232 山盛り ポーション 箱開封2
無計画で作ると、こうなるのです。
開封動画とかありますよね。
魔力の花の花びらを、右手で引き千切ってはビーカーの中に投げ入れる、という単純作業なお仕事に従事している私は、今まさに不屈の精神で調薬をするだけの、一己たる花毟りマシーンと化したのだ。
薬効ゴケの在庫も、例の魔素迷宮入り口で出会った華やかパーティの方々から、ボス部屋にて鉱石と物々交換して譲り受けた分がまだ沢山残っておりますので、マナポーションだって+1を付けてしまいますよ!
手間隙が掛かるのは少々面倒ではありますが、どうせ薬効ゴケのまま所持していても、加工せねばただの柔らかい緑色の平べったい物体な訳ですし。
他の使い道が思い浮かばないのであれば、全部消費してしまう事も吝かでは御座いませんとも、ええ本当に。
マナポーションの材料である魔力の花の花びらは、磨り潰す手間が無くそのまま投入して良いので、薬草を加工している時よりも時間が短縮できて非常ーに楽です。
煮汁を作らねばならない薬効コケは、しっかりたっぷりゴリゴリしますけど。
ワシはちょっと一服してくる、と告げて煙草を吸いにベンチの方へと歩いて行くカイムさんの後姿を見送りながら、アイテムボックスから順次洗い終わった状態で収納してあった薬効ゴケを取り出して、ペースト状になるまで磨り潰す作業を繰り返します。
……あれですね、もしかしたら磨り潰す系のお料理なら、お薬材料のノリで材料加工して作れるかもしれません。何となくそんな気持ちになってくるほどゴリゴリし続けております。
磨り潰すお料理ってどんなのがありましたっけ……お魚のつみれとか? 肉団子系も作れそう。
そもそも材料加工は良いとして、味付けの部分で完全に手が止まってしまうのでは、と気が付いたのはお料理について思いついたすぐ後でしたが。世の中思い通りに行きませんね。合掌。
水汲みのお手伝いを終えたラティアちゃんが、コーメェを引き連れて楽しそうに走り回っている光景を視界の端に収めつつ、花びらの詰まった水入りビーカーに魔力を通す私なのでありました。
そうして肉体的にも精神的にも休憩を挟みつつ、余り気の抜けない単純作業を繰り返しておりますと、アイテムボックスの中に詰め込まれていた魔力の花が底をつきます。
これで一応薬品に加工する作業は終わった……のかな?
今までで一番作業時間が掛かった気がします。
というか……もっと大きい器材を揃えたりしないと、この量の材料を一気に加工するのは厳しい感じですね。何時でも使えるような携帯用ではなく、生産用スペースに設置されているような据え置きタイプの薬品加工施設があれば楽でしょう。
まぁこれからは、大量に素材を加工する場合は、何か良い方法を考えてから作業を開始する様にしましょうか。
そして、当初の勢いそのままに作成を完了させ、今まさに休憩所の据え付けテーブルの上へ山積み状態と化したマナポーションを目の前にした状態で、今更ながら気が付いた事が一つ。
これ、量が多すぎてアイテムボックスに収納出来ない!
魔力の花って花びら1枚につき一本分になるから、材料のお花一本に対してポーションの出来高が5本と、嵩が増えすぎるんですよ! 全くその辺考えないで作りまくってしまった!
ズラリと青い液体の詰まった薬品入りの瓶がキラリと陽光を反射し、所狭しと並ぶ据え付けテーブル上は、まるでお店の店頭のような様相を呈しております。
私の後ろで、コーメェが弾むのと一緒にピョンピョンと飛び跳ねて遊んでいたラティアちゃんが、私が頭を抱えて唸り始めたのに気が付いたのか、コーメェと一緒に据え付けテーブルの横へと顔を出します。
「フワモおねえちゃん どうかしたの?」
「あーうん、ちょーっと作りすぎちゃったかなーって、ね」
「なんじゃなんじゃ? 物凄い量じゃの!?」
煙草の一服を終えて、傍らのベンチでラティアちゃんの様子をノンビリと眺めていたカイムさんも、私の様子に気が付いた模様で。テーブルの横から覗き込むように、在庫大量状態になっているマナポーションの山を見回して驚きの声を上げております。
ですよねー! 調子に乗って作りすぎましたよ!
いやぁどうしようコレー!
私が運搬について思い悩んでおりますと、カイムさんが非常にありがたい、天からの采配とも言うべき申し出を切り出してくださいました。
「ちょっと待っとれ、ひとっ走り何か袋でも持ってきてやるわぃ!」
「えっ! 良いんですか!」
「ぱぱっと持ってくるから、ラティアちゃんと一緒に待っとってくれぃ!」
ラティアちゃんの頭を撫でて笑顔でそう告げたカイムさん、以前武器を持ってきてくれた時と同じ様な軽快な速度で公園から駆け出していってしまいました。
相変わらず凄い元気ですよね!?
もう背中が見えなくなっちゃいましたよ!
カイムさんの帰還を待つ間、取り合えずアイテムボックスに残った容量へと、マナポーションを突っ込む事にします。数を減らすのは大事です。
でもパンパンに詰め込む事はしません。
この後に控えた一大開封イベント(?)でスペースを使用しますからね!
と、このタイミングで前回水底を漁って詰め込んだ石ころ群が、微妙ーにアイテムボックス内を圧迫する量で残っているのを思い出し。
コレもアレだ、選別して何か使えるものが混じってないか確認しないと!
流石に今この場で、街中に大量の石ころ不法投棄を開始する訳にも行かないですので、今はそのまま容量を圧迫している状態で我慢する事にします。えーとそのうち、そのうちね!
私がポーション瓶を掴んで色々と作業をしておりますと、何やらラティアちゃんの腕の中にいたコーメェが、自分の背中にもマナポーションを搭載して欲しいと宣言し始めたので、取り合えず両手に持っていた瓶をプスプスと毛の間に立ててあげる事にしました。二本角コーメェ。
一体何故に、ポーション瓶搭載を所望したんだろう。
コーメェの見た目が、愉快な事になってますよ。
良い場所に青い試験管がブスリと。
私の行動を見て真似をする感じで、ラティアちゃんが楽しそうに自分の膝の上でどっしりと構えているコーメェの背中の毛に、良い感じで等間隔になる様に、両手を使って器用にプスプスとマナポーションをくっつけております。
生け花しているみたいで見た目が面白い。
ポーション瓶を両手に持って笑顔のラティアちゃん、楽しそうで何よりです。
ポーション瓶の剣山みたいな状態になったコーメェ、地面にフワリと降り立つとその四本の足を踏みしめつつ、テーブルの周りをランニングでもするかの様な感じでグルグルと回り始めました。
最初は何事かと思っていたのですが。
どうやら本人曰くは運搬の特訓? との事。
大量にポーションがある状態を利用する形で、運搬力を高める為に身体を鍛える特訓をしているのだそうです。なる程ねぇ……流石コーメェ日々精進だね。
そっか、そうだよね、多分コーメェにも私が所持している様な感じで、身に付けているスキルが存在する筈だよね。結局称号しか見てないから確認出来てないや。
コレも要確認かな! やる事が後から後から湧き出てきて大変だ。
後回しにしすぎた弊害ですけどね! 自業自得!
ポーション運搬をしつつ、シャカシャカ足を動かして地面を歩き回っているコーメェの後ろにくっ付いて移動する感じで、ラティアちゃんも笑顔で一緒に歩き回っております。可愛い。
あれだね、もう存在してるだけで癒しだね。
そんな事を思いつつ、ポーション瓶がテーブルの上から滑落して割れない様に気を付けながら、カイムさんの帰還を待っておりますと。
見覚えのある姿が公園の入り口から飛び込んできて、物凄い速度で此方に進んでくるのが見えました。速い、速すぎる!
布袋の様な物を数枚手に持ったカイムさんが、先程までの超加速っぷりを感じさせない程にマイルドな制動でフワリと私の正面に停止します。いやー足腰の強さ半端無いですね。スーパーお爺ちゃん。
「ほれ待たせたのぅ! この布袋に詰め込んで運べば良かろう!」
「わー! ありがとうございますー!」
「おじいちゃん おかえりなさいー!」
「うむ、ただいまラティアちゃん!」
コーメェと共に駆け寄ってきたラティアちゃんの頭を撫でるカイムさんの横で、早速借り受けた布袋にポーションを詰め込む作業を開始します。
一本一本は大した重量じゃないポーションですが、こうやってアイテムボックスに保管せず大量に所持すると結構重いですね……! 落とさないように注意しないと!
持って来てもらえたのは、肩紐タイプの斜めに提げる形状の布袋。
二つの袋に半分づつポーションを詰め込んで、肩から提げて運べるようにします。
よし、コレで大丈夫かな?
あれですね、調薬材料を集めたあの山岳地帯ふもとの森に、例のスタミナポーションの材料なキノコが自生していなくて残念、なんて思っておりましたが、この状況を鑑みると逆に良かったかも。
これでさらにキノコ汁も加工してポーション作成! なんていう状況に移行していたら、確実に完成品が持ち運べない量になって、この場で身動きが取れず頓挫していたのは確定でしたよ。
作ったポーションの袋詰め込み作業が終わり、何時でもメディカさんの所へと運搬出来る状態でテーブルの脇に布袋を置いた私は、遂にお待ちかね! 魔素迷宮発見時に頂いた報酬箱開封の儀を開始する事にします。
何か珍しいものでも出たら面白いけれど、どうだろうね?
「収納の方も何とかなりましたので、此処からは……お待ちかねの、お楽しみな箱を開封する作業に入りますよー! 勿論ラティアちゃんにお願いします!」
「うむうむ! 大量にあるからワシも楽しみじゃ! こういう物は横で見ているだけでも楽しいからのぅ……!」
「さっきと おなじはこー?」
私が手渡しした報酬箱を両手で挟んで持ち上げ、振ったり転がしたりしつつ眺めているラティアちゃん。先程と同じ失敗をしないように、開封した後にする事も説明しておきましょう。
据え付けテーブルの脇へ退避させられていた、大量の報酬箱の中から一つを適当に摘み、ふたの部分を叩くジェスチャーを交えつつ、私を見上げているラティアちゃんに行動の流れを解説します。
「えっとね、箱はちょっと違うんだけど、こうやってさっきと同じ感じで大丈夫! 中から出た物は両手で挟んでー、このテーブルの上によいしょー! って置いてくれるかな?」
「はーい!」
私の説明に反応して数回頷いて、右手をビシッと垂直に上げ了承の答えを返してくれるラティアちゃん。うーん良いお返事。
椅子の上で姿勢を正す感じでお尻の位置を調整したラティアちゃん、フンス! と鼻息も荒く気合を入れると、先程ラビの装備箱を開封した時と同じ感じでポンポン、と上蓋の部分を2度叩きます。
パリン! と何かが割れるような音がしてラティアちゃんの正面に現れたのは、見覚えのある赤っぽい大きめの石。
それを両手で挟んで、そっとテーブルの上へと載せるラティアちゃん。
うんうん、バッチリ!
「ふむ、まず一つ目と言ったところかの?」
「コレは鉄鉱石ですかね?」
「恐らく【上級鉄鉱石】の方じゃな、悪いものではないわぃ! 品質が良ければ腕の良い鍛冶職人が喜ぶ品じゃな」
「じょうきゅう てっこうせきー?」
私の左脇からテーブルの上を覗き込んで顎を擦っているカイムさんと、自分の正面に現れた赤っぽい色合いの石を、ペチペチとその小さい手の平で撫で叩いているラティアちゃん。
うーむ、鉱石類は自分での使い道が無い。
……売り飛ばしてお金にするか技術者に提供して何かに加工してもらうか、という活用法になるんで少々手間が掛かるんですよね。
まぁ不必要という訳でもありませんし、問題ないでしょう。
取り合えず、手に取れる様になった【上級鉄鉱石】を、容量を確保しておいたアイテムボックスへ投入し収納します。素材は10個単位でまとめて収納できるものが多いので、鉱石類なら余りアイテムボックスを圧迫せずに済むでしょう。
その後、数個開封してみたのですが、同じ鉱石が連続で出現しまして。
やっぱり、迷宮の名称に鉱石って記載されている位ですから、出やすいのでしょうかね。
流れが変わったのは、10個程開封した辺りでしょうか。
手馴れた様子で箱の上をポンポンと叩いたラティアちゃんの正面に現れたのは、つま先や踵付近が落ち着いた色合いの金属で補強された、黒い色合いの厚手の革っぽい素材で出来たブーツ。おお装備品だ!
石ころではなく靴が出現した事で、最初はちょっと驚いたラティアちゃんでしたが、私のお願いどおり靴を両手で挟んでテーブルの上へと置いてくれます。
「お! 装備品じゃな! いいのぅ!」
「おー出ましたねー!」
「やったー! あたりー!?」
椅子の上に座った状態でテンション急上昇、嬉しそうな表情で身体を揺すっているラティアちゃん。
早速アイテムボックスへ収納し名称を確認……ふむふむ【大地 の 黒い 革ブーツ】ですか。結構普通な感じのお名前ですが……当然の如く詳細は殆ど不明でしたよ。革材料を使用しているっぽいですが、私には少々荷の重い貴重品な装備なのかな。
取り合えず今装備しているものよりは性能が良いだろう、という事で早速ブーツを交換してみます。金属で補強されている部分があるので重かったり歩くと騒がしいのでは、とも思っていたのですが……試しに足を踏み鳴らしてみたりジャンプしてみた所、そうでもないという事が判明しました。
これならば、大きい金属音を鳴らしまくって周囲の魔物を引き寄せたりはしなさそうです。履き心地も悪くありません。
なにより! 金属っぽいパーツが付いている事により、私も頑丈になったのでは!
そう! 硬質系女子に変貌したのではなかろうかと! 字面的に可愛くないけど!
さあ、まだ5分の1が終了しただけです!
残りを開封していきませんとね!
ラティアちゃんと顔を見合わせて笑顔で頷きあい、残った箱の開封作業を再開します。
この分だとまだまだ装備品を入手できるかも! 報酬万歳です!
少々短めです。お許しを!(何
年末年始は忙しいですよね……(遠い目
体調はまだ良いとして、集中した執筆時間が取れない事の方が厳しい(絶望




