247話
サンドウィッチを食す者。
コーメェはパーティメンバー判定です。一応。
私の腕に抱えられた状態で、短い前足を何時も通りに振り……一足お先ー! といった感じで消えて行くコーメェを確認しつつ笑顔で見送り、ログアウト操作によって周囲の景色が切り替わっていく、見慣れた様子を眺めます。
無事ログアウト作業を完了させた私は、ベッドの上で横になった状態で全身に力を入れて、身体を解す感じで手足を動かしストレッチ。
取り付けられた配線に気を配りつつHMDをスポリと取り外して、布団をバサリと身体の上から剥がして上半身を起こします。
一旦配線を取り外して纏め、HMDを枕の横へと置きまして……えーっと時計時計。
……うむうむ、大分お昼には早い時間だけれども、この後モリモリ盛り沢山にVR世界を堪能する手筈になっておりますので、お父さんが用意してくれている筈のお食事、つまり美味しい事が確定しているサンドウィッチを今のうちに胃袋へと投入してしまいましょう。
それにしても……お父さんが出掛けている事を良い事に、朝っぱらから横になってゲーム三昧、さらに休憩で起き出しても食事をして即ゲームに戻る……何と言う、怠惰かつ堕落した休日の過ごし方なんだろうか。
つまり最高ですね。うへへい。
1割ほどの申し訳なさを感じつつも、残り9割のウキウキ気分で思わず笑顔。
もう一度、思い切り全身の筋肉を伸ばす感じで伸びをした私は、小声で気合を入れなおして数回深呼吸……すぐ身に付けられる様にとベッドの脇に引っ掛けておいた、地味な色合いの上掛けを引っ掴んで素早く身に付け、自室を飛び出して迷いの無い足の運びでキッチンへと向かいます。
ペタペタとフローリングを踏みしめる自分の足音以外、全然物音のしない静かな廊下を移動。
キッチンの扉を開けて、顔を隙間から突っ込み周囲を見回します。
大方の予想通り、テーブルの上にラップで保護された状態のサンドウィッチを発見。
近寄って具の種類を確認しておりますと、隣になにやら紙切れが置いてありました。
タマゴとかツナとか定番っぽい具が多いかなー、何て独り言を呟きつつ……恐らく置手紙であろうメモの切れ端を右手で摘んで内容を確認してみます。えーっとどれどれ何だろうか。
そこには……『冷蔵庫の中にカップに入ったスープを準備しておいたので、そのままレンジで温めて食事と一緒にどうぞ』と。
綺麗な文字で至れり尽くせりな文章が。うふふお父さん好き。
ありがたい提案通りに冷蔵庫を開けて確認してみると、上をラップ封じた状態の大きいマグカップが一つ中央に鎮座なさっておりました。なるほどこれかな?
中身は……コンソメスープっぽいかな?
取り合えず零さないように両手で保持して取り出し、レンジへ投入。
ボタンを操作して電子レンジを稼働させた私は、スープが温まるのを待つ間にサンドウィッチのラップを乱暴に切り裂いて、強引に中身を強奪します。
ウヘヘ大人しくするのだ、もぐもぐタマゴサンド美味い。
……料理下手な私はあのですね、こう、普段から思うのですが。
この何と表現したら良いのか、タマゴサンドの良い感じの歯ごたえ感と言うか、ゴロゴロっとした口触りと言うか……どうやってるんだろうと。上手い具合に解す重要テクニック何かがあるのかな。
多分私が加工したら、完全なペースト状になると思う。
むしろ加工出来るのか。
いや私よ、それ以上考えてはいけないもぐもぐ。
一つ目のタマゴサンドの最後の残滓を咀嚼している最中に、稼働していた電子レンジが加熱完了のお知らせアラームを吐き出します。うむ、待ちかねたぞ。
弱めの設定で加熱したけれど、無事に温まっているだろうか。
レンジの扉を開いた私、太めで丈夫っぽい取っ手部分が熱くなっている可能性を考慮して、レンジの中で湯気を上げているカップの取っ手横を、恐る恐る人差し指でツンツンしてみましたが。
うん、ホンノリ温かい程度の模様。
大丈夫ぽいかな。
シッカリ右手でカップを保持して取り出し、取り合えずテーブルの上へと移動させます。
うーんお腹に響く良い香り。
サンドウィッチを一つ平らげる前までは『そこまで空腹じゃないかなー』何て風に、適当ーな事を思っていましたが、いざ食事となると結構食べれそうな雰囲気。食いしん坊か。
カップの中身は……うん予想通りコンソメスープっぽい雰囲気かな。
流石にサンドウィッチにお味噌汁だったら驚くよね。驚くよね?
お味噌汁派閥のお偉い人に怒られちゃうかな。
正直な所ですが、サンドウィッチとお味噌汁の合わせ技というのは、味の競演としてソコの所どうなんだろうかと。常日頃から思うという訳でも有りませんが当然の疑問でもある訳で。
和洋折衷で意外といける! みたいな感じで美味しかったりするのだろうか。
ええまぁ……試す気持ちは……あまりないですが。
安定した組み合わせ最高です。
んー、このままキッチンで一人寂しく食事しているのもなんですし、時間も有限ですので自室へ持ち込んで色々と作業しつつ、お行儀悪くお食事する事にしましょうかね。保護者不在による雑行動。
なんと言うか一人食事だと、キッチンを利用する時間が減るんだよね。
それにほら、あれですよアレ!
一応自分でも例の冒険イベント内容に関して調べようかなー!
なーんて! ね! ははは!
判らない感じの単語用語、その他の細かい所は後でイ=ヤッハーさんとかゲンジさんにご相談してみる算段ですが、ある程度は自分で頑張ろうと思いましてね?
一応、一応ですけれど、新規プレイヤーさん達から見たらこんな小柄でションボリな私でも『先輩ぷれいやぁ』な訳ですから!
なんですかその目は一応先輩なの! ね! うん!
それに……ツバメさんに色々と誤解されたままですからね。
あんなに可愛らしくて人柄も良いお人を、ある意味で騙したままだなんて言うのは……正直な所、回避不能な強制力を持った不可抗力の部分が多数あったとしても、私の薄っぺらいハートを良心の呵責が攻め立ててチクチクと痛むのです。
なので、ある程度……ある程度は知識というかその、一般なゲームプレイヤー常識と表現したら良いのか……たとえ私個人の能力と心持ちが理由で、知識習得に関して無理無茶無謀な部分が存在したとしても、失望されない程度には水準を保っているプレイヤーでありたい。
そういう、ゲームプレイ的心掛けだけは持ちたいものなんですよ。
あれ、私いま良い事言ってる? いってないか。
あーもー、これが『ふわもこファーム』に関する事なら、そりゃもう手触りから肌触りから弾力まで、事細かに教えられるんですけど! おのれー悔しい!
……うん、無いもの強請りをしても無駄ですし、色々と必要な物が無いからと言って焦っても仕方がありません。よね。
身の丈に合った部分から、チマチマと手を付けて行くのが上策という物。
決して手を抜きたいが為の言い訳では有りません。本当ですよ。
ため息を吐きつつ、静かなキッチンで自問自答で自己弁明、脳内で怪しい視線を私の方へ向けてくる脳内予定先生の姿を幻視しましたが見なかった事にして。
考えすぎて加熱してきそうな思考を一旦分断、思考を切り替える為に頭を軽く振りまして、サンドウィッチの乗ったお皿とスープのカップを両手に持ち、自室へと移動を開始します。
えーっと……いいや、ちょっとお行儀悪いですが。
両手が塞がっておりますので、強引に右足を利用してキッチンの扉を開きますおりゃー!
お父さんが見ていないので圧倒的セーフです。
バランスを崩さなかった私の勝ちです。
その後、お尻を使ってキッチンの扉を閉め、扉を開けっ放しにしておいた自室へと戻った私は、テーブルの上へと両手のものを無事運び終わりホッと一息。
スープを一口飲んでうむ美味しい。
使い慣れたクッションの上にお尻を落ち着けた私は、枕元からHMDを持ち出して装着し、簡易起動を試みつつ2個目のサンドウィッチの端っこを口に捻じ込みます。
ツナですツナもぐもぐ。
えーっと、ゲームの公式サイトへアクセスしてー、と。
読み込みを待つこと10秒程、訪れるのは何度目かになるVRMMOの公式サイトのトップページへと接続を完了させます。
トップページにドドン! と鎮座している大きいバナーには『開催予定のゲーム内イベントに関する開示可能情報をイベント特設ページに記載しました!』と書いてあります。
うっわー凄い判りやすい!
ツナサンドウィッチの二口目を噛み千切らずに咥えた状態で、表示されたバナーに右手を伸ばしてタッチ、噂の開示可能情報とやらを確認させていただく事にします。ありがとう公式様。
読み込みが終わって視界に表示されたのは、何かの画像と文章。
最初に確認できた画像は、何処かの森なのかジャングルなのか判らない様な場所に立っている、多分ログハウス? の様な大きめの建物。
サンドウィッチを噛み千切って咀嚼しつつ、次の画像を確認。
他には、小型の建物やスペースの開けた場所に点在するテントっぽい画像もぐもぐ。
コレは恐らく……良くあるキャンプ場みたいな場所を写した画像なのかな?
雑な予想ですけれどもね。
ページトップに記載された説明文によりますと、イベント開催場所は通常のサーバーから完全に断絶されたフィールドで、規定された回数以上死に戻ったり、メニューからギブアップ宣言をするまでは戻れない場所である、との事。
途中でのログアウトは一応可能ですが、再度ログインするまでに5分のインターバルが必要になる! と書いてあります。
何だか『超加速サーバー負荷による身体及び脳への負担を考慮したモノ』とか何とか。
必要な処置という事は判ります。単語の雰囲気で。
可能ならばログアウトは極力ご遠慮下さいとも。ふむふむ。
ふたつめのタマゴサンドへと手を伸ばしつつ、情報の続きを確認。
他には、冒険イベントのフィールドから死に戻ったりギブアップしたりで帰還した後は、任意でアトラクションイベントへの継続参加が可能である、と大き目の赤字で書いてありましたもぐもぐ。
良かった良かった、コレで万が一というか結構な確率で、冒険イベントで即死に戻りの涙目になる羽目に陥っても安心ですね。
開始数分で戻るハメに、とかは悲しすぎますけどね。
もぐもぐタマゴ美味い。
そして、先程のログハウスが建っている画像の場所は『ホームポイント』とやらで、一番最初のスタート地点かつ拠点として活用する場所になる様です。
イベント開催地での死に戻り後も、この場所へ戻されるとか。
それに、他にも同じ形状の世界が幾つか用意されていて、サーバー負荷の分散の為に参加人数の量によって振り分けられる可能性がある、とか? へー?
程よい温度になったスープをゴクリと飲み、お野菜が挟まっているサンドウィッチに手を伸ばします。
歯ざわりシャキシャキ。もぐもぐ。
振り分けの説明文の後に、イベント開始時に同PT登録されているプレイヤーは、全員同じフィールドへ移動する様になっていますので、PTは事前に組むのをお勧めします! と書いてありました。
まぁ……コーメェとペアで参加する予定の私には関係ない情報かな、うん。
そして、また大き目の赤字で『イベントフィールドへ持ち込めるアイテム数は決まっています』と書いてありますもぐもぐ。
ほほーん? やっぱりなー?
そうだと思っていましたよ!
という事は、私的アイテム選択イメージとして……やっぱり現地調達が難しい可能性の高い、食べ物関連のアイテムを大目に所持する形にしてー……お薬その他の持ち込みに関しては、植物が豊富なフィールドっぽい事を鑑みると、現地で材料を確保出来る可能性が高いと考慮して少なめにするとか。良さそうかな?
装備している品物とかは、どういう計算になるんだろう。
例えば、アイテムボックスに投入できるアイテムだけが制限されるのか。
どうなのだろうか。
いや、それだと物品を限界まで背負って持ち込む人が出現しそうだし、装備も勘定に含まれる感じかなぁ? あからさまにズルっぽい行動は許されないよね多分。
後で時間を確保して持ち込みアイテムの厳選もしないと、何て考えつつ……残っていたお野菜サンドを一気に口に放り込んで、スープの残りで胃袋へ落としこみます。ご馳走さま。お腹一杯です。
……あっ待って!?
となると、コーメェに持ってもらうアイテムってどうなるんだろ!?
同じパーティメンバー? って言う感じになって、私が所持しているアイテム群とは別枠の計算になるとかかな?
……いやいや待てよー!?
むしろ早急にコーメェが身に付けられる装備品を、幾つか準備してあげないと駄目なんじゃない!? バトルなフィールドへ突入するんだから当然だよね!?
そもそも、気が付くの遅いよ私!
でもなぁー、今更ゲイルさんに何かお願いするっていうのも無茶過ぎるし、どうしよう?
エスメラルドさんの所に、何かコーメェが身につけられる装備品の掘り出し物とか無かったりしないかな? 後で探しに行ってみようかな。他のお店を探してみても良いし。
よーしよし、これはアルシェさんのアイテム作成講座が終わったら、イベント開催に向けて色々と動かないと駄目だ! 懐はちょっと暖かくなってるし、予算内に収まる感じでどうにかしよう!
最初にコーメェの装備品に関して考えていた当初の予定通り、例えば腕輪というか足輪っぽいものとか、付けても毛に埋まって良く見えなくなる可能性が高いけど、首輪みたいな物も探してみようかな。
ベルトみたいなの装着したら、アレだ、見た目が面白そうだけども。
恐らく、コーメェの柔毛考察者としての予想なんだけど、あの柔らかさが損なわれる可能性があるんだよね……コーメェにとっては、あの毛自体が防具みたいな雰囲気だから、出来れば損ないたくないよね。難しいな。
何となくベルト……コーメェ、と連想、脳内で胴体にベルトを締めて∞みたいな形になっているコーメェを想像して、口に入っていたサンドウィッチの残滓を噴出しそうになりました。危ない! 面白形状過ぎる。
いや、面白画像コーメェは関係ないのだ。
つまり、コーメェ強化計画についてはVRMMO内に戻ってから熟考するとして。
イベントに関しての情報収集を進めねば。
表示を下にスクロールさせて見ると違う画像が何枚か。
例えば綺麗な川だったり、石造りの建物だったり。
他には……えっこれって……高層ビル?
そうだよね? えっナニコレ!?
ジャングルみたいな場所に、何だか斜めに傾いて崩れかかった高層ビルみたいなのが聳えてるんですけど!? 生い茂った植物に半ば埋もれている感じで廃墟感が半端無いんですけど!? 実物……いやVR実物を現場で見てみたい!
いやーなんだろう、ファンタジー世界だと思っていたこのVRMMOに、こんな近代的な建物を見る事になろうとは思っても居ませんでしたよ?
きっと、この高層ビル廃墟に、何か貴重な物とか埋もれてたりするのでしょうか。
オーバーテクノロジーっぽい品物が埋まっていそうで、何でしょうか、色々と期待が膨らみますね。正直私がソコまで到達できるとは思っておりませんけれども。ね。
他の画像にも、怪しげな悪魔の石像っぽいオブジェが等間隔で並んでいるダンジョンの様な画像や、自然に出来た洞窟を高い場所から俯瞰して写したような画像、小高い山の様な場所から下を見回している感じの画像まで。
なんでしょうか、現実では考えられないような風景が広がっていて、否応無しに期待が膨らみます。
果たして私はこの、正に非現実的な場所でどれだけの時間生き残ることが出来るのか。
そう、精一杯頑張って、楽しんで。
願わくば、イベントを笑顔で終了できるように。ね。
さて、お皿とカップを片付けてVRゲームの世界へと戻りましょうか!
大変にお待たせしました。不甲斐無くて申し訳無いハハハ(汗
小説を生み出すマシーンと化す事が出来れば、更新なんて楽勝なんでしょうね(ディストピア並の感想
最近やたらとブックマークが伸びていますが……何かありましたかね?(えぇ…
例のSAOなGGOのアニメ放映の御蔭で、VRMMOジャンル小説を読んでくださる方が増えたのかな?(何
最近は牛歩な更新速度ではありますが、気長に待っていただけると幸いです。
もう少しでイベント開始できそうです。2年越しか……長かったなぁ(まだ始まってない
※ 追記 ※
ご指摘頂いた誤字を修正致しました!




