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180 想定外 な その動き

後は野となれ山となれ。

楽しそうで何よりです。

 とりあえず従魔が出来たよやったね! という気持ちを籠めて、自分自身にお祝いと言わんばかりにメェを両手でモミモミしつつ……ココまで頑張って冒険をしてきた目的である、柔らかい生き物との出会いを果たしてしまった私。


 そして、逆にこれからメェと一緒に何をどうしよう! ……と言う違う意味で困り気味の状況について考え込むことになってしまいました。ある意味で贅沢な悩み。


 ひとまずは、メェに顔を向けて適当に移動する旨を伝えて地面にヨイショと設置して戻しますと。

 地面をその4本の足で踏みしめたメェは、一回垂直にミョン! と飛び上がり『メ!』と音域の高めの鳴き声で返答してくれました。


 おおぉぉ!? これって私の発言をちゃんと理解してくれているのかな!?


 予想ですが、仲良くなる前に色々と発言していた私の言葉へ実は耳を傾けてくれていた! 何ていう訳じゃなくて、多分ですけど【従魔】スキルで先ほどメェと私の間に突如発生した、絆と言うか光の紐みたいな繋がりの効果ですよね?


 言葉を用いないで直接思考を伝え合ったり出来る、みたいなアニメ等で見かける動物とご主人様の間に発生する共感テレパシー! 的な超コミュニケーションは出来ないみたいですが、こうやって会話する事で私の意思を伝えたり、ちょっとしたお願いをしたりする事は出来そうです。


 むしろ本命は、一緒に魔物との戦闘を繰り広げる事だとは思うのですが。

 確か経験を積むと【従魔】スキルで仲間にした子も一緒に成長できる、というお話でしたし。


 この場で考え込んでいても仕方がありませんし、危険度は低いだろうと判断した湖の水際へとメェと一緒に歩いて移動しつつ、どこをどう見ても戦闘向けだとは思えないフォルムを、太陽の光の元へ惜しげもなく曝け出している足元のフワフワな相棒を眺めます。


 んー何処からどう見ても、何度角度を変えて見ても、確実に動く白くて柔らかい毛玉ですよね。


 この世界でメェの戦闘能力は如何程なのだろうか。

 実は見た目と反して凄い強靭な肉体をもった、強い子なのかもしれないが。

 ……いや、流石にそれは無いかな……うん。


 メェと一緒に水際に残っていた【薬草】や【魔力の花】を毟り取りつつ、私が『ふわもこファーム』をプレイしていた頃のメェを脳内に思い浮かべ、その時の私やメェはどんな行動をしていたのか頑張って思い出すことにします。


 普段の何もイベント等が無い時期は、メェは箱庭内でポヨポヨ歩き回ったり寝てたりしてたよね。私の指示で運動させたりも出来たけど、誰かとの戦いっぽい行動は何もしていなかった筈。


 公式のイベント時も、決められたルールの中で柔らかさとかサイズを競う感じで、バトル方面に関連した事柄は全く無かったですね。100メートル走の様なスポーツ競技風の物はあったかな?


 あーそうそう、特殊な染料を使って色つきのメェを育てる! みたいなイベントもありましたっけ。


 あの頃プレイしていた時は気にしていませんでしたけど、流石にこの子を直接染色するとか可哀想な気がします。白い色なら毛を分けてもらった後に染めれば良いですし。


 器用に小さい口で【薬草】を引っこ抜いて私に差し出してくるメェを眺めながら、その隣に並んで採取作業を進めます。うん、こうやって一緒に何かを出来る存在がいるのは良い感じです。


 一人で集中して黙々と作業するのも嫌いと言う訳では無いのですが。

 こうやってお外で良い天気な状況で、のんびり採取作業で身体を動かす場合は、余り根を詰めて行動していると疲れてしまいますからね。


 さて、水の中に進入しないで採取できる分は大体取り尽してしまいましたね。

 もう一番の目的を達成させてしまったので、物凄い気楽に作業しておりますが……そういえばココから町に戻るルートってどうなっているんだろう?


 というか、あの山から特殊な状況でココまで半ば滑空するように下りてきたので、帰り道が全く判らない事に今更ながら気が付きましたよ!?


 えっ、もしかしてココまでこうやって到達して、メェとも出会えて仲良くなれたというのに、町に戻る為には自分の手で初めての【死に戻り】を敢行しないといけないんですか!?


 むしろ、この湖に策も無く果敢に挑んでそのまま倒されてしまうまで頑張る! くらいしか帰還方法が無いのでは!?


 もしかしたら、という期待を籠めて【薬草】を咥えて私に近寄ってきたメェを持ち上げ、周囲の地形が判るかどうか尋ねてみましたが、クリっと顔を傾けた後に数回首を振ります。


 あーやっぱり道順とか判らないよね……うん。

 これはどうしたものか。とりあえずその【薬草】は貰うね。


 水辺にあった岩に腰を下ろし、メェを膝の上に乗せてアイテムボックスを整理しつつ、例の鳥さん達に如何にか近くの道っぽい場所まで運んだりして貰えないかなぁー? と考えて、周囲や上空を見回して何処かに飛んでいないか確認してみましたが。


 ……この辺りは彼らのテリトリーでは無いのか一羽も見当たりません。

 普通の見た目な小鳥さんなら、周囲に点在する木の枝等に見つける事が出来ましたけど。


 うーむ、これはほぼ確実に私の冒険はココで詰んでしまったのでは無いでしょうかね!?

 無茶してあんな移動方法を取ったばかりに、帰り道が判らなくてここで野垂れ死ぬ事になろうとは……まぁ仕方ない、自業自得ですね。


 確か私がやられてしまっても、メェはアイテムボックスに似た空間に飛ばされて眠りについてしまうだけで、メェそのものに害が及ぶ事はなかったと思いますし。


 うんうん、もう駄目だあの世が見える! となったその時は、潔く前のめりに倒れることにしましょう。


 無料で町まで運んでもらえると思えば、まだ諦めもつきます!

 確か【死に戻り】すると……一定の時間が経過するまで、スキルの成長その他色々な事にペナルティが付くのでしたっけ。


 VRMMO初心者の癖に、未だ【死に戻り】を体験しておりませんからね。

 色々と幸運と奇跡が絡み合ってこの【死に戻り】未経験な状況になっているんでしょう。

 そろそろ年貢の納め時でしょうか。


 よーし、そうと決めてしまえば色々と心が軽くなりました!


 そう! やられちゃってもいいや! と考える事が出来るなら、後先考えずに数々の無茶も出来るというものです!


 普段の私って大体はその場の勢いの突撃思考で、基本的に考え無しで行動してしまいますが、今は良く考えてから無茶な行動をしていくと言う事です!


 結局無茶な事に変わりは無いですね。

 結果よければとりあえず良し、という事で!


 私が【死に戻り】するのが早いか、メンテナンスが開始されるのが早いか!

 全く持って意味の薄いチキンレースの開催です。

 どっちにしろ大した事はありませんので安心。


 それでは、まず最初にチャレンジする事は!


 と考えて……そうですね、まずはこの湖に足を踏み入れてみる事ですね。

 とは言ってもこの格好で泳ぐ訳にも行きませんし、水着も無ければ現実の私は25メートル泳げませんし、ゲーム内で取得出来る泳げそうなスキルを所持している訳でもありません。


 取りあえずは、湖のふちの辺りを狙いつつ膝下辺りまでの深度を限界点として、靴を脱いで突入を敢行してみる事にします。あとはそうですね、釣りを試してみるのも良いかもしれません。

 失敗しても良いんです、メェとの出会いを果たし、一番達成したかった目的は実現してしまいましたからね! 何ともお気楽なものです!


 周囲の草原を見回り、何か釣竿の代わりに利用できそうな、手頃な長さの棒が落ちていないか探索する事にします。

 周囲に点在している樹木の周囲を重点的に探し回る事10分程でしょうか。


 棒を発見する事は出来ませんでしたが、私の身長より少し長いくらいの若木を見つけることが出来ました。コレを根元あたりからバッサリやれば釣竿の代わりに出来るかな?


 あーでも刃物持ってないな……あっそうだ、魔法で切ろう!


 若木から少し距離をとって根元のあたりを狙い【風の刃】を飛ばします。

 一発目は地面へと着弾して草を巻き上げてしまいましたが、2回目の試行で上手い具合に、根元の数センチ上あたりで若木を切り飛ばすことに成功しました。


 よーしよし! いやー切断に使える【風の刃】は便利だねー!

 攻撃魔法、覚えて良かったよ本当に!


 後は所々に張り出している枝を手でへし折って……よし、ちょっとクネクネ曲がってる部分があるけれど、長い棒を入手する事に成功しました!

 生木なので少々重く感じますが、試しに両手で持って振ってみた所、特に使いづらいとか棒の重量で逆に振り回される、という事も有りませんでした。強度もソコソコ、これなら実用に耐えそうです。


 まぁ木の枝で釣竿とか作った事なんて無いので、上手く作成出来るかは謎です。


 でもですよ? 自然の素材でお手製の釣竿を作成した事のある高校二年生女子! ってそうそう居ないと思いますし。私が無知なわけじゃないと思います。多分。


 草地に座り込んで作業をしている私の事を、隣に伏せて眺めているメェを横目で見つつ、お次は釣り糸代わりに残っている【虫の糸】を先端に括りつける事にします。

 この糸ってちょっと弾力が強いけど、その分引っ張られても切断されにくいと思うし、一応釣り糸代わりには出来そうだよね。


 棒に縛り付けるとき、何か上手な結び方があるのかもしれないなーと思いましたが、特殊な縛り方とか全然判りませんので、二重三重にグルグル撒きにして何度も結び目を作る感じにしておきました。


 見栄えが団子っぽくて悪いですけれど、解けてしまわなければ何だって良いんです!

 素人に華麗な作業を求めてはいけません。


 紐を装着した即席釣竿を両手に持って、冒険活劇で主人公が剣を頭上に掲げる感じで持ち上げ、ブンブンと振ったりビシリと構えを取ってみたりします。うむうむ、見栄えは悪いですが行けそう!


 あとは餌をどうするかですが……良くあるのはその辺にいるミミズとかを餌に! っていうのですけど。VRゲーム内にミミズっているのかな?

 と言うか、巨大な虫は蜘蛛とか岩虫君といった感じで何度も遭遇しているんですが、現実で見かける様な小さいサイズの虫っぽい生き物を、このゲーム世界で見た記憶がないんですよね。


 先ほどから草むらに座り込んで作業していますけれど、小さい虫が足元に近寄ってきているような事もありませんし。


 あっそうそう、先ほど木の棒を探している際に蝶なら飛んでいるのを見ましたね!

 アレくらい視認が容易なサイズの虫しかいないのかな。メェに聞いたら判るかな……?


 傍らに伏せた状態でノンビリとしていたメェを抱き上げて、この辺で小さい虫を見かけたことが無いか聞いて見ましたが。両目を閉じて考え込む動きを見せたメェ、その後首を数回左右に振ります。

 あーメェも見たことないのか。


 ゲーム処理的な問題なのでしょうかね。

 例えば土の中にいる一ミリサイズの虫とか、果てはバクテリアみたいな目に見えないサイズの生物までデータ処理していたら、このゲームを処理している機械がパンクしてドカン! となってしまいそうですし。オーバーヒート確定ですよね。


 それでなくても、五感に関しては現実とゲーム内での差異が殆ど感じられないゲームですし。

 あまり無茶振りはしちゃいけませんよね。


 でもそうなると、釣りの餌はどうしたらいいでしょうね……もしかしたらミミズも【薬草】や【魔力の花】の様に、採取できる場所がある程度決まっていたりするのでしょうか。


 その辺を適当に掘り返したら出てくる! という訳にはいかないのかも。

 何とも難しい所ですね。


 こうなったら【ラビの肉】をそのまま括りつけて湖に投入しよう! なんて中々強引な釣り工程を考えておりますと、草むらに座った私のお尻の辺りをツンツンと何かが突く感触が。


 何事かと後ろを振り向いて確認してみますと……お尻の辺りで、メェがなにやらフンスフンス! と鼻息も荒く右前足で自分の胸? っぽい場所をポフポフしておりました。

 うん? 何かあったのかな?


 メェの行動が何を表しているのか把握出来ず、私が首を傾げておりますと……釣竿に括られた糸の先端を咥えて地面を転がり、自らの身体に釣り糸の先を巻きつけ始めたではありませんか。


 えええええ!? ちょ、ちょっとまって!?

 なになに、君自身が餌になるって事!? 


 私の驚いた様子を見たメェが数回頷くように首を縦に振ります。


 ……いやいやいや!? 流石にそんな残酷な事できないよ!?

 モグモグされちゃうんでしょ? 駄目でしょそれは!?


 私の言葉を受けたメェが、任せろといわんばかりに再度短い右前足で胸の辺りをポフンと叩きます。えええええ……凄いやる気満々なんだけど、大丈夫なのかな……いや、餌が見つかってないのは事実なんだけど。


 見詰め合うこと10秒程。

 うん、判った、判ったよ。


 ソコまでやる気の姿勢を見せられてしまったら、無碍にお断りする訳には行かないよね。

 しっかりと括ってあげるよ。無茶な生き方してるねメェ君。


 二重三重と紐をその体に巻きつけて、きつくならない程度に縛り上げます。

 こう、何だろうかこの状況は。


 誰か他のプレイヤーさんがこの光景を見たら『何て残酷な仕打ちをする非道なプレイヤーだ!』って言われるんじゃないかな。激しく冤罪です。


 メェの自己犠牲の精神が迸った結果がこの様相です。

 私の顔にはモザイクでも入れておいて下さい。


 釣竿を右手、紐に括ったメェを左腕に抱えた私は……湖のほとりにある岩の所まで移動します。

 移動中も非常にやる気マンマンなメェ。

 もう頑張ってとしか言えません。危なくなったら即引き上げるからね!


 釣竿を振って投入するのは流石に無茶でしたので、そっと水辺まで近づいてメェをアンダースロー気味に湖へと投入する事にします。バシャリと着水したメェは……沈みもせずにプカプカと水に浮いております。


 しかもその短い手足を動かし、水面を滑るように移動し始めました。

 ……ええええ!? すっごい浮いてる! 撥水毛皮なの!?


 これって釣りエサっていうより……あの鳥の奴! 鵜飼いでしたっけ!?

 あんな雰囲気になってる気がするんですけれど! 想定外ですよ!?

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