215 ギルド 再訪 ポポポポーン♪
2度目の来訪。
生もの達の運命や如何に。
お店の奥にあると思われる作業場から、何かの金属を叩く音がし始めたのを感じつつ。
アルさんにお別れのご挨拶を告げてお店を後にする事にします。
あれ、そういえば……コーメェの行動反応が暫く無かったのに今更ながら気が付きました。
辺りを見回してみると、見覚えのある白い配色のフワっとした物体を発見。
先ほどお店を訪れた際に確認した、大小様々な魔道具の中に紛れる形で、斬新な白い毛玉魔道具としてグースカと気持ち良さそうに惰眠を貪っている、という事態に陥っていた様子で。
んー、君ってばカモフラージュ率高すぎるんじゃないかな。
お客様がご来店した際に、不思議がられて手に取られて驚かれる事請け合いだよ?
私を癒す専用の生きた魔道具として、今後も頑張ってもらう所存ですので。
その恵まれた体格を使って、是非とも頑張ってくれたまえよ!
徐々に高くなりつつある太陽の光に照らされて温められる形で、暖かくノンビリな夢の世界へと旅立っていたコーメェを両手で持ち上げ、首の後ろ部分にあるフードへと突っ込んでおきます。
フード内部で、お腹毛を上にする形の上下逆さまな格好で、ウゴウゴと何かを求めるように4本の足を動かし、寝言のように『メメメメ……』と唸っていたコーメェでしたが。
何時も通り私の後頭部辺りへ吸着すると、安心した様にそのまま夢の中へと戻っていきました。
抱き枕か私の後頭部は。まぁ良いけど。
そんな私とコーメェの、珍妙極まりない行動を見守っていたアルさんの顔に、変な物を見た……という感じの訝しげな表情が浮かんだのは至極当然の帰結であったと思います。
まぁ張り付くだけで害は無いんですよ。
ご安心を。寄生生物呼ばわりされた事はありますけど。
「えっと、それじゃアルさん、失礼しますね! ちょくちょく様子見に来ます!」
「へ、へい! 親方にも伝えておきますんで!」
私の言葉に、はっとなった感じでコーメェから視線を外したアルさん。
私にペコリとお辞儀をしつつ、お見送りをしてくださいました。
後の事はお任せしましたので、この哀れな物を知らない小娘の為に是非是非万事よろしくお願いします。
無茶振りしすぎたかなとも思いますが、あれです。
無理なら本当に大丈夫ですから、機能面を充実させる方向でどうかココは一つ。
私の方からもお辞儀を返し、ゲイルさんのお店を後にします。
さて、ココから近い場所となるとギルドですね。遂にギルドです。
不必要な素材を叩き売ってしまいましょう。主に食材を。無用の長物。
何が入っていたかなぁーなんて事を考えつつ。
以前リーナさんの怪しげな物体満載空間なお仕事部屋から脱出した際に使用した、非常口というか勝手口っぽい裏口な何か口のある裏通りを進んで。
……口って言いすぎてゲシュタルト崩壊してきた口です。
うん口。脳内で四角に見えてきた。
とてつもなく無駄な脳の機能考察を挟みつつ、本気で口について良く判らなくなってきたので、慌てて頭を振って口について考えるのをストップします。
そうじゃない、いまはやる事を進めるのだよ私。
ゴチャゴチャと何かの資材の様な物が積み上げられている裏通りを通りぬけると、丁度良い具合にギルドの建物が見える場所へと到達します。
以前に棒武器へ巻きつけるため購入した、革ベルトを販売していたお店の近くですね。
あーそういえば棒で思い出した、武器の修理とかも頼めばよかったかなコレ。
山岳地帯で硬かったり大きかったりする相手を沢山殴ってきましたので、見た目的には問題無さそうでも何処かにガタが来ている可能性がありますよね。
こういう物は、病気とかと同じで素人が見た目で判断しては駄目な代物でしょうから。
そもそも、私と言う存在に比べて武器の価値が高すぎて、ある意味で逆に収拾が付かないというか。むしろ棒が私を使っているのだと表現した方が。哲学的過ぎて良く判らない。
と言った感じの知らない人が聞いたら『お前は何を言っているんだ』と確実に言われそうな無駄考察を思い描きつつ、なんとなく腰に提げている棒武器を抜いて眺めます。
傷とかは見当たらないんだよね、うん。
次にログインした時、時間が取れるようならゲイルさんに見てもらおうかな。
私の無茶依頼で忙しいだろうし、どの程度痛んでるのかだけでも確認してもらえれば大丈夫だよね。修理するって言っても素材が必要だろうし。
何か良く判らない素材使ってたよねコレ。
アイテム詳細で書いてあったはず。
一旦アイテムボックスへ収納して確認してみます。
あーこれこれ『聖刃鋼』って奴だ。
アレイアさんとかの装備品もコレで作られてるんだっけ確か。
この武器についてアレコレと話した際に、何となくそんなお話を小耳に挟んだ記憶があります。この素材って高いのかな。高いよなぁ……高いよね。
……うん、致命的に痛んでいない様なら材料だけ準備してもらっておいて、後でお願いします! の形にしよう。
いやいや、言うだけ言って素材だけ準備させたくせに、結局は修理しない! なんて詐欺をするつもりは無いですよ本当ですよ。
メニュー欄に記載されている所持金とアイテム詳細を眺めながら、誰にともなく言い訳じみた事を小声で呟いている私は、恐らく99%程度の確率で怪しくて不気味です。
えー残り1%は、そもそも私の声を聴いていない可能性を考慮して。
不穏呟き系17歳女子がストライクゾーンな方の可能性も否定できません。
いるのかそんな奇跡的存在。
お目にかかってみたい……みたい? どうだろう。
アイテムボックスから武器を取り出して緩んでいた革ベルトを締め直して、何時も通りすぐ使える様にベルトの定位置へと提げ直します。
この位置に棒が吊り下がっている状態にも、大分慣れましたね。
最初の頃は微妙に違和感を感じていたんですけれど。慣れって怖い。
さあ、こんな中央通りの外れでお空を見詰めてブツブツ言っている場合じゃない。
行動を再開せねば。
開きっぱなしのアイテムボックスの中を漁って、売るつもりのアイテムを確認、整頓する形でメニュー上部へと移動させます。
んー、まだまだ例の採取で捻じ込んだ石が沢山入ってるなぁ……ええい石は後で、後でだ!
整頓を終わらせメニューを閉じた私は、前回あった鑑定カウンター前での出来事を思い出して……何かあってもなるべく目立たない様に、眠ったままのコーメェをフードから引っこ抜いて抱えた後、フードを深く被って2回目となるギルド内部への突入を試みるのでありました。
とは言いましても、ドカンと開放された出入口なのは前回に訪れた時のままですけど。
つまり誰でも何でもウェルカム状態。
前にギルドを訪問した時よりは落ち着いた精神状態で、大きく開放された入り口をくぐり抜け……たタイミングでポポーン♪ という良い音が響きましたけれど、何だろう私が何か犯罪行為でもしたとか!?
ビクリとして周囲を見回しましたが、私の前にギルドへと入場した人や私の後ろに居たパーティっぽい団体さんも、音に対してビクリと身体を硬直させてギュっとコーメェを抱きしめつつ周囲を見回していました。
……あれ? 何も起こらないですね? 何事なのでしょうか。
とりあえず移動途中で立ち止まっている訳にもいきませんので、出入口から脇のほうへ逸れる形で移動を再開しました。
私の前後に居たプレイヤーさん達も首を傾げつつ行動を再開したようで、周囲を見回す感じでキョロキョロしながら、リーナさんの職場であるアイテム鑑定カウンターの方向へ移動していきました。今日も忙しそうですねリーナさんの所は。
私はといいますと、前回来た時よりも更に多いプレイヤーさん達に驚きつつ、立ち止まっても邪魔にならないようにササっと壁際へと移動、背中を壁に預けるとほっと一息つきます。
さて、買取してくれる場所の確認をせねば。
……あっそうだ! 建物内部にコーメェ連れ込んで大丈夫だったのかな!?
何て事を思いながら、気持ち良さそうに眠っているコーメェを起こして、どうにかお外で待機させた方が良いのかな、等とコーメェの背中に頬を埋めながら思案し始めたタイミングで。
何やら、お役所の制服っぽい格好をした髪の長い女性の方が一人、正面カウンター脇から素早く出てきて……ススーっと私の正面に近づいてきまして。
唐突に正面にきた女性にびっくりして硬直しておりますと、私の状況はあまり関係ないと言う感じでその場でペコリとお辞儀をした女性が、キリリとした表情で私に声をかけてきました。
「申し訳ありません、失礼ですが……召喚獣等をお連れで無いでしょうか?」
「あっえっと、はい、この子ですスミマセン!」
「……見たことの無い子ですね」
やっぱりアウトだったんじゃないか!? と急いでコーメェを両手で持って正面へと差し出します。
あああーしまったなぁー!
コーメェと一緒に町を移動する様になってから、これ系のミスが多すぎる私。
私が正面に差し出したタイミングで眠りから目覚めたコーメェが、自分の正面にいる見たことの無い女性を不思議がる感じで見上げていましたが。
コーメェの視線を受け止めつつ、お返しとばかりにじーっとコーメェを見詰めていた女性が、その無表情な顔を動かさずに、両手をコーメェの背中に伸ばしてモフモフと触り始めます。
コレは……危険な生き物かそうじゃないか確認とかかな。
柔らかくて弾力があるだけです。
多分危険度は殆ど無いと思います本当です。
出来れば許して下さい。
たっぷり10秒程コーメェを見詰めつつ両手でその背中を触っていた女性が、ふと手を止めるとキリっとした顔を上げ、小声で私にこう告げます。
「申し訳無いですが、召喚獣であれば送還して頂きませんと。規則ですので」
「あっその、この子は従魔です」
「従魔……【精気紋鑑定証】はお持ちですか?」
「あっはい! 今出しますね!」
アイテムボックスを開こうとして、コーメェを保持している為に両手が塞がっている状態なのに気が付いた私でしたが、そんな私の心を読んだかの如くな動きで、素早くスッっと私の手からコーメェを受け取り両手で持って保持してくれる制服の女性。
仕事の出来る女性っぽい! 姿格好からもそんな雰囲気です!
両手が開いた私は素早くメニューからアイテムボックスを開いて、最近引っ切り無しに出番のある【精気紋鑑定証】を取り出して女性に差し出します。
両手で持ったコーメェを持ち上げ、無表情のまま頬っぺたにフカフカ押し付けていた制服の女性が、私へゆっくりとコーメェを差し出し、入れ替わりで【精気紋鑑定証】を手にします。
「ただいま照会しますので、あちらの待合席の方でお待ち下さい」
「あ、はい判りました!」
両手で大事そうに私の【精気紋鑑定証】を持ってペコリとお辞儀をした女性が、ギルド入り口正面にあるカウンターの中へと消えていきます。
あれ……何やら周囲から鋭い視線を多数感じるのですが。
念の為フードを更に引き下げ、襟元を上げる感じにして……なるべく顔を見られない様にしておきます。何だかもう怪しげな犯罪者の気分。
私に触れるとヤケドするよ! くらいの勢いで。
実際はフワフワ柔らかいだけですけど。主に自慢の尻尾が。
ぼーっと待っているのも手持ち無沙汰だったので……待合席で待っている間、コーメェと一緒にイベントについて適当に打ち合わせをしていたら、カウンター内から先ほどと同じ感じで素早い動きを持って私の横へと移動してきた制服の女性が、両手でスッと預けていた【精気紋鑑定証】を私の前へと差し出してくださいます。
「お待たせいたしましたフワモ様、照会完了いたしました。そのサイズの従魔でしたら、建物内を御同行なさっても問題ありません」
「お手数お掛けしました、ありがとうございます!」
「建物内での、従魔を利用した危険行動はご遠慮頂きます様、お願い申し上げます。器材や施設を破損させた場合、賠償金を請求する場合もありますので、ご了承下さい」
「わ、判りました、気をつけます!」
「精気紋の入力登録も済ませておきましたので、次回以降は出入口のブザーが鳴る様な事もありません、ご安心下さいませ」
……あぁー! さっきのポポーン音ってやっぱり私のせいだったんだ!?
周囲のプレイヤーさんには悪い事をしてしまいました……悪気は無かったんです。
今度時間があったら、鑑定証をすぐに人に見せれる様な定期入れっぽい装備品を【革細工】スキルか何かで作ってみようかなー?
いや、出しっぱなし状態だと無くす可能性が高すぎるか。
はっはっは、迂闊だからね私はうむうむ。
なんて自虐も甚だしい事を素で考えて勝手に凹みつつ、受け取った【精気紋鑑定証】をアイテムボックスへ保管しなおそうと思いコーメェを何処かに移動……しようと思ったタイミングで、先ほどと同じ様に素早くコーメェを私の手から受け取って持ってくれる制服の女性。素早い。
折角ですのでコーメェを預かってもらっておきまして、大事なものなので無くさないようにしっかりばっちり【精気紋鑑定証】をしまい込みます。これでオッケーです。
メニューを閉じて顔を上げると、キリっとした表情のまま顔を傾けてコーメェの背中に頬を乗せスリスリさせている制服の女性と目が合います。
サッと顔を上げると私にコーメェを差し出す女性。
そうだ! 折角だしアイテムを買い取ってくれる場所が、どの辺りに有るのか教えてもらおう。
「あの、ちょっとお聞きしたい事が」
「はい、何でしょうか」
「所持アイテムを処分したいのですが、アイテムを買い取ってくれる場所はどの辺りにあるのでしょうか?」
「買取カウンターでしたら、入り口正面のカウンターから左奥……あちらに見えるギルド売店の横になります。看板が出ておりますのでスグ判るかと思います」
そう言いながら、制服の女性が細い指を動かしてカウンターの更に向こうを指差します。
何やら観葉植物っぽいものが置いてあり、女性の言うとおり四角い看板の様な物が設置されている場所が。ほほぅ、やっぱり鑑定カウンターとは真逆の方向なのか。私の予想通りだったねふふん。
色々と丁寧に教えてくれた女性に、お礼を言ってお辞儀をしたら……『いえ、こちらこそありがとうございます』と言う返答を頂きました。なにがだろうか。
少々引っ掛かりましたが、まぁ気にせずに待合席のスペースから移動を開始することにします。
散々持ちっぱなしだった、お肉やお魚とサヨウナラする時が近づいてきました。
とにかく! 安くても良いから、現金になってくれればオッケーですので!
※ 追記 ※
一部本文の流れを修正。




