252話
今回ちょっと短くてすみません、頑張りますハイ。
魔石はギルドへ持ち込めば一定の価格で買取してくれます。
フワモさんはお金の方が必要そうですよね。
完全初心者の私の為に気を利かせて、わざわざ魔法封入アイテムの発動実験を行ってくださったアルシェさん。
封入された『風の刃』の効果発動の確認を無事完了させ、七色の光になって消えていく魔石の残滓を、埃を叩く感じでパタパタ両手を叩き合わせる感じで払っています。
キラキラと風に紛れて消えていく七色の残滓を、アルシェさんと一緒に眺めつつ。
どうやって、この魔法封入のスキルを活用したら良いのか、という点を改めて考えてみます。
一応ですが、自分で魔物を倒して魔石を沢山集め、自分でそれに魔法を入れてー、という手順を活用して魔法封入アイテムを山盛り量産すれば、一応ですが金銭的な元手はゼロで活用できますよね。
VR世界とは言え、ゲーム内での肉体的労力や、さらに時間と言うかけがえの無い資産を浪費する点を除いて。ですが。厳しい。
いやまぁその……正直な話、わざわざ魔石に魔法を入れてから発動、なんてワンクッションを入れる手間を考慮すると、そりゃ普通に魔法を使った方が良いですよね。
マナ枯渇! という状況に陥った事がないから、そう思うのかもしれませんけれど。
どれだけ無茶したら枯渇するのか。うーむ。
つまりこんな私でも、色々とデメリットを思い悩んでしまう程度には活用法が難しい。
そういえば……もしも将来この封入スキルを得た私が、手に入れた魔石へゴリゴリと図形等を彫り込み加工し、それを他のプレイヤーさんへ手渡して私が利用できない魔法を入れてもらう! という事は可能なのでしょうか。魔法封入委託みたいな。
テラスの両脇で不動の姿勢をとって周囲を見回していた、先程のゴッツイ男性お二人に普段通りな感じの笑顔で声をかけているアルシェさんの後姿を眺めつつ、魔法封入アイテムの活用法について色々と思案する私なのでありましたが。
あれだ、取り合えず教えてもらうのは良いとして。
このスキルを活用する方法は、後ほど考える時間を沢山確保しよう、うん。
どう考えても、様々な状況を考慮しつつ検討しなければならない事でしょう。
あれです、物凄い優秀な技術を得たとしても、その技術を所持している人物にそれを有効に扱う技量が無ければ無意味ですからね。はっはっは。
こうやって色々なスキルやアイテム、技術等に関して深く考えれば考えるほど、何とも微妙な自分自身に対してドウナノジブン? と首を傾げたくなる今日この頃。
熱い自己批判で。熱い。
いや多分、お風呂のお湯位の温度。良い湯だね。
正に身も蓋も無い非建設的な考えを、グリグリと脳内で捏ね繰り回していた私の視線の先で、アルシェさんが『おつかれさまー』と例の頑丈そうな男性二人に声をかけています。
その言葉を受けて力強く一礼、お庭の警備へと戻っていく男性お二人の背中にご苦労様デス、と心の中で声をかけつつ見送りながら、いやぁあれだねーVRの世界でも私は色々とままならないねー、なんて腕組みしつつ唸っておりますと。
軽快な動きでクルリとこちらを振り向いて、慣れた雰囲気でテラスの出入口へと到り、小さい手で私を室内へと手招きするアルシェさん。
おっとと、そうだった! 講習の続きを受けねば!
無駄に思い悩んで、ここに佇んでいる場合では有りませんでした。
お待たせしない様に、アルシェさんの後に続いて足早に移動を開始する私。
アルシェさんの貴重な自由時間を、無駄に潰してしまってはいけませんので。
折角ご好意で、こうやって講習を開いてくれている訳ですからね。
出入口の横で待っているアルシェさんの傍を、そそくさと通り過ぎる形で室内に戻った私。
何となく落ち着かない気持ちで……埃とかで汚れているかもと、お尻や尻尾をパタパタ叩いてから、先程と同じ様に椅子へと腰を落ち着けます。
こうやって移動する事により、豪華な場所に今現在自分が存在しているんだなー、と再度認識してしまったからでしょうか。歩く事さえ恐れ多い。そんなマインド。浮いて移動したい。
貧乏精神で悶絶していた私の後ろで、テラスへと続くガラス戸を後ろ手に閉め、楽しげな表情で此方へ小走りで戻ってくるアルシェさん。
自宅にいても、国営図書館で見せたあのチョコマカ感が強いムーブは健在の模様。
凄く特徴的な動きですね。存在感。
という事で、早速私もアルシェさんのご指導の元、先程アルシェさんが行った魔法封入アイテムの作成に使われた物と、ぱっと見で大体同じ大きさのラビの魔石に、ゴリゴリっと例の鉄棒を使用して溝を彫ってみることになりました。
実践あるのみ。スパルタな雰囲気がそこはかとなく漂っております。
その後、図形について簡単な説明を口頭で受けたのですが。
先程作業含めて見せていただいた三角形の図形の他に、追加で彫りこむ付属図形によって、様々な特殊効果を付ける事が可能、とかあるみたいですよ!
でも初心者の私は、そういった小手先の技術を身に付けるのは後回しで。
基本図形を彫り込む事に、専念するのであります隊長。
この任務立派に果たしてみせるでアリマスヨ。ビシッ!
つい先程、アルシェさんが利用していた拡大鏡をお借りして、ゴリゴリサムシングな作業を開始してみる事に。えーっとちょっと、彫る前に下書きとか出来ないのかなコレ!?
という事で……下書き等は出来ないのか、とアルシェさんに聞いてみたのですが。
ニッコリ笑顔で、ラビの魔石程度の素材なら下書き等気にしないで使い潰してしまった方が楽、という何ともブルジョワァーでオカネモティーノなご意見を賜りました。
いやまぁその、そりゃー町の外へ少し冒険に出たら即座に門の付近で、ピョンコピョンコと動き回っている訳ですからねラビ君達。しかももしかしたら無限に湧き出てくる資源の素で。
ソイヤァ! と貧弱な私の棒で叩いても手に入るラビの魔石ですのでね。うん。
ラビの魔石でも、ちゃんと売ればお金になるんですけどね。
私が貧乏性すぎるのか。そうなのか。どうなのさ。どうなんだろう。
基本的に、入手素材を大事に利用するという姿勢は崩すつもりは無いのですが、無意識に素材を蔑ろにしている可能性も否定できないダブルスタンダード。
表裏一体の貧弱マインド。
お金は大事ですが、溜め込むものではないというスタンスで。行きたい。
という事でひとまず、私の強風に揺れるゼリーの如く、不安定な金銭感覚については横に置いておいて。
いま正に私の正面で加工される事を待ち望んでいる、見慣れたラビの魔石へ向き合う事にします。
先程見せてもらった金属の棒を右手でガシリと掴み、拡大鏡に視線を向け。
尖った鉄の棒を持って唸っている私の手元に、彫り込む溝の例となる図形が判りやすく太くて黒い線で描かれた紙切れをスッ……と差し出してくださるアルシェさん。有能。
そうです、そうです、これは漢字の書き取りと同じ。同じなのです。
落ち着いて気を付けて棒という名のペンで、気にせずにゴリゴリって行けば大丈夫なはず。
消しゴムが使えない状態で文字を書くのと一緒、一緒なのです。
そうだ、図形だからお絵かき、これだ。
難しく考えるから駄目なんですよねうんうん。
無意識に手が震えたりしない様に落ち着かせる為、ギュっと左手で鉄の棒を持った右手を包むように押さえ、数回深呼吸してから作業を開始します。
えーっと図形の形を確認して……よし、行ける、と思う。
一度強く息を吐いて数回瞬き、肩をグリグリと稼働させていざ! と気合を入れて右手を動かし始めます。
あれ!? 案外と手応えが柔らかいと言うかマイルドと言うか!?
図形を彫り込む相手が完全に石っぽい見た目なので、マナを利用して彫り込むと言ってもある程度は手応えが強く返って来るのでは? と勝手に想像していたのですが。
予想と反してサクサク風味。サックサク。
削っているのに、まさに発泡スチロールくらいの感じで凄い。
本当にノートにペンで図を描いている位の手応えなのです。何とも素晴らしい。
コレならば案外何とかなるかもしれません! 臆せず進むのだ!
えーっとえー
さんかくをかいてーこうやってぇ
ここにーぎゃくさんかくーをこうー
よし……むぅよしきたホイ!
ここにせんをーかいてー
いくぅーのだ……出来た!
集中して、無意識に息を止めていた私。
最後の線を彫り込んだタイミングで、ブハァ! と呼吸を再開します。
いやまぁ、作業中に息を止めてもVR世界では効果も無さそうですが。無意識なので、無意識。
あれです、恐らく癖みたいなもので。
現実でも集中すると、ちょいちょい呼吸を忘れるというか。上手に生きろ私。
それにしても、VR世界だと呼吸を止めていても苦しい! という感じがしないですね。凄いねVR世界。
無呼吸で行動なんて……流石にVR世界とは言え何かしらのペナルティは存在する、とは思いますが。実際やったら、命が危険で危なくてデンジャラスですし。
VR世界の出来事とは言え、無呼吸行動生命体とか生物学的に大丈夫なのでしょうかね。
人型の癖に、酸素を必要としない便利な肉体なのか。
まぁ……現実の私は、今頃ベッドの上でHMDを装着したまま、スヤスヤと呼吸をしていると思いますので問題は無さそうかな。
図形の彫り込まれた魔石を左手の指で摘まんで持ち上げ、確認作業をし始めたアルシェさんをぼんやりと眺めながら、呼吸と言う観点から連想された、水中や地中での行動に関して色々と考え込んでおりますと。
アルシェさんからオッケーのサインが出されました。おぉ大丈夫だった!
「少々歪みがありますが、初めて加工したにしては上出来です! 通常運用しても問題ない程度ですね!」
「おぉー……ありがとうございます!」
「早速なにか封入してみましょう!」
アルシェさんの申し出に頷き、一応の完成を見せた図形入り魔石を受け取ろうとした際。
初めての作業に対する緊張と、極度に集中して作業した為、無意識に力を入れすぎて右手が棒を掴んだ状態で、ガチガチに固定されてしまっていた事に気が付きました。
右手全体を左手で揉んで強引に開き、掴んでいた鉄の棒をそっと所定の箱に戻します。
ううう、毎度ながら……初めて行う生産作業は、精神と肉体両方に疲労をもたらしますね。
右手の動作を確認する為、握ったり開いたりした私は、差し出された魔石を受け取って……さてどんな魔法を封入しようか、といった所で首を傾げ……また悩む事になるのでした。
無呼吸ペナルティはステータスの低下と、一定の時間経過後にライフの自動減少です。
窒息死はありますが、水中等でも多少息苦しい感じがするだけで、苦痛はありません。
その辺は無茶できるような感じです。ゲームライクな雰囲気で。死に戻り上等プレイ。




