031 ご利用します 生産用スペース
ポーション2.5本分
「詳しいお話どうもありがとう御座いました!」
「いえいえ、お役に立てたのでしたら何よりです。しかし基本的にお一人での安全領域外ログアウトは危険ですので、緊急時なら仕方が有りませんが、興味本位で試したりしないようにお願い致しますね」
アレイアさんが人差し指を立てながら私に忠告して下さいます。
ええ、それはもうしっかりばっちり判っております、はい。
「了解いたしました、肝に銘じます!」
町の外でも、他にパーティメンバーがいる状態であれば交互に相手を守ったりしながら、ある程度安全にログアウト出来そうですよね。
ちょっと食事休憩(現実で)を挟んだりする場合は便利かもしれません。
一人でログアウトする場合でも、木の上に登ったり穴を掘って埋まったりと、何かしらの手段を用いれば、そうきっと恐らく安全にログアウト出来る! ……かもしれない。
正直、唐突に木に登ったり地面を掘ったりし始めた所を、他のプレイヤーの方に見られたりしたら非常に恥ずかしい感じですけれど。突発性ログアウト症候群。
こう、魔法的な何かを使った対魔物用簡易シェルターみたいなアイテムは無いのだろうか。
どこかにキャンプ用品専門店みたいな店舗はないのか。
あれかな、雑貨店とかで売っているかもしれない。
まぁもし売っていても、大分高価なアイテムだろうと思われますが。
アレイアさんに聞いてみようと思った事は、大体思いつくだけ全部教えていただいたので、そろそろお暇いたしましょう。毎度毎度、長時間お仕事の邪魔をしてはいけませんです。
「質問に答えて下さってありがとう御座います。生産用スペースを使用してみようかと思ってますので、町の南方面へ向かおうと思います!」
「生産用スペースでしたら、大きい建物があるはずなので、すぐお分かりになると思いますよ」
「わかりました! では失礼します!」
感謝の意をこめてペコリとお辞儀。
アレイアさんも笑顔で力強く頷くと、立ち上がって私に手を振ってくださいました。
ありがとうございます、頑張ってきます!
お見送りに軽く手を振り返しつつ、噴水広場から町の南方面へと向かって歩みを進めます。
こっちの方へ来るのは初めてですね。外観的にはさほど北の方と変わりは無いようですが、大きめの建物が少し増えた感じがします。
大きな看板が店の横に立っているお店っぽい建物もあるので、この辺りでも買い物できそうですね。
看板の絵が剣や盾の形をしているので、恐らく武器や防具などを販売しているところでしょうか。
お金が貯まったら新しい武器を新調してみるのも良いかもしれませんが、この辺りの相手なら今もっている棒で十分ですし、先に生産用のキット類を新調しようかな。
ウィンドウショッピングのような感じで周りのお店に並べられている商品を眺めつつ、大通りを南下していきます。
位置の確認のためにマップを表示しつつ辺りを見回すと、ありました! 生産用スペース。
ぱっと見た感じでは、平べったい印象の建物で、窓の数からすると恐らく三階建てなのかな。
出入り口は大きく開放されていて、今も人が出たり入ったりしています。
とりあえず中に入ってみよう。
中から出てくるプレイヤーさんにぶつからない様、端っこの方を移動しながら出入り口をくぐります。
入り口左手方面のスペースに、なにやら色々な材料っぽいものを販売している、駅構内の売店風味な場所がありますね。
ちょっと材料が足りない、なんていう時に使ったりする場所かな。
見慣れた薬草も、籠の中に束ねられた状態で陳列されています。
正面に視線を向けると、カウンター向こうに女性が三人座っていて、プレイヤーさんと何やら遣り取りをしていました。
微かに聞こえてくる会話の内容から察するに、あのお姉さんたちがこの場所に訪れた方への対応を任されている方々なのでしょうか。
カウンター横を見ると、数人のプレイヤーさんが列を作ってカウンター前が開くのを待っている様でした。ぼけーっと人通りの多い場所で立ち止まっていた事に気が付き、そそくさと私も順番待ちの列へと滑り込むことにします。
いかんいかん、通行の邪魔をしてしまった。申し訳ないですね。
うぐぐ……列に並んでいる皆様、全員男性で漏れなく身長が高いよ! 確定で埋もれる私!
こう、出来ている列の途中で私のいる部分だけ凹んでいる感じです。無駄に目立つ。
俯いてジッとしつつ待っていると、列の前後に居る方からの視線をツムジの辺りに感じる気がする。顔が上げられない。
何故に見られているのですかね!?
そんな小柄な体格で物が作れるのか? とか思われてるのかもしれません。体が資本ですね。
でもポーションなら大丈夫です、今の所パワーは必要としてませんですよ。
などとブツブツ呟きつつ列を進んでいると、無事に私の順番が巡ってまいりました。良かった。
「いらっしゃいませ。生産ギルドの生産用スペースへようこそ」
「あ、えっと、初めて利用するのですが、手続きはどうしたら良いのでしょうか?」
とりあえず何を如何したら良いのか全く判らないので、カウンターのお姉さんに丸投げいたします。それが一番確実でしょうし。
私の言葉を聴いてにっこりと微笑んだお姉さんは、カウンター下から一枚の紙切れを私に差し出してきました。『情報登録書』と印刷されています。
「初回登録の方は此方の登録書に、お名前と種族、主な生産スキルをご記入していただく事になっております」
「二回目からはそのまま利用しても問題ないんでしょうか?」
「登録書をご記入いただいた後、その情報を元に利用者カードを発行いたします。基本的にご利用の際はそのカードをカウンターに提示していただいて、使用するスペースを選んでいただき料金のお支払い後に移動という形になります」
俗に言う○○会員カードみたいなものでしょうか。
記入部分が名前とか種族だけで良いみたいですし、登録基準はだいぶ甘い感じではありますが。
何かしら、たとえば身分証明の魔法的な効力が発揮されるカードなのかな。
とりあえずお姉さんから差し出された、良く見かけるタイプの黒ボールペン(あるんだ!?)で登録書に名前と種族、あと主な生産スキル(とりあえず【調薬】と【革細工】)を記入します。
「……はい、ご記入ありがとうございます。では、手のひらをこの登録書に乗せて下さい」
「はい……これでいいですか?」
黒ボールペンをお姉さんに返却すると、促されるままに右手を先ほど記入した登録書の上にペタリと重ねます。その瞬間、登録書がフワッと光を発しました。
な、なんでしょうか? 指紋登録や手形登録的なスキャン技術の様なものなのでしょうか。
「はい、登録完了いたしました。手の平を上げてみていただけますか?」
「判りましたー」
光が収まったのを確認して、手のひらを持ち上げますと。
いつのまにか、登録書と手のひらの間にキャッシュカードサイズの金属板が一枚出現していました。
どうやって発生したのか全く謎です。魔法チック。
これが十中八九、利用者カードというやつでしょう。
右手でつまんで持ち上げてみますと、滑らかな手触り。
硬さも中々の物の様で、指で弾くと良い音がしました。
「そちらが利用者カードになりますので紛失にご注意くださいませ。この『情報登録書』はこちらで保管させていただきます。では、改めましてカードをお預かりして宜しいでしょうか」
「はい! お願いします!」
こう、何かの手続きに魔法で作られた金属カードを差し出す、という行為にそこはかとなくファンタジー的なロマンを感じます。感じますよね?
お姉さんに利用者カードを手渡すと、カウンターの横に設置されていた、なにやら黒くて小さい機械のようなものにペタリとセットしました。数秒そのままで待つと、何かしらの情報読み込みが終わったのか、お姉さんが利用者カードを此方に返却してきます。
「はい、利用者カード情報は問題御座いません。それではご利用になるスペースの選択をして頂く事になります。こちらが一覧表になりますので、お値段や使用する生産スキル等と相談で検討下さいませ。一覧の文字部分をタップ致しますと小さくスペースの映像詳細も確認できますので、どうぞご活用ください」
「ふむふむ……?」
お姉さんが色々と説明しつつ、カウンター上にスッっと一枚のB4サイズ相当の大きさの、薄い金属板を差し出します。
一番高いのであろう最上段に表示されている【特級】『鍛冶精錬場施設』レンタル? から、一番下の方になると間仕切りで区切られたタイプの『大部屋スペース』まであるみたいです。
始めて利用するのもありますが、予算が微妙なので一番安い大部屋タイプのスペースを使ってみる事にしました。
「この【スタイルフリー大部屋スペース】でお願いします」
「使用料金が50ゴールドになりますが宜しいですか?」
「はい! お願いします!」
私の了承の声にあわせて先ほど串焼きの屋台で目撃した、清算用のパネルが目の前に出現しました。勿論『はい』の部分をプッシュします。
「料金収納確認いたしました。ではこちら【識別札257】を持って、あちら右奥にあります扉の先へ移動して下さい」
「ありがとうございました」
五角形の形で中央に『257』と掘りこまれている金属板を受け取った私は、いわれたとおりにカウンター前を離れると右奥にある扉へ向かう事にしました。




