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181 これは 釣りなの? 釣り だよね?

これは きっと 多分 釣りだ。

恐らく 釣りに違いない。

 足を動かして移動しながらプカプカと良い具合に浮いた状態で、顔を動かして周囲を見回し水面を滑るメェの勇姿を眺めつつ、何とも当初の予定と大分変わってしまった魚釣りを開始します。


 先ほど試しに釣りをやってみようかな? と思った時点で考えていた魚釣り方法は、そもそも釣り針っぽいお魚の口部分に引っ掛ける部分が存在しない状態なので、餌に食いついたお魚を釣竿で引き上げる従来の『釣り』では無く、おびき寄せ漁と言うか違う意味での『釣り』と言いますか。


 奥の方に餌を投入してから、私の攻撃が届く岸のほうへ引っ張りつつ魚をおびき寄せてから、倒していく作戦だったのです。


 水際部分は大分浅瀬っぽい深さになっているので……多分この辺りまで魚を誘導できたら、直接攻撃的な釣り上げが可能だと判断した訳ですね。


 まぁ……有体に言ってしまいますと、浅瀬まで近寄ってきた魚に対して、靴を脱いで入水した後にこの棒を食らわせる! という強引な方法を繰り出すつもりだったのです。


 それか、先制攻撃風味で魔法による一撃をビシリと加えても良かったですね。


 でも、予定に無かったメェの餌志願が発生した時点で、そりゃ当然の結果と言わんばかりに色々と変更を余儀なくされてしまった訳で。


 まず、あのサイズのメェが食べられてしまう様な魚か魚型魔物が相手だと、正直浅瀬部分に乗り上げてくれるか判らない程の大きさだと思うわけで。


 そもそも、ソコまで巨大な魚野郎さんがこの湖に存在していてくれているのか。

 そこのところが一番の問題なのですが。


 中央部分は水の色合いが濃く見える感じで、そのあたりは大分深いのでは? と感じますし……もしかしたらですが、その中央部分辺りに超巨大魚型魔物が存在してくれているかもしれません。湖の主的な何かが。


 まぁ、大部分は私の勝手な望みですが。

 むしろそんなのが釣れても正直困るんですけどね。強そうだし。


 とりあえず岩に座った状態で、この辺りはイモムシ君が点在する程度で危険も無さそうな一帯ですが、一応ある程度周囲に視線をめぐらせ、危険な魔物が寄って来ていないか警戒行動をしつつ……色々とやる気満々で水面をチョコチョコ滑って移動しているメェを観察します。


 果たして、この後どういった状況になるのか未だ見当が付きません。


 あのようにやる気を出しているメェは可愛いので、ご主人様である私と従魔のメェによる画期的見た目の水遊び! だと思えば、このまま釣果が0でも正直問題ないのですが。


 それにしても、釣竿の糸の先にメェが括られてワキワキ動いている様は非常にシュールですね。その動きも私から見たら可愛らしいですけど。


 アバンギャルドな釣りを開始してから数分程度経過したでしょうか。

 ピヨピヨと小鳥達が囀る環境の中、すがすがしいそよ風が吹く湖のほとりで岩にお尻を預け、非常ーにマッタリと時を過ごしていた私の視線の先で。


 突然メェが何やら水面を滑る以外の行動を起こし始めました。

 うん? 何かあったかな?


 ピタリと動きを止めたメェの視線は水中に向けられている様です。

 何かが起こる予兆かもしれませんので、しっかりと両手で釣竿を握り締めなおし、ジッと待つ事10秒程でしょうか。


 水中から昇ってきた黒い影が、メェに向かって凄い速さで迫ってきました!

 大きさはメェの数倍以上はありそうです!


 でも流石に、釣竿の先でやる気の表情を見せるメェを、そのまま一口でモグモグってしまう事の出来る程の身体サイズは無さそうです。


 コレはおびき寄せるために釣竿を引っ張った方がいいかな!?

 うーん? どうなんだろう!?


 そんな私の心配を物ともしない様子で、ついには水面近くまで近寄ってきた黒い影改め、大きいお魚からの水中体当たり攻撃を、メェは水面を滑って華麗に回避。

 ……その短い4本の足を使って、ガッチリと相手の背びれ部分をホールドしたではありませんか。


 ちょ! その動き凄いね!? 水面滑るの慣れてるの!?

 あと、スクラップ置き場とかで見かけるような、磁石つきのクレーンみたいな感じですね!?


 グイグイと魚からの抵抗を感じつつ、とりあえず釣竿代わりの枝を持ち上げて、メェが絶賛牽引中のお魚を吊り上げに掛かります。


 結構激しい動きで、魚が私のひっぱりに対して抵抗している様なのですが……がっちりと魚の背中を四肢でホールドしたメェの方はと言うと、剥がされるような素振りを全く見せておりません。


 どれだけ吸着力凄いの!? 何なの特殊能力なの!?


 釣り糸代わりに使っている弾力の強い虫の糸を、結構振れ幅が強めな動きでビヨンビヨンと伸縮させながら引っ張り、強引に水際までお魚を牽引する事に成功しました。

 もう後半は、釣竿を引っ張って持ち上げるというよりは、私自身が岩から腰を上げて後ろに下がっていくという感じになりましたが。


 まぁリール部分が存在しませんので、本格的に魚を相手に釣り上げ行為挑戦状態となると、こうなるのは何となく予想できていたのです。問題ないのです。

 それにしても大物だなぁ! 一メートル位あるんじゃない? あのお魚。


 釣竿を一旦地面に置いてから、水際の地面でビチビチとその全身を躍動させ跳ねている魚に近づきますと……その背中にくっ付いていたメェが、スポンと分離してコロリと地面に転がりました。


 おお、牽引作業お疲れ様!

 と言うかその4本の足ってどういう構造なの!?


 あんなに激しく動き回る魚にくっ付いて引っ張れるとか、普通の四肢じゃないよね?

 吸盤でも付いてるの!?


 とりあえず私の心に湧き上がってきた、メェの足に対する考察はひとまず保留としまして……ビチビチと未だ動きを止めないお魚をどう処理しようか考えた挙句、何時も通りに深く考えず棒武器でボコボコする事にしました。


 何でも叩いておけば何とかなるんじゃないかな!? という。

 あれですね、いつも通りの凄まじく脳筋な直結思考による決断です。


 先ほどイモムシ君相手に戦闘したときと同じ様な感じで、相手の動きを見つつ3度ほど叩いて見ますと、ポンポンとダメージの数字を吐き出したお魚さん、グッタリとした後に七色の光になって消えて行きました。


 あー……魔物と同じ様な感じで消えていくんですね。

 多分見た目的には魔物じゃないと思うんですが。


 いたって普通のお魚っぽい外見をしていましたし。


 あれですね、お魚を捌くような刃物があったら色々と違った戦い方があったのかもしれません。魚相手に現地でお料理をするという意味合いも籠めて。


 光となって消えていったお魚さんに、棒でお料理して申し訳無いという思いを送りつつ、頑張ってくれた毛玉な生餌を労う為に、サッカーボールの様な感じで地面に横倒しになったままのメェを抱えて、右手でモフモフと撫でてあげます。


 いやー何と言うかね、最初はちょっと君の事を侮っていたよ!


 まさかあんなに吸着して魚を引っ張ってくるなんて、思いもよらなかったものでね?

 悪く思わないで頂戴ね!


 今回の釣果に満足げな様子のメェ、再度湖の方をその短い前足で指し示して、フンスフンス! と言っております。いやぁーまだまだやる気だね!?

 良いとも相棒! こうなったらこの調子で釣り(?)を楽しんでいこう!


 一応お魚さんが光となって消え去った地点を見回して、普通のお魚なので魔石っぽい物は落ちていないのを確認。


 その後、右手一本でメェの背中部分をワシっと掴み、メェをボーリング場のレーンに転がすボーリング玉のイメージで、軽い助走からポイっとアンダースローで水面に投擲します。


 投入場所は先ほど腰を下ろしていた岩よりも、少し東に移動した辺りにしました。

 同じ場所だと、同じお魚しか出てこないかもしれないからね。


 RPGゲームとかでもそういうのありますよね。場所限定とか。

 時間限定の魚とかも居そうですが、今は試している時間もありません。


 私の微妙な投メェフォームで低空を飛んでいったメェは、上手い具合にお腹から着水後、足を動かしつつスイーっと滑り始めました……うんうん、なんと言うかあの光景に対して大分私も慣れてきたね。

 メェの毛で装備作ったら汚れに強そうな物が出来そうだ。


 といっても、あの毛って毛刈りしたりして大丈夫なのか謎です。


 いやまぁ『ふわもこファーム』では毛刈りシステムが無かったので、全然予想が付かないんですよ。

 モミモミ接触してみた感じだと、あの身体の殆どが柔らかい毛で構成されているのは把握できました。多分素材の為に毛刈りをしちゃうと、凄い痩せちゃうという表現は違うかもしれませんが、例の羊毛を刈られたヒツジの様にサッパリ状態になってしまう可能性が高いです。


 こう、ほっそりとした感じのアレなモードにです。

 多分と言うかほぼ確実にそうなりますよね。


 流石にソレは可哀想だよね……その辺りはメェ本人と意思疎通が出来る訳ですし、メェ自身に毛について質問してみたらある程度反応が返ってくるかな?

 まぁいいや! とりあえず今は、この変則ルールな釣りを楽しむ事に専念しましょうか。


 そのうち、普通の魚じゃなくて魚っぽい魔物が出現するかもしれませんし、あまり気を抜いていると大変な事になりそうですし。


 左手で枝の釣竿を保持しつつアイテムボックスを開いて、先ほど魚を討伐した際に何かアイテムを入手していないか確認します。


 もしかしたら、適切なツールを使って倒さないとアイテムを手に入れる事が出来ないかもしれませんし。

 なにせ魚類ですからね。迷宮内で叩いた鉱石岩とは格が違います。


 岩は叩けば破片になりますから棒で殴打しても何とかなった、というイメージが有りますけれど、お魚はやっぱり、包丁みたいな刃物で倒さないと、例えばお刺身の様な切り身にならない! みたいな第一印象があります。


 いや、棒で叩いて倒したからたたき? になるのかな。

 いや、大分意味合いが違うよね。うん。


 お魚とか、今までスーパーで販売している切り身パックの状態でしか購入した事がないので、まったく持って良く判りませんです。


 一匹そのままで焼いて食べたりする魚とか、捌いてお料理したりするタイプのも手に入れたことがありません。

 多くの手順を踏まないと食することが出来ない材料は、私だと確実に無駄にしてしまう腕前ですので。

 お刺身はそのまま食べれますので、大丈夫ですし。


 アイテムボックスの上から順に鉱石類を辿って下にスクロールさせつつ、現実で体験した魚製品との数々の邂逅を思い出しておりますと、あー下のほうにありました。


 確実に先ほどのお魚から入手したと思われるアイテム。

 その名も『魚の切り身』というアイテム。判り易すぎて非常に助かります。


 その後、アイテム詳細を確認してみましたが……殆どの部分が判明していない状態でした。

 あぁー……うん、これはお料理系や水中関連、あとはピンポイントに釣り系のスキルがないと、詳細判別出来ないんだろうなー、と容易に想像できますね。


 素人が謎の魚を釣り上げただけですからね、今現在の状況。

 あれです、何かの魚の切り身だ! という事だけ判っているんでしょう。


 この辺のお魚アイテムは、何かしら必要に迫られて入手している素材では無いですので、焦って詳細を判別しなくても良いとは思います。もしかしたら切り身でポーションが作成できる可能性もありますが、それならば詳細がもうちょっと判明しているのでは、と思いますし。


 つまりは『調薬』スキルに係わり合いのある素材って事ですからね。うむ。


 あれです、こういった生もの系素材でもアイテムボックスに保管しておけば、時間経過で痛んで変な匂いを醸し出したりもしないでしょうし。


 いやー本当に便利ですねアイテムボックス。

 冷蔵庫いらずです。電力消費もないですし。


 アイテム確認作業を終え、アイテムボックスを閉じた私はメェの動きを眺めつつ、右手を翳して太陽の位置を確認します。

 ううーん? 恐らく現在時刻はお昼過ぎといった頃でしょうかね?


  早朝に魔素迷宮前を出発しましたが、その後の山登りで大分時間を消費してしまいました。

 ゲーム世界で夕方辺りへ差し掛かった頃に、メンテナンスが開始される筈ですので……それまでに何かしらの区切りを付けて、早めにログアウトしないと。


 結局町からココまでオールナイト作業と言うか、ログインログアウトを挟んで24時間戦い続けてしまいましたので。

 事前に準備した、キャンプ用具系のアイテムを使用するチャンスが無かったですね。

 この辺は、きっと別の機会に活用できるでしょうか。


 もっと遠出するとか、周囲に危険が沢山ある様なフィールドじゃないと使わなそうです。


 その時はメェと一緒のキャンプになるでしょうから、独りぼっちで過ごさないで済むし楽しそうだなー何て考えながら、釣り糸の先で浮いているメェと湖の水面を眺めておりますと。


 ……どうやら2匹目が出現したようで、メェの浮いている場所から少し離れた水面に、バシャリ! と音をたてて水飛沫が上がって魚が出現しました。


 すかさず、その背中に飛びついてガッチリとホールドするメェ……んー、これってある意味で餌いらずの永久機関なのでは。いや、メェの体力が続く限り、という制限はありますかね。


 先ほどとは微妙に色合いの違うお魚にしがみついたメェを、釣竿を立てて引っ張り戻します。

 今回の相手もビッチビチと元気に動いていますね。


 こう、なんでしょうね。

 初めて魚釣りを体験していますが、結構楽しいかもしれません。


 多分、実際の釣りというのは、基本は受動的な物でジックリと獲物を待つようなイメージなのですが、この……名付けて『メェ釣り』は、能動的といいますか餌がアグレッシブといいますか。


 攻めの釣りと言ったら良いのか。どうなんだろう?

 釣りが好きな人に、変な目で見られそうな事言ってる気がしますけどね。


 周囲に他の釣りプレイヤーさんがいたら、この釣り方法は余りオススメできないですよね絶対。メェがオートマチックにバシャバシャ水面を揺らしたりするので、普通に釣りを楽しんでいる方々の邪魔になってしまうでしょうから。迷惑行為になっちゃう。


 2匹目の魚を水際まで引き寄せ、毎度お馴染みである棒攻撃で七色の光に変えつつ、今現在のこの状況を『魚釣り』と表現して良いものか微妙に悩む私でありました。


 とりあえず2匹目お疲れ様の労いを籠めて、足元でプルプル身を振るって水を弾き飛ばしていたメェの背中をモフる事にしましょう。


 ついでにそのまま、紐付き状態のメェを持ち上げて、お魚の切り身は食べれるかどうか聞いてみましたが……食べる気は無い様子でした。


 あれだね、流石にイメージに合わないね。

 お肉相手にも、興味は示したけど食べる様子は無かったし。



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