表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/256

022 お宅拝見 から 薬品店へ

 カイムさんの不意打ち的な頭髪ボケを辛くも回避しつつ、先ほど公園へと向かって歩いてきた道とは逆の方角へ足を進めます。町中央の噴水から見ると北北東という所でしょうか。


 この辺りは下町っぽい雰囲気が漂ってますね。この感じ嫌いじゃありません。


 次来る時に迷ってしまわないように左手でラティアちゃんと手をつなぎつつ、右手でメニューからマップを開いて現在位置を確認する、という自分的離れ技を披露いたします。

 目が二倍あればもっと楽なのに。複眼というやつですか。


 私がマップと周りの景色、交互に視線を動かしつつ歩いているのを見ていたラティアちゃんが、メニューとその横に表示されているマップに興味を持ったようでしたので、マップ表示位置を左手を繋いでいる高さにあわせて移動させ、パネル角度を調整して見せて差し上げました。


「うわー! おさかなのふんすいのばしょも ちゃんとうつってるね! すごい!」

「いやほんとに凄いよねー、女神様の加護って」


 さっきまでいた公園はこの辺だよ、などとマップの倍率を弄りつつ指差してラティアちゃんに説明してあげながら、しっかりと歩みは止めません。

 もともと子供の歩幅速度で移動していますので、非常にのんびりで御座いますからね。


 あ! ラティアちゃんをオンブして移動するという手段もあったかな!? 迂闊だったぁ!


 そんな微妙な事で後悔をしつつ、きっちりと整備された石畳の道を少し進みますと、左右にお花屋さんやパン屋さんがあるのを確認いたしました。

 小ぢんまりとした佇まいですが、色々と雰囲気のある店構えですね。老舗っぽい。


 さて、公園を出発してから五分程度歩いたでしょうか。

 多数の建物が密集している場所へ到達いたしました。


 まさに住宅街といった風で、きっちりと区間整理されて塀で一軒一軒仕切られていますね。

 立地は北東側にある町の防壁付近です。


「あそこが わたしのおうちだよ!」


 そういってラティアちゃん指差したのはその中の一軒の家でした。

 周りの建物を見ると、屋根の色や壁面の作りが違ったりはしますが、ほぼ同じ作りの建物ですね。

 基本は普通の二階建ての一軒家な感じです。


「このあたりの住居はの、神殿や護衛騎士の仕事に関わりのある者たちや、その親族に与えられておる住まいじゃよ。まぁ神官様はもっと豪勢なお住まいを持っとるがのぅ」

「ほー、という事はカイムさんのお住まいもこの辺りに?」

「うむ、もう少し先に行って右に曲がるとあるぞい」


 なるほど、俗に言う社宅みたいなものでしょうか?

 お国というかこの町が建設した建物なのでしょうね。


 という事はラティアちゃんのご両親、またはどちらか片親の方が神殿関係のお仕事をしていらっしゃるという事でしょう。


 アレイアさんと会話している時に、すれ違ったり見掛けたりしているかも知れないですね。

 神殿に出入りしていた方をなんとなく思い出してみますが……大体がローブのようなものを身につけてフードを被っていたので、獣人の方が通りすがっていたのかどうかは全然判りません。


「それじゃあ、ラティアちゃんとは此処でバイバイだね」

「おねえちゃん また あそんでくれる?」


 名残を惜しみつつ、しゃがみ込んでお別れの挨拶をすると、両手で私の左手をぎゅーっと掴んだラティアちゃんが、唇を尖らせつつ眉毛をへにょっとさせて私に問いかけてきます。

 もちろん了承の返答をしつつ、オマケでナデナデをお返ししておきました。


 一緒に遊ぶくらいなら、いつでもおっけーマイフレンド! どんとこい!


「またねー! フワモおねえちゃんー! あっ おじいちゃんもきをつけてねー!」

「はーい! またねー!」

「ワシゃついでかの!? 孫とも呼べる存在をポっと出の女に奪われて、ジジイは、ジジイは悲しいワイ……」


 お家の前で両手を上にあげて左右にブンブンと振り、ピョンピョンと飛び跳ねながらラティアちゃんが先ほども見せた激しく情熱的な動きでお見送りをしてくれています。


 とりあえずカイムさんのあからさまに胡散臭い落胆は見なかった事にしましょう。


 こっちを横目でチラチラ見ないでくださいカイムさん、突っ込みませんよ!

 突っ込みませんからね!?


 ああラティアちゃん、お見送りは凄い嬉しいけど、そんなに飛び跳ねるとあああほら捲れる!

 ワンピースが捲れる! 色々あぶない!

 ラティアちゃんに顔を向けつつ、返答の意を込めて手を振り返しながら進みます。


 曲がり角を右折した事によりこちらが見えなくなった事で、色々と危険水域に突入していたラティアちゃんが落ち着いてくれている事を祈り、視線を進む先へと戻しました。


 とりあえず、私の数歩先をトボトボといった風に歩いているカイムさんに話しかけます。恐らく私のツッコミが来なかった事に対してなのでしょう、なんとなく背中に悲しみを滲ませていました。


 何故に一々ネタっぽいことを挟むのでしょう、このお爺様は。お茶目さんか。


「それで、メディカさんのお店はどの辺りにあるんでしょう? 遠かったりするんでしょうか」

「うむぅ、すぐ近くじゃよ。なにせラティアちゃんが自分の足で買い物に行ける距離じゃからな」


 突っ込み不在に対しての落胆から復帰したカイムさんは、ペシリと剃り上げた頭を一回叩くと、立派なヒゲを擦りつつ私にそう返答しました。

 ペースメーカーだったラティアちゃんが居ないので、歩くペースは先ほどの倍くらいになっております。

 二度目の曲がり角を過ぎるとカイムさんが立ち止まり、少し奥にある薬のビンか何かの絵が描かれた看板がぶら下がっている、正面がガラス張りの店舗を指差しました。


「ほれ、話してるうちにもう到着じゃ。あそこじゃよ」

「本当に近いですね」


 場所をマップで確認して現在位置を記憶します。マップに覚え書きとか書けないのかな、と思いつつグリグリと現在位置に指を捻じ込んだりしてみると。


 やりました! 色つきの点? のような物がマップにくっ付きました。

 ほほー! こんな機能もあったのか。


 忘れないうちにラティアちゃんのお家の場所にも、ビシっと指を突き刺しておきました。

 うん、忘れっぽい私でもコレで安心です!


 記憶力に自信がなかったので良かった。女神の加護最高。


「なに地図を見ながらニヤニヤしとるんじゃ? 店にいかんのかの?」

「あっ!? いえいえちょっと地図に関して個人的に嬉しい事があっただけですので!」


 あああ! 傍から見たらマップを見つつ両手の人差し指をグリグリやって、その後ニヤリと怪しい微笑を浮かべている人にしか見えないよね。怪しい犯人像だよね!?


 でも良いじゃないですか、地味ーに嬉しかったのですよ!

 機能を十全に使いこなせる事は

いい事なのです!


「まあいいわい。それじゃぁワシの紹介という事で店にはいるかのぅ? と言うか、そもそもバーサンにはどんな用事で会いたい、という話になったんじゃ?」

「あー、何処から説明したものか……実はワタクシ現在一文無しで、ですね……」

「なんとな! 祝福の冒険者が大勢降りてきたのは今日じゃろ? 金子の配布もしっかりあった筈じゃ……ははぁ、さてはお嬢さんは人が良さそうじゃから、誰かに騙されたとか……いや! 見た目と違って実はギャンブルとかかの? いや待て、調薬持ちじゃったし素材に持ち金を全部ぶち込んだ線が怪しいとワシは見た!」


 赤貧少女である事をお話した途端に、グイグイとこちらににじり寄りつつ、すさまじい勢いでカイムさんが食いついてきました。

 こういう話が好きなのか……噂話とか好きそうだもんね。カイムさん。


「いやいやいやいや! 最初に頂ける筈だったお金があったのですが、ちょっとした事情があって受け取れなくなっただけですよ!」

「ほほーぅ? 可愛い顔をして一体なにやらかしたんじゃ? ほーれ、このジジィにもちょっと話してみんかね!? 非常に面白そうじゃ!」

「だから、どうしてそう激しく食い付きがいいんですかねカイムさん!?」


 恐らく事情を話さないと会話が先に進まないのは明白でしたので、掻い摘んで説明する事にいたします。

 チュートリアルから採取や自由行動への流れ、続いて【黄昏の大神】様から許可を貰ったというくだりを話した時、カイムさんがなんとも言えない物凄い表情になっていました。


 驚き半分呆れ半分といった所でしょうか。なんだろうこの反応。


 アッレー!? ヤッパリナニカマズイノカナー!?


 なにやら尋常ではない雰囲気を感じ取りましたが、とりあえず最後まで説明してしまおうと思い、採取しつつ歩き回った事や楔の巫女であるリアさんの事、リアさんのすんでいた家や頂いたペンダントの事などを順番に説明いたしました。


「いやはやなんとも、トンでもない経歴持ちじゃなぁお嬢さん! 【黄昏の大神】様は賑やかな催し物などが大好きで、たまーに仮初めの姿で人々の前に現れると伝わっておる変わった古の神の一柱様じゃ。そんな方にこの世界へ下りてきた初日に、理由はともあれ、直接お許しを頂いてしまうとは驚愕の一言じゃよ!」

「うへぇ、判りたくなかったですが、色々と一大事だったんですかね……」


 まぁそうじゃないかなー? とは思ってはいたのですが、いざ改めて他の人の目線からのご意見を頂くと、やっぱり色々と非常識だったのですね。

 今更何をと言われてしまうと、返す言葉も御座いませんが。うむぅ。


「それに楔の姫巫女様にもお会いしたんじゃろ?」

「はい、リアさん、じゃなくて【アグヘイリア】さんですよね」

「そうそう、その【アグヘイリア】様じゃよ。楔の姫巫女様といえば安寧の女神様の命を受けて、世界の楔を守護、管理している方なんじゃよ。ワシが若い頃に神殿の巫女様から聞いたお話によると、人里離れた場所で女神様から直接賜った聖なる任に就いているという事じゃった……そんな方とお茶飲み友達のように過ごしたとか、そりゃワシに対して突っ込みも来ぬ訳じゃな!」


 リアさんやっぱり只者ではなかった! 物凄いフレンドリーだったけど。


 そして、リアさんとの出会いと、カイムさんに突っ込まない事は全く関係ないですよ!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ