187 石ころ 石ころ 時々鱗
まだだ、まだ終わらんよ!
マージンの長いチキンレース
活用方法が判らず非常に気になっていた『ウェイポイント』という物の使い方を大体把握できた私は、とりあえず何か忘れた事が無いか確認する為に、壁際へと移動して座り込んでメニューを開きつつ、身に付けている物を今一度チェックし直します。
えーっと、湖周辺に落としてきたり放置したまま記憶を飛ばしてしまったような物は無いよね?
大体腰周りに全部くっ付けてあるので、大丈夫だとは思いますが。
……狭い所等も通過しておりませんので、何処かに引っ掛けて落としたという事も無さそうですし……うんうん、大丈夫そうです。
借り物の携帯用ランタンをなくしたりしたら大変ですからね。
今現在無一文な私では、弁償するにも時間が掛かってしまいそうですし。
そもそも、このランタンってお金で換算すると、どれ位の価値がある品物なのか把握できておりません。
もしかして実は物凄い高価な品物だったり……したりしなかったり?
その辺ガルドスさんに詳しくお伺いしておけば良かったかな、と少々後悔。
いや安物だから紛失しても問題ないとか、雑に扱っても大丈夫だね! と言いたい訳じゃないんですよ!?
準備できる保険は保険として、しっかりと用意しておきたい心持ちと表現したら良いのでしょうかね。
ええ、言い訳できる状況を確保できる材料が欲しかった、と言う事ですが。
無くすこと前提で考えているのはご愛嬌という事で。
いや使った後に放置したりはしませんし、丁寧に扱いますけどね!? 今までも雑に扱ったりしてませんし! いや本当ですよガルドスさん。
持ち物検査をしていた癖に、何時の間にやら脳内で親指を立てて良い笑顔を浮かべているガルドスさんへの、エア謝罪会見を始めてしまった私。
色々と気持ちを切り替える意味も籠めつつ、魔素迷宮内部で途轍もない活躍を見せてくれた携帯用ランタンに、燃料代わりの魔石を数個、お礼の気持ちを籠めて放り込んでおく事にしました。
これで暫くの間は燃料補給しなくても大丈夫な筈!
地味なお礼ですけれど、コレくらいしか思いつかなかった私をお許し下さいませ。
ランタンの確認作業を終えた私は、お次に暖房具の燃料状況とスイッチを確認します。
うん、こっちも大丈夫そうだね。
そういえばこの暖房具って、今現在フードに半身をスッポリめり込ませて私の首元を前足でホールドしつつ、気持ち良さそうに眠ってしまっているメェにも効果が有ったりするのでしょうか。
メェがドッキングしている場所が場所なので、岩壁にもたれ掛かって作業しているこの状況だと、メェの存在が頭の後ろを支えるフワフワ枕、みたいな状況になってしまっていますが。
モヨンモヨン! と岩壁と私の後頭部に挟まれつつ、柔らかい弾力が返ってくるこの状況でも……全く目を覚ます気配を感じさないメェ……頑強だね君も。
そうそう、それで暖房具の話ですが。
私だけにしか効果のない装備品です! みたいな判定なのかどうかが問題で。
そこの辺りが私、物凄く気になります。
メェを両腕で抱きかかえたり、今の状態のようにフードの中に入ってきている状態なら、ちゃんと一緒に効果範囲内に存在している事になって、フンワリ温まる事が出来たりするのか。そうじゃないと、気温の低い場所に冒険へ行ったら、メェだけに寒い思いをさせてしまいますから。
これからも、何かと気温が低い場所へ冒険に行ったりする機会もあるでしょうし、その辺もちゃんと実験したり、詳しくゲイルさんに聞いて見たりするほうが良いかも。暑いのとか寒いのは辛いからね。
……まぁこれは覚えていたら質問する感じになりそうです。
状況が差し迫った時に思いだして頭を抱える事になりそうかなー? と何となく想像できてしまう程には、質問し忘れポイントを加算していっている私です。
他の事に気を取られているとついつい後回しに、ね?
基本は不可抗力なので、根本的な解決へ向けて邁進しないと駄目ですね。
あっそうだ、一応メモ帳に書き込んでおこう。
と言うか、こうやってメモ帳の存在すら時々忘れている状態なので、記憶力に対する不安指数が右肩上がりなんですけど。
次々に襲い掛かってくる、予定に含まれない不確定な出来事のせいだと信じたい。
ゲームプレイ自体は物凄く楽しいから全然良いのですけれど。
あれです、他のプレイヤーさんから見た私のプレイスタイルに対する印象はさておき。
見なかった事にしてね、とも言います。ワタシハ ナニモ ミテイナイ。
それに、一番確実な情報入手の手段として確立されている、プレイ期間の長い玄人な情報通のプレイヤーさんに質問する! と言う手段も、サービス開始されて数日なこのゲームでは選択出来ませんし。
……他のVRMMOでの、基本的な知識みたいな物は沢山ご教授してもらえるとは思いますけれど。
魔素迷宮で出会った方々との会話みたいな感じですね。
皆さん魔素迷宮攻略捗っていらっしゃるだろうか。
やっぱりこの辺も、公式の掲示板でアレコレする感じにしたほうが良いのかな。
でも、実践せずに知識ばかり詰め込んでしまうと、プレイが楽しめなくなりそうで少々不安でもあるのです。
初心者の癖にそんなこと考えても仕方が無いだろう、というご意見が殺到しそうではあります。あれですね、何事も程々が一番ですねきっと。
ブチブチと小声で独り言を口からつむぎ出しながら、何時も通り特に実りの無い思考を脳内で捏ね繰り回しておりますと。
何時の間にかメニュー表示に、例の温度計っぽいアイコンの『寒いですよマーク』が出現していたので、急いで暖房具のスイッチを入れました。
そっか、山の中腹に戻ってきたから気温が下がってるのか。
肌で寒さを余り感じないから、ついつい暖房具のスイッチを入れるの忘れてしまいます。暑さや寒さに対してのお肌感度等は何処かで調整できるんでしょうかね?
いやでも正直、このまま全然肌で感じることなく過ごせた方が良いとは思うんです。
ゲームなのに寒さでブルブルするのも嫌ですし。
でもこう……丁度いい感じで上手い具合に、ちょっと寒い所に行ったら『あれ、肌寒い?』位の感じ方を出来る調整を施せないものか、と少々考えてみた訳で。
えっ初心者の癖に玄人が施しそうな敷居の高そうな調整をするなと?
それを言われてしまうと全力で同意するしかない訳ですが。
下手にそういう場所を弄ると、もとに戻せなくなりそうでも有りますからね。
おっと、いかんいかん!
何か一つを気にし始めると、次の作業が進みません!
メンテナンスは恐らくゲーム内で夕方に始まるだろう、と見当をつけておりますので、今現在の日の高さならば暫くは問題無いのは判っているのですが、あまり無駄に考え込んでいたらすぐに制限時間が来てしまいます。
でも、メンテナンス前と判っているのにゲーム空間に居座っているというこの状態……んー何でしょうかね、妙な緊張感と言うか左胸の辺りがドキドキと言うか。
悪い事をしている訳じゃ無いと思うのですが、この落ち着かない気持ち。
ゆっくりと天井が降りてきている小部屋に取り残されている心持ち、と言いますかね。
同時にワクワクしてもいる妙な高揚感。
ふわもこファームでもサーバー機器メンテナンスは行われていましたけれど、こうやって運営とプレイヤー間で行われる、ギリギリの鬩ぎ合いみたいな状態を楽しむ様なプレイをした事はありませんし。
と言うか、普通ーに魔素迷宮への次元の裂け目前にプレイヤーさんが沢山居るんですよね。思い思いの状態で何か作業していたり会話してたり。
あーそうか、私が自分勝手に周囲のプレイヤーさんとの謂れの無い一体感を味わったりしているのが理由なのかもしれません。
このパーティプレイと言うには遠く、無関係と言うには近いこの距離感が。
チョットはなれた所で数人で地面に座り込んで円陣を組むような感じで、ワイワイ話し込んでいるプレイヤーさん達から聞こえてくる『メンテが明けたら速攻ログインするぜ!』とか『アップデートで何が追加されるか楽しみだな』という会話を聞きながら、後頭部で寝ているメェの弾力を頭で楽しみつつ後何かする事が無かったか考えます。
ああ、そういえば……湧き水のあった辺りでポーションを作っているプレイヤーさんが居たなー、と思い出しました。
メンテナンス後にログイン出来るタイミングが何時になるか判りませんけれど、ゲーム世界に戻ってきたらそのまま下山して町に戻るつもりですので、メンテナンス開始まである程度残っている時間を活用して、各種ポーションを作っておきましょうか。
町に戻ったら、すぐメディカさんの所へお伺いして買い取ってもらうのだ。
そうと決まれば、こんな壁際で頭を前後に動かして後頭部のメェをモヨンモヨン! とさせている場合じゃありません。気合を入れて動きませんと!
立ち上がってお尻の辺りを両手でパタパタとはたき、細い通路を抜けて湧き水が出ている辺りまで移動します。このタイミングでも湧き水の近くで何やらポーションを作っている方々が結構居ますね。
これなら今から私がポーション作成作業に参戦しても、目立たないで済むかな?
丁度湧き水の左側辺りが空きスペースになっていましたので、そこでポーション作成を開始する事にしましたが。そこで思い出したのです。
そうです、私のアイテムボックスは石ころでパンパンなのでした。
今ココで材料からポーションを作ったら、確実にアイテムボックスに収納し切れなくて、ゴロゴロと周囲に溢れ出てばら撒いてしまう!
【薬草】や【魔力の花】などの材料は、大体10個毎に纏まって収納してくれるタイプなのですが……ポーションはどれも一個でアイテム欄を1枠使うという、つまり使用容量が10倍に膨れ上がるタイプなのです。有体に言うと面倒くさい!
仕方が無いので、人気の無い崖の辺りまで移動してから、みっちりと詰まった石ころを選別する作業に入ります。
うわぁやっぱり凄い量ですよ。
あの時は調子に乗ってワッハッハと笑いながら大量採取していたけど、悪乗りしすぎたかなぁ!?
いや、何か貴重品が紛れ込んでいる可能性もあるし、一概にあの作業を否定する事も出来ないかも知れなくも無いかもしれないけど流石に無いか。あれ、何が無くも無いんだっけ、いやそんな事はどうでも良いのだ。
崖際に近寄り過ぎない程度に接近した私は、流れ作業の様な感じで1枠10個に纏まっている【石ころ】を選別する作業に入ります。
んー全部石、コレも石ーこっちも石。
これはー石。そんで石で。あっ石だ。
……うわぁコレは予想以上にタダの【石】が多い。
ポイポイと必要の無さそうな普通の【石】を崖の下へと転がして落とします。
下に魔物が居たら申し訳無いが、上空から降り注ぐ【石】の猛威に震えてくれたまえ。
多分大したダメージにはならなそうだけど。
本日の天気、晴れ時々石みたいな感じで。
プレイヤーさんが居たら……コレはアレです、何だっけコラテラルダメージみたいな?
使い方が間違っていそうな感じですが、ニュアンスを汲み取って頂ければ理解していただけると信じます。
だって適当な場所に積み上げると邪魔になっちゃいますし。
……崖の下なら崖崩れでもあったかな? で済まされる可能性が高いですからね。
一定のタイミングでアイテムボックスから取り出される石ころを選別、そこから崖の下に不必要な【石】を転がして捨てる作業。
何だかリズムゲームみたいだなー、何て思いながら黙々と無機物との対話を進めながら選別する作業を開始してから……大体10分少々経過したでしょうか。もうチョット経過していたかもしれません。
アイテムボックス内部が大分スッキリとしました。
間違えて、必要そうなアイテムも単純作業からの思考停止状態で放り投げてしまいそうになり、気が付いて慌てて停止するという事も数度。
そして手元に残った物は、何やら石ころとは確実に雰囲気の違う小さい粒々のものが数個と、属性石っぽい破片が幾つか。
あと何故か判りませんが、何か小さい生き物の牙や爪っぽい物体が幾つか。
そして恐らくは、何か大きな魚介類の鱗のようなものが一つ紛れ込んでいました。
私の手に載せると手の平が完全に見えなくなる位の大きさの奴が。
と言いますかですね。
何が理由でこう言う完全に石っぽくないアイテムが【石ころ】判定で紛れ込んでいたのだろう? という疑問がですね?
あれでしょうか、何も考えず適当かつ大胆にガバーっと掬い取って流し込んでいたのが原因なのかな。
しっかりと一つ一つ物体を視認して確かめる、っていう作業が大事なのかもしれない。
奥深しVRMMO……侮れませんね。
でもコレはコレで、アイテムくじ引きをしている様な気分で楽しいです。
コレならば、くじ引きに掛かる必要経費は基本的に私の労力だけですし。
こう地味なのですが、沢山の未確認なアイテムを溜め込んでから一気にチェックして、そこから有用なアイテムを探す作業……意外と好きかもしれない。
効率はとても悪いと思います。だがそこが良い。
きっと崖下に石の山が出来ているだろうなー何て考えつつ、手に入った普通の石とは違うアイテム達を確認する作業に入ります。えーっとどれどれ。
小さい粒々のアイテムは【金属の欠片】という物で、多分これも詳しい人に見せないと詳細が判明しないタイプかな?
属性石の破片っぽいものは、そのまま【水の属性石 破片】という何とも判りやすいというか。これは詳しく調べなくても何となく判りますね。
多分魔力を籠めて投げると水の魔法っぽい効果が出ますよ。
牙の方は【戦魚の牙】という名称でした。
何やら強そうな名前ですね。
メェ釣りの時には手に入っていないアイテムですので、浅い所には居ないタイプのお魚魔物なのでしょうか。こう、根元から先端までグリっと鋭く細くなっている感じで、先っちょが物凄い鋭さです。
どこからどう見ても牙! っていう見た目。
大きさは数センチ程度かな。
私の人差し指と親指で保持できるくらいのサイズです。
人差し指に尖っている所が刺さりそうで怖いですけど。
コレは何かしらの理由で歯の持ち主がお亡くなりになったのか、新しい歯の入れ替わりで抜けた、とか言う感じなのかな。
いやでも、拾わないアイテムって一定時間で消えるよね?
魔物の素材はまた違うのか……それとも、畑の作物とかと同じで誰にも一度も取得された事の無いアイテムだから、あの場所にずーっと残ってたとかいう理由なのかな。
アイテムの仕様が簡単そうで難しい。
落ちたり捨てたアイテムが一定時間経過で光になって消えてしまう、と言うのは知っているんですけど。
なら家具やら展示物はどうなっているの? という疑問が湧き上がってきますし、ルールが難しい。
まぁ私に係わり合いの無さそうな事柄について、一々思い悩んでいても仕方がありませんので、次のアイテムを確認する作業へと移りましょう。
爪っぽいアイテムは【戦魚の爪】でした。
……ええぇー? 何故にお魚っぽい名称なのに爪があるんでしょうかね?
お手手が付いてるんでしょうか。
それは魚類なのか。両生類だったりするのかな。
いやまぁゲームに登場する魔物ですし生態系とか云々、なんて言う疑問は持っても仕方が無いのかもしれませんけれども。
魔法的なアレで生活している感じなのだろうか。
器用に手を使って餌を摘んで食べたりしているのだろうか。
もしかしたら藻とかを摘んで食事しているかもしれない。
あっそういうので想像すると、ちょっと愛嬌があって可愛いかもしれない。
いや騙されるな私、あの鋭い牙を持つ相手だ。絶対肉食だ。
あの二つのアイテム形状から察するに、どう考えても普通に泳いでいる魚と言うより、爬虫類のワニっぽい見た目を想像してしまいますね。
まぁ今後も戦魚とやらに出会わない事を祈りましょう。
お友達になりたくないタイプです。
最後は、やたらとサイズ感のある鱗の様なアイテムですね。
というか多分鱗で正解だと思うのですが、何度見ても鱗一枚がこの大きさだと、鱗の持ち主さんの身体サイズがヤバイのですが。
だって私の手の平ってそこまで大きくないですけれど、手に乗せたら完全に手が隠れるって凄くないですか? そうそうあれだ、学校で使ってるノートを手の平に乗せてる見たいな感じです。
これ鱗じゃなくて鱗っぽい別の何かっていう可能性もあるし、一概にヤバイと決定付ける訳にも行きませんけれど。でもまぁ兎にも角にもアイテムボックスへ投入してアイテム名の確認だ。
……うんうん【魚竜の鱗】ってなんでしょうね?
……ええええ!? まさかドラゴン!? ドラゴンの鱗なのコレ!?
※ お知らせ ※
えー、前に『6月明け辺りまで月曜日は更新がお休みになる可能性が高いです!』
と、アナウンスさせて頂きましたが。
7月中も、そうなりそうです(白目
自分とは関係ない所から色々と厄介事が流れ込んできて、時間が削られる(汗
申し訳ありませんが、どうぞご了承頂けると幸いです……(涙
あと何時の間にか、総合評価Pが30000突破しておりました(驚愕
評価、ブックマークどうもありがとうございます。
なんともありがたい事です。
書きたい事も色々ありますし、頑張って更新しますのでご贔屓の程を。
それでは駄文失礼致しました。
 




