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223 進捗確認 した後に

2、3日の徹夜程度なら問題無いらしい。

そろそろゲーム内に第二陣が現れる頃合です。

 一晩ぶりになるコーメェとの接触を再度楽しみつつ、路地裏の通路を歩きながら今日のゲームプレイではどういう事をするのか、ある程度考えておく事にします。


 何をどうしたって、暫く経過したら大量の第二期募集に当選したプレイヤーさんが、我先にと意気込んでこの始まりの町の中へとログインして雪崩れ込んでくる事は必至。


 となると、ログインしたら一番最初に目に付く、中央通り付近の店舗関連でのお買い物その他は自殺行為。あっという間に人の波に飲み込まれて、移動するプレイヤーの間で揉みくちゃにされる事請け合いです。


 後は超低確率で発生する可能性のある、知り合いとの邂逅イベントも回避しなければなりません。どうせ大量のプレイヤーがログインして遊び始めるんだから大丈夫だろう、だなんて高を括って対策を講じないでいると後悔する可能性がありますので。


 ある程度の確実性を考慮して活動しつつ回避していくならば、やはり基本的に人通りのある場所へは姿を晒さないのが妥当でしょうか。


 使用する通路も、中央を避けて路地を多用する感じで。

 ちょっと横切る程度なら大丈夫でしょう。


 むしろすれ違う程度ならば、人が多い事でその中に紛れこみ活動する事が可能なはず。

 あとは下手に目立つ事をしないように心掛けて落ち着いて行動する! よし、これだ!


 となると、ラビ君が跋扈している北門付近での薬草その他の採取は、ある意味で危険度激高な行為になるかもしれません。こんな私でさえ最初はあの場所で冒険の基本を学んだ訳ですから。

 となると、採取をするにせよ……他の場所で行動した方が良さそうですね。


 その辺りは後で考慮するとして、まずゲイルさんのお店の確認から!


 行動する事を考えつつ、指折り勘定しながら見覚えのある通りへと足を踏み入れます。

 すると、ログインした時間帯からして恐らくゲーム内では明け方、もしくは完全に早朝と言っても過言ではない時間帯の筈にも関わらず、ゲイルさんのお店の内部で何やら人の動きが感じられます。


 半分開放された店舗入り口から漏れ出る光を確認し、店舗を仕切っていた戸板の端からそーっと店内を覗き込んでみますと。


 中には見覚えのある陳列台や商品等が並んでおり、ソレをゴトゴトと移動させている見覚えのある後姿を確認しました。あの髪型はアルさんですね!


 突然声をかけると驚かれてしまうかもしれませんので、戸板の裏へと戻った私はVR世界でやって意味が有るのか判りませんか、何となくゴホンと喉の調子を確認して戸板をドンドン! とノックしてから、中に声をかける事にしました。


「おーはようございまぁーすー?」

「へい、どちら様で……ああ! フワモお嬢さんじゃないですか! まだ明け方ですよ? 今朝は随分と早いお越しで!」

「ちょっと私の都合で、この時間になっちゃいまして……それで、その、今ってお時間大丈夫ですか?」

「すいやせん! ちょっと開店準備だけ済ませちまいますんで、少しだけ腰掛けてお待ち下さい!」


 陳列台の移動を中断させたアルさんが、わざわざカウンターの奥から椅子を一脚持ってきてくれましたので、ありがたく利用させてもらう事にします。


 奥にある作業場か何かから聞こえてくる、何かを叩いたり擦ったりするような音を聴きながら、カウンターの横で椅子に座って待つ事数分程度。


 この金属が打ち合わせられている感じの音は、ゲイルさんの作業音なのかな。


 規則正しく聞こえてくる音に耳を傾けつつ、すっかり先日このお店に訪れた際と同じ見た目になった店舗前を眺めながら、コーメェと一緒にアイテムボックスから取り出したポコ豆を摘みます。


 それにしても、昨日判明したポコ豆の鑑定結果も衝撃の事実だったよねぇ……美味しいしお安い、しかも色々と凄い! と3拍子揃ってる素晴らしいお菓子。品物の品格みたいなのが高いんだっけ。


 コーメェのお口にポコ豆をポイっと一つ放り込み、自分の分のポコ豆を一粒取り出して眺めつつそんな事を思っておりますと。


 大きいタオルの様な物で顔に吹き出た汗を拭いながら、笑顔で店内に戻ってきたアルさん。

 ガバっと腰を折る感じで頭を下げると私の方へ『お待たせいたしました!』と声をかけて、私の対面辺りに置いてあった木箱へと腰を下ろします。


 いえいえ、こんな早朝に突然お邪魔した私が悪いのでお気になさらず。

 それにしても随分と早い開店時間ですね。

 何か理由でも有るのか、とアルさんに尋ねてみますと。


「今朝のこの時間に、新たなる祝福の冒険者がいらっしゃるっていう話が、昨日神殿からのお達しでありましてですね、それなら早めに開店しよう、と親方の指示でして!」

「あー、なるほどぉ! それでこの時間に合わせて早く開店した訳ですか!」


 第二期プレイヤーさん達が来店する可能性を考慮した開店時間なんですね、納得しましたよ。

 さて疑問も解消しましたし、こんな早朝にお店へ訪れた目的である、ゲイルさんの今現在の様子や依頼した例の品物の進捗状況についてお伺いしてみましょうか。


「それでそのー、私が依頼したアレの方はどんな感じなんでしょうか?」

「へい、それが……フワフワの方面で難航しておりやして……」

「あああ……やっぱりそうですよねぇ……」

「一応試作品は完成した様子なんですけれど……ちょっと親方呼んできますんで、ココでお待ち下さい」


 二人でウームと唸りつつ腕を組んで考え込んでましたが、アルさんがガタンと木箱から腰を上げてゲイルさんを呼びに奥へと姿を消してしまわれます。


 程なくして奥から聞こえてくる作業音が途切れ、アルさんと一緒に現れたゲイルさんは……何とも憔悴した感じで目の下にクマが出来ているという、一目見ただけで疲れが溜まっている感じが、ヒシヒシと伝わってくる様相を呈しておりました。


 や、やっぱり無理無茶無謀な要望だったのか……申し訳ない事をしてしまった。


 アルさんが二言三言ゲイルさんへ何かを伝えてると。

 ギラリと両目を輝かせたゲイルさんが、懐から何か丸い物体を取り出します。


「おはようフワモさん……さあ、一応コイツが試作品だ」

「こ、これが……ちょ、ちょっと失礼しますね」

「耐久度と使いやすさ、それと柔らかさを兼ね備えた物は、中々どうして難しいもんじゃわぃ」


 ゴツゴツとしたゲイルさんの手から、丸くてフワっとした見た目の物を受け取ります。

 ぱっと見て感じたイメージとしては。

 そうですね……丸い形状をしたスチールウールの金属タワシでしょうか。


 私の腕の中で大人しくしていたコーメェも、何やら興味津々の様子でこの金属タワシを見詰めております。見た目的には君の仲間っぽい形状をしているよね。メカコーメェっぽい感じで。


 試しにコーメェの背中にグイグイと押し付けて弾力勝負をさせてみたり、手の平の上に置いて掴む感じで軽く何度か揉んでみましたが、確かにある程度の柔らかい感触を楽しむ事ができました。


 でも……やっぱり素材が金属だと言う点が、ある一定ラインで私が求める柔らかさとの違いを露呈させ、結果としてフワモコな柔らかさを肌で楽しむ、という行為そのものを阻害してしまいます。


 あと金属臭が強すぎて気になるという点も。


「むむむ……やっぱり金属とフワモコは相性が悪いみたいですね」

「うむ……何とか強引な手法で、金属に『柔軟』の付与を施す事に成功した品でさえソレじゃからな」

「す、凄い! 特殊能力付きなんですか!?」

「そうじゃよ! 金属加工品に『柔軟』の付与など、うまれて初めて施したわい!」


 そういうと、ガッハッハと豪快に笑うゲイルさん。


 そりゃそうですよね、頑丈さを求められるのが普通である筈の金属製品に、無理矢理強引に柔らかくする能力をくっ付けるとか、まぁ通常の品物ではありえない組み合わせですよね。


 それにしても、流石は魔道具を作成できるゲイルさん! 狙って特殊能力を付けられるとか、駆け出しの私とは比べ物にならない程の腕前なのでしょうね。匠の技が光りますよ。


 でもまぁアレです、やっぱり金属とフワモコの両立は短時間では不可能である、という事実が判明した瞬間でもありますね。時間をかければ改善点も見い出せるかもしれませんが、まず今はイベントへ向けての準備を優先しなければなりません。


 試作品をゲイルさんに返した私は、金属アイテムに対するフワモコ的思考からの多方面アプローチは、一時保留と言う形を取ってもらう旨をお伝えします。このままでは時間切れ必至ですからね。

 ゲイルさんも、他の品物を優先すると言う私からの提案に頷きを返して下さいました。


 後は他の品物を頑張って作ってもらうだけですね!

 可愛くしてほしい、という要望の方はまだ有効でしょうから、そっちで期待することにしましょう!


「それじゃ、作業のお邪魔になりますし、そろそろお暇しますね!」

「おっと待ってくれぃ! 時間が良ければ、柔らか金属作成と平行してある程度道具を完成させたから、そっちも是非確認していってくれ!」

「おお! 是非是非! 全然大丈夫です!」

「よしきた! すぐ持ってくるからの……ほれアル公! 手を貸せぃ!」

「へい親方!」


 ドタンバタンと音を立てつつ、狭い店内を急ぎ足で奥へと移動していくお二人の背中を見送ります。

 あんなにボロボロで、お疲れ状態の見た目なのに元気だなぁゲイルさん。


 ドワーフさんは全員、ああいう風に強靭で頑強なボデーをお持ちなのだろうか。

 プレイヤーアバターとして選択した際も、きっと頑丈そうなステータスになるのかもしれません。


 そういえば女性のドワーフさんって、お若い見た目というか小柄と言うか何というか……プレイヤーだと使う人を選ぶ外見をしてますよね。あれって例えば、スラっとしたモデル体型の女性が種族ドワーフを選択した場合って、一体どういう判定になるのでしょう。


 別に私に影響のあることでは無いのですが、一度気になり始めるとどうにもモヤモヤしますね。

 こういう事に関しては誰に聞いたら良いのだろうか。


 公式のメッセージ入力フォームに疑問として書いて送れば、ちゃんとお返事届いたりするのかな。

 ううむぅ気になる!


 そんな金属とは全く関係の無い方面に思考を飛ばしつつ、コーメェを揉んで考え込んでおりますと。お店の奥からゴトゴトと音を立てながら、頑丈そうな取っ手の付いた木箱を持ったお二人がお戻りになりました。


 きっとあの中に色々と、私による私のための、私専用な私の冒険用具が収納されているのでしょうか!


 アルさんがゴトゴトと私の近くにあった木箱を退かして私の正面にスペースを作り、そこへゲイルさんがドスドスと重そうな箱を置きます。

 覗き込む様に上から中身を見てみますと……中に並んでいるのは大小様々な金属の品物。


「柔らかい金属作成の時は、主に細かい加工を重点的にすすめておったんで、平行して進めた作業もそういう類のものが多数じゃな」

「ほほー……正直良く判りませんデス」

「まぁお任せセットっちゅう事じゃったからのぅ! 必要な物はきっちりと揃えるつもりじゃから安心してくれぃ!」


 そう笑顔で私に声をかけたゲイルさん、木箱の中に手を伸ばしてゴソゴソと商品を選り分けるように動かし、一つの品物を取り出して私に差し出します。


 その形状は……何処かで見た事がある非常に特徴的な外見。

 コーメェを一旦足元に置いて、その品を両手で受け取ります。


 ……以前に私が使っていた物とは違い、全体的に滑らかで丸っこいフォルムをしていて可愛らしい感じですが、恐らくこの品物は私の想像しているもので間違いないと思います。


「こ、これって……携帯用ランタンですか!?」

「うむ! ちゃんと魔石燃料稼働で消費魔力も従来より少なめな自慢の一品じゃ! 普通の依頼で作成するとなると、頂いた費用だけでは少々厳しい品物だったんじゃが、何とかしたわぃ!」

「ひえっ!? 大丈夫なんですか!? あまり追加でお渡しできないですが!?」

「なんのなんの! 追加費用は無しじゃよ! 使用した素材は提供してもらった物で殆ど賄えたから大丈夫じゃ! 頂くのはこの腕の費用、工賃のみじゃわぃ!」


 そういったゲイルさんは、ニヤリと笑うと自分の右腕をバシリと平手で叩きます。私の提供した素材だけで大丈夫だったんだ?


 やっぱり自分で使い道の判らない素材は、その道のプロにお渡ししてお任せするのが一番ですね!

 自分の見識に間違いはなかったと納得の頷きをしておりますと、良ければ試しに作動させてみてくれ! と言うゲイルさんからのご提案が。


 受け取った携帯用ランタンの向きを変えて、稼働スイッチである摘みの部分を操作します、スイッチ部分も三日月なお月様の形で可愛らしいですね。


 スイッチを動かすと、ランタンの中央部分が輝き始め周囲を照らしました。

 おおお! 凄い凄い!


「わぁ! 明るくて綺麗です!」

「フワモさんが持ち込んだ鉱石の中に、良質な【夜光岩】が大量にあったからのう! 惜しげもなくそのランタンに使わせて貰ったわぃ!」

「【夜光岩】……ああー! 確か魔素迷宮で入手したやつだ!」


 あの例の、棒倒しで発見した隠し通路の階段を上りまくって到達した先にあった、小さいゴーレム君たちが大量に転がってたお部屋の照明に使われてたレンガっぽい石だよね!

 光ってるから珍しいものかな、と思ってその場で殴って壊して入手したんだっけ。

 確かガルドスさんのランタンにも使われてる鉱物だよね。


 いやぁー、試しに採取しただけだったけど持っていて良かったね!


 これで安心して暗い場所でも作業できるよ!

 夜に活動する際も安心だね。


 こんなに早く、自分用の携帯用ランタンが手に入るなんて思っても見ませんでしたよ。

 思わず笑顔になりつつ、スイッチをオフにして携帯用ランタンをゲイルさんへ返却します。


 その後、箱の中から見たことの無い様な品物が大量に出現しました。


 私って現実でキャンプとかした事がないので、品物をそのままの状態で見せられてもですね、どれがどういった用途なのか判別しかねる品物が多いんです。


 見ただけで何となく判る、折り畳み出来る小さい椅子とかテーブルとか。

 焚き火で煮炊きする為に使用する台っぽい何か、とかですね?

 この辺の品物ならば本当に何となーくですが、その、説明を聞いただけである程度理解できるのですが。


 それ以外の物になるともう、その、なんと言ったら良いのか。


 結局は、一つ一つ身振り手振り等を交えつつ、使い方を実演してもらう形で説明していただきました……本当に申し訳無い気持ちでいっぱいです。


 さらにはお鍋とかヤカンとかまで作って頂けているという。

 イベントエリアで自力でお料理……するかなぁ?


 正直な所、無茶な冒険を犯すくらいならば、食べ物は事前持込で全部何とかした方が良いのでは、と思っているんですよね。

 他のアイテムを削っても優先する勢いで。


 お薬は多分現地で素材を採取して作れるんでは、という曖昧な算段を立てた上で考えた結果なんですけれども。森っぽい場所でしたし植物は豊富なのではと。


 そもそもどの程度のアイテムをイベントの会場へ持ち込めるのかが謎なので。

 結果として、決めあぐねている次第です。何とも悩ましい状態。

 

 ああ、正直な所……不安しかないですが、頑張っていきましょう、うん。


 色々と説明してもらった後にですが、やっぱり自分で実際使ってみない事にはしっかりと把握出来ないのでは、という事だけは強く理解できました。頑張れ私の脳みそ。


 その後、作業を再開するというゲイルさんに激励の言葉を送った私は、お見送りして下さっているアルさんに手を振り返し、次に何をするべきか考えつつ人通りの少ない裏通りを進むのであります。


 あれかな、まずは日課のポーションを作ってしまいましょうかね。

 でも採取するとなると、場所に困る感じですね……どうしたものか。


 ゲイルさんのお店の前にある通りを北上し、安寧の女神様の神殿辺りへと抜けた私は、西門のあたりでも採取とか出来るのかな……と考えた所で、ふと、一つ思いついた事が。


 移動する道中がちょっと大変だけれど、思いついたこの方法を活用すれば……恐らく他の人と遭遇しにくい採取場所を確保出来るはず。


 我ながら良いタイミングで思い出した! と自画自賛を多分に含んだ独り言を呟きつつ、他のプレイヤーさんに見られると少々マズイ可能性があるので、周囲を見回して人通りのない適当な路地へと移動する私。


 早速メニューを開いて、記憶を頼りに目的の項目を探すのでした。

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