023 ジイ様元気 で 初収入
そしてポーション買い取りへ
「それで、正規のルートといいますか道順といいますか……そういうモノから外れて採取や散策などをしてしまったので、最初頂ける筈のお金が貰えなかったんです」
「なんというか凄いといったら良いのか、なにをしとるんじゃと呆れたら良いのか……」
いえ、他の人視線で色々と説明を受けた今となっては、呆れられても仕方が無い様な気がします。それでもあの選択がなかったら、色々な素材を手に入れる事も出来ませんでしたし、リアさんにも出会えなかった筈ですから、やっぱり後悔はありません。
それでも【黄昏の大神】様からしたら、お腹抱えながら笑っちゃうような行動だったのですけどね!
なにか祭典とかが有る時に姿を見せるとカイムさんが仰ってましたし、万が一ですが、バッタリと出会ったりした時に「あの時の!」とか言われつつ、笑われながら指差されたりするんですかね。
そんな内心の葛藤を滲ませた私の顔を覗き込みつつ、カイムさんが話しかけてきました。
「それで? 何故お金がないかと言う話は判ったが、一文無しのお嬢さんが薬屋に来てなにするんじゃ?」
「作ったポーションを安くても良いので買い取っていただけないかな、と思いまして」
そう、それが私がここ、メディカさんの薬屋さんへと来た理由なのです。
お金がないならアイテムを売れば良いのです。
問題は私の作ったポーションが商品足り得るのか、そこですが。
「知り合いの祝福の冒険者に直接卸したりした方が金額的には良いんじゃ無いのかのぅ?」
「うぐっ! そ、それは聞かないでいただけると……」
「ははぁ……ボッチか! そうかそうか! お薬だけが友達か! ほっほっほ!」
何やら上機嫌でニコニコしながら私の肩をポンポン叩きつつ、その様なハートに直撃する台詞をカイムさんが口に出します。色々と人聞きの悪い表現は止めていただきたいのですが。
と言うか! なんでそんなに! 嬉しそうなんですかね!?
「ラ、ラティアちゃんとお友達になったから良いんです!」
「まぁ、そういう事にしておいてやろうかのぅ!」
「もうその話は良いですから! 是非是非メディカさんとお話を!」
これ以上好きにさせておくと碌な事にならなそうな雰囲気がしますので、無理やり気味ですが早々に話を切り上げに掛かります。私は生産に生きているので今は一人でも良いんです!
「わかったわかった、それじゃ早速中に入るかの。この時間なら確実に居るじゃろうから安心じゃよ」
カイムさんは慣れた様子で店の前へと歩いていくと、古びた木製の扉を押し開けます。
チリン、と扉に括り付けられたベルが音を立てました。
カイムさんの後から続いて店内へと進入した私の嗅覚に、ふんわりと薬品の匂い。
なんとも病院っぽいというか、お薬な感じのする匂いです。
きょろきょろと周りを見回すと私の事など気にせずに、数歩奥にあるカウンターに向かってカイムさんが声をかけました。
「メディカのバーサンよーい、あんたに用事があると言うとるお客を連れてきたぞぃ」
「あれま、カイムさんじゃないかね。こんな時間に珍しいねぇ 私にお客さんですって?」
カウンターの奥からゆっくりと顔を出したのは、深い皺のある顔の大分お歳を召したお婆さんでした。この方がメディカさんなのかな。
「始めまして、私は祝福の冒険者のフワモと申します!」
「あらあら、ご丁寧にどうもありがとうねぇ わたしはメディカ、見ての通りのシワシワお婆ちゃんよ。好きなように呼んでくださいな。それにしても祝福の冒険者さんが、こんな路地裏にある古びた薬屋になんの御用なのかしら。ポーション類が必要なら中央通りにある、うちの子達が経営してる大きい薬品店があったでしょう?」
そういえば北門へ向かう途中に薬ビンのマークの看板が表示されていた、物凄い人の出入りが激しい建物が確かにありました。あのお店はメディカさんの家族が経営してるのか!
という事はメディカさんは……お金持ちのご隠居様というか、大企業の会長ポジション的存在じゃないですか。
なんでこんな場所で薬屋さんを経営してるんだろう? 実は此処が本店というか本家みたいな場所なのですかね。まぁ取りあえずは、此処へ来た目的をメディカさんに説明しないとね。
「あのですね、私が【調薬】で作成したポーションを買い取っていただけないかなーと」
「あら、直接持ち込みなんて珍しいわねぇ カイムさんが護衛騎士やってる頃に、出先で見つけた貴重な薬品を持ち込んで来てた時くらいかしら?」
「なんと、バーサンそんな昔の事覚えとるんかいの!? 別に個人的に着服したわけじゃないぞい!?」
誰も聞いていないのに、何故に着服疑惑を自分自身の会話で振ってくるんですかね。
これも突っ込み待ちなんでしょうかね。スルーしておきましょう。
「それじゃ、作ったお薬を見せていただけるかしら」
「はい、お願いします!」
カイムさんの自虐着服疑惑は何時も通り聞かなかった事にしつつ、アイテムボックスからポーションを九本取り出してカウンターへ並べます。
一応出来栄えの方は問題ないと思うのですが、本職の方からしたらどうなのか不安です。
売り物として引き取ってもらえますでしょうか……
「うんうん、品質に問題は無いし一本20ゴールドといった所かしらねぇ それにしても利益が少なくなるのに、わざわざ店舗に直接持ち込みなんて、なにか事情があったりするのかしら?」
「そのー、色々とありましてですね……直接販売する冒険者の知り合いが居ないと云いますか……」
「あらぁ、お嬢ちゃんは一人で頑張ってるのね。色々と大変ねぇ」
そんな事を話しつつ、メディカさんはカウンター下から小さな布の袋を取り出して、私に差し出してきました。手に取るとジャラリと金属が擦れ合う音がします。
「はい、九本の買い取りで180ゴールドね。お嬢ちゃんのライフポーションは大体ウチで扱っている物と遜色ない仕上がりだったわ。店としての買い取りだから儲け分を引いて渡さないといけなくてねぇ ちょっと渡せる金額が少なめなのだけれど、こちらも商売だから勘弁して頂戴ねぇ」
「いえいえ! 全然問題ないです! 無理を聞いていただいてすみません!」
やったぁ! 初めてのお金入手! 平原や森で手に入れた材料と、クエスト報酬で頂いた調薬キットのみで作り上げてるから、180ゴールドまるまる儲かってるんだよね!
自分の手で稼いだお金! いやー感慨深いものがあります!
「これからも買い取りをお願いしてしまっても大丈夫なんでしょうか?」
「どんどん持って来てもらっても全然構わないわぁ 今は祝福の冒険者さん達がドンドン購入してくれているみたいでねぇ 追加生産が大変なのよ」
「となると、メディカさんも【調薬】でポーション作りを?」
「大量に作らないといけないから、この歳になると魔力は大丈夫でも、体力が持たなくてねぇ」
ああそっか【調薬】って行使するのにスタミナ消費するんだもんね。
お歳を召しているメディカさんだと、その辺りの消費がきつくて大量にポーション作る時に息切れしちゃいそうだよね。よーし! 下請けとしてこれからもポーションいっぱい作ってメディカさんに持ち込むぞー!
「そういえば私の作ったポーションって、このお店に陳列されるんでしょうか?」
お金の入った布袋をアイテムボックスを開いてしまいつつ、買い取ってもらえたポーションの行き場が少し気になったので聞いてみました所。
「我が家に伝わっている【倉庫袋】っていう道具があってね、それに収納しておけば大通りの薬品店にいるうちの息子達が同じ物を持っていて、中が繋がっているから取り出せるのよ」
「貴重な道具収納用の魔道具じゃな。使用者を限定できる物じゃ。バーサンのご先祖が大分昔に女神の巫女様から賜った物らしいぞぃ」
「ほほー由来といい性能といい、凄い道具ですねー」
私のポーションの行き先は、中央通りのご家族のお店みたいですね。
こうやってメディカさんのお店で買い取ってもらっても、家族で同じアイテムボックスに収納したり取り出したり出来るから、巡り巡って大通りのお店に陳列されるって事ですね。
プレイヤーでもそういうアイテムが作れたらいろんな使い方が出来そうです。
【革細工】とかじゃ流石に作れないかなぁ。神様関係の道具っぽいですものね。
「うちは基本的にポーション類はそこの棚にある分しか置いてなくてねぇ 他に小さい切り傷や軽いヤケドなんかに使う塗り薬、お菓子や日用雑貨みたいに色々と売っていてねぇ どちらかといえば雑貨店に近いから、祝福の冒険者さんは全然こないのよ」
「ポーションまた一杯作って持ってきますので、次も是非、買い取りお願いします!」
「こちらこそよろしくねぇ」
「そこで、わしにも感謝の言葉があって然るべきじゃと思うんじゃがの!」
「カイムさんもありがとう! ボケはスルーしますけど」
「渾身の着服ボケもスルーされたからのぅ 神殿前で任に就いておる若い護衛騎士達あたりに話題を振ったら、どう反応して良いか判らずオロオロし始めて面白いんじゃがの」
あー。カイムさんみたいな人が上司だったら大変だろうなぁ
一話投稿から一ヶ月
ようやくお店へポーションを売りに行く事が叶いました(遅
そして今だプレイヤーの知り合いが居ない主人公




