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005 始まりの町へ

内容進行は非常にのんびりとしたものになります。申し訳ありません、ご了承ください。

 まず最初に気がついたのは頭が上に、足が下に向いているという現実では当たり前の事実。


 そしてどうやら地面に足がついているという事。


 次に手足の感覚が戻り自分の意思の通り、自由に動かせるようだと判る。


 数秒の後にはざわざわと雑踏の音が耳に届き。


 漂うのは様々な香辛料のような香りや焼けたお肉の香り。そして甘い匂い。お菓子の匂いかな?


 そして気がつく。自分が両目の瞼を閉じているという事に。そりゃ何も見えないわけだよ。


 ゆっくりと瞼を開くとその視界に飛び込んでくるのは人。人。人。


 振り向くと背後には四角い水槽の噴水が設置されており、中央のお魚? のオブジェの口から上方に向かってバシャバシャと勢い良く水を噴出させ飛沫を上げています。わーマイナスイオン凄そう。

 VRにマイナスイオンあるのかな。


 などと、水の噴出口である魚の口から水が出ている事から導き出されるであろう、ある光景を脳内で連想しつつ、とりあえず辺りをぼーっと眺めます。


 お魚さん、胃酸の出すぎかな?


 とりあえず、準備運動のごとくグリグリと身体を動かして馴染ませる。うん、違和感ないね。

 外見を少し調整した以外はほぼリアル基準のサイズ構成だし、違和感あったら問題だよね。そして気がつく重大事実。


 尻尾と耳の動かし方が判らない。


 水面に顔を映しつつ両腕をウーンと伸ばしてみたり、顔をギュっとしかめて見たり、グニーっと顔の筋肉を横に伸ばして口を引き伸ばしてみたり。口の開け閉めから眉毛の上下まで試してみた。


 あ、犬歯はえてる。


 尻尾も動かしてみようと画策し、エッホエッホと色々ポーズをとってみたり、お尻を突き出したりして、何とか出来ないかとほんのり揺らめく水面に映りこむ姿をみて動きを模索する。


 だめだー、稀にピクッっと反応したりするけど上手く動かないぃぃ!

 そりゃ現実に存在しない身体器官だからね。仕方ないね。仕方ないね……


 ふと違和感を感じて後ろを振り返ると、通りがかりの人? 他プレイヤーさん達かな? が足を止めていて。

 何故かすごい勢いで注目されていました。


 えっ、ちょ、なになに!? 出遅れすぎて呆れてるとか!? アバターつくり遅すぎだろう君ぃ! とか思われてたりします!? すみません勘弁してください不慣れなんです!


 脳内で謝罪を連呼しつつキョロキョロと周りを見回すと、気まずそうな顔で私を見ていた人たちが顔を背けます。

 うぐぐ、何をしでかしたのだ私。


 謎の空気に居た堪れなくなった私は、取り合えずやっとけ! という勢いでペコペコと高速で付近に頭を下げると、そそくさと早足すり足で噴水前からすこし離れた所にあった、大きな真っ白い建造物の横にニョキっとはえている街路樹の枠石に移動して腰掛けます。


 あーこの道がどう繋がってるの、とかまったくわかりません。どこかに地図とかないのかな。

 うう参りました。


『チュートリアルを開始できます。メニューを開いてチュートリアル移動ボタンを選択してください』

「!?」


 俯いて考え事をしていた時、唐突に耳元で女性の声が。

 思いっきり全身でビクっとしてしまいました。


 唐突に一体何事でしょうか? というか周りの人が絶対「何事?」という顔で私を見ているはずです。こちらに向いて立ち止まっている人達のつま先が、俯いた私の前髪の向こうにチラチラっと見えてます。

 顔を上げてないので視認できていませんっていうか上げれません。絶対こっち見てます。なんともお恥ずかしい。


 ビックリトラップが悪いんです、私のせいではありません。


『チュートリアルを開始できます。メニューを開いてチュートリアル移動ボタンを選択してください』


 もう一度同じ音声が、なにもない空間から聞こえてきました。

 ああ! コレが噂のチュートリアルですか! 了解いたしましたさあ始めましょう色々と教わりますよ! というか取り合えず移動して落ち着きたい!


 『システマ』さんに教わったメニューの出し方を思い出し、右手の指をそろえてスイっと振りメニューを出現させます。

 目の前に出されたメニューの中央に『チュートリアルへ移動』と書かれた丸いボタンが浮かんでいました。これが私をこのキマズイフィールドから安全に連れ去ってくれる脱出ボタンですね!


 迷わずプッシュ!


 一瞬で周りの景色が真っ暗になります。というか真っ暗空間? 星のない宇宙のような空間へ移動、とおもいきや数秒ののちに明るいところへ。

 腰掛けていた街路樹の枠石がお尻のしたから消えていて、思いきり尻餅をついてしまいました。

 くっ、ここも安全ではなかったか! 尻尾がつぶれる!


 周りを見渡してみると、なにやらお花がたくさん自生している小高い丘の天辺付近のようです。ずいぶんとファンシーな場所にきましたね。


 実地訓練みたいな事をすると『システマ』さんに聞いていたので、もっと殺伐! 戦場! 闘技場! みたいなところで教官殿ぉ! とかするのかと思っておりました。


 偏見は良くないという事実発覚。


『ようこそチュートリアルフィールドへ』

「あっはい、よろしくお願いします」


 どこからともなくアナウンスが聞こえる。

 真上から聞こえているような。


 見上げても雲が漂っているばかりでなにもありません。実は飛んでいる鳥がしゃべっていた! とか! などと思っていたのですが鳥なんて一羽も飛んでおりませんでした。浅はか。


『わたくしはチュートリアルの進行および質問返答を承っております。暫定的に【ガイド】とお呼び下さい』

「ご親切にどうもです。私はフワモと申します」


 どの方向にいらっしゃるのか判らないので、とりあえず向いている方向から九十度毎、四方向に向かってペコペコと頭を下げる。

 というか声のみの存在だったりするのかなぁ、幽霊みたいに透明ではないと思いたい。


『それでは戦闘チュートリアルから開始いたします。今からフワモ様の手に武器である【木の棒】を召喚いたします』


 そう声が聞こえたと思いきや、手元に何の変哲もない木の棒が。


 握りの部分に何かの皮が巻いてあって手にフィットします。

 おお、そのままの棒じゃないからこんな素材でもなんだか非常に武器っぽいぞ!


 気をよくした私は、ブンブンと適当に棒を振ってみる。

 あまり重量もないようで簡単に振りぬく事ができます。コレで殴ったら痛そうだ。


 まさに武器ですね。地味だけど。


『戦闘用ダミーを召喚いたしますので武器を使用してダミーに攻撃を加えてください』


 そういうが早いか、上空からものすごい簡素なつくりのカカシが降って来て、数メートル先の地面にズボっと突き刺さりました。


 ワイルドな登場の仕方だなぁ。


 説明されたとおりに、棒を振ってカカシを叩いてみます。

 硬いものを叩くと手が痺れるかな? と思って少し尻込みしながらの第一打だったのですが、衝撃はある程度感じるものの手が痺れる等の現象は起こりませんでした。


 あと叩いたカカシの部位からポンっとまるっこくて可愛らしい見た目の、大きい数字が飛び出してきました。数字は6。


 あの数字って手に持ったり出来るのか凄い気になります。


『はい、ただいまの攻撃は無事成功いたしました。エフェクトとして発生した数字が、相手に与えた損害を表す数値となります。相手に設定されている生命力の数値を、攻撃により削りきる事が戦闘に勝利する条件となります。設定により数字の発生をオフにする事で、リアル寄りな戦闘を楽しむ事も可能です。ここまでよろしいでしょうか?』

「はい、判りましたー」


 つまりボコボコ叩く、敵は死ぬ! っていうことですよね。

 普通のゲームとかでもそうですし判りやすい。


 まぁ今は動かない相手だから安心して叩けますけど、実戦ともなれば相手も動いたりするんでしょうね。いっぱい練習すれば私でもどうにかなるのかなぁ。


 取り合えずポコポコとカカシを叩きつつ、先ほどの考えを元にコッソリと数字に左手を伸ばしてみたところ。


『ダメージ表記はアイテムではございません。大変申し訳ありませんが、取得は不可となります』


ぐっ先回りされた! 【ガイド】さんも有能か!


※ サービス開始初日 噴水前で待ち合わ中だったリアル友人3人PTの会話から抜粋


男1「お、おい見ろよ、噴水前で小柄な狐っ子が百面相してんぞ!?」


男2「マジカヨ、すげぇ、雰囲気あるかわいい子だなぁ!」


男1「声かけてみっかな……?」


男2「バッカ、やめとけよゲームサービス開始したばっかりだぞ? セクハラ通報即BANされたらどうすんだよ」


男3「おーい? お前らどうした? ポーション人数分かってきたぞ?」


男1「いや、まぁ、あそこの狐人の子みてただけだよ」


男3「獣人で魔法よりの種族だっけか……うん!? 何だあの動き!?」


男2「奇妙な踊り? MPすわれてねぇけど」


男1「ぐっはなんだこの攻撃力、尻尾とお尻がキュートすぎんだろ」


男2「お前……」


男3「紳士か」

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