046 森 と キノコ と ご挨拶
キノコハンター フワモ
靴の履き心地を確かめると、ヨイショ、と気合を入れつつ北門へ向かう為に立ち上がります。
まずは当初の予定通り、お薬の素材集めを開始しなければなりません。
早朝であるこの時間帯ならば、まだ盛り沢山で残っているのではないかと予想しているのですが。残っていると信じたい。折角早起き(8時ですが)したのですし。
まぁ私と同じように『早朝なら人が少なくて沢山採取できるのでは』といった考えを持った生産を頑張っている方々と、目的場所がかぶってしまうかもしれません。
その場合は流石に仕方ありませんけれどもね。
大分見慣れた胃酸魚君の噴水前を横切り、町の外へ向かって歩いていく他のプレイヤーさん達の流れに沿って私も中央通りを北へ進みます。
もう毎度お馴染みとなりつつある、ガルドスさんの定位置といっても過言ではない、北門横にある詰め所風味の建物の横へ視線を向けますと。
珍しい事ですが、丁度ガルドスさんがプレイヤーらしい男性の方に、何か質問をされている光景が目に入ってきました。流石はガルドスさん、朝っぱらから業務に忠実ですね。お仕事ファイト。
このまま、男性との会話が終わるのを待ってガルドスさんに色々と細かい事を聞いても良いですが、待ち時間が勿体無いですし、質問タイムは素材の採取が終わった後にした方が良さそうですかね。
ガルドスさんを眺めつつ、ざっと今思い出しただけでも聞きたい項目が盛りだくさんという大変な状態ですので。
全部聞くのにだいぶ時間が掛かりそうですからね。うん。
私は目線をガルドスさんにむけつつ、ペコリとちょっとだけ頭を下げて北門へと向かいます。
ガルドスさんも此方に気がついたようで、正面のプレイヤーさんと会話しつつ、腰の辺りに添えられていた左手をヒョイっと上げてお返事して下さいました。
素材集め行ってきまーす。
さて、昨日行なった採取行動時に薬草その他のアイテムがあった場所は、大体ですが覚えています。
昨日の進行ルートと同じく、北門を出てから壁際を進んで森の中へと到るルートで採取の旅を始めていきましょう。
今日はライフポーションはもとより、スタミナやマナのポーションも沢山作ってみるつもりですから、その素材であるキノコやお花も頑張って沢山の量を採取せねばなりません。
壁際を歩きながら軽く辺りを見回すと、昨日のゲーム開始直後よりは人が減ったとはいえ、まだまだ沢山のプレイヤーさんがラビと戦いを繰り広げておられました。
ウサギ君達の攻撃は動きが見やすいですし、戦いに慣れる練習になりそうですよね。
まぁ私はこの北の平原と森にしか足を踏み入れていない為、未だ他の種類の魔物を見かけたことが無いのですが。やっぱりファンタジー的に人を襲う相手の定番というか何というか、オオカミとかクマとか……そういった猛獣だ! といった感じの魔物も居るのでしょうか。
出会っても戦える気がしないのですが。というか確実に逃げます。
魔法乱発して足止めしながら逃げれば大丈夫かなぁ……?
ああそうそう! 大量の草むしりを経てですが、恐らく【薬草】と【雑草】の見分け方が判明致しましたよ! あくまでも恐らく!
というか数をこなしたうえでの予想という形なのですけども。
恐らくこの判別方法で正解ではなかろうか、と思っております。はい。
昨日は見た目なんて気にしないで、無差別にその辺りの草を毟ってはアイテムボックスへ放り込んでいっていたのですが。
そういう採取の仕方になった大きな理由が、この辺に生えている【薬草】と【雑草】の二種類。なぜか外見が凄い似ているのです。
絶対にワザと似せているのではなかろうかと思うくらいにはソックリさんです。
でも良ーく見ると、薬草の方は葉っぱの先っちょが少しだけギザギザしていたのです。
採取歴二日目にして気が付いた私を褒めていただいても良いですよ?
まぁもしかしたら詳しい方に聞けば一発で教えてもらえるような知識なのかもしれませんけれど……
例えばメディカさんに聞くとか。絶対知ってそうだ。
お、【薬草】の中に紛れて【魔力の花】を発見!
薬草は一つでポーション一本の変換率だからなのか、その辺りの地面にだってたまにニョキっと頭を出していたりする位にはありふれた物なのですが。
【魔力の花】の方は、恐らく花弁一枚がポーション1本の材料になる関係なのか、咲いている場所が少なくて、採取できる量が全然少ないのです。
【薬草】10個はライフポーション10本ですが、【魔力の花】10本あれば、恐らくはマナポーション60本作れますからね。
失敗する可能性もありますが、それは私の事情で御座いますし。
それにしても戦闘している方は結構見かけるのですが、採取している人が全然見当たりませんね?
やっぱり皆さん昨日のプレイを頑張りすぎて、この時間はお休みになっているのでしょうか。
それかもっと効率のいい場所があって其方に移動してしまわれたのかな? まぁ気にしていても仕方がありませんので、平原で目に付いた採取物を入手しつつ森の方へ移動いたします。
森はキノコがモリモリ(駄洒落ではないです)ですからね。
スタミナポーションを作るためにも、たっぷりしっかりと【活力キノコ】を頂きましょう。
昨日とほぼ同じルートで森の中に侵入いたしますと先客が。
視線の先に6人のプレイヤーさん達がいて戦闘を行なっているようでし……た……
うわぁ……そのプレイヤーさん達が戦っている相手、おっきな蜘蛛でした。
全長1メートル位あるのではなかろうか……ギチギチと嫌な音を立てているのがココまで聞こえてきます。
自室の床で、ちっちゃくてピョンピョンと跳ねる蜘蛛なら見かけたことがありますし、別段蜘蛛というモノ自体には気持ち悪い! とかそういう感覚は今まで感じた事は無かったのですが。
流石にあそこまでデカイと色々な意味でちょっと。
ちっちゃいのは可愛げがありましたし。跳ねてたし。
等と私が考えつつ眺めている間に、頑丈そうな鎧と大きい金属板を持った方が、ぐぐっと巨大蜘蛛を押さえ込みました。うーんマッチョです。
押さえ込みのタイミングに合わせて、大きめの剣を持ったプレイヤーさんが巨大蜘蛛に切りかかって止めを刺しておられました。いやー何というか完璧にファンタジーしてるね。
こう、剣で魔物と戦っているのを見てると、ゲームの主人公! って感じがします。
まぁ私はその激しい戦闘の横で、我関せずといった風で、黙々とキノコを毟っているんですけどね?
近くにいる魔物はその6人の方々が一匹づつ倒して下さっているようで、色々と安心して採取が出来ます。やっぱり人数が多いと楽なのでしょうね。
目立たないようにしゃがみ込んだ状態で色々な場所へカサカサっと移動しつつ、木の根元に多く生えているキノコの採取を続けていますと。
6人パーティの後ろの方に立っていらっしゃった、私の身長ほどの長さのある杖を持った女性の方が、木の根元にうずくまって、ゴソゴソと何かをアイテムボックスに捻じ込んでいる私に気が付いた様で。
首を傾げながらジーっと此方を見ておられました。
いえいえ怪しい者ではございませんデスよ? キノコとかキノコを取っているのですよ。
木の根元から根元をカサカサ移動しつつ、モゾモゾ動きながら地面を両手で探る作業をしている人物。
今の私はとても胡散臭い雰囲気を醸し出しているな! と想像がつきます。誤解度100%です。
ちょっとワザとらしい感じもしますが、キノコを両手にもって顔を上げ、笑顔を向けておきました。
ほら、キノコ、キノコですよー!
変な事しているわけじゃないですよー!
これなんてお料理にも使えるんですからー!
という気持ちを籠めて。
杖を持った女性は私が採取をしていると納得されたようで、ペコリと頭を下げて下さいました。
此方もお返しにペコリ。どちらとも無く再びニッコリと笑いあいます。
戦闘頑張って下さいませ。




