176 尾羽の 威光で 山頂 到着!
真面目にのぼる。
そして遂に。
尾羽の特殊能力発動で、再度モリっと減少したマナを確認しつつ、前方に見える山道へゆっくりと着地します。
こういう足場の不安定な場所でやると、やっぱり危ないですねコレ。
伸び伸びと動ける広い場所で使うのが一番でしょう。
まぁそういう所でこんな動きをしても、特に意味も無く重力や慣性の働きを無視した胡散臭い動きになるだけだとは思いますが。
やっぱり先ほど考えた様に、足場の無い様な場所をショートカット移動する時に挑戦するのが、一番楽しい使い方かな?
兎人のティムリンさんならば、実はジャンプ力が凄く強くて崖も跳躍で一発! なんて移動方法が出来たりするかも知れませんが、狐人はジャンプ力があるわけじゃないですし。
おっと、こんな所で『私、風になってる!』ゴッコを堪能している場合じゃなかったですね。
気になった部分は実験によって判明しましたし、先に進むことにしましょう。
尾羽をアイテムボックスへと大事に収納し、先ほどまで鳥さんによってシャットアウトされていた山道へ足を踏み出し、移動を再開します。
もしも、また例の鳥さん達がにじり寄ってくる場合があったら、先ほどと同じ様に尾羽を見せればきっと大丈夫だと思います。それにしてもこの辺りは人通りが全く無いというか……迷宮周りには沢山のプレイヤーさんが居たんですけどね。
山頂に何があるか皆さん気にならないのでしょうか。
いや、夜中にメンテナンスが始まってしまう! という時間制限が発生したのが原因で、ならば迷宮攻略を優先して進めるぞ! という心理状況に陥っているだけなのかな。
多分山頂は逃げませんけれど、迷宮はクリア回数が嵩むと消えてしまう筈ですし。
私はと言うと、まぁ大分変則的なものでしたが、ダンジョン内での戦闘や採取という初体験、パーティプレイも練習できましたし、ちょっと世間話っぽい何かをした程度ですが、お名前の判るプレイヤーの知り合いも出来ました。
色々と、初の魔素迷宮プレイとしては満足してしまいましたからね。
再度迷宮を作成するには丸一日掛かるようですし、もう焦って迷宮へ向かう事は無さそうな気がします。機会があったらまた一人でノンビリとコケを剥がす為に行く位かな?
今度はちゃんと他の方を巻き込まないようにパスワードも設定しますよ!
迂闊な私はちゃんと失敗から学ばねばいけませんからね、うむ!
山の北側、眼下に広がる麓のくぼ地に、何やら大きい湖の様な物がボンヤリと見えるなー、等と特に深く考えるでも無く眺めながら、ジャラジャラと音をたてる手すり代わりの鎖に指を這わせ、ゆっくりと山道を踏みしめて登ります。
あー、写真とか取れたら良い景色が撮影できるんじゃないかなー、なんて思いつつ……そういえば良くこういったゲームでシステムとして存在する筈の、風景を撮影する機能みたいな物が無いなー、と気が付きました。
たしか【ふわもこファーム】は、写真を撮る為のメニューがあったんですよね。
普通に自分の正面を撮影して画像ファイルに落としこむのと、カメラの位置を離して自分と一緒に【メェ】を撮影する様な感じで! なんていうような事も出来た筈です。
そういえば【システマ】さんにご相談した事案で、プレイヤーの盗撮云々というお話もありましたし、実は私が見逃している撮影機能があったりするだけなのかなー?
何て思いつつ、壁に背中を預けて座り込みメニューを開いて、ソレっぽい項目が無いか探してみました。
こういうのは、やっぱりコミュニティ関連かな?
普段一人でプレイしている時と違って、今日は矢鱈と使用頻度の多い【コミュニティ】の部分をつつき、写真撮影っぽいメニュー項目が無いか、ざっと確認してみましたが……やっぱり無さそうですね?
確か盗撮の人は外部のツールとやらを使っていた、みたいな説明を【システマ】さんから受けましたし、このゲームでは記念撮影できるような項目が存在しないのかも?
【ふわもこファーム】は箱庭ゲームでしたし、撮影もプレイヤー自身が自分のためにする物でしたしね。
許可もなにも自分で自分を撮影するものでしたし。
そのへんの肖像権みたいな物がユルユルだったのでしょうか。
あーもしかして、あの何だかグニャグニャと長い文章が羅列されていた、ゲームプレイ上の規約! みたいなページに何か撮影に関しての事柄が書かれていたのかも知れません。
面倒だからザバーっと流し読みしただけですからねアレ。
まぁ、撮影云々はきっと誰かに聞いてみたら判明するかも。自分で掲示板で検索しつつ調べてみても良いですしね。
恐らく普通にカメラみたいなアイテムが存在するんじゃ無いかなとも思いますし。
こういうのは誰に聞いたら良いんでしょうね?
普通にこの世界の住民さんなら誰でも知っているような気もしますけど、思い出した時に近くに居る方に聞いてみようかな。ちゃんと思い出せれば良いけど大丈夫だろうか。
まぁ命に別状のある事案じゃないし大丈夫かな? うん大丈夫大丈夫。
メニューを閉じて立ち上がり、お尻と尻尾の埃を落とす為に両手でバフバフと払います。
ウーン! と両腕を上に伸ばしてストレッチと軽い運動をして、山頂への移動を再開。
もう坂道と言うよりは階段っぽい道になってきた感じの山頂への道程を、右手を日よけの為に額の辺りに翳して眺めつつ、このあたりには魔物が見当たらないなー等と思いつつ足を動かしておりますと。
またもや例の鳥さん達が数羽セットで、音も無く私の前に着陸してきました。
普通に死角からスッ……と出現するからビックリしますよ!
先ほど脳内シミュレートした通りに、ゆっくりとした動きでアイテムボックスから例の尾羽を取り出しまして、今度は振って風を起こさないようにビシリと鳥さん達に突き出して見せますと。
グリっと首を傾げる様に動かした鳥さん達、バサバサっと羽ばたくと空の巡回へと戻っていきます。
んーご利益ご利益。便利すぎて崇め奉りたくなります。
そうだ、鳥と遭遇するたびに尾羽を毎回取り出すのも面倒ですので、何とか手が滑って無くさないような形で、何処か常時装備として身に付けれる場所は無いかな。
色々と試行錯誤した結果、現在私の髪を括っている、ゴムひもというか伸縮性の高い虫の糸の所に羽の細い部分を差し込んでバチコーン! と挟み込んでおくことにしました。
ブンブンと頭を左右に振って髪の毛を揺らしてみましたが、スルリと抜けていくような事は無さそうです。
っていうかこの虫の糸便利ですね!
犠牲になったイモムシ君には感謝せねば。
まぁこの糸って、多分と言うか確実に服とか作るスキルで使う素材で、こうやってゴム糸として使う物じゃ無さそうな気もしますが。
完全に加工する前の状態ですからね。まぁ使えてるし良いのかな。
ゴム紐と共に装備された尾羽の位置を首を曲げて確認します。
うむ、これなら歩きながらでもすぐ使えそうだね。
町に戻ったら何かシッカリとした装備品として加工してもらえば楽かな?
でも魔物素材の能力を生かしたまま装備品に加工するのって、一体どうやるんだろう?
畑違いっぽい感じもしますが、ゲイルさんに聞いたら判るかなぁ……一応脳内のメモ帳に記載しておこう。
大分勾配のキツイ階段をエッホエッホと声を出しつつ登りながら、山頂へと視線を向けます。
ナニやら、天辺あたりにボンヤリと細長いもの見えてきました。
んー何だろうか? 柱っぽい様な気がするけど。
ただの岩っぽい様な気もする。目の錯覚かも。
とりあえず山頂は到着したときに詳しく確認する事にして、今は登る事に集中する事にしました。アレコレ考えていると、すぐに足が止まってしまうのは私の悪い癖ですね。
いや、こんなに考えなければいけない事が多い、このVRMMOが悪いのかもしれません。とりあえず例の神様のせいにするという風潮で。
多分ですが、あの神様なら逆に喜んでくれる可能性もあると思います。
何でプレイヤーとしてこのゲームを遊んでいないのか、って位の人っぽいですし。
公式の人はゲームプレイしちゃ駄目! っていうルールでもあるのでしょうかね?
折角丹精籠めて作ったゲームを自分で楽しめないって、なんと言うかちょっと可哀想ですよね。
もしそういうルールがあるとしても、せめて観光がてら見回る位は許してあげても良いんじゃないかなぁ? とも思いますけれど。
まぁ詳しい事情が判らない以上、あまり脳内で適当に決め付けても仕方ないですね。
また妙な事を考え始めそうになった脳内状況を、気合でビシリとストップさせます。
そんな事を思い悩んでいる間にも階段から坂道、そして坂道を少し進むとまた階段に……という、ジグザグで足腰に強烈な負荷が掛かりそうな山道を、棒武器を杖代わりにしてヒィヒィ言いながら登ります。
登っている途中で、周囲を巡回するように飛び回る鳥の影が山肌を撫でていくのを見かけましたが、地面に着陸してくる事はありませんでした。
ふむ、コレは髪の毛に括っている尾羽が力を発揮してくれているっポイかな?
その後、右足を出した後左足を出す……という単純思考を延々と繰り返しながら山道を登り、途中岩に突っ伏して休憩を2度挟み、スタミナ回復で水筒を空っぽにした頃……ついに目的地として設定していた山の頂へと到着しました!
やった、私はやり遂げました!
思わず空の水筒と杖代わりの棒を両手で振り上げてガッツポーズです!
もう、何かしらなアレでナニガシを無事に完全クリア! した事にして良いのでは!
何を言っているのか自分でもちょっと判りかねますが、ニュアンスで理解していただけると幸いです!
達成感の後に色々と精神的な疲れが発露し始めましたので、すぐ近くにあった岩へヨロヨロと歩み寄り腰を下ろします。上に座って気が付きましたが、この椅子に使わせてもらっている岩も、何かしら人の手が加えられている様な印象を受けますね。
そして山頂の様子ですが、なにやら広場の様に開けた場所が広がっていました。
所々に壁の様な物や柱っぽい物が、半ば崩れ落ちた状態で点在しております。
あー、やっぱり下のほうで見上げたときに見えたのって柱だったのか。
多分ですが、昔ココになにか石造りの建造物があったのではと思われます。
屋根部分はすっかり崩れ落ちてしまっていますが、壁や柱はまだ十分に原形を留めたままの状態で、しっかりと地面に据えつけられています。こんな所に建造物を建立とか、どれだけの労力を要したんでしょうかね……材料を運んでくるだけで色々と悶絶しそうなのですが。
それにしても、山頂がこんな開けた場所だったとは少々驚きです。
個人的に脳内で思い描いていた山頂というのは……こう何といいますか。
一番高い天辺部分が尖がっていて、何か記念碑みたいなのがデデーンと鎮座しつつ『ココが山頂! 天辺!』みたいに主張してる! っていうイメージだったんですよね。浅はかでした。
軽く休憩を挟んでスタミナの量が回復しましたので、改めて山頂広場を散策する事にします。ああそうそう、ココに来る道中でプレイヤーさんっぽい方々には一切遭遇しておりません。
多分こんな無茶をして来るような場所じゃないですよね。
私も物見遊山で山頂まで行く! なんて決めてココまで来ましたけれど、途中で挫けそうになりましたし。時たま鳥さん達が頭上から鳴き声でヒョロヒョロ応援っぽい声を掛けてくれなかったら、多分途中で斜面に突っ伏して動かぬ狐物体になっていた可能性も高いですよ。
モウウゴケナーイ状態です。市場に転がっているマグロです。
まぁ、あの鳴き声が本当に私を応援する声だったのかは実際は判明しておりませんが。
そこは都合の良い解釈。
等と、うな垂れつつココまで来る道中の事を思い返しながら、周囲を歩き回りペタペタと残留している壁や柱を触ってみましたが、んー何か良く判らない手触りの石材で作られていますね。
流石に遺跡っぽいこの場所を破壊して、石の素材として持ち帰ろうとは思いませんが。
それに意外と広いこの場所、大体円形状の広場みたいです。
元々の山頂部分をある程度削って、平らにした様な印象を受けますね。
建物の残骸から察するに、建造物も円形をしていたっぽいなー、という感じが何となく窺えます。
特に何も無いなぁーなんて呟きながら歩き回っていますと、柱の根元に何処かで見たことのある様な赤い花が、1本だけ咲いているのを発見しました。
あれ、コレって確かどこかで見たような……そうだ、これアレですよ、例のチュートリアルのフィールドで採取した事のある【増幅の花】って奴です!
ちょ、という事は……うぇー!
普通に手に入れる場合は、こんな無茶苦茶な場所に来ないと駄目な素材なの!?
厳しすぎませんかね!?
それとも何処かに群生地みたいな場所があったりするのかな!?
むしろあって欲しいと言う願い!
何て事を念じつつ、しっかりと柱の根元から【増幅の花】を毟り取ります。
ここで、一日待ってたらまた一本生えてくるのかな。
……んー! 可能だとしても流石に効率悪すぎだね、止めておこう!
※ 最近気にしている事が ※
この小説を書き始めた当初は、一話で3000文字位がサクっと読めそうだし丁度良いかな?
などと思いながら書いていたのですが。
最近は一話分の文字数が何だか増え始め、5000文字位になってしまっているのです。
ちょっと多すぎるから削ったり圧縮して減らした方が良いかなー? とか思っているのですが、どうでしょうか?
是非是非、簡単にで良いのでご意見頂けますと非常に助かります(汗
あ、出来れば6000文字超え位まで書いてから分割2話投稿しろ! というのは無しでお願いします(何
何だか水増しして誤魔化しているようで、申し訳なさが炸裂して筆者が地面に突っ伏してしまいますので(えー




