065 無駄に有名? カイムさん
右手が疼きそうなカイムさん(誤解
どうやらあのお爺ちゃん。
元総督という肩書きだけでなく、色々と凄くて名前の知れ渡っている方だった事が判明致しました。
むしろ、カイムさんのフルネーム? を完全に覚えてるアレイアさんも、いろんな意味で凄い様な気がするのです。
同じ神殿護衛騎士としては、有名アイドルの名前な雰囲気なのだろうか。
あのツルリとした見た目でアイドルって言われても、私的にはちょっと困るのですけど。
まぁ、カイムさんが聞いたら本人は悪乗りして諸手を挙げて喜びそうだな、と予想が出来るのがまた何とも。
「えーっと? カイム……なんでしたっけ」
「【カイムハイス=ディム=ヴェリアルス】様です! その人生は苛烈の一言、護衛騎士とは名ばかり、常に最前線にて魔物との戦闘に明け暮れていたという逸話もありますよ! 魔素迷宮の単独踏破数も3桁に到達したといわれております!」
若い頃は戦闘狂だったのかカイムさん。
今じゃすっかりラティアちゃんと一緒にお散歩したりしてる、ノンビリ状態な好々爺なんですけども。
もしかして引退した理由って、昔の傷が祟って……とか、あの頃の俺は戦うしか出来なかった……とか、それっぽい怪しげな雰囲気の理由でもあるんでしょうか。
今のカイムさんのご様子からは窺い知れない、とっても深い理由が! ……無さそうだなぁ。
あと何やら聞きなれない単語が会話にありましたね。迷宮? ってなんでしょうか。
「あの、そのお話に出ている迷宮というのは一体なんなんでしょうか?」
「魔素迷宮の事ですね。女神様の加護が無い区域の魔素……魔物を倒すと微量ですが空気中に散らばる残滓の様なものですが……その魔素の量が一定量を超えると出現する、次元の歪みの様なものです」
つまり魔物を倒せば倒すほど溜まっていくっていう事でしょうか。
産業廃棄物的な? 魔物との戦闘が産業に組する分野なのかは自分で言っていて謎ですけど。
それとないニュアンスでどうにか。
「その魔素? というのは体に悪影響を及ぼしたりはしないんですか?」
魔物から出てくる成分、って聞くと体に悪そうな雰囲気がありますよね。毒みたいなイメージが。
「いえ、高密度の魔素に晒されても、少々息苦しい程度で命に別状は御座いませんのでご安心ください。喩えるならば……そうですね、湿度が異様に高い場所に似ている、とでも思っていただければ」
「判りやすい喩えをありがとうございます」
不快感はあるけど命に別状はない、って感じで良いのかな。
まぁ別状があったら魔物と戦闘すること自体出来なくなっちゃう訳ですし。
「それで、魔素迷宮の事ですが。次元の歪みから内部に侵入することが可能で、内部は迷宮化しており、最下層には魔素の凝縮により出現した迷宮主が存在いたします。そのモンスターを倒す事により、溜まった魔素の拡散及び魔素迷宮からの脱出が可能となります」
「その迷宮主と云うのを倒す以外に、迷宮から脱出する方法はないんですか?」
「いえ、出入り口が閉鎖されるという事は御座いませんので、どうぞご安心ください」
内部に一度でも入ったら、最下層の魔物を倒さないと脱出不可能! っていう訳じゃないんだ。
それなら何処かで魔素迷宮とやらに出会ったら、ちょろっと覗いてみるくらいはしても良いかも!
「迷宮主を倒すと、その魔素迷宮というのは消えてしまうのでしょうか?」
「いえ、歪んだ次元内には数多くの迷宮と、それに伴う複数の迷宮主が存在いたしますので。大人数での迷宮踏破を行えば、魔素拡散量が増大し、最終的に迷宮は消失いたしますね」
つまり沢山のプレイヤーでワイワイ突入して、沢山迷宮主を倒せば消えるよ! って事ですね。
俗に言うゲームの定番である『ダンジョン』と云う奴でしょうかね。それかボーナスステージとか?
それにしてもそんな物騒な場所を単独? で踏破してしかも合計が3桁って。
カイムさん若い頃色々無茶してたのでしょうか。
俺は誰にも止められねぇ! みたいな。うーん想像できない。
「私の知っているカイムさんは、お歳を召したお爺ちゃんで……ちっちゃい女の子と公園に散歩に来ていた所で出会った、といった感じのお方なのですけれど」
「確か……いまはこの町でお一人で暮らしておられて、何かしらこの町に危機が迫った等の有事の際に力を貸していただける、という話を、訓練中に副総督から伺った事があります。気さくな方で、身分など気にせず話しかけて下さる方とも」
んー、名前の似ている他人という線は流石に無さそうかなぁ?
でも明日から丁寧な言葉遣いでカイムさんに接する、とか既に無茶振り過ぎて出来ないと思われるのですけれど。
すっかり今の会話対応具合で定着しちゃいましたよ!
でもコレは私のせいじゃないのデス、カイムさんの仕業が9割なのです。
「かの有名な永世名誉騎士殿が相手ならば、業物を幾つも所持しておられるはずですし、先ほどの武器を譲り受けたというお話も非常に納得できます!」
アレイアさん他、周りにいる護衛騎士さん達も、色々と納得した表情で頷いておられます。
色々と満足げなご様子のアレイアさんに視線を向けていると……
数人の騎士に取り囲まれているプレイヤーな私! という構図が非常に目立つ事は当然の結果な訳で。
周囲の通りすがりのプレイヤーさん達の視線が、物凄い勢いで集まり始めているのが判ります。
……イカン! 此処は早急にこの場から撤退せねば! 私のハートがマズイ事になる! 主に緊張で!
まったくもって、武器を出汁にして護衛騎士さん達の仕事の邪魔をしまくってしまった感満載……!
「あのあの! 長々とお仕事の邪魔をしてしまってすみませんです! そろそろ行かないと!」
「いえ、こちらこそ色々と質問してお時間を取らせてしまって! ……ほら、皆も所定の位置へ」
アレイアさんのお顔が何時もの笑みを浮かべた感じの、柔らかな表情に戻ります。
武器を見に近づいて来ていた、他の護衛騎士さん達の肩をポンポンと叩きながら、神殿入り口の左右に立つ何時ものポジションへ戻るように指示を出していました。
それでは私もお別れのご挨拶を済ませて、国営図書館へと向かいましょうか。
しかし、ちょっと武器についてご助言して頂こう! と思って声を掛けただけだったのに……まさかこんなに大事になるとは、夢にも思っておりませんでした。
コレも業物武器のパワーなのか。
「それではコレで失礼します!」
「また何かご質問御座いましたら、是非お声をお掛けください!」
何時もの胸に拳を当てる礼をもって、お見送りをして下さる護衛騎士一同様。激しく恐縮です。
まずい! 既に二桁を越しそうな人数が周りに! 此方を不思議そうに眺めているプレイヤーさんの視線と囲いから逃亡するように、俯いたままの状態で足早に噴水横を通り抜けて、中央通りを南に向かって突き進みます。うへぇーしまったなー物凄い悪目立ちしたぁー!
生産用スペース辺りまで、早足というよりも小走りに近い速度で素早く移動。
回りの状況を確認する為に、俯き加減で付近をコッソリ見回してみます。
此方を見ている人は居ない模様です。良かった、どうやらこの辺りまでくれば安心の様ですね。
何時までも走って移動していては、また無駄に目立ってしまいそうですので、何となく息を整えるつもりで深呼吸をした後に、普通に歩く事にしました。
結構急いで移動してきましたが、呼吸が乱れるような事は無いようですね。
メニューを確認してみると、ちゃんとスタミナは消費していたらしく、最大値から1割ほど減っているみたいです。
メニューから地図を開きなおして、国営図書館の位置を確認しつつ歩いていると、武器屋さんっぽい店舗の入り口付近の陳列台の上に、なにやら革バンドの様なものが沢山置いてあるのを見つけました。
コレって売り物かな?
例の武器に巻き付けて、聖印を隠すのに丁度いい感じなんだけど……
一体これは武器の何に使う品物なんだろうか?
良く見てみると、色々な長さや幅のある革ベルトが、大雑把かつ大量にバサーっと陳列してあります。
店内に店主さんらしい男の方が居たので、ちょっとお話を聞いて見ることにしました。
店主さんがニコニコ笑顔でしてくれてた丁寧な説明によりますと、用途は使い方次第で、主な使用方法としては、武器や防具の位置調節の為の締め付け用に使うものらしいです。
後は生産材料としても販売しているとか?
注文があれば手を加えて下さったりも。なるほどねー。
とりあえず陳列台をワサワサと掘り返して、細めで長く柔軟性の高い革ベルトを一本購入しました。
これなら武器に巻きつけるのに丁度いいサイズです。
そして、お値段何と100ゴールド! 結構高い……高いよね?
私の金銭感覚が変なのだろうか。コレも全て貧乏のせいです。自業自得とも言う。
店主さんにペコリとお辞儀をして店舗から出た私は、適当な路地裏にすすーっと進入しまして、アイテムボックスから取り出した【#03 懲戒必罰 ギランステルム】の柄の部分に革ベルトをグルグルーっと巻きつけて固定します。
うんうん、ちょっと不恰好だけど聖印は見えなくなりました。
これで安心して武器として使っていけるかな?
早速予備武器として腰に提げておりました【硬い木の棒】をアイテムボックスへ収納し、【#03 懲戒必罰 ギランステルム】を入れ替えでベルトへ提げます。
うん、何処からどう見てもタダの白い金属棒です。目立たないぞ!
隠蔽具合に満足した私、足取りも軽くなるという物です。良い買い物しました。
あれ! もしかして食べ物以外の物購入したのって初めてじゃない? それでいいのか冒険者!?




