052 ログインアウト と ゲーム時間
チョロっと現実世界。
椅子は座るための物。
うーんと伸びをして椅子に座り直しつつ、残り半分程に減ってしまったポコ豆をアイテムボックスから取り出して口に放り込みながら、メニューに表示されているスタミナのゲージをのんびりと眺めます。
うん、ジリジリと棒グラフが伸びていっていますね。
でも自然回復だとそこそこ時間が掛かるみたいです。
こういう場合に薬とか回復の魔法とかの出番が来るのでしょうかね。
そうだ、ログアウト中もこういった時間で回復する系統のステータスやアイテム等は、ちゃんと回復したり補填効果を発揮したりするのでしょうか。
一人ぼっちな今のうちに、ちょっとログアウトして確認してみましょうかね?
未だラティアちゃんやカイムさんも来てませんし。
というかむしろ近辺を通りすがる人すら居ない状態ですが。
そりゃ皆さん朝起きてご飯食べたら職場へ向かうでしょうからね。公園に来る人が居ないのは当然でしょうか。そう考えると朝から公園の休憩場所で怪しげな事をしている私って、なかなか胡散臭い風体なのでは。
まぁ気にしても仕方ない……無駄にお金を使わない為です……貧乏暮らしもあと少しで終わりますし。
ネガティブな思考は置いておいて、ぱぱっと一旦ログアウトして確認を取ってみましょうか……
システムの項から『ログアウト』を選択、『はい』をプッシュして一旦現実世界へと帰還いたします。
潮が引いていくように景色が消失していく様を見つつ、目の前に表示された『ログアウト完了』の文字を確認、意識が現実に戻ってきた事を確認すると、バチっと目を開きます。
首をひねって枕元の時計を見ると、まだ1時間も経っておりませんでした。
あれ? 採取でたっぷり材料集めをしたので、結構時間が掛かっていたような気がするのですが……全然そんな事なかったようです。
それともゲーム内部での体感時間が早く設定されているのかな?
時間の流れ的にそうじゃないかなと思うのですが。
ゲーム内部で時計を所持していないから断言できないのですよね。体感時間で何となく予想しているだけなので、確実な経過時間を把握できていないのですよ。困ったものです。
ベッドに横になった状態で、HMDの半透明ディスプレイ越しに天井をぼーっと見ていた私は、視界の端、ディスプレイの左下辺りにメールが届いている事を表す、四角い封筒アイコンの表示が点滅しているのに気が付きました。
ん? 一体何処からでしょうか?
横になったまま右手でメニューを操作、メールの内容を確認するために表示されているアイコンに指を触れさせます。
【メールが一通届いております】という一文が表示され、中身が展開されました。
続けて内容を確認してみますと、どうやら昨日の夜にVRゲームの運営さんへとお送りした、ご要望メッセージを受諾いたしました、的な返信メールだったようです。
自動プログラムによりこのメールは送られておりますので、このアドレスにお返事を出されても返答できません、と云う良く見る定型文も書き添えられていました。
書き込んだメッセージ内容に不備があった場合は、下記のアドレスにアクセスして修正して下さい、という文章と、私が送ったメッセージ内容のコピーが添付されております。
その下には、何やら数字とアルファベットがゴチャっと記載されている、公式サイト関連のリンクアドレスの表示で締められております。
内容のほうはちゃんと確認して送信したはずですので、全くもって問題ありませんね。
ああいった個人的なご要望はアウトで、不備として扱われる可能性があったりするかもしれませんけれど、まぁ良いのです。
難癖つけている訳でもありません。書き込んだだけなら問題ないですよね。
さて、このまま寝転がって時間の経過を待っているのも微妙ですし、適当に動きましょうか。
ああ、郵便受けでも確認してこようかな。
HMDを取り外すとズリズリと足を使って身体を下半身の方へずらし、HMDは装着時の状態のまま、枕の上へ置いていきます。
どうせちょっと後に付け直しますのでこのまま何時でも使えるよ! 状態で放置です。
一々オンオフすると起動に時間が掛かりますし。
ペタペタとフローリングを素足が叩く音を響かせつつ玄関へ向かい、扉の郵便受けを開けて中を確認いたします。スリッパ履くの面倒なんですよね。
冬場はフローリングがキンキンに冷えているので、履かないと足の裏がピンチ状態になるんですけど。
行動範囲内だけでも、なにかマットなりカーペットなりを敷き詰めた方が良いのだろうか。
でもすさまじい重労働になりそうですよね……腰がやられそう。お父さんに頼んでみようかな。
えーっと、また郵便物がパンパンになってるなぁ……
お父さん宛のものが大半なので、ズボっと郵便受け内部に詰まった紙束を引っこ抜いた後、チラシやら必要なさそうなダイレクトメール関係を、ポポイと下駄箱上へ放り投げておきます。処分は後でしましょう。
残った必要そうな郵便物だけを持ってリビングへ移動いたします。
このリビングも、お客様など殆ど来ないので全く使用しておりません。
普段私がテレビを眺める時に使っているソファ以外は、微妙に埃が乗っかっていたりするのです。
ううーん、そろそろココも一回お掃除しないとだめかなー?
自分が普段使っている範囲以外はあまりお掃除していないんですよね……無精者ですみません。
にしても、どうして無駄に広めのお部屋を選択したのでしょうかね、ウチのオトウサマは。
ウチは金銭的な面で言えば一般家庭より裕福? らしいですが、私的には庶民的建造物を欲しているのですけれど。まぁつまり勿体無い思考の貧乏性。狭い部屋の方が落ち着く。
私の思考パターンは、不便無く使えれば良いよ、という一人暮らし大雑把モードなのです。
無理にクラスメートと違うブルジョワ生活しても肌に合わないのですよ。
クラスの女子の皆様方にも『カノちゃん撫でてると落ち着く』などと言われた事がありますし。
ほーら、みんなに溶け込んでいますよ! いるはずですよ!
……うん、嫌われていない様なのでまぁ良いのです。
弄られまくるのは、私が積極的に会話に参加出来ないからなのでしょうか。話題に対しての反応が鈍いのです。運動神経ならぬ会話神経が鈍い。
恐らく、クラスでの私の立ち位置は手触りの良い置物感覚かな? 喜んで良いのだろうか。
まぁ昔からの知り合い以外は、私の特殊な家庭環境が気になる様で、あまり接触してきて下さらないのですけれども。円滑な学園生活には程遠い。
唸れ私のコミュニケーションスキル。うん頑張ろう。
いかんいかん、アホな事を考えていないで郵便物の選り分け作業をしなければ。
とはいっても、公共料金系のお手紙を抜き取った後は、残り全部がほぼお父さん宛なので。
バッサバッサとリビングのテーブルの上に分けて置いておきます。
料金系はある程度溜まったら一気に払いに行く感じにしております。そこはかとなく出不精。手間は一度にしたほうが良いので。お買い物ついでに支払いに行くのです。
さて、程よく時間も経ちましたし、そろそろゲーム内へと復帰いたしましょうか。
ささっとベッドへ戻った私は、背中と肘の辺りを使ってモゾモゾとベッド上を移動し、ゆっくりと頭をHMDの中へと突っ込みます。ドッキング完了。
さてさて、スタミナは回復してくれているでしょうか。ついでに【初心者用調薬キット】の方も補填されていたら良いな。
ぱぱっとVRゲームのショートカットを選択し、ゲームを起動いたします。
ゲームのプログラムが起動、毎度お馴染みになっている真っ白い空間へと移動しますと、IDとパスワードを再度入力してVRゲームを再開!
うう、また例の浮遊感が私に襲い掛かってきます。早く慣れていかないと駄目ですね。
今回は浮遊感が来る前に目を閉じた状態で待っていたので、違和感無くゲーム世界へ移動する事が出来ました。
パチリと目を開きますと、公園の休憩場所にある椅子の上に立っている状態でした。
あああ、椅子の上に直立はお行儀が悪いです。早く降りねば。
軽くジャンプして地面に降りますと、早速右手を振ってメニューを表示させて見ます。どれどれ。
おお! しっかりとスタミナが全快しておりました!
【初心者用調薬キット】の方も補填されている事を確認!
良かった、ログアウト中もちゃんと回復して行ってる様ですね。
誰かと一緒に居るときで無ければ、回復中はログアウトして休憩をしても良いかもしれません。
きっと、他のプレイヤーの皆さんもそんな感じでプレイしているのでは無かろうかと。
私のように、完全に一人暮らしでプレイしている人がどの程度いるかは判りませんが、基本的に私と同じ位の年齢の方であれば、両親と一緒に住んでいる状態でプレイしている筈ですものね。
長時間プレイは出来ないはず。ゲームのしすぎです! って怒られちゃう筈ですよね。
そう考えると私の生活環境では、ゲームのプレイ時間に注意しないといけないですね……
寝食も惜しんでゲームプレイ、というのは流石に身体を壊しそうです。
万が一にもゲーム禁止! とかお父さんに言われてしまう事の無いように、身体に気をつけて生活&プレイをして行かないと。あとお勉強もね。
色々と物作りが捗ってきて、丁度楽しくなり始めて来た所なんですからね! うん!




