202 メェ の 命名 その名はズバリ
普通は直後に見るものです。
『毛>強さ』なダメダメ思考パターン。
休憩しつつ採取アイテムを整理整頓している際に思い出した、アイテムボックス内部で活躍できるチャンスを待ち激しく唸りを上げている食材達を、何となくアゴに手を添えた格好で眺めつつ唸ります。ううむはてさて?
誰に見せるでも無い感じで簡単にジェスチャーを交えつつ、あれがこうでこうなってー……と目を閉じて脳内フィールドを活性化させ、自分が思いつく感じで色々な方向からのアプローチを検討、串焼きお兄さんに現在所持している食材を使用したお料理を依頼する方法を模索しておりますと。
唐突に何か、私の右太もも辺りをペスペスと打撃する衝撃を感じたので目を開きます。
そちらへ視線を向けますと、お隣で一緒に休憩していたメェが、何やらフンフン言いながら私を見上げて、その後視線を右奥の方へと差し向けました。
うん? 何か気になる事でもあったかな?
メェが向いた方向に一緒になって視線を向けてみますと、そこにあったのは毎度お馴染み素材である【薬草】でした。ああ、ここで休憩している間に新しい素材が逞しく地面からニョッキしたのかな?
どうやらメェが私の足を柔軟打撃したのは、アレ採取に行ってもいい? という意思表示だったようですね。
うむ、むしろその行動はすこぶる推奨されるべき事だね。
さあメェよ、ズボラで怠け者で尚且つ貧弱なご主人の為に、迅速かつ正確にアレを毟って持ってきてくれたまへ。むしろそのフンワリボデーで任務を実直にこなす姿勢にワタクシ甚く感動です。
了承の意思を籠めてメェの背中をモヨモヨとソフトタッチで数回叩いてあげますと、我主人の意を得たり! と云わんばかりに勢い良く立ち上がったメェが素早く移動を開始しました。
……あれです、メェって足短いので、立ち上がっても数センチしか変化が無いんですよね。そんな所もキュートな生命体。屈伸運動苦手そう。
普段から草むらとかを高速で移動したら、行きずりに様々な謎物体を毛に巻き込んで持って帰ってきそうな感じの、地面スレスレ移動っぷりですし。
いやまぁ手足だけ長ーくなっても怖いから、出来ればそういうタイプの進化形態に移行するのは遠慮したい心積もりではあるんですけどね。
お料理を頼む手筈に一応なっているふわもこファーム由来のお芋が発する効果が、そのままふわもこファームと一緒ならば良いのですが。
モコ芋で手足だけ伸びたりする危険性もあるわけですよ。恐怖体験。
地面にはえた【薬草】を器用に毟り取り、咥えた状態でこちらに戻って来ている最中のメェを眺めながら、スラリと4本の足が1メートル位になったメェを想像します。
……うんうん。新たなるクリーチャーみたいで嫌過ぎる外見。
壮大宇宙スペクタクル冒険活劇ゲームとかで敵キャラに居そう。
そんな少々……いやそこそこ……いやいや大分メェに失礼極まる事を考えつつ。
メェから差し出された【薬草】はしっかりと受け取って開きっぱなしのアイテムボックスへ収納します。
あーそういえば……メェの外見や行動に対して様々な方面から思考アプローチしつつ考察作業をしていて思い出しました。
それは名前、メェの名前ですよ。
【薬草】を毟り終わったメェが、ホームポジションと言う感じで私の右隣にモフリ……とその身体を落ち着けている光景を視界の端に収めつつ、遠い地で相棒にしたこのフンワリ生物に、どうやって名前を付けてあげれば良いのか知らない事に気がつきました。
いや良い名称が思い浮かばないとか、名前の考え方が判らないとかそういう理由では無くてですね、システム的な問題というか【従魔】というスキルに対しての考察と言うか。
女神様の加護! という枠付けなこのメニューを使用した名付け方法があったりするのかも? という漠然とした不安が私の心の底にある訳ですよ。
たとえば現実にメェが居たとして、お名前付けましょうと相成りました場合ですね。
そのまま『キミの名前はコレだ!』と伝えるだけで万事解決家庭円満、キミも私も幸せ! という感じになるわけです。
私のつけた名前にメェが満足するかは別として。
不足しがちなネーミングセンス成分。
でもこのVRゲーム世界で名前を、となると特殊な方法が必要になるかも? と思ったりしませんでしょうか。思いますよね? 思うはずです。
そういう考えに及んだ私は、とりあえず関係有りそうな怪しい所を片っ端から確認していく作業を開始する事にしました。そう、思い出したときに名付けしておかないと危ない。
お料理の件に関してもそうですからね。
メェの命名だけならこの場で簡単に出来るかもしれませんし。
特殊なアイテムが必要とか、特別な施設での手続きが必要だとか……そういった場合は迅速に諦めますけど。
まず一番最初にする事は、メェに直接聞いてみると言う事。
簡単な意思疎通が出来るから可能な、基本的に一番確実性の高い名付け手段判別方法ですね。
私の横で何かを見つけたメェが再度しゃきーん! という感じで4本の足を伸ばし、私から見て左奥の木の根元辺りに出現した【魔力の花】を採取しに行くのを見送ります。
意気揚々と【魔力の花】を根元から毟って持って帰ってきたメェからソレを受け取り、そのままの流れで名前について質問してみる事にします。
君のお名前は登録制なのか申告制なのか。どうなんでしょうかね。
私からの疑問を受けたメェは、グリっと首を傾げるように考え込むと。
……何か思いついた様に顔を上げて唐突にボヨンとその場で跳ね、開きっぱなしになっているメニュー板と私の間に着地してきました。つまり正座している私の太ももの上に華麗にランディング。
ふむ? 何か伝えたい事があるのかな。
メェが見やすいようにメニュー板の位置を下げてあとはお任せしてみます。
メェがその短い前足でメニュー板の一部をポムポムと叩いているのが判りました。
えーっとその部分は。
……あーそうそう、私のライフやマナのゲージが表示されている隣。
つまり君のステータスが表示されている所だね。
そういえば詳しく調べて無かったねソコ。ソコに何か……ん?
よく見ると、メェのステータス部分で名前……私の方だと『フワモ』と言う文字が記載されているべき場所が、メェの小さめなステータス表示の方では『名前なし』という表記になっています。
……うん、改めて確認すると本当に申し訳無いね。
メェはその『名前なし』の部分をペスペスッと前足で突いて私を見上げる、という動作を数回繰り返しているので、この場所を如何にかすれば解決するという事で良さそうですね?
メェがしているのと同じ……『名前なし』の部分を突いてみます。
そして予想通り目の前に現れたのは『名前を入力してください』という一文の書かれた、ご丁寧に仮想キーボードまで付いた入力フォームでした。うん、物凄い判りやすい。
つまり、ここに入力した名称がメェのお名前になるんだね。
私のお腹の辺りで寛ぎ始めたメェに一応確認の意思を送って見ます。
その通り! という感じの頷きを返してくれました。
さてさて! いざ名付けとなりますと、いささか緊張するものですね。
一応ラティアちゃんの的確なツッコミを受けた後、ソレっぽい感じのを付けてあげようと思考の片隅で色々考えていたりはしたんですよ。メェの名前については。
メェが前に居た世界である『ふわもこファーム』では、非常にその場のノリで果物の名前を飼育していたメェに付けていましたので、こう改めて考えると大変ですよね。
食べられるもの繋がりで『わたがし』とかでも良さそうかな、なんて思ったりもしましたが、メェのお腹のあたりに棒がくっ付いている様を想像すると、そりゃもうあまりにも完全に一致過ぎたので却下の方向で。毛を毟られたり齧られる未来しか見えない。
かといって昔ゲームで飼育していたメェと同じ『りんご』や『みかん』という名称では少々安易で微妙過ぎる気もします。
いやまぁ林檎と蜜柑美味しくて好きですけどね。
そういう意味じゃないか。
といった風な事もあって、適当に響きの良さそうな文字の羅列や、昔使ったことのない果物の名前なんていうのも脳内候補に上げたのですが……どうもしっくり来ないというか。
いや拘った所で、上手い事いう感じで素晴らしい名称が思い付く訳じゃないんですが。
相棒に付ける名前ですし、それなりに拘りたいと言う意思が一応ありますので。
という事で、いろいろな要素を脳内で混ぜ合わせた混沌状態では……上手い具合の名付けが出来ませんでしたので。
……一旦全ての考え事を無かった事にして、色々な思考に遮られていない状態の脳ミソを用いて、その場ですーっと思いつき頭に浮かんだ名前で決定する事にしたのです。
そう、私の『フワモ』と言うアバターネームを決めたときの様な。
ゆるーくてダレダレーな空気感で思いついたヤツです。
パっと出たイメージを捏ねてくっつけた感じで。
でも適当につけた割には、何故か一応ですが歴史で有名? というかなんと云うか戦いが凄そうな人? っぽい名前になってしまいました。
いや、その人物がどう生きたのか歴史について詳しくは無いですし、ぶっちゃけ歴史のゲームに結構登場したりしている! という程度の詳細しか知らない存在なんですけどね。
大雑把過ぎて申し訳無い気持ち。
でも思いついたなら仕方が無い。
これが私の平常運転ですし。
という事で、その名称を記入欄に入力し、決定ボタンを押す前にメェ本人に確認してもらう事にします。嫌がる素振りを見せるようでしたら再度考え直すつもりです!
メェが記載内容を確認しやすいように、メニュー板を再度お腹の前辺りに下ろしてあげます。
じーっと自分の名前になる物を確認するメェ。
……私を見上げて一度頷いてくれました。おお! これでオッケーかね!
記念すべき第一歩ですので、メェに右前足を摘んで私の人差し指と合わせて、そのまま一緒に決定のメニューボタンを押す事にします。というかコレが第一歩なら今まで一歩も進んでいなかった事になるのか。
いや、きっと半歩位なら進んだ筈……そういう事にしよう。
じゃないと私の心が荒みます。
せーの! でタイミングを合わせてボタンをポチリ……遂に名前の決定を完了させました!
で、私が脳みそを柔らかくして、本能のタイミングで付けた名前ですが。
まず名称決定時に第一の素材として使用されたのが、私のアバターネームである『フワモ』の元ネタというか由来である『ふわもこ』です。
語呂というか、そのまま過ぎても駄目かなーと思って、最後の『こ』の字をきり飛ばしてスッキリさせたのが、今現在私がVRゲーム内で名乗っている名前の『フワモ』な訳です。
それで、きり飛ばしてしまった『こ』を考え中の名前に混ぜ込む事で私と仲良しさん! 何時でも一緒な一体感を得よう! という、少々意味の判らない拘りが……私の脳内に浮かび上がりまして。
その流れで、それなら折角だしメェの種族名たる『メェ』という文字も使おうと。
二つをドッキングして混ぜて捏ねて伸ばして、と軽く細工をしましてですね。
出来上がったお名前。
その名も、何か有名な策士さんっぽい名前な『コーメェ』であります!
確か罠とかを仕掛けるんですよね?
物凄い偏った知識ですけど。間違ってそうだ。
ステータスメニューに記載された『名前なし』が『コーメェ』に変更されているのを、メェと一緒にしっかりと確認しました。うん、特にエラー等出なかったみたいですね!
遂にお名前変更完了!
いやーなんだろう一仕事終えた気分になりました。
今日から君は『コーメェ』だ!
強そう! ドンドン私をサポートしてね!
私から注がれる眼差しに答える様に、フンス! と息を吐いたメェがモフッっと自分の胸の辺りを右前足で叩きます。うむ、期待しているよ相棒!
では早速、と云わんばかりに私の太ももの上から飛び出したコーメェが、何時の間にか正面の地面からニョッキしていた【薬草】を毟り取りにかかりました。
気のせいかコーメェの動きがさらに洗練され、素早くなった気がする。
……何と言うか身体のキレ? が向上したような雰囲気が。
あれ、もしかしてお名前を付けた事によってコーメェに何か変化が?
コーメェの持ち帰った【薬草】を大事に仕舞いこんだ私は、どうにかしてコーメェのステータスっぽい部分を確認できないか色々とメニュー板に向かって実験をしてみる事に。
えーっと、まずはライフやマナを表わすゲージバー表示の辺りを突いてみたり……あれ、何かピロン♪ っていう音がしたぞ?
ビックリしてビクリ! と体を震わせた私を見て、コーメェが連鎖的に驚いてミョン! と数十センチ飛び跳ねていました。
相変わらず面白生物だなー……いやソレは良いとして。
今のは何が起こった為に出た音なんだろう?
落ち着いて再度メニュー板を見回して確認しましたが、先ほどの状態を思い出しつつ見比べても妙な所は見当たりません。
あれぇ一体何事なんだろうか? と少々不安に駆られたので、何時も通り癒しを求める為にコーメェを抱えて柔らかさを堪能しようとしたのですが。
……コーメェの背中の部分に何か見覚えのある物が浮いてるんです。
それは帯状の赤い棒。
何処からどう見てもライフのゲージ。
……あーあー! さっきのってコーメェのライフ表示に何か変更が加わったっていう音?
これならメニューを逐一開いて確認しなくてもコーメェの現在ライフが確認できるよ!
ということは他のゲージも?
素早くコーメェのマナとスタミナのゲージも突いてみます。
先ほどと同じ何かの起動音っぽい音色が2回鳴り響き。
うん、コーメェの背中の上部、空中に固定された様な感じで3本のゲージが表示されています。
うわぁー、これ凄い便利じゃない!?
いやぁこんな機能あったんだねぇー!
私ってば全然知らなかったよ……うん、迂闊すぎる!
これ消したりも出来るのかな? もう一回突いてみよう……あれ?
多分予想だと同じ操作をすれば消せるのではなかろうか? と思って行動を開始してみたのですが……確かにメェの背中の所からゲージは消失しましたが、今度は私の視界? と言うか顔の正面っぽい場所と云うか……私の視線を支点として右下辺りにコーメェのライフが表示されているのが見えます。
顔を上下左右に振っても、そのまま頭の移動に引っ張られるようにゲージが追随してくるので……いやー少々奇妙な感覚です。
大きいガラス製の球体を頭に被った状態で、その内側に映像を表示させているみたいな? といえば伝わるでしょうか。
……うん、判り辛いかもしれないけどそういう感じなの。
そうなの。判って。
これは、離れていても常に視界にコーメェのライフが表示されるよ、って事かな。
二手に分かれて行動する場合はこの表示方法がいいかも?
でも……視界の端にチラチラと異物っぽいものが見えるのに慣れてなくて、凄い気になってしまいます。慣れたらきっと便利なんだろうなーとは思いますけど。
訓練あるのみなのかな。
そもそもコーメェと離れ離れになる未来を想像しただけで私の心が冷える。
毛の温かさを下さい。
勝手に自分で想像した癖に悲しみが訪れた私の心を癒す為、最初の予定通りコーメェの毛に顔を突っ込んで、何度目か判らない素晴らしく飽きの来ないフワニウム(柔軟的毛皮存在成分)補給をば。もっふぅもふふもふぅー!
コーメェの形をしたクッションとか作りたいな。きっと売れそう。
そのためにはコーメェの毛を入手しないといけないだろうけど。
あれだね、毛刈りという最終手段以外で何とか毛を入手せねば。
抜け毛とかをかき集めれば足りるかな。
まぁクッションについては後で。
今はこのあっちこっちに出現している、コーメェのライフバーの所在確認を進めましょう。今の状態はコーメェの背中と私の視界の2箇所に表示されている状態ですね。
ここからさらにメニューをポチっとすると、どうなるかな。
……あっ今度は新しいメニュー板が出現して、別枠でコーメェの現在状態が表示されたぞ!? 流石にこの表示方法だと邪魔になりそうかなぁ……例えば大量にコーメェが存在する場合とかだとこっちの表示方法が楽かも? 視界に表示させると前がみえねぇ! ってなりそうだし。
その後何度かツンツンと表示を切り替えてみましたが、最初の表示状態に戻って一から、というループ構造になっているようでした。ならばメェの背中に表示させておく状態で今の所は固定しておきましょうか。これでも十分便利ですし。
私がアレコレ思い悩みつつ試行錯誤しているときにも、コーメェは小まめに周囲の採取物を私の前に持って来てくれます。
ありがとう、ありがとう。
このまま怠け癖が付いちゃう可能性が高くなる程度には尽くしてくれる君が好き。あいらぶ相棒。
おっと、ライフその他の場所移動で危うく失念する所でした。
今はコーメェの身体のキレについて調べている最中でした!
卑劣な罠に引っ掛かった脳内予定先生は……華麗な動きで間一髪で回避行動を取り、ぎりぎり落とし穴へ落下せず穴の縁に掴まり生還なさった模様。やったね先生ファイト一発。
えーっと? この辺は触っても意味が無いからー……お名前の所を触ってみよう。
さっきまでは『名前なし』だったから、ココを触っても『名前を付けて下さい』っていう入力フォームが表示されるだけだったし。名前を決定し終えた今なら何か違う事が起こるかも。
淡い期待を胸に『コーメェ』という文字の部分を突きます。
ピン! という澄んだ音と共に追加で出現するメニュー板。
そこには『所持スキル』『従魔基礎能力』『称号』等という気になる文字がずらり。
これもしかして……【従魔】のステータス確認が出来るって事かな?
うん……改めてこうやって目の前に表示されて考えれば、そりゃ当然確認できるよね当たり前だねオフコースだね!?
というか、普通のプレイヤーさんなら真っ先に確認する所だよねコレ!?
コーメェの柔らかさと可愛さで9割9分満足状態だった私は、全く以て思い当たらなかっただけでハイゴメンナサイ!
きっと今までやってなかったのがオカシイ位には! 激しく申し訳無い!
いやしかし、あまりここでノンビリしている場合でもないですから、そうだある程度の確認だけ、凄い気になるところだけを確認させてねコーメェ!
主に見たことの無いその名称から、内容が想像できない『称号』ってのを!




