184 キミ と 私 で 一緒にね
シリアス……シリアス?
そう、きっと、ここから始まる物語。
アレな一人と一匹の。先行き不安。
どうにかこうにか、無事に例の特殊食材である【フワ芋】を入手した私は、この場所で過去生活していた方に少々申し訳無いのですが、この荒れた畑を掘り返す作業を継続する事にいたしました。
流石に3個では心許無いので、追加のお芋が欲しいのですよ。
先ほどの激しい投棄作業で背後に積みあがった石塚に近寄って言ったメェが、そのまま天辺まで登ったり、勢いを付けて突っ込んでズボォ! っと石の塊にめり込んだりして遊び始めた光景を横目に納めつつ、必要なさそうな雑草を処理しながら畑を確認して行きます。元気だねぇ君も。
家庭菜園と言うには、少々サイズの大きい印象を受ける畑のサイズでしたが、残っていたお芋植物は数本程度。
このどれかが【モコ芋】である事を祈りつつ、先ほどと同じ様に気合を入れて引っこ抜きに掛かります。
今現在の私って、誰かに見られていたら畑の作物を荒らす盗人ですよね。
もう大分昔に、ココで暮らしていた人は居なくなってしまっている様なので、そこの所はご勘弁していただけると幸いなのですが。
もう畑の作物と言うよりは、自然に自生している芋植物みたいな雰囲気ですし。
活用させて頂きますので、お許しくださいね! という念を籠めて、崩れ果てた家屋の方を眺めながら2本目のお芋植物を引き抜きます。
今のところ採取出来ているお芋は全て【フワ芋】ですね……もしかして【モコ芋】の方は全滅していたりする可能性が? いや、まだ2本残っていますし絶望するのはそれを引き抜いてからで!
ジャラジャラと音を立てながら、石塚を半ば転がりながら滑り降りて楽しんでいるメェを尻目に、3本目と4本目の植物を連続で引っこ抜きますと。
4本目の植物から遂に採取できました!
あーこのお芋の色! あからさまに食べ物じゃ無さそうなこの感じ!
えーっとですね【フワ芋】が赤いお芋だからなのでしょうか……対になる食材である【モコ芋】は、余り食欲を誘わない鮮やかな青い色なのです。寒色系です。
見た目的には何か、こう、粘土とかで作られたような印象を受ける色合いで。
激しく作り物感が半端ないですね。
『ふわもこファーム』をプレイしていたあの頃は、このお芋の色合いなんてソコまで気にした事は無かったんですが。こうやって造詣がリアル寄りと言うか、キッチリと表現されている状態で手に持って見比べてみると……何だろう、ゲームの消費アイテムだ! っていう主張が凄いですね。赤と青の芋。
右手に【フワ芋】左手に【モコ芋】を持って交互に眺めます。
んー、改めてこうやって太陽の下でしっかりと眺めますと……非常にアレです、お店で売っている形の良い普通のサツマイモに、赤と青のペンキをぶっ掛けたみたいな色合いですね。
でもコレ、皮をむくとちゃんと普通のお芋な色合いなんですよ。
『ふわもこファーム』基準なら、ちゃんと食べれる筈なんです。
何とか手に入れることが出来た【モコ芋】を、しっかりとアイテムボックスへと収納して保管します。これでメェの成長に必要なアイテムが両方揃いましたね!
後はこの世界でメェがどの様な形で暮らしていけるのか、そこをこれからの生活でゆっくりと確認してきましょう。
意外と色々な特殊能力を所持している感じなので、一緒に冒険していても何かと助けになってくれるかもしれません。まぁ一番期待しているのは、私の心に対する癒し能力なのですけどね。
雑草の処理やお芋の収穫を終わらせた畑は、すっかりと更地になってしまいました。
左右に雑草の山が築かれていますが、これは放って置いても大丈夫でしょうかね。
私が一回手を加えて引っこ抜いた事で……恐らくですが、喩えるなら【雑草】という『アイテム』として存在している状態なのでは、という予想をしております。
流石にただの【雑草】を持って帰る訳には行きませんからね。
じゃあ何で大量の【石】を持って帰るのだ、と言われるとチョット困るんですが。
このアイテムボックス石塗れ状態は、私の心に鎮座している【面倒くさい】という心が招いた不祥事ですので。
そうそう、それで【雑草】がアイテムなのであれば、先日取得されず地面に放置されていたアイテムが消失したように、この【雑草】も私が取得せずに放置しておけば、10分程度で七色の光になって消え去るのでは? と予想した訳です。
そうならなかったとしても、萎びて枯れ草になる筈ですし大丈夫かなとも思います。
さて、ココですべき事も果たした様ですので、次に何をするか決めなければなりません。
どうせ帰り道も判りませんし、このまま目的地も決めずに移動しまくって、未だ見ぬ様々な新素材を発見する為に冒険を続ける、という勢い任せの行動基準で活動しても良いかな? とも思うのですが。
こう、最後の悪あがきみたいなモノだとは思うのですけれど……上手い具合に戻る為の道が見つかるかも! という一縷の望みと言うか、万が一の可能性を考慮して、南に広がっている山岳地帯へと逆戻り移動してみようかなと思います。
恐らく予想では、ゲーム内で後数時間程経過した辺りでメンテナンスが始まってしまうと思いますので、ソレよりも少し早めのタイミングで切り上げ、データの安全の為に少々危険がありそうですが、外でのログアウトを敢行する予定です。
いや、今ならきっとメェに宜しくお願いすれば、ログアウト時に周囲の警戒をしてくれる筈ですし、普通に強行ログアウトするよりは安全、かな?
先ほど魚釣りの様なモノを楽しんでいた時も、水中の深い場所から突っ込んでくる魚や、背後から音も無く滑ってくるように死角から迫り来る魚に対しても、その回避や吸着反応は物凄い機敏な感じでしたからね。
戦闘テクニックとしては、絶対に私よりも動けていると思います。
メェ先生と呼びたいくらいです。
きっと、何かしら五感のどれかが鋭敏だったりするのかもしれません。
うーむ流石はメェ! きっと今後も素晴らしい活躍をしてくれる事でしょう!
期待感が高まってきました! 何より手触りが最高ですし!
これからの楽しいメェ生活を想像して、思わずググっとコブシを握り締めつつ力強く頷きながら、仰向けになってお腹の上に石ころを乗せて、ボヨーンボヨンと弾ませて遊んでいるメェを眺めて和みます。
いやー器用な遊びをするねぇ君。
上手い具合に角度調節して連続バウンドさせていますよ。
と言うか、その足をビシっと揃えて、その丸い身体で器用に仰向けになってる君のポーズが、何とも見た目的に面白すぎて無意識に顔が笑顔に変化しますよ。
きっとメェを眺めてニヤニヤしている私は、傍から見ると凄まじく怪しい存在だと思いますデス。
良いんです、そう心の潤いなんです。
ラティアちゃん成分を大分補給していない、私のひび割れたハートに染み渡る乳液です。
お肌活性化のコラーゲンの様なモノです。
いやまぁ、実は私ってお化粧した事は無いんですけど……はい、コラーゲンだの色々と適当言いましたゴメンナサイ。
いや、カサカサお手手にクリーム位は塗った事はありますよ!
……いや、ハンドクリームは多分化粧品じゃないですね。
医薬品ですねきっと。うーむ、区分けが難しい。いや難しくは無いのかな。
アゴを擦りながら首を捻りつつ……作業の間、私の邪魔をしないように大人しく一匹で遊んでくれていたメェをお迎えに行く為、先ほど作った石塚へと歩いていきます。
私の接近に素早く反応したメェ、お腹の上にあった石ころを毛の弾力を用いて絶妙な角度で石塚へと飛ばし、そのままの勢いで跳ね上がって上下反転、スタっと着地した後に此方へと歩み寄ってきました。
うんうん……何と言うか君って、多分というか確実に、歩くより弾力で跳ねながら移動した方が多分早いよね?
これってもしかしなくても【フワ芋】を与える事によって、移動速度や防御力みたいな柔らかさで判定されてる可能性の高い能力の部分が、軒並みドンドン向上するんじゃないかな?
町に戻ってからメェにお芋を与えるのが楽しみですね。
その為には、私が何か手段を用いてお芋を加工せねばならない、と言う緊張の冷や汗が吹き出す案件は横に置いておいてですが。
そうだ! 何とかして、あの私の中で一番ナイスガイなお料理プロプレイヤーである、串焼きお兄さんに芋加工をお願いできないでしょうかね!?
お料理代金を納めてお願いしたりは……うーん図々しいかなぁ。
……いや、屋台で何か購入する際にアッソウダ! ジツハデスネー! 見たいな感じで……そう、軽ーいお願いなんですーと言う雰囲気で、お芋料理の話題を振ってみようかな!?
うん、そうしよう! ソレが良いです!
請け負ってくれるかどうかは別として、手段としてはソレが一番安全安心な気がしますし。あのお兄さんならば、ぱぱーっと鮮やかな手際で美味しいお芋にしてくれる筈!
普通に焼き芋とかで大丈夫ですのでね!
うん、心配事が一つ片付いたので少し気が軽くなりました!
他力本願にも程がある解決っぷりですが、これ以上無いだろう、という解決法でもあります。
いろいろと吹っ切れた清々しい心持ちで目を閉じ、きっと上手くいく、と念じる様に一人深く頷きます。
私が一人でアレコレ悩んでいる様が気になる様子で、私の足元で此方を見上げていたメェを、しゃがみ込んで両手で抱きかかえ持ち上げ、そのつぶらな瞳を見詰めつつ、心配要らないよ、と語り掛けます。
うむうむ、大丈夫大丈夫! 私が一人でアレコレ考え込んでフリーズするのは何時もの事だからね! 中の人に何か一大事が起こった訳じゃないから安心して頂戴な!
メェからの反応は、判った様な判らなかった様な……と言う風の微妙に首を傾げつつ頷く感じの返答でしたが、まぁ良いでしょう。これから長い付き合いになるのですし、そのうち私の行動パターンに慣れてくれるはず。
さて、それでは駄目で元々という心持ちで、例の見づらいマップメニューを開いて、何か帰り道に繋がる手がかりが発見出来ないか、細かく調べてみましょうかね。
石塚を横目に廃屋のほうへと戻りつつ、メェを左手を使って小脇に抱きかかえて柔らかさを楽しみながら、右手でパパっとメニューを開いてマップを表示させます。
えーっと? あー……縮尺を一番小さくしても、湖の端とさっき釣りの様なモノを楽しんでいた場所辺りまでしか確認できませんね。ココまでは予想通りですので諦めもつきます。
次は縮尺を大きくして、今現在私が立っている廃屋の辺りを確認します。
きっと……ここにこうやって、今は崩れ落ちてしまっている状態ですが、畑や建物があったのですから……何かしら細くても道が存在するのでは、と思っているんですが。どうでしょうか。
右手でマップメニューを操作して、ググーっと縮尺を限界まで大きくします。
すると、崩れてしまった建物辺りに……何やら場所の名称が表示されている事に気が付きました……そこに書いてある文字を見て、改めて周囲を見回します。
うんそうだね……アソコにお芋2種が植えられていた形跡があった辺りで。
もしかしたら? とは思っていましたが。
そこに。眼前にあるマップに表示されている廃屋の部分に。
……『ファーム跡地』という記載がポツンと一行。
うん……改めてこういう表記を見てしまうと、心に去来する少し寂しい思いと共に、改めて思い出されてしまう事が。
この素晴らしいゲームで、こうやって何かの因果でメェと出会えた事は……本当に嬉しい出来事です。
でもやはり、私の愛した『ふわもこファーム』は『終了』してしまっていると言う事。
それがこの一行で私には否応も無く理解できてしまった訳で。
……いや! 違うよね! 私の『ふわもこファーム』は!
ここからもう一度、再開するんだ!
違う形でだけれどもきっと大丈夫!
この子と一緒に、これから沢山楽しく冒険できる筈!
様々な思い出を胸に秘め、決意も新たに両手でガッシリとメェを掴んで持ち上げます。
これから私達の伝説が始まるんだよね……多分!
まぁ伝説とはいえなくても!
面白おかしく、楽しく和やかに!
何時でも一緒に! 笑顔で行こう! うん、改めてよろしくね!
私が色々な思いを籠めて、顔面をメェの背中にめり込ませつつ顔を左右に振ることで肌触りを強化し、溢れ出んばかりの合法フワニウム(柔軟的毛皮存在成分)を過剰摂取して、元気を回復しておりますと。
メェの右前足が、私の左手をポンポンと叩いているのに気が付きました。
ふむむ? なんだろう、何かあったかな?
フワニウム(柔軟的毛皮存在成分)の摂取を中断して顔を上げると、メェの短い右足が表示しっ放しにしていたマップの方へと向いていまして。
ん? 何かマップにおかしい所でも有るのかな?
あっそうだ、このファーム跡地にチェックマークを付けておこう!
こうやって指で突いてと。
よし、これでこの場所にもう一度来る必要があった場合、移動中にこの場所の方角や位置が確認できるぞ!
丸いマークが表示されたマップを確認して一度頷き、今度はメェが指し示している辺りを確認してみます。
んー? なんだろう?
マップの左上の辺りに点滅しているボタンがあります。
あれー? このボタン、マークさんと馬車で移動している際にマップ確認した時は無かったですよ? あの時は結構ジックリとマップ確認しましたので、間違いないと思います。
それに魔素迷宮内部でもなかった筈です。
あの時も頻繁にマップを確認していたので、これも確実だと思います。
その見覚えの無い、四角いボタンに描かれていたのは何かのアイコン。
多分……良く見る扉の絵かな?
あの上が丸い感じになっている、何処からどう見ても扉! っていう感じの物です。
ご丁寧にドアノブっぽい点まで付いてますので、非常に判りやすいですね。
メェにコレが何なのか判る? と質問してみましたが、首が横に振られました。気になる物があったから教えてくれた感じなのかな。流石メェ、色々と私の気が付かない部分に反応してくれますね!
これ見よがしに点滅しているとか、どう見ても『俺をその指でビシっと押してくれ!』という主張だと思いますので、ご期待に沿う形で右手人差し指をそのボタンに伸ばします。
私の行動をメェが見守る中、ポチリと押されるボタン。
その後、音と共に出現したメニュー板には『ウェイポイント設定メニュー』という一文が記載されておりました。
……あれ? なんだっけ!? えーっと何処かで見たんだけど!




