021 ポコ豆と ツルハゲジジイ
女の子と仲良しに
あとジイサン
ラティアちゃんのエクストリームお辞儀! からのデンジャラスボディランゲージに対して、ソフトな頭ナデナデ攻撃によって返答して差し上げましょう。
あのままでは何時手が滑って、地面にポーションを叩き付けるか判りませんでしたからね。
うーん、髪の毛サラサラのお耳ふわふわですね。何とも良い手触り。
しつこくない程度に合法接触です。
ラティアちゃんも気持ち良さそうに目を細めてニコニコしております。役得です役得!
おっと、そういえば先ほどの会話で聞いた内容で気になる事があったのでした。
「ラティアちゃん、ちょっと聞きたい事があるのだけれど大丈夫かな?」
「んー? なぁに?」
肩からベルトで提げていた白いポーチに、私の作ったライフポーションを大事そうに両手で保管していたラティアちゃんが、斜め上方向へ顔を向けて私の目を見つつ、くりっと首を傾げます。
お爺さんはニコニコしながらその光景を眺めていました。
あのポーチフワフワしてて可愛いなぁ。あれも魔法のポーチなのかな?
ラティアちゃんが上を向いたままでは大変そうなので、目線を合わせるためにヨイショとしゃがみ込みます。
「さっき私がお薬を作っていた時に言っていた『メディカ』さんという方の事なのだけれど」
「メディカおばあちゃんはね おくすりとかおかしをうってる おみせのおばあちゃんなの!」
両手をブンブンと動かしながら私に力説するラティアちゃんは、ふと何か思い出したように動きを止めて、先ほどポーションを収納した白いふわふわポーチに手を突っ込み、中から小さい紙袋を取り出します。
仄かに鼻に昇ってきたのは……何やら食欲をそそる香ばしい匂い。
なんだろう、とっても美味しそうでお腹が減る感じの匂いだぞ?
私が袋の事を凝視している事に気がついたラティアちゃんは、しょうがないなぁ、といった感じでニコニコと笑いながら、小さいお手手でその袋の口を開け、私に中身を見せてくださいました。
中に入っていたのは……炒ったのか揚げたのか判りませんが、加工された大きい豆? のような物でした。
「これも メディカおばあちゃんのところで うってるんだよ! おいしいの!」
袋の中から豆を一個取り出すと、ポイっと口の中に放り込むラティアちゃん。
ポリポリと咀嚼する音が聞こえます。スナック菓子みたいなものなのかな?
お薬とお菓子販売って、巷に良く在る安売りのドラッグストアみたいですね。二十四時間営業とかしてるのかな。いやいやお婆ちゃんのお店だし流石に無理か。
にしても、ご家族の方ではなくて近所のお店の優しいお婆ちゃん的な方だったのですねメディカさん。
「そうだ! おくすりのおれいに いっこわけてあげる!」
そんな事を考えていると、ラティアちゃんが紙袋を私の顔の前にぐいぐいと突き出して、眩しいほどの笑顔でそう仰られます。
ああ、一文無しの私にこのような施しをお与え下さるとは、なんと慈悲深いお方でしょうか。
私はラティアちゃんに両手を差し出して畏まります。
ははー在り難き幸せー。
袋に手を突っ込んで豆を一粒つまみ上げたラティアちゃん、私の両手の上にポンとそれを置いてくれました。
では早速食べてみましょう!
ラティアちゃんに倣って、ポイっとそのまま口の中に放り込んで咀嚼します。ポリポリ。
あ、美味しい! よくオツマミとかで売っているような、お豆のお菓子みたいな味がする!
「これ美味しいね! ラティアちゃんどうもありがとう!」
「うん! わたしもポコまめだーいすき!」
ポコ豆? この豆のお菓子のお名前でしょうか。なかなかどうしてシンプルな味付けですが、癖になる食感と香ばしさですね。安いのであれば、お金が出来たら後で自分用に一袋購入してみようかな。
まぁ……自由に使えるお金が何時になったら手に入るのか、それが問題ですが。ぬぐぐ。
「えっとそれでね、メディカお婆ちゃんのお店の場所を教えて欲しいのだけれど、いいかな?」
「んー? メディカおばあちゃんのおみせのばしょ? おねえちゃんもポコまめかうの?」
「ああ、それならワシが説明したほうが良かろうてなぁ」
ラティアちゃんが、二個目のポコ豆をお口に放り込みながら私の質問に首を傾げていると、横で私たちの会話を聞いていたお爺さんが声をかけて来ました。
「すみません、良かったら是非お願いします!」
「それじゃぁ、ラティアちゃんをお家に送った後にメディカのバーサンの店へ案内しようかのぅ」
「はい! ありがとうございます! ……そういえばお二人はどういった間柄なんでしょうか?」
仲良しな感じでしたので、てっきりご家族なのかな? と思っていたのですが。
見て判る様に、お爺さんは普通の人間の方なんですよね。
それに『お家に送る』だなんて、一緒に住んでいるのなら出てこないお言葉です。
決定的なのは、もしもラティアちゃんとお爺さんが血の繋がりのある家族ならば、お爺さんも獣人じゃないとおかしいですよね。低い確率ですが、ハーフとかクォーターとか隔世遺伝とかそういう物である可能性も、無きにしろ在らずといった感じですけれど。
流石にそこまで考えなくても良いですよね……うん。
「ああ、なぁに、ワシゃラティアちゃんの両親と付き合いのある、タダの近所の隠居ジジィじゃよ。日課の鍛錬も終わったし時間が余ったもんでの、ラティアちゃんが公園へ遊びに行くのに付き合って、散歩がてらに一服しとっただけじゃよ」
「おじいちゃんはね すごーいつよい きしさまだったんだって!」
「ふぉっふぉっふぉ! それ程でも無かろうて」
そして、ラティアちゃんの口から飛び出した言葉に仰天。
騎士様ってもしかしてこのお爺様って凄い偉いお方だったりするのでは!?
俗に言う貴族様みたいなそんな感じなのではないのですか!?
しかもご高齢とお見受けするのですが鍛錬とな!? ツワモノの香りがする!
私が驚いているのが判ったのか、お爺さんは伸びたヒゲを擦りつつ此方に顔を向けます。
「騎士と言うても、そんなにご大層なモノじゃぁないんで畏まらんでくれるかのぅ? 女神様の神殿を守護する護衛騎士の総督を昔やっとっただけじゃよ。鍛錬は日課というか癖というかそんな感じじゃ」
「えーっと!? 聞いている分には、いろいろとご大層なモノのように聞こえるのですが!?」
これはあれだよね……護衛騎士総督って事は、アレイアさんのような神殿護衛騎士さんの頂点に居た人、っていう意味で良いんだよね? この世界での地位の知識がまったくないから、どういった反応をして良いのやら全く判りませんが、これ確実に地位的にも実力的にも上位に位置する御人ですよね?
「ラティアちゃんが産まれた頃に引退した身じゃから大丈夫じゃよ。それに先ほどからアイテムボックスやメニューの加護を行使しとるし、お嬢さんは祝福の冒険者なんじゃろ?」
「あ、はい、そうです!」
「ならば引退したとはいえ護衛騎士たる者、祝福の冒険者を手助けする聖なる義務を果たさんとのぅ」
そう言うと、お爺さんはポンポンと私の肩を叩いて何度も頷きます。
お年を召していらっしゃっても、護衛騎士の心を忘れていないという事でしょうか。
非常にありがたいことですけれども。なんとも恐縮。
「では出発するとしますかの! ラティアちゃんもお夕飯の時間になる前にお家に帰らんとのぅ!」
「はーい! それじゃ おうちまでいっしょだねぇ! おねえちゃん!」
「そうだね! 道に迷っちゃうかもしれないから、ラティアちゃんと手を繋いでも良いかな?」
「もぉー しょうがないなぁー! いいよー! おててつないであげる!」
ポコ豆の袋をポーチにしまったラティアちゃんが、ニコニコしながら右手を差し出してくれます。
手を繋いで二人並んで歩きながら、ゆっくりと路地を進んでいる最中。
もはや定番となってきた、ある事を思い出しました。
「自己紹介まだだったぁ! 私の名前はフワモって言うの。良かったら覚えてくれると嬉しいな!」
「フ ワ モ お ね え ちゃ ん! だね! うん! ちゃんとおぼえたよ!」
そう、いつも通り自己紹介をし忘れていた自分にガックリ。
もう癖になってるんじゃないかなコレ。
私の自己紹介を受けたラティアちゃんは、繋いだ手をブンブン動かしながらも、ピョンピョン飛び跳ねて移動しつつ、私の名前を一文字づつ復唱して下さいました。ちょっと照れますね。
転ばないかチョット不安です。でもそこは猫の獣人だからなのか、物凄い身軽に動いてます。流石。
「ならばワシも自己紹介をな。ワシの名は【カイム】じゃ。見ての通りタダのツルツルハゲのジジィじゃ」
「経歴を聞くと只者ではないと思うのですが」
「突っ込んでくるところはソコかのぅ ボケ殺しじゃのう、ちなみにコレは剃っておるので毛根は生存しとるぞぃ」
ペシペシと自分の頭を叩きつつカイムさんがそう仰います。
いやいや! そこはあえて突っ込まなかったのですがカイムさん!?
 




