175 ボスの 尾羽は 超性能?
頂き物で実験。
風になるフワモ。
とりあえず、山登りを再開する為にはこの場から移動せねばならぬこの状況。
しかし、視界に入る場所に2羽の鳥が佇んでいると言うこの大惨事。
アイテムボックスに入っているポコ豆の袋は、中身空っぽと言う絶望的事実。
はてさて、一体私はココからどう動けば良いのか見当も付きません。
何時までも、この岩の上で管を巻いていても埒が明きませんので、何かしら打開する為の手段を講じなければなりません。
とはいっても今現在、鳥達にお勧めできる食べ物が存在しないんですよね。
むしろ、私が食べる為の食料さえ結構ヤバイ状況なのですが。
私はもう、道草でも食んでいれば良いのでしょうかね。
案外、美味しい野草がそこらに自生しているかもしれませんねアハハ。
いや、現実逃避している場合ではなかった。
今も現在進行形で包囲網を狭めてきている、この怪しい鳥ペアをどうにかしないと!
えーっと何か、何か打開できる画期的な案はありませんかね!?
激しく動くと相手を刺激してしまう可能性がありますので、ゆっくりとした動作を心がけつつも、何かしらの状況を打破する為の手段を検討するべく、色々と無駄に考えつつアイテムボックス内を漁ります。
えーっとーうーん? やっぱり餌に出来るものが無いよね! くっ!
試しに残っている鉱石類を出して、鳥さん達に恐る恐る差し出してみましたが、食いつきは悪いですね。というか首を傾げて眺めているばかりで反応している、とは言いがたい。
あっもう一羽増えた。これはマズイ状況になってきた。
そもそもですね?
この山岳地帯に居る鳥型魔物は、此方から手を出さなければ襲われる事はほぼ無いから大丈夫だろう、みたいな情報が本にあったような気がするのですが。
何でこうも、あっさりと周囲を取り囲まれる状況に陥るんでしょうか。
あれですか、標高が高くなってきて視線の水平レベルが一致してしまったが故の頻繁遭遇なんでしょうか?
これって実際問題、鳥に遭遇した他のプレイヤーさんは、問答無用で激しくバトルして倒したりしてるんですかね?
多分攻撃したとして、普通に空に逃げられてお終いな気がするんですが。
重力に縛られている私に勝ち目は無いですよね?
むしろ、見てると結構愛嬌のある動きをする魔物なので、出来れば身の危険が生じるまで積極的に殴りに行くのは憚られると言うか。
豆に群がるスズメみたいな印象ですからね。
大きさと逞しさと鋭さと動きの早さを差し引いたらですが。
ソコまで差っ引いたらそれは既に鳥では無いんじゃないのか? と言われると困るんですけどね。
ふっくら風味なスズメのぬいぐるみ感覚でココは一つ。
お願いしたい所。無理か。
私が空を見詰めてアハハと乾いた笑いを浮かべている間にも、鳥が鳥を呼ぶ形で一羽、また一羽と増殖していく鳥。君たちチームワーク良いよね。羨ましいよ。逃げたい。
ここで、スクラムを組み始めそうな鳥達を眺めていても仕方がありません。
えーっとアレでしょうか、カラッポなポコ豆の袋でも取り出しつつ引っくり返して『すまぬ 中身は空っぽなのだ』って説明したら理解してくれるかな。
半ば諦め風味でアイテムボックスを物色しつつ、確か前回、豆撒きをした後に面倒だから良いやーと、そのままアイテムボックスへ放り込んだ筈の空袋を探しておりますと。
一つ、この事態を収拾できそうな力を持ったアイテムを発見いたしました。
一回このアイテムを試してみよう! 折角貰ったし!
淡い期待を籠めてアイテムボックスから取り出したのは。
前回の豆撒きの際に、例のボスっぽい巨大鳥さんからあり難く頂いた尾羽です。
相変わらず鮮やかな色彩が目に眩しいですね。
私が尾羽を右手に摘んで取り出した瞬間、周囲の鳥達の動きが止まりました。おっこれは! 効果あるんじゃないかな!?
ほらほら、ボスっぽい鳥の知り合いデスヨ私!
出来れば、穏便にソコを通していただけると非常に助かるんですよ!
是非お願いしますね!
色々と平穏を願う思いを籠めて、綺麗な尾羽をヒラヒラと右手で上下に振ってみますと。
私の右手から周囲にブワリと広がる強い風。
土ぼこりが舞い散り、山道にチラホラと自生している草花がバッサバッサと揺れ動いているのが、視界の端に映ります……うん?
いま何か、とてもオカシイ現象が発生しませんでしたかね?
どういう事なの……と首を傾げていた私の周りで、私を眺めていた鳥達が一斉に羽ばたいて空へと帰還していきます。
あっ良かった! 当初の目的である所の、周囲の鳥達を何とかするという目標は達成できた模様ですね! うんうん良かった良かった! ……じゃなくてアレ、アレですよ!
周囲に鳥やプレイヤーが居ない事を確認して、適当に地面に向かって右手で摘んだ尾羽を向け、先ほどと同じ様に上下に動かしてみます。
今度はある程度強めの振りで。よいしょ!
途端に私の右手辺りから発生する強い風。ビュゴウ! と言う空気を圧縮する様な音が鳴り響いて、土埃と共に足元に転がっていた石ころが崖の下に吹き飛びました。
しかもアレだけ強い風が出たのに、私には一切の反動がありません。
……うん。これ実はとんでもなく有用な物なんじゃ無いですかね?
いやいや、だってコレ、適当にブンブン振り回しながら進んだら、体重の軽そうな相手にはある意味無敵モードじゃ無いですかね!? 倒せるとかじゃなくて吹き飛ばしてワッハッハ! という感じで!
何というか……凄いズルイ気がしますけれどね。
強さとかではなくて。
いや、折角頂いたものですし活用するのは当然の結果ですよね!
うんそう考える事にしよう。ありがとうボス鳥さん!
無事に山道を先へ進める様になりましたので、無くすと暫く立ち直れない程度には貴重品な、この尾羽をアイテムボックスへ収納しておきましょう。
早くリーナさんに鑑定をお願いして詳細を判明させたいですね!
多分確実に、風を発生させる的な能力が一つあると思います!
判りやすいですね。
等と、色々と期待を籠めてアイテムボックスを閉じる際、現在のステータスが視界に入ったのですが……あれー? ……うん、どう見てもマナの残量が1割を切ってる。凄いギリギリモード。
……あーうん、さっきのだよね。風パワーのせいだよね。
やっぱりねー何も代償を払わずにあんな特殊効果を使い放題! だなんて、ある訳が無かったよねー! 2回振るっただけでもうマナ枯渇しそうだよ!
しかも私の種族って、魔法が得意でマナの量が多い狐人なのにね!
これは先に進む前にちょっと実験を挟んだ方が良さそうだ……次回、例えば戦闘中に使う際にマナ消費の調整を見誤って、その場でバッタリ倒れたりしたら目も当てられない。
むしろ、このまま適当やってると絶対にそういう事態に陥るであろう事は明白。
このゲームで私は私を信用してませんので。7割位。
先ほど仕舞いこんだ尾羽をアイテムボックスから再度取り出し、ついでにマナポーションも一本取り出して服用します。無味無臭の青い水っていうのも、実際問題見た目が色々アバンギャルドですよね。
カキ氷とかに使ったら色鮮やかで良いかもしれませんが、液体のまま口にするのは多分に食欲減衰効果が高そうです。寒色系は食欲に優しくないんでしたっけね。
熱帯魚のお作りとか見たことありますが、凄い色合いでちょっと食べるの躊躇しそうでしたし。
マナ回復を待ちつつ、すっかり明るくなった山道の脇から風景を眺めます。
最初登っていた山の表側? というか山の南側でしょうか。
……あの辺りと違って、山の裏側である此方は大分切り立った崖みたいになっていますね。
道が大分整備されているので、登山する事自体はさほど難しくは無さそうですが。
先ほど元気に私を取り囲んできた鳥の様な、空中から襲い掛かってくる魔物がきたら、足を滑らせて落下してしまいそうな雰囲気があります。
地味に道幅が狭いんですよね。
安全の為なのか手でつかめる鎖が打ち付けてありますが、あれを掴みながら戦闘行為とか無茶どころの話じゃないですよ。
と言うかですね……多分ですが、あの鳥達って手を出さなければ余り積極的に此方を襲ってこない、って事実を知らないプレイヤーがココを通ったら、空中から降下してきた鳥に絶対ビックリして先制攻撃しますよね。ある意味酷い仕様です。
確実にわざとだと思う。調べない方が悪い! みたいな。
しかもあの子達って、絶対に横のつながり強そうだし、沢山飛んできて大変な事になりそう。さっきのワイワイ集まってくる行動を見ても、皆仲良しだって判るよね。あの子達物騒すぎるよ。
離れた所で気持ち良さそうに飛び回っている鳥達をボヤーっと眺めつつも、メニューを見てマナが回復しきったのを確認します。さて、この尾羽使用一回でどの程度のマナが消費されるのか。
早速右手を上下に軽く振ってみます。
もしかしたら強弱で消費量が変化しているかもしれません。
先ほど一回目と二回目で振り方を変えた時、風の強さが違っていた気がしますから。
尾羽が軽くしなる程度の強さで振ったのですが、途端に私の右手から風が巻き起こり、崖の方へと消えていきます。マナの消費量は……うわぁ、コレでも2割強程減っていますね。
今度は強めに振って強い風を発生させてみましたが、案の定マナの残量が凄い勢いで消費されていきました。こりゃ常時運用! なんて考えたら一発で倒れそうだ。使うなら軽く振る程度が良いかも。
敵を吹き飛ばす、何て威力で風を出したら一発でマナ枯渇しそう。
その後、実験も済ませ休憩もしたので今度こそ先に進もうかなーと思い、腰かけていた岩から腰を上げたのですが……ちょっと一つ試してみたい事を思いつきました。
成功したら結構楽しそうな事。個人的にですが。
まずは、先ほどまで椅子の代わりにしていた岩の上に立ちまして。
ソコからジャンプして飛び降りたタイミングで、腕を曲げてー孫の手を背中に向ける感じで……こうやって尾羽を軽く振って、と。
……直後、ブワリと浮き上がって大体10メートル程の距離を、風に押される様に空中を滑って移動する私……うひゃー! 予想通りに成功したー!
いやーこれ結構楽しいかもしれない!
でも山道ですることじゃないかも、ちょっと心臓に悪い!
今ですね、私がやったのは、リアさんから頂いたペンダントの【落下制御】発動中に、尾羽で背中に風を当てて推進力を付けると言う荒業です。楽しい。
簡易飛行技みたいな?
実際はゆっくり落下してますので飛んでいる訳じゃないですが!
アトラクションみたいで楽しいかも。
連続で発動出来たら本当に空も飛べそうな勢いですが、マナの残量がモリっと減るのでそれも不可能ですし。でも何かに使えるかもね! 橋の無い川を飛び越えてショートカットとか出来そう!
いやー良いものを頂きましたねコレ! ボス鳥さんに感謝だ!




