192 移動 方法 予想外!?
こういう移動方法はファンタジーの嗜み。
蛮族っぽいのはデフォルトです。
やっぱり習得Pを大事に取っておいている人は少ないのかなぁ……なんて考えつつ、取り合えず出発の準備を進める算段となりました。といっても、私が準備する事なんて殆ど無くてですね。着の身着のまま。
そもそもが最大の目的を果たしてしまった後な訳で、普通に町まで戻れれば全く問題の無い状況ですので。
メェを抱えたこの状態で、すでに完璧に準備完了! 何時でも出発できる状態といえるモードな私は、お三方が移動の準備を進めている光景を座ってノンビリと眺める事にしました。
こういうVRMMOゲームに慣れているプレイヤーさんの動き方を見て、いろいろな場所へ行くために冒険の仕方とかをシッカリと覚えていかないとね。行き当たりバッタリでその場の勢いに任せて、無い脳みそを絞って考え、そのままワイワイと行動するのも嫌いでは無いのですが。
これからはメェと一緒に行動する訳ですし。危険は少ない方が良いよね多分。
まぁメェも、危険と言うかとんでもない謎生物な気がしてきたんですけれども。
体がめり込む位柔らかいし、ポーション差し込んだら保存できて、そのまま背中に突き刺したままアイテム運搬も恐らく可能だと思うし、短い手足は謎の吸着力を発揮していろいろな所にくっ付くし。
あと原作再現(?)ですが、特定のお芋を食べるとフワフワのモコモコになると言う点も地味に謎生態ですよね。プレイヤーに対しても同等の効果があったりするかも? という可能性を考慮すると、凄まじい性能の食材なんですけれどね。
【モコ芋】はメェのサイズを増加させる食材ですから、プレイヤーに効果があるとするとどんどんプレイヤーのアバターサイズが巨大になっていくという。
いや、メェの身体サイズは急激に増えてなくて、アレは毛の分量も同時に増加していたタイプなのかな。
どっちにしても珍妙食材だという事実には変わり無いんですけれど。
この帰還移動の途中に、お芋料理に関する事をお三方に相談してみようかな?
串焼きお兄さんとお知り合いでしょうし、力になってくださる可能性があるかも!
テキパキと動きつつ、何かが入っている背負い袋の中身を整頓しているイ=ヤッハーさんを眺めていましたが……アイテムボックスがあるのに、何故に普通のリュックみたいな形状をした背負い袋を所持なさっているのか、ちょっと気になったので聞いてみる事にしました。
「あの、そのリュックみたいな袋は何に使ってるんですか?」
「うん、こいつかい? 俺達ぁ出先っていうか、町から離れた所で素材集めしてたからさ、いちいちアイテムボックスが満杯になった時戻るのが面倒でなぁ……入りきらない素材を詰め込む用に使ってんだ」
あいつらの持ってるのにも素材が沢山詰まってるんだぜ、と残ったお二方の方を指差して説明して下さるイ=ヤッハーさん。
そういえばモヒカーンさんは肩提げバックの様な物を持ってますね。
ザコーダさんもイ=ヤッハーさんが所持している様な背負い袋を持っておられます。
なるほど、言われれば当然の事。
ああいう背負えるバックみたいなのをアイテムボックスに入れて所持しておけば、溢れるほどアイテム入手して持ち帰る物を選別しないといけない状況に! なーんて言う場合の対処方法になるのか。
というか、現実なら冒険へ出るときに必要な物は、ああいう風にバック等に収納して持ち運ぶのが普通なのに……あれですね、VRゲーム内のアイテムボックスと言う便利ツールに慣れ過ぎてしまったせいなのでしょうか、普通にバックを利用して物を運ぶ! という方向へ思考が向かわなくなっていましたよ。
でもデメリットも有ってな、と言葉を続けるイ=ヤッハーさん。
たくさん物の入った背負い袋等を装備していると、何やら動きが制限されるという感じの効果が付与されるらしく。
『こういうアイコンが付くんだぜ』と、イ=ヤッハーさんがご丁寧にもステータスメニューを開いて私に判りやすく見せてくださいました。あっ本当だ!
何だかリュック? のアイコンがステータスの所に表示されています。
イ=ヤッハーさんがそこを突くと【加重状態】という表示が。
イ=ヤッハーさんの予想だと他のゲームであった加重デバフ? という物と大体同じ感じじゃないかと仰っていました。体力や筋力が高いキャラクターだと、アイコンが付かない状態で沢山の物を持ち運べる、という非常にわかりやすい感じのものだとか何とか。
私だと余り重い物は持ち運べなそうですね。
軽そうなものを背負って重いものをアイテムボックスへ、と言う風に選り分けていく感じでしょうか。色々と納得。
イ=ヤッハーさんに色々と説明を受けつつ会話しておりますと、他のお二人の準備も無事に完了したようです。それでは早速、という事で魔素迷宮へ繋がる次元の歪み前から移動を開始する事になりました。
途中で湧き水によって空っぽになっている水筒の中身を補充します。
それではさらばだ、山岳地帯と魔素迷宮!
また来る可能性はあるけれど、今はサヨナラ!
その後、ゆっくりとした足取りで周囲を警戒しながら、見覚えのある山道を下る事になりました。
私の前にイ=ヤッハーさん、後ろにモヒカーンさんとザコーダさんという隊列で進んでおります。△の頂点にお三方、その△の真ん中に私がいる感じになってます。
流石冒険慣れしている感じがして頼もしいですね!
おっとそうだ、これから危険な地帯を通過する事ですし、寝ているメェを起こして危ない時は回避行動等を自力で取れるようにしておきましょう。
歩きながら両腕で抱えていたメェを両手で挟む形で持ち直し、モヨモヨっと手の平で挟み込むように揉んで起こします。
数秒後、パチっと両目を開いたメェ、私の顔を見上げると『メ!』と鳴き声を出しつつ右前足をウニュっと上へ上げる、毎度お馴染みなお早うの挨拶をしてきました。
うむ、キミはよく寝る子だね。
寝る子は育つというし、ずっと行動していると疲れちゃうし、いざという時に活躍してくれるなら問題なしだね。
それにメェは全然軽いですから、非力な私がこうやって抱えて持ち運んでも、先ほどイ=ヤッハーさんに教わった【加重状態】のアイコンなんて付きませんし問題ないですし。
私のお腹辺りに顔を押し付けてプゴプゴ言いつつ眠っていたメェは、意識を覚醒させた後に私の腕の中でクルリと反転、正面に顔を向けて。
メェの鳴き声と、私の腕の中で唐突に蠢き始めた白い巨大毛玉に驚いたのか、足を止めて振り向いたイ=ヤッハーさんとメェの視線が噛み合います。
動いているメェを見て驚愕の表情で固まったイ=ヤッハーさん、私の顔とメェの顔を交互に見始めて。
その後、震える右手をゆっくりとメェの背中に伸ばして、手の平をモフリとその柔らかい毛に接触させました。その後、メェの背中をモミモミすること数回。
メェが不思議がる感じで首をクリっと傾げてイ=ヤッハーさんを見上げました。
おっ、メェの毛の楽しみ方を知っていらっしゃいますね!
良い手触りですよね。
思わず笑顔でモフモフと撫でられているメェを見ておりますと。
イ=ヤッハーさんが唐突に叫び声を上げて後ずさりました。
「う、うぉぉぉぉ!? な、何だこの柔らかい生き物!? なっえっと、それヌイグルミじゃなかったのか!?」
「あっはい! これ『メェ』っていう生き物? です!」
「き、聞いたことない生き物だな!? おいモヒ、ザコ! お前らこの、なんだ、柔らかいの知ってるか!?」
「いや、俺は知らねぇよ!」
「……素晴らしい毛玉っぷりだな……いや、俺も聞いたこと無いぜ」
「という事は未発見動物か……いやぁ普通にヌイグルミか何かだと思ってた……」
お三方が興味深そうに、私が抱えているメェの背中を突いたり前足を摘んだりしながら、アゴをさすって考え込んだりしております。
やっぱりキミは謎生命体なんだね。
ふわもこファームをプレイしていた私でさえ、キミの謎っぷりには驚愕しっぱなしだし。
興味津々なお三方に、メェが一体どういう感じの生き物で何処で出会った、といった感じ詳細を説明しようと思って、えっとですねーこの子はー、と話題を切り出そうとしたのですが。
唐突にイ=ヤッハーさんが『ストーップ!』と大声で言いつつ、ビシっと右手を私の顔の前へと突き出してきたので、ビックリして『んわっ!?』っと声を上げてしまいました。
なっ、何かお気に障る事でもやらかしてしまいましたでしょうか!?
ビックリして両目をパチパチしていた私に向かって、途端に申し訳なさそうな表情になったイ=ヤッハーさんが、頭をガシガシと掻きつつ『おっと、驚かして申し訳無い!』と、何故か謝罪する感じで頭を下げてくるではありませんか。
いや、何か理由があるのでしょうし、大事には到りませんでしたので特に問題ないですよ!?
大丈夫です驚いただけです! とイ=ヤッハーさんに告げて私も頭を下げます。
その後、お互いに『いやいや』と言いつつ頭を下げ合うという、何だか謝罪合戦の様な状態になってしまいました。
私達二人の横に来たモヒカーンさんが『いやいや、とりあえず双方問題無しでいいだろ!』と押し留めて下さるまでは。
バツの悪そうな表情を浮かべたイ=ヤッハーさん。
オホンとワザとらしい咳払いをして区切りを入れて……私に向かって声をかけてきます。
「えーっとなフワモちゃん、そういう他のプレイヤーがまだ発見していない生き物やアイテムなんかの情報は、俺達みたいな行きずりのプレイヤーには、あまりホイホイ公開しない方がいいぞ」
「えっでも、掲示板とかを見ると皆さん色々と報告してたり……しませんか?」
色々と調べ物をしている際に、掲示板等で沢山の情報が飛び交っていたりするのに、という疑問をイ=ヤッハーさんに投げかけてみますと。
数度頷いたイ=ヤッハーさんがあごの辺りを擦りながら、メニューを開いて操作しつつ返答して下さいます。
「ああ……まぁその手のプレイヤーは、基本的に『発見報告する事』に喜びを感じるプレイを信条としてたりするやつ等だからな。いわゆる『検証組』っていうやつだ」
「だな、他のプレイヤーが知らない様な情報は基本的に独占目的で秘匿されるのが常だ。ゲーム慣れしてる廃プレイヤーであるほど、基本はそういう傾向にある感じよ」
つまり……メェは価値のある生き物である、という事で良いのでしょうか。
柔らかくて謎が多い生態ですが、タダの白い毛玉だと思うのですけれど。
クルリとメェの向きを反転させて此方へと向け、このメェが貴重で価値がある、ねぇ……と微妙な心持ちでモフモフとメェの毛を弄っておりますと、イ=ヤッハーさんが『おっと、とりあえず移動しつつ会話しよう、時間が少ないんだろフワモちゃんは』とご提案して下さいます。
あっはい! そういえばお父さんが帰って来るまでに出来るだけ進んでおかないといけないんでした!
時間の少ない本人である私よりも気が利く、イ=ヤッハーさんは出来る男に違いない!
その後、移動しつつも道中のゴーレムは出来るだけ回避する方向で進む事になりました。
アレコレと、第一発見者の有利さとか、他のプレイヤーが知らない情報の持つ価値等のお話を聞きつつ、素晴らしい手際でゴーレムを回避&撃破していくお三方。
やっぱり鈍器はゴーレムによく効いている様で、モヒカーンさんのトゲ付き棒が炸裂しておりましたよ!
イ=ヤッハーさんの火魔法も、その名の通り火を吹いておりましたし!
『イヤッハー!』と掛け声を上げつつ杖の先から炎を噴出させて攻撃してました!
なるほど、お名前の由来が判明致しましたね!
隣で思わず私も一緒になって『いやっはぁ♪』と言って、風の魔法を発射してしまう位には楽しかったです。わー、パーティプレイ楽しいよ。
魔法を撃った以外で私がした事と言うと……何度かライフポーションをポイポイ投擲する機会に恵まれました。今後どこかでパーティプレイする際に、しっかりと回復用ポーションを投げる為の練習になりましたよ!
前に【ガイド】さんから説明で聞いたときは凄くビックリしましたが、本当にある程度なら投擲場所がずれていても勝手に追尾するというか、ホーミング瓶というか何と言うか。
そんな感じで、ポーションの色に対応した軌跡を空中に描きつつ回復対象に飛んで行くんですよ。
システムってすげぇ……と心の中で呟いてしまうくらいには有能です。
ありがとうシステム。
あとメェは私の足元で周囲を応援する役割をしておりました。
そして、何だかザコーダさんが、もの凄くメェの事を気に入ってくださった様で。
とても良い笑顔でメェの応援を受けつつ戦っておられましたよ。
流石【召喚】スキルを取得なさっているプレイヤーさんだけはありますね。
そんな感じで危なげなく山道を下る事、ゲーム内で一時間程度でしょうか。
行きに一人でヒィヒィ言いながら山道を登っていたときとは雲泥の差ですよ!
途中で何度か他のパーティさんとすれ違いましたが、他のプレイヤーと接触する際は、足元のメェを両手で抱えて移動しておいた方がいい、といわれたのでそうする事にしました。
私には『メェ』という情報の価値が、どの程度の物なのかよく判りませんからね。
先達であるお三方のご意見に従っておいたほうが安心でしょう。
でもまぁ、そのうちあの湖の周囲にも他のプレイヤーさんが到達するでしょうし、そうなったらもう気にしなくても良いのかな。
確かに山道で他のパーティさんとすれ違う際に、何か此方を凝視しているというか、酷く此方の様子を気にしている素振りを見せている感じでした。みんなメェに首っ丈なのかな! 可愛いもんね!
山道を進み終わり、麓の森に付く頃には……メェとザコーダさんが、すっかり仲良しになってしまっていました。そうそう【召喚】で呼び出したラビ君を見せてもらったりもしましたよ!
そして何やら今回のアップデートによって、強い魔物の召喚時に触媒が必要になる、という変更が入ったという事でした。
えーっと触媒って……あーそうそう強い魔法とかを使う際に魔石を消費したりするんだっけ。それが【召喚】スキルにも適応されたっていう感じかな?
今まではマナ消費のみで呼べたらしくて強すぎたんだろうなぁ……みたいな事を、ラビとワイワイ遊びながら移動しているメェを笑顔で眺めつつ、ザコーダさんが仰っています。
そんな感じでためになる知識を色々教わりつつ、森の中をスイスイと進んでいたのですが、ビックリするほど魔物と出会う事がありませんでした。
何やら先頭を歩くイ=ヤッハーさんが、ある程度の精度で敵の来る方向を察知できる? スキルを持っていらっしゃるようで、それを利用してルート構築して回避していた、と聞いたのは森を完全に脱出して街道に到着した後でしたよ。
というか、本気で行きの時より時間が掛からなすぎて驚愕ですよ!?
何だか随分久しぶりに見た気がするなぁ……なんて街道の綺麗に舗装された道を眺めつつ、ココからは道なりに進むのかな? 等と思っておりますと。
「さて、ココからは俺の本領発揮だな」
「おう、宜しく頼むぜ!」
イ=ヤッハーさんとザコーダさんが、何やら視線を合わせ頷きあっております。
その横でモヒカーンさんが、自分の装備を紐か何かで身体に括りつけていました。
うん? 一体何が始まるのでしょうか。
足元でミョンミョン飛び跳ねていたメェをキャッチして抱きかかえ、唐突に始まった何かに対しての準備を眺めておりますと。ザコーダさんが此方へと寄ってきて『吹き飛びそうなものが有ったら収納しておくといい』と仰るではありませんか。ちょ、本当にこれから何が起こるんでしょうかね!?
私の不安そうな表情を受け、ニヤリと笑みを浮かべたザコーダさんが……先ほど召喚で呼び出したラビを送り返した後に、マナポーションを一本飲み干し(あっ私があげた奴だ!)マナを回復して。
別の魔物を2匹呼び出したではありませんか。
それは山岳地帯まで来る際に馬車の上から見たことのあるフォルム。
そう、とっても大きいイノシシさん。確か『チャージボア』でしたでしょうか。
「今装備してるこの毛皮装備、コイツの素材でな。魔石もたんまり集まったから【召喚】スキルのリストに登録してある訳よ」
「なるほどー……それでこのイノシシ君達で何をするんですか?」
フゴフゴと鼻を鳴らして大人しくしているチャージボアを眺めつつ、意外と愛嬌のある表情で可愛いかもしれない! なんて思っておりましたら。
モヒカーンさんが何か太いベルト状のものを取り出して、チャージボアの身体に装着し始めました。
あれは……えーっともしかして?
ある可能性を悟り、後ろを振り返ってザコーダさんの顔を見ます。
私の何か察したような表情を見たザコーダさん、ニヤリと笑って一言。
「気が付いたか? コイツに乗って町まで戻るぜ!」
「や、やっぱりー!?」
その後、二人づつ騎乗するという事で。
何故か私と一緒になる人を決めるために、じゃんけんが開催されました。
結果、イ=ヤッハーさんとモヒカーンさん、私とザコーダさんという組み分けに。
うわぁ! イノシシの背中に乗って移動とか、映画やアニメみたいで凄い楽しみ!




