中身は冴えないチビッコ(わたし)ですのでね。


 えーっと、祝福の冒険者用の本棚はどの辺りだったかな。

 おっと、先ほど色々お話を聞かせていただいた、黒髪&黒縁眼鏡の司書さんとはまた違う司書のお姉さん(女性ばっかりですね?)がお仕事しておられますね。あの方にお聞きした方が早いですね。


 私の腰くらいの高さがある踏み台を使って蔵書の整理をなさっている、金髪ロングヘアの碧眼で耳がピンと長い司書さんに声を掛けることにしました。


 ……ん? あの容姿はアレじゃないですか? エルフさんじゃないでしょうか?


 でも、すらっとして身長の高いモデル体型っていう私的なイメージのエルフとは、ちょっとと云うか大分雰囲気が違うお方でございました。


 真剣な表情で踏み台を昇降しつつ本を整理している司書さん。

 私とあまり大差ない身体サイズ(チビッコ体型)をしておられます。そこはかとなく親近感。


 ちょっとお仕事邪魔しちゃうけど、用事があるときは付近で仕事をしてる司書にも声を掛けて良いって、受付のウサギ耳お姉さんがいってたから大丈夫かな?


「あの、お仕事中すみませんー」

「んぇ!? わっとっと!?」


 背後から声を掛けたのが不味かったのか、私の声にビクッと反応したエルフ司書さんが、焦って此方を振り返ろうとした拍子にズルリと踏み台から落ちそうに! いかーんあぶない!

 咄嗟に司書さんの腰辺りに両手を回し、ガッチリと固定して踏み台から落下しないように保持します。

 このままバックドロップに移行できそうな、そんな光景。


 そして気が付く驚愕の事実! 司書さんすっごい軽い! そしてすっごい細い!


「ああああ落ちるぅー!? ……あれ?」

「だ、大丈夫ですか!?」


 抱きかかえられた状態で数秒間両手を握り締めてブンブンしていた司書さんが、私が話しかけることにより、抱きかかえられて支えられている状態であると気が付いた様で。

 首を捻って私を視認した後、ほっと一息ついて両手をだらーっとしつつ脱力されました。


 えーっと、このままの状態でいても仕方ありませんので、司書さんの腰に両手を回したまま、足首のスナップを利かせつつクルリと180度向きを回転させ、お人形さん状態なエルフ司書さんの両足を床にストンと降ろします。


 このエルフさん、身長は私と同じくらいなのに何故だか凄い軽いです。

 こう、身体を構成する素材からして違うのだろうか。鉄とアルミ位の差異。


「いやーたすかったぁ……あなたは命の恩人です!」

「いやいやいや! 私が声を掛けたのが原因ですから!」

「それにしても狐人さんとは珍しいですね……ああーそっか! 祝福の冒険者さんカナ?」


 ただ腰を支えて床に下ろしただけにも関わらず飛んできた激しい賛辞に、私が両手を振って恐縮していると……なにかに気が付いた様な表情の後、サササっと素早い動きで私の周りを音も無く移動し、私の頭とお尻……と云うかキツネ耳と尻尾辺り? を確認し始めたエルフ司書さんがそう仰いました。


 うん? 狐人って珍しい種族なのでしょうか? 

 今の所そういった反応をされた事が無いので、ちょっと気になりますね。


「あ、はい! 祝福の冒険者で間違いないです! そう仰る司書さんはエルフさんでしょうか」

「やっぱり! あっそうですよーエルフです! それで、お声を掛けて下さったみたいですけど、何か御用でしょうか! 何なりとお申し付けください!」


 スパっと切れの良い動きで私の正面へ戻ってきたエルフ司書さん。

 まさに白魚の様な、という表現がぴったり合いそうな右手をキュっと握り締めて、ポフンとご自身の胸を叩きます。動きが一々大袈裟な感じがしてちょっと面白い。

 先ほどエルフ司書さんが言っていた気になる事について、ちょっと質問してみましょう。


「あの、狐人が珍しいと仰っていましたけれど、この辺りにはいない種族なのでしょうか?」

「はい! 全く交流がないとかそういった訳ではないのですが、基本的に狐人族は、ここから南に広がる海を越えた向こう、小さな島に国を構えている種族ですので! 商人や冒険者以外では此方の大陸に訪れる方は殆どいませんよ!」


 なるほど……うん? それって海外から見た昔の日本的ポジションな意味合いなのかな? エキゾチックなジャポニズム?

 妖怪お狐様的な意味合いなのでしょうか。お稲荷様とかですかね。コンコン。


「それでですね、なんで祝福の冒険者ですかと聞きしたかと云うと、女神様の加護により与えられる【依り代】(アバター)ならば国籍その他の枠組みなど飛び越して、この地へ降り立つ事ができるからです! 前にその事について書かれた本を読んだんですよー!」

「なるほど……珍しい狐人だけど祝福の冒険者なのであれば別段おかしくない、という事でしょうか」

「その通りです!」


 ニコニコ笑顔でエルフ司書さんが数度頷いて下さいました。 

 色々と面白い話を聞けましたね! 『狐人』は東洋の神秘的位置付けなのでしょうか。


 おっと、会話も楽しいですがお仕事の邪魔になりますし、司書さんに話しかけた本当の理由を忘れてはなりませんね。

 辺りの床を見回して、司書さんを助け出す為に床のカーペットの上に放り出してしまった、アイテムの詳細が書かれた本を拾い上げます。


「あとですね、この本を元の本棚に戻そうと思っ」

「はいはいはい! 不肖ワタクシ【アルシエーラ=ナルザ=エウゲンストール】にお任せください!」


 本を返す旨を言い終わる前に、私の右手に納まっていた『しっておきたい 【アイテム】の色々』の本をスパッっと持って行かれてしまいました。非常に素早い。

 というか……何だかこの国営図書館の司書さんって特徴的な人が多い気がしますね。

 何かしら雇用条件が有ったり無かったりするのだろうか。求む 変な人。


「あ、えっとありがとうございます……アルシ……えーっと」

「【アルシエーラ=ナルザ=エウゲンストール】です! 長くて面倒だ! と仰いますれば【アルシェ】と御呼び下さっても」

「はい、わざわざご丁寧にありがとうございます、私は冒険者のフワモといいます」


 物凄い長いお名前ですね。カイムさんとかもそうでしたけど、とてもじゃないですが覚えきれる自信がございませんデスヨ。とりあえず正式名称ではなく、愛称っぽい【アルシェ】さん呼びで問題ないとのことなので一安心。


「ではフワモ様、他にご用件は御座いますでしょうか?」

「いえ、大丈夫です! 本の返却よろしくお願いします」


 本の事はお任せして、空腹のヤツが暴れ始める前に図書館を退出する事にしましょう。


 ペコリと頭を下げてアルシェさんとお別れいたします。

 アルシェさんからはお任せください! と云うお返事を頂きました。では、お仕事頑張って下さいね!


 来た道をささっと引き返し、あまり受付のお姉さんを見ないように、カウンター前まで戻ります。


 お尻のポケットから入館者カードを取り出して、視線の端で先ほどと同じ微笑みを浮かべて此方を見ている、ウサギ耳の司書お姉さんに返却します。うう、視線が突き刺さる! というか落ち着かない!


 毎度お馴染みの、どのタイミングで差し出されたのか気が付かなかった、木製のトレイにペタリとカードを返却いたします。

 カードをチラリと見て確認の済んだウサギ耳司書さん。

 カウンター下にカードを収納してニッコリしたかと思ったら、ススっとおもむろに私の耳元に顔を寄せて囁いてこられました。くすぐったい。


「あのですねぇ 国営図書館の館内では 飲食は禁止されておりますのでー 事前に何かしら食べておくのを お勧めいたしますよー」

「ハイ、須らく了解いたしました……」


 前後の文脈をすっ飛ばして結論だけ仰って下さったウサギ耳の司書さん。

 そこの所は激しく理解いたしましたよ……お外に出たら串焼き食べよう。

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