194 そして 今に 到るのです
『1話』~『194話』
ようやく到達です。
もしも、今まさに発行して頂いた【精気紋鑑定証】のカードを何かしらの理由で紛失してしまった場合は、ギルドや衛兵等に紛失報告をして再発行手続きを迅速に済ませるようにするんだぞ、とガルドスさんに念押しをされました。
うん、流石ガルドスさん私の事を良く理解しておりますね。
まぁ、至極当然な結果で、駄目な方向の意味合いでですがね!?
そう、実際に私の場合は何時の間にか気が付かないうちにカードを紛失していた!
なんていう風になる可能性が非常に高そうですからね。
灰色よりも真っ黒な意味で、とても厚い信頼を得ている私の迂闊ソウルの活発性。
もうメェに対する証明が必要な際以外は、アイテムボックスから出さない方が良いのでは。
このまま死蔵しておくくらいが丁度いいのでしょうね。
ああ、うんきっとそうだね確定だね。
「初回発行は無料だが、紛失して再発行する場合は発行手数料が掛かるから、出来れば無くさない方が良いぞ! 気をつけてな!」
「なるほど……初回は無料で作ってもらえるんですね」
私の右手に納まっている金属のカードを指差し、その後に右手の親指と人差し指でお金の意味合いであろう○マークを作りつつ、私に対してニヤリと笑うガルドスさん。
ああー止めて下さい!
そのご助言のお言葉は、激しい紛失フラグを立てるキーワードになり得ますので!
あっだめだ、もう即座に完膚なきまでに紛失しそうな焦り気分になってきた!
ダメダメ危ない危ない!
今まさに、手元からスルリと石畳の上に落ちて奇跡的に転がり、側溝の隙間に滑り落ちていくのではないか、と不安な気持ちに駆られましたので。
素早くアイテム収納を宣言してアイテムボックスへしまい込みます。
よーしよーし、これでひとまずは安心だ。次回取り出し時に気をつければ。
それにしても、帰還のご挨拶をするだけのつもりが何やら色々と大事になってしまいましたね。まぁあれです、何かしらメェについて事件が起こった後で無くて良かった、と言うべきなのでしょうか。
再度ガルドスさんにお礼のお言葉を告げた後、北門を離れる事にします。
別れ際に思い出して、今回色々とお手間を掛けさせてしまったお礼に、今度何か美味しい食べ物でも差し入れに持ってきます! と告げたのですが。
そういうのは厳しい上司に見られると危ないからいらんぞ! というお返事が返ってきました。
やっぱり、勤務中のガルドスさん相手に完全に贈り物としての何かをプレゼントとして贈呈すると、賄賂っぽい! と注意を受ける可能性が高いらしいですね。そうなんですね、うん。
お金の包みをこっそり差し出して懐に突っ込み、色々と便宜を図ってもらうみたいな印象なのかな。やっぱり公務員みたいな立ち位置なのでしょうね門番さんって。
少々気は引けますがご迷惑になると判っている状態で、無理やり贈り物しても仕方がありません。
はーい判りましたー、と了承のお返事をしつつ軽くガルドスさんに手を振って、町の中央にある例の噴水の方へと向かって、中央通りを南下します。
相変わらず人通りの多い石畳の上を進みながら、そういえば冒険中にもぐもぐし過ぎて、持参していた保存食料が尽きてしまっている事を思い出しました。お腹がヤバイ。
いかん! このままでは飢え死にしてしまう可能性が高いぞ!?
かといって一文無しの貧乏人である私には、食料を購入する術が無かったりするのだ!
何時もの調子で噴水まで何も考えずに移動して、適当にログアウトするまでアップデートについてアレコレチェックしたり考えようかなー、と思っていた矢先にこれです。
ぼけーっと行動しているからこうなるのだ私よ。計画は大事。
そうです、まずはお金、マネー、ゴールドです。
先立つ物が今は必要なのだ。
世知辛いとは言うまい、無駄遣いの真骨頂と言った所か。
自制心は大分前に旅立ったのです。
そう、生産を嗜む私は今日もお店へポーションを売りに行くのです!
腕の中で大人しくしているメェを抱えなおし、噴水前の露店地帯へと到達する前に、アイテムボックスの中で唸りをあげているポーションをメディカさんに買い取ってもらう為、途中で脇道に逸れることにしました。この時間帯なら普通にお店も営業している頃でしょうし。
すっかり道順を覚えた路地を通りぬけ進むと、毎度お馴染みな見覚えのある看板が視界に入って着ました。あー……なんだろうなー長期間始まりの町を離れていた訳ではないですが、ココに来ると何だか懐かしさと共に気持ちが落ち着きますね。コレもお店から漂うお薬エナジーの効果なのだろうか。
きっとあれだ、山岳地帯での冒険が濃い味で濃厚すぎて、胸焼けを起こしたのではなかろうかと。
当初の目的を果たすまでに、色々と想定外の出来事が山盛りで襲い掛かってきていましたからね。落ち着いたこの店構えを見るとホッとします。
両手を空けるため、またメェには尻尾にくっ付いていてもらう事にして、と。
ゲーム内では二日振り? になるポーション買取をお願いする為、お店の扉を押し開いて店内に入ります。
何時も通り、チリンと扉につけたベルが私の来店を告げる澄んだ音を鳴らして……そのベル音に続く感じで『ピンポーン♪ ピンポーン♪』という物凄い電子音っぽい、ドアチャイムとかで聞いた事のある様な音が店内に鳴り響きました。
えっ!? 初めて聴く音なんですけれど!?
何々、特殊なシステムとか作動しちゃいましたか!?
ベル音とピンポン音に気が付いたメディカさんが、チョット驚いた様子でカウンターの奥から出てきて、私の顔を見て『あら!』と声を上げてニッコリと笑顔を浮かべました。
「おかえりなさい 怪我はない? 遠出の方はどうだったのかしら?」
「メディカさんこんにちわー! 初めて遠出しましたけど凄い大変でした……でも目的は果たせましたので大収穫と言った感じです!」
ぐっとガッツポーズをして私がそう告げると、カウンターの椅子に腰を落ち着けたメディカさんが『それは良かったわ』と数度頷いた後、何か私の周囲を気にする様に左右へと視線を彷徨わせていました。
あれ、もしかしなくても何かお探しのようですか。
普段と様子の違うメディカさんが少々気になりましたが、何時も通りポーションの買取をお願いするつもりでカウンターに近寄りました所。
「あらあらー? 反応ブザーが鳴っていたのに見当たらないわね?」
「えっ!? それって……もしかしてさっきのピンポン音の事ですか?」
「ええそうよー 久しぶりに誰かが、お供連れで入店してきたと思ってビックリしたのだけれど……誤反応だったのかしら?」
そういって頬に右手を添えつつ首を傾げるメディカさん。
お供? えーっと? ……あっそれってもしかして。
私の尻尾の根元辺りにくっ付いて、物凄いリラックスした感じでのんびりしていたメェをズボっと引き剥がして両手で保持し、カウンターに座っているメディカさんの前へと差し出します。
「もしかしてこの子でしょうか!?」
「あら、そんな所に居たのね! 小さい子だから気が付かなかったわぁ」
ちょっとビックリした後に、何やら申し訳なさそうな表情でメェの背中を撫でるメディカさん。
っていうか……わざわざ一緒に入店した時に、ああいう風に警告音っぽい物が鳴る様に設定されているって事は、何か理由があるのではと思う訳で。
ソコの所が気になって、思わず恐れの表情を浮かべた私の視線に気が付いたメディカさん、入り口に張られている数枚の張り紙の辺りを指差した後に、両手をピタリと拝むように胸の前で合わせてこう仰いました。
「あのねぇごめんなさいねー 入り口横に貼り付けてある張り紙に書いてあるのだけれど、ここは薬品を扱う場所だから、基本的に連れ込み入店は駄目なのよー 見づらくてごめんなさいね」
「あーやっぱりそうなんですか! すみませんー!」
動き回って転んだりして、棚に置いてある薬品とか毒のビンを周囲にばら撒いて割っちゃったりしたら大変だもんね。ちょっとメェにはお外で待っててもらおうかな。
メェの顔を此方に向けて、ちょっとお外で待っててねーと告げると。
一度力強く頷いたメェは私の手からスルっと床に着地し、シャカシャカと4本の足を動かしてドア前まで移動すると、上手い具合に隙間に身体を捻じ込む感じでドアを押し開けて、スポッと音がしそうな感じで器用に外に退出して行きました。
メェ、なんていい感じな動きを。本当にキミは面白生物だね!?
その後、素早く入り口横に移動したメェは、ピットリとガラス張りになっている場所に顔をくっ付けて、此方をじーっと観察し始めました……うん、見てても良いから、ちょっとそこで待ってて頂戴な。
一連の動作を見ていたメディカさんから『あらー賢い子ねぇ!』という、賞賛のお言葉を頂く事に成功しました。いやホントに色々と活発的な子なんですよね。
そんな感じでメェについて色々と楽しい会話をしましてですね……いやいや違う、違うよ私!? そういう目的でお店に着たのではなくてですね! 懐具合が北方にある極寒の地の様になっている今現在の状況を、何とか打破する為にこの場に来たのだ! 気が付くの遅いよ、頑張れ私!
楽しい雑談に後ろ髪を引かれる気分ではありますが、この場は主目的をしっかりと果たす為メェ自慢の会話を終了させまして。
ココからは何時も通り、持参したポーションの買取査定ををお願いする事にします。今回は出先で沢山作成してきたので、一気に全部買い取ってもらえれば売り上げも期待できますよー!
アイテムボックス内へ大量に収納してあった各種ポーションを、数回に分けてザラザラザラーっとカウンターに積み上げます。うーん山盛りてんこ盛り。
メディカさんの買取査定終了を待ちつつ、一体今回は全部でお幾らになるのかをノンビリと期待して待つ事に。
いやぁ、流石にこの量を一気に買い取ってもらうのは緊張しますね……売れるかどうか気になるならば事前にある程度自分で確認作業をしておけば良いじゃないか、という話は置いておいてですが。
そんな私の前で、メディカさんはザラザラとポーションを手元の籠の中に選り分けて移動しつつ勘定、パチパチと計算機を叩いてお値段を算出という作業を始め……それから数分程度経過しましたでしょうか。
計算機の数字と籠の中のポーション類を見比べて確認した後、数度頷いたメディカさんが、ポーションを仕舞いこんだ後にカウンター下から硬貨を選り分け『いつも ありがとうねぇ』と、私に見える様な感じで布袋に纏めて此方に差し出してくださいました。
いえいえそんな! メディカさんこそ私の生命線ですから!
ぺこりと頭を下げて『こちらこそ、いつも買取ありがとうございます! とても助かっています』とお返事を返しておきました。
メディカさんがゴソゴソとカウンター内で作業をしている様を眺めていたら、ふと、メディカさんの年齢が気になりましたが……あー今度、さりげなーく年齢をきいてみようかなぁ……女性に年齢の話題はタブーかな……?
そんな事を考えつつ、頂いた布袋の口を緩めて中を覗き込み金額を再確認! 頂いた額なんと!
驚きの14000ゴールド! んー、いやったーぁ!
お出掛けする前と殆ど変わらない所持金まで復帰できましたよ! コレは嬉しい!
ジャラジャラと硬貨のぶつかり合う音のする布袋を、無くさないよう腰にある魔法のポーチに大事にしまいこみます。これでお買い物が出来るぞ!
さて、このあとログアウトしないといけませんし、次回ポーション作成の時に使う材料を採取している暇も無さそうです……平日はあまり長時間ログイン出来ませんからね。
折角なので、今まさに手に入ったお金で次回作る薬の材料でも購入しようか、と思案しておりますと、カウンター向こうで笑顔を浮かべつつ、ポーションを選り分けていたメディカさんが、ふと空を見上げるように顔を上げ、ゆったりと私に声をかけてきました。
「そういえばぁ……お嬢ちゃんがうちに来てくれるようになって、もう一週間くらいねぇ」
「一週間……もうそんなになりますか?」
そんな風にのんびりと会話しながら、次回ログインした時にすぐポーション作成できるように、購入するつもりである材料の棚に陳列された薬草に手を伸ばします。
購入するつもりの薬草数を確認しながら、このゲームを始めたきっかけに思いを馳せるのでした。
うんうん……思い起こせば、短かったような。長かったような。
大変な目にあった事も沢山。色々と感慨深い出来事も沢山。
色々な出会いと別れに楽しい事も、そして懐かしいメェとの再会!
うん、なんていうか濃いよ! 凄い密度が濃いよ!?
『一週間』と言うワードから導き出された様々な思い出……というにはまだ然程期間が経っていないのですが。そんな事は気にしてはイカンのです! 思い切りが大事と言う事で。
現実と倍の速度で進むゲーム世界のお話ですからね。
まぁ、そんな感じでアレコレと感傷に浸りつつ棚からズボズボと薬草を手に取りまして。
そういえば……このお店で、ポコ豆以外の普通なお買い物するの初めてだなぁー、何て思いながら、両手に抱えた薬草を購入する為にカウンターへと向かう私なのでありました。
※ お知らせとお詫び ※
本当に申し訳ありません、ちょっと十日間ほどリアルが忙しすぎて更新不可能になります(平伏
今までは微妙に何とかなりそうな感じでしたが、今回は本気で更新無理そうです(死
更新再開は7月19日になります。
可能そうならば、14日に一度更新出来るかもしれません(ほぼ無理ですが(何
いってしまえば、職場のしわ寄せココに極まれり、といった状況です(汗
暑くなってきましたので、皆さんも御身体にはお気をつけて。
それでは失礼致します。
 




