064 武器が大好き? アレイアさん
ジジィの黒歴史(何
あまりにも調べる事柄が多い事への絶望感を感じつつも、VRゲーム内部で始めての読書が出来る喜びも感じていると言う二律背反状態。
でも、ココでしっかりと知識を付けておかねば、後々の生産作業に響いてくるのではと予想。
ええぃとりあえず本が読めれば何でも良い! 位の勢いで。
そういえば、メディカさんが仰るには【※『●●●●』】という効果不明な付加能力、昨日持ち込んだライフポーション査定の時、既に気づいていたらしいです。
出来ればその時に教えていただきたかった気もします。
「お薬の効果としては問題なかったから、そのまま買取させてもらったのよ」
「そうだったんですか……この付加能力について何か判りましたら、すぐにお伝えしますね!」
所持金が乏しかった昨日、この能力のせいで買い取り不可ですと断られていたら、きっといろいろな意味で燃え尽きた、真っ白な灰状態になっていたかも知れません。
ご自身の判別で、危険性がない能力だと判っていたとは言え、その場では見なかったことにしてくれたメディカさんのお心遣いには、深く感謝しなければいけませんね。
それでは何時までもカウンター前を占拠している訳にも参りませんので、メディカさんにお別れの挨拶を済ませつつ、まだ見ぬ本を求めて国営図書館へと向かいましょうか。
おっと、その前にポコ豆の補充を忘れてはいけません。
昨日買った分は相当量消費してしまいましたので。
今回も一袋1ゴールドで購入させていただきました。ありがたやー。
「それでは、この後図書館で色々調べ物をしようと思ってますので、コレで失礼します!」
「はいはい また良かったらお願いねぇ」
メディカさんと私、お互いに頭を下げつつお別れのご挨拶をば。
聖印入りの棒は仕舞いこんでありますので、今度は通りすがりの住人さんから過剰なご挨拶は来ない模様です。あーお気楽な移動は最高ですね。
のんびりと辺りを散策しつつ、毎度お馴染みの噴水前まで戻って参りました。
ココから南に向かって進み、生産用スペースから更に奥へ進んでいくと右手に【国営図書館】が見えてくる筈です。
あ、そうだ! 図書館に行く前に、アレイアさんに例の棒武器についてお話を聞いてみようかな?
視線を安寧の女神様の神殿へ向けると、アレイアさんや他の3人の護衛騎士の皆さんは、昨日と同じ場所にビシっと直立不動で、警備業務に励んでおられました。
毎日朝昼晩、ずーっと立ち仕事とか足腰の具合は大丈夫なのかな……
肩こり腰痛関節の痛みとかに、回復魔法は効くのでしょうかね。
恐らくプレイヤーにはご縁のない症状っぽいですけれども。
「どうも! おはようございますアレイアさん!」
私としては毎度お馴染みである、右手をビシっと上に挙げたココにいるアピールポーズで、アレイアさんにお声をお掛けします。
何時も通りの切れ味の良い動きで、私の方へ振り向く白い鎧姿のアレイアさん。
んー、何度見ても絵になりますね!
「ああ、これはフワモ様! 今日はどの様なご用件で参られたのでしょう?」
そして何時も通り私の前に跪いてくださるアレイアさん。
他の護衛騎士さん達も私の方へ会釈を返して下さいます。
うひぃー! 何度体験してもむず痒い光景。思わず悶絶しそうになりますが、アレイアさんの時間を無駄に消費させてしまうわけには参りません。ささっと用件を済まさねば。
周りの人に見えないよう、こっそりとアイテムボックスから【#03 懲戒必罰 ギランステルム】を取り出して、アレイアさんに差し出します。
「あの、この武器の事なんですが……ちょっと扱いに困っていまして」
「これは、護衛騎士の基本装備【聖刃鋼の懺悔棒】では……ん!? こっこれは!?」
何時も微笑んで冷静沈着なイメージのあるアレイアさんが、この棒を見て数秒後、驚いたように両目を見開いてバッと立ち上がります。
うわっ! 何だか物凄い反応ですよ!?
「すみません! 手にとって拝見しても宜しいでしょうか!?」
「は、はい! どうぞ!」
普段の雰囲気とは全く違う、何やらぐいぐいと押しの強い感じで武器の確認をせがまれました。
勿論いつもお世話になっているアレイアさんの頼み事であれば、断る理由は御座いません。
壊れ物を持つような、ゆっくりで丁寧な手つきで、カイムさんから頂いた棒をその手に持ったアレイアさん、眉間に皺を寄せつつ握りの部分に掘りこまれた聖印の辺りを、穴が開きそうな程強い視線でジーッと見詰めています。
こ、これって職務質問されてる訳じゃない……よね?
逮捕とか拘束されちゃう案件なら、もうお縄になってる筈だよね?
一体、この過剰な反応は何事なのでしょうか……不安だぁ!
そんな私の心境を他所に、右手に握った棒を縦にしたり横にしたりしながら、何かに納得しているかの様にウンウンと数回頷いているアレイアさん。
その後、私の不安丸出しの視線に気が付いたようで、ちょっと焦り気味の困り眉状態で棒を返却して下さいました。
くっ!? 普段と違う困り顔のその表情! ギャップがハートに来る!
OLのお姉さんとかが、コロっと一撃で倒れ伏してしまいそうな表情でしたよ!
「申し訳ありませんフワモ様、お見苦しい所をお見せ致しました……どうかご容赦を」
「え!? そんな全然大丈夫ですよ! むしろドンドンやっちゃってください!」
あまりに恐縮されてしまったので、何と言うかむしろ私のほうが悪い事をしてしまったような、申し訳ない気分になり、ちょっとわけのわからない返答をしてしまいました。
それにしても一体この棒には、証明書代わりになり、さらに凄い性能だ!
という事以外にどんな秘密が隠されていたのでしょうか。
事情を知りたそうな雰囲気を醸し出している、私の心情を察して下さったのか。
アレイアさんが自分の行いに対して、ほんのりと照れたような苦笑いを浮かべた表情をしつつ、一体なにが其処まで驚く事だったのか、説明してくださいました。
「その武器は、名工『鋼の申し子』【ウェイドルズ=ギルンダルグ】の手によって鍛えられた業物なのです! その聖印の下に刻まれている槌と拳のエンブレムがその証!」
私の知らない武器の由来を、キラキラした表情で語って下さるアレイアさん。
ちなみにアレイアさんの【聖刃鋼の懺悔棒】はマントの後ろ、腰の辺りに装着されていて、わざわざ私の武器と並べて見せて下さいました。ぱっと見た感じは同じ物の様に見えるのですが、柄の部分の意匠や、握りの形状などが違うと説明して下さいました。
いつの間にか他の護衛騎士さん達も、この武器を見ようとしてなのか此方の方へ寄ってきていました。屈強な騎士様達に四方を囲まれている!?
うん、でも何と言うか皆さん、すごい男の子っぽい表情です。武器好きなのでしょうか。
それにしたって、まったくもって、予想通り無駄に凄い物じゃないですかカイムさぁぁぁん!
絶対に次会ったら、あのツルリとした頭を、手の平でペチコンしてやる!
「そ、そんなに凄いものだったとは……私が使ったりしても良いものなのでしょうか……」
もう誰かツワモノの方に、コッソリ押し付けてしまった方が良いのではなかろうか。
何だかもう、色々とゲッソリとした心持ちで右手に収まっている棒を眺めます。現実だったら胃が痛み始めている自信がありますよ。ストレス性胃炎。
「いえそんな! 何かの縁で祝福の冒険者たるフワモ様のお手に渡ったのですから、むしろしっかりと冒険に活用なさった方が、安寧の女神様もお喜びになるのでは!」
「そ、そういうものでしょうか」
元護衛騎士総督のカイムさんだけでなく、現在絶賛護衛騎士中の神殿関係者であるアレイアさんからも、爽やか笑顔で武器使用許可が下りてしまいました。
これはもう、素知らぬ顔で使っておけという事でしょうか。想像だけで手が震えてきますよ!?
「それで、宜しければですが……その武器を何処で手に入れたのか、お聞きしても……?」
そしてやっぱりと云うか当然と云うか……出所を聞かれてしまいました。ここはしっかりと説明しておきませんと、誤解を招いてしまいますからね。カイムさんのお名前を出させて頂きましょう。
「えっと、知り合いから譲り受けた物なのですが……カイムさんという方をご存知でしょうか?」
「カイム……様ですか? 覚えが御座いませんね……?」
私の言葉に、右手をアゴに添えて考え込んでいるアレイアさん。
他の護衛騎士の方々も記憶に無い様で、それぞれ首を傾げたり考え込んだりしていました。
あっれー? カイムさんー!? 元騎士総督なのに皆さんに忘却されておりますよー!?
「カイムさんのお話によると『元護衛騎士総督』だったって仰ってましたけど!?」
「……カイム……元護衛騎士総督……」
アレイアさんが目を瞑って、何かを思い出すように眉間に皺を寄せて考え込んでいます。
こんなに悩ませてしまうような事だったとは、迂闊でした。まったくもって、カイムさんに関わるとお騒がせ率が高すぎていけません。別に悪い人では無いと思うんですけどね。割と困ったちゃん。
取り合えずカイムさんの事は忘れて頂こうと思い、考え込んでしまっているアレイアさんにお声を掛けようとした時、唐突にアレイアさんの両目が開きました。わぁ! び、びっくりした!
「まさか……笑みを浮かべながら壮絶な戦闘を繰り広げる様から【笑う鬼神】と謳われた『永世名誉騎士』【カイムハイス=ディム=ヴェリアルス】様の事ですか!?」
「ええ!? 誰ですか! その凄そうな名前の人!?」
いやだって、見た目普通のオジイチャンでしたよ!? 無駄に元気な人ですけど!




