177 試して納得 画期的 空中移動!
変則的空中ジャンプ。
どうみても変態。
右手で毟り取った【増幅の花】をアイテムボックスに収納しつつ、改めて周囲を見回します。
んーやっぱり他には特に珍しい物は無いかな?
あと気になるのは残されている建物の石材や柱の素材だけですが、毎回作り直されるっぽい魔素迷宮内と違ってこの場所はお外ですので、適当にそのあたりの壁や柱を破壊&ゲット! という風にするわけには、やっぱりいかないですよね。
ここまで来る際に、人の手で道が整備されていたという事は、この建物も何かしら目的があって建てられた物でしょうし。でもココまで壊れてしまっている所を見ると、もう活用されていない場所なのでしょうか。
ううーむ、何処かにこの場所に関する事が書かれている立て札でもあれば一発なんですが。
流石に観光名所みたいな場所ではなさそうですし、無理でしょうかね。
道中の険しさからも判る様に、気軽に登ってくるような場所じゃなさそうですし。
他に調薬の材料に出来そうなものが無いか確かめつつ、すっかり頭上に昇ってしまった太陽の光を浴びながら、最後に広場の中央辺りにある建物を詳しく調べる為に、残骸内へ足を踏み入れます。
もう壁しか残っていない状態ですので、建物と言って良いのかは謎ですが。
一応形状が何となくわかるので大丈夫かな。
この辺は床も剥き出しの土ではなく石造りの組石になっていて、上には薄っすらと砂の様な細かい粒子が降り積もっています。この辺り結構風が強いのに砂なんて積もるんですね。
円形状の壁が周囲にあるから、上手い具合に吹き溜まりになってるのかな?
ふと頭上に影を感じたので見上げてみると、周囲にズラリと私を取り囲む様に立ち並ぶ柱の上に、例の鳥さん達が電柱にとまっているスズメの如くズラリと並んでいました。
うわぁ、もしかしてココって君たちの縄張りみたいな、そんな所ですかね?
特に荒らしたりするつもりは無いので、見逃してくれると助かるんだけど。
今も尾羽パワーで何とかなってるのかな。
一応挨拶のつもりで、右手をビシリと胸の辺りに上げて笑顔を浮かべてみましたが、余り反応も無く。とりあえず気にしていても始まりませんので、再度周囲を確認する作業に入ります。
メンテナンス開始の時間が徐々に迫ってきていますからね。
あまりのんびり探索しているとあっというまに時間切れになってしまいます。
壁の内部はざっと見て、大きな円形状の広場みたいになっている様です。
中央部分はむき出しの土になっていて、その周囲を取り囲むように何かレンガ上の石で組まれた花壇の様な物があったことが窺えます。
付近には何かしら、設置物があったのかもしれませんが、長い間風雨に晒された結果なのか何も残ってはいないようです。完全に天井が無くなっていますし、壁も大分傷んでいる状態ですから当然ですね。
この残留している、石組み部分に使われている素材が特別頑丈なのでしょう。
コレまで見回った部分を脳内で組み合わせて、ココにあった建物の形状を何となく脳内で創造してみますと。多分丸い建物で中庭っぽい場所が中央にある形状だったのかな、というのが何となく想像出来ます。
周囲に規則的に建っている柱も、何か理由があってソコにあるのでしょうか。
まぁ周囲と建物の残骸を調べて判明した事は、どうやらココには柔らかかったりモフモフっていたりする物体は存在し無そうだ、という残酷すぎる事実なわけですが。
むしろ私の尻尾がこの場で一番柔らかいものなのでは、と思ってしまえる位には石だらけです。山岳地帯ですものね、仕方ないですよね。私の望みは絶たれてしまったのか。悲しい。
重い足取りで建物跡から退出した私は、近場に見えた丁度良い大きさに岩に腰を下ろして、せっかくですので帰途に着く前に、ココからの景色をしっかり眺めることにします。
山の南側とは違い北側はくぼ地になっていて、上ってくる際にぼんやりと見えた湖っぽい物が、今は大分はっきりと見える様になっていました。
あーあの湖の辺りって、何か調薬で使えそうな素材とか、沢山あるっぽい雰囲気が凄いですね。水辺に薬草って沢山生えてるというイメージがありますよね。
水草みたいなのも何か薬効みたいなのがあるかもしれないし。
そういえば……結局、山岳地帯に到達する道中で、川や湖みたいな水生魔物と出会う可能性の有る場所を発見して無いですね。
図書館で読んだ本に注意事項として記載されていたのを鑑みると、何処か少しわき道に逸れたりした場所にあったのでは、とは思うのですが。私の知識的欲求を満たす為だけに、近くの水辺まで馬車の進路を変更して下さい、とマークさんにお願いする訳には行きませんでしたから。
……そんな事を考えていると、どうにもこうにもあの湖周りをチェックしてみたい欲求が膨れ上がってきました。でもココからアソコまで行くとなると、どうやっても時間が足りないです。
魔素迷宮前から出発して山頂まで登ってくるだけでも、大分時間を消費してしまっている訳で……太陽の高さからしてお昼になっては居ないと思いますが、数時間は経っているんじゃないかな、と予想できます。
この場所で強引にログアウトして、現実の方で時計を見てくれば一発で正確な時間が判ると思うのですが、それをしてしまうとですね。
ログインし直した際に、装備品その他の待機時間が適応されて、この魔よけというか鳥避けに装着している、尾羽の効果が消失してしまうタイミングが来てしまうんですよね。
つまり、一時的にボス鳥のご威光が消え去った結果、鳥さん達に揉みくちゃにされるならまだしも、美味しく啄ばまれてしまう可能性があるわけです。くちばしラッシュです。是非遠慮したい。
なのであまり冒険をすることも出来ず……あーやっぱりこういう風に遠出する際は時計が必要だ!
ゲーム内の時計云々に関しては、公式にも絶対多数のご意見が届いてると思う!
普段適当に冒険している私でさえ欲しいなーと思うんですから、他の凄いプレイをしている方々が欲しがらない訳がないんです。みんなで公式さんにプレッシャーを掛けて、時計を実装してくれるように頼まないと駄目ですね!
というか今回のメンテナンスで実装してくれると嬉しいな! お願いします!
ヒョコヒョコと周囲を動き回る鳥さん達を眺めつつ、とりあえず湖に向かうかどうかは置いておいて、湖周囲の地形を確認する為に再度目を凝らすことにします。
うーん、望遠鏡や双眼鏡みたいな遠くが良く見えるアイテムがあれば、もっと確認作業しやすいんだけどな。無い物を強請っても仕方ないか。
山の北側に広がるくぼ地の様子ですが、視界に入る大部分は草原の様な感じで、ぱっと見ただけでも樹木の量は少なく身動きの取りやすそうな地形なのが判ります。
まぁ油断していると、何かしら見えない部分で酷い目に遭う可能性はありますが。
毎度お馴染みである私の迂闊行動ですね。戒め戒め。
私がアゴの辺りに右手を添えてウウムと唸りつつ、遠くを眺めておりますと。
私の行動が気になるのか……周囲の鳥さん達が数羽私の近くに寄って来て、クリクリと首を傾げつつ、私と同じ様に遠くを眺めるような感じの動きを取り始めました。
こうやって落ち着いて見ると、やっぱり中々愛嬌があって可愛いんですよね。
まぁあれです、ボス鳥じゃないこの子達でさえ、岩の上に座っている私よりも大きいサイズなんですが。一対一で戦っても勝てる気がしません。
そもそも戦う気がないので大丈夫ではありますが。
もしも何かどうしても回避できない状況と理由が出来て、彼らの羽毛が必要になったらどうしよう、という気持ちはあります。
こうやってアイテムの効果とは言え仲良く出来ているこの状況を思うと、理由があっても棒で叩いて倒したり出来そうにありません。メリアみたいに毛刈りみたいな雰囲気で羽だけ頂ければ良いのになぁ……鳥型の相手じゃそういうの無理だよね。悲しい。
手作りの羽毛布団とは完全決別する事になりそうだなー何て思いながら、周囲で楽しげにクルクルと鳴き声を上げている鳥達と一緒に空を眺めます。
あーこうやってジックリ見ると、結構な数の鳥型魔物が飛び回ってるんだね。
正直山登りしている最中は、足元に集中しないと危なくて仕方がないから、空なんて見てる暇が無いんだよね。
優雅に空を飛んでいる鳥達を羨望の眼差しでボンヤリと眺めながら、何時の間にか背後に近づいてツンツンと私の尻尾を啄ばみ始めた鳥の顔を右手で押し留めます。こらこらこら、ソレは食べ物じゃないから。
あー、君たちにあの湖まで運んで貰えたら凄い楽なんだろうなぁ……多分10羽くらいで掴んでもらえれば余裕で空輸してもらえそうだよね。
君たち大きいし、何か魔法っぽい物で風起こしたりしてそうだし。
でも何か私が乗る為の部分というか、ゴンドラっぽい物がないと鳥さん達が羽ばたけないから無理だよね。1羽だけで運んでもらえるほどの出力は望めなそうだし。
等と考え込む事一分少々。
狐耳やら尻尾がなにやら大人気で、くちばしで何度もツンツン啄ばまれる状況なのは、とりあえず気にしない事にして。痛くは無いですし。何時の間にか鳥まみれですね。
んーやっぱり、先ほど思いつきで試した尾羽パワーでの空中移動を駆使して何とか……いや、移動距離が圧倒的に足りない。結局途中の山肌に着地して全然距離が稼げない。
連続で尾羽パワーを使えば、ここからの高さなら余裕であの湖まで届くと思うけど……今度はマナの残量が足りなくて途中でしぼんだ風船の様にシオシオと落ちていっちゃうよね。
空中でマナポーション使用しての回復も、次にポーションを使える様になるまでの待ち時間が邪魔して、結局は距離限界が来ちゃう。
……その時、何となく思いついて周囲の鳥に視線を向けます。
耳と尻尾を啄ばんでいる鳥達の頭をとりあえずモミモミして剥がし、素早く岩の上に立って装着していた尾羽を右手に持ち、先ほどやったように落下制御と尾羽パワーの併用を周りの鳥に見せてみます。
興味深そうに見ている周囲の鳥。
今度はジェスチャーを用いて私の後ろに羽ばたきを当てる感じで、というイメージを持って動いてみます。これでどうかな? という想いを籠め、ぐるりと周囲を見回します。
何時の間にか20羽を超える量が周囲に集まっていましたが、なにやら楽しそうな動きを見せつつ周囲の鳥が張り切り始めました。おっ! これは判ってくれた感じですか?
試しにもう一度岩の上に登ってジャンプ!
フワリと落下している私の背後に鳥が来て、思惑通りにバッサバサと強い羽ばたき!
ふわりと浮かび上がった私は数メートルの距離を移動します。
よーし! みんな頭良いね! ソレですよソレ!
今度は尾羽を指示棒のようにして、足元と遠くにある湖を交互に指し示します。
ここからーアソコまで、アソコまで飛ばして欲しいの! 判るかな!?
……周囲の鳥さん達がクルクルと小さい鳴き声を出しながら顔を見合わせ。
……一斉に空へと飛び立ち私の頭上を周回し始めました。
コレはなかなか壮観ですね!
遠くから見たら鳥に襲われてるとしか見えないかもしれませんけど!
では、私が思いついた『鳥型ポンプ式空中ヒャッホウ移動術』を実践してみるときが来ました!
まずなるべく高いところから……えーっとあの半分に折れてる柱の上が良いかな? よいしょっと、ココからジャンプして尾羽でスタートダッシュをします!
でぃりゃー! あいきゃんふらーい!
あとは鳥さん達の動きにお任せするしかありませんので、心を落ち着けてゆっくりと近づいてくる岩肌を眺めておりますと。後ろから風に押され空中を移動する私。
背後を振り返りますと、よく朝方起きたときに空を見上げると見かける様な、編隊を組んだ形で鳥さん達がくっ付いて来てくれています!
次々と入れ替わりで私のお尻を風で押してくれる鳥さん達。
やった! 意思疎通成功しておりました!
とりあえず、再度行き先である湖を右手にもった尾羽で指し示しますと、クルクルル! と皆さんからの鳴き声。これは勝ち確です! いけますよ!
超絶ショートカット移動です!
山頂からじゃないと高さが足りなかった可能性がありますし、登った甲斐はありましたね。
あとはあの湖周りに柔らかい素材や生き物がいるかどうか、です!
フワンフワンと定期的にお尻を風でプッシュされつつ、高度が落ちると共に徐々にはっきりと見え始めた湖に大きな期待を膨らませます。既に何か動いている物体がボンヤリと見えていますよ!
さあ、待っててね! 未だ見ぬ素材や生き物達! あっ柔らかければなお良し!
※ 魔素迷宮入り口前で、あるプレイヤーが見た出来事 ※
男1「うわぁ! おい、あれ見てみろよ!」
男2「ん? どうしたよ?」
男3「あれってどこだよ? 何もないじゃないか」
男1「ほら、あそこだよ! 北側の崖向こう!」
男3「んな事いったって鳥位しか……何だアレ!?」
男2「なんだっつうんだよ一体……うぉぉぉ!? アレって……プレイヤーか!?」
男1「マジかよ、鳥魔物に空中コンボされてるぞ!?」
男3「下手な格ゲーよりすげぇぞおい!」
男2「微妙に浮かしなおしされて、コンボ継続されてる!」
男1「やべぇー鳥魔物やべぇー」
男3「俺、一応掲示板に書き込んどくわ! 鳥、空コン極める」
男2「釣り乙! って言われそうだけどな、つーか何処まで行くんだあれ!?」
男1「山を降りたくぼ地辺りまで行きそうだな……あの辺りに行ったプレイヤーて、多分まだ一人も居ないだろ」
男3「まぁ落下ダメージも追加で、確実に死に戻りだろあのプレイヤー……かわいそうに」




