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172 ジャスト フィット な お尻と箱

箱入りフワモ。

 適当な予想なのですが、恐らく武器や鎧みたいなサイズの大きいものが出る、という可能性を考慮した感じの理由があったりしそうなのですが、被ってみるとこの箱って……なかなかのサイズを誇っているんですよね……普通に私の上半身が隠れちゃうくらいにはデカイ。


 もうちょっと小さい箱だったら、絶対にこんな緊急処置を施さなくても何とかなったと思うんですが。


 まぁこのまま諦めるには少々心残りがありましたし、大分強引な手段での持ち帰りになりそうですが何とかなったらラッキーですね!


 転送用の石版の上でヨッコイショ! と宝箱を担ぎなおした辺りでピカリと光が私を包み、恐らく転送が完了した模様です。途端に周囲から雑踏のざわめきや話し声が聞こえてきます。


 ふぃー良かった、こうやって周囲が見えない状態で話し声が聞こえていると言う事は、今現在ちゃーんと先ほどの宝箱を被った状態で、入り口前まで移動できていますね。


 厳密には私の物になっている状態じゃない物品でも、こうやって少々強引な手段を持って持ち帰ることが可能だ、という検証の答えにもなって一石二鳥ではないでしょうか。


 まぁこんな無茶な採取作業を頻繁に行う予定は今の所無いんですが。

 まぁほら、初めてプレイしているこのVRMMOというジャンルのゲーム、楽しんでいる最中にどんな事が起こるか判らないですからね。


 こうやって何かを担いで移動しないといけない事件が発生する……かもしれません。

 イヤ無いかな。まぁ想定しておくだけなら無料ですので。


 さて、この宝箱をアイテムボックスに収納する為に、もうちょっとゆっくり出来る場所で持ち上げる算段を立てることにしましょう。


 それにしても周囲が騒がしいですね?

 まぁ魔素迷宮入り口前から外へと退出する次元の裂け目までは、足元に何となく進む方向がわかる道っぽい色違いの床がありますので、ソレを目視しつつ進めば大丈夫でしょう。


 こんな人が多い所で立ち止まっていては、通行の邪魔になる事請け合いですので、早く移動して場所を空けないとね……うん? 人が多い……?


 これって私ってば、もしかしなくても凄い目立ってたり……しますか!?


 当然と言うか今更と言うか……先ほどまで、制限時間という逃げる事が不可能な魔物相手に奮戦する事ばかりに気を回していた私の脳内に、今現在私がどういった状態で、周囲がどういう場所なのかという事実がヤンワリと浸透してきました。


 ……えー……まぁこんな妙な行動しておりますが、宝箱のお陰で顔は見られていないですよね!

 一応片手を使ってポンチョのフードを深く被りなおしておきましょう。

 色々な物からスタコラする逃亡者の気分で。


 そして周囲から聞こえる人たちのお声を耳を欹てて良く聴いてみますと、どう考えても私の事を見て一体何がどうなってるんだ? といった感じの会話をしている人たちが、周囲に沢山いる事実が発覚しました。


『何かの罠に引っ掛かった状態なのかな!?』とか。


『実は、運営がジョークで準備した……恐ろしく取り回しの悪いレア頭防具なんじゃね?』とか。


『むしろコレは新たなる敵!?』とか。


『どうみても箱に齧られたプレイヤーです本当にありがとう御座いました』とか。


 色々ととんでもないお言葉が聞こえてきます。

 どなたかが私の被った宝箱をコンコンノックしたりしていますよ!?


 うわぁ!? これはまさか色々と誤解が誤解を呼んで、特異点から新たなる超理論が展開されるまで成長している!? 違う、違うんです、ちょっと荷物運びしてるだけで!


 箱を被った状態で周囲にちゃんと伝わるかちょっと判りませんが、特に問題がない事を示す為に大きい声で『大丈夫です! 無事です!』と伝えつつ、身体を貧弱にヨロリヨロリと揺らしますと、周囲から驚きの声が上がりました。お、驚かれてる!?


 とりあえず当初の目標どおり、急いでココから移動せねば!

 このままでは……恐らく新型の箱型魔物に噛み付き攻撃されたまま命からがら戻ってきたという、悲壮感漂うプレイヤーとして名を馳せてしまう可能性が!


 いや、逆さになった箱から足と尻尾が生えている状態の、珍しい魔物として認知される可能性も否定できません!


 ほら何でしたっけ!

 宝箱に擬態するファンタジー定番の危ないヤツです! アレですアレ!


 周囲のガヤガヤ音が留まる所を知らず、私に警鐘を鳴り響かせてくるので、もう一度大きめの声で移動する旨を周囲に伝えつつ、魔素迷宮の出入口広場から外へ出る事にします。


 多分ですが、上手い具合に力を籠める角度や度合いを変更すれば、この場でなんとか箱を収納できそうな雰囲気を感じていたのですが……この場所で宝箱をアイテムボックスに入れてしまうと、中身である私が晒されてしまい、絶対に色々と悪目立ちしすぎる可能性があるので!


 お外の広々とした場所で、ゆっくりと作業に従事する事にします!

 後で、湧き水で水筒の中身を補充したりもしませんと!


 ゴリゴリリと宝箱の端を軽く擦りつつ魔素迷宮の入り口前を横断し、外へと続く空間の裂け目へと箱を突っ込む感じで身体を捻じ込む事にします。

 無事に宝箱を保持したまま外へと出れると良いですがどうだろう?


 ぎゅっと両目を閉じて数歩進み……目を開くと箱の内装が私の視界に広がっております。

 足元は、先ほどまでいた魔素迷宮の出入口前広場とは違い普通の地面でした。


 ふぃー良かった、ちゃんと表に出る事が出来たみたいですね。


 先ほどまでうるさいほどに鳴り響いていた周囲の喧騒も、すーっと落ち着いて今は周りで何か作業をしているっぽい方々の、声量を落とした会話っぽいものだけが聞こえてきます。


 おっとと、空間の裂け目の前で突っ立っていると通行の邪魔になっちゃうね。

 えーっとまずは壁際を移動して一旦箱を下ろしてっと……よっこいしょ!


 裂け目のある岩壁を伝うように、人の声がしない方向へ移動した私は、ある程度静かな場所で箱の縁を地面にゴツンと落とし、身体ごと後ろに倒れるように宝箱を開放します。


 宝箱の重さに負けて、倒れる様にお尻部分をズッポリと箱の中に突っ込む感じになってしまったのは、確実に不可抗力だと思います。あっでも何だかフンワリ肌触りで気持ち良いかもしれない。


 ポヨポヨと中々の弾力を発揮する箱の内張りに気を良くしておりましたが、そんな事をしている場合ではありませんでした。この宝箱をどうにかしてアイテムボックスに収納しないとね。


 えーっと、完全に持ち上げれば良い訳だから……うーむ?

 何かつっかえ棒というか下に潜り込める様に細工して、背中を使ってググっと持ち上げつつ収納を宣言すれば行けるかな?


 腕の力だけじゃ無理! っていうのはもう判明してるしね!

 さて、どういう感じでそういう状態を作るか考えねば。


 箱に嵌った状態でウウムと唸りつつ、車とかのタイヤを交換するときとかに使っているのを見る、あのグルグルとハンドルを回転させると力強く車体を上に持ち上げる、えーっと、名前が判らない、あの道具があれば問題ないのになー何て事を考えておりますと。


 背後から唐突に、私の肩がポンポンと2回叩かれました。うわぁ!?


 思わず飛び上がりそうになりましたが、お尻部分が箱にスッポリなので足と耳だけがピーンとなった感覚が。数度深呼吸してから、恐る恐る後ろを振り返ってみますと……見覚えのある特徴的なウサギのお耳。


「あっはは! やっぱりフワモちゃんだ!」

「あれぇ!? ティムリンさん!」


 ニコニコ笑顔で私の後ろに立っていたのは、先ほどまでご一緒だった格闘ウサギさんこと、ティムリンさんでした。

 ご挨拶しようと思い、取り合えず頭を下げようと色々試行錯誤しつつ、どうにか動こうとしてみたのですが。

 この体勢では色々と無茶が合った様で、非常にダメダメで微妙な感じに! 動きづらい!


 そんな私の事を見ていたティムリンさん、ムホォ! と声を出して唐突に口の部分を右手で押さえると、物凄い苦しそうに左手でお腹を抱えて蹲っていました。えええ!? 何だか大ダメージ!? だ、大丈夫ですか!?


 ビックリして安否を気遣う為に声を掛けますと、数秒後にスックと立ち上がったティムリンさんが、ブンブンと両手を顔の前で交差させるように振りながら、笑顔で『大丈夫大丈夫!』とお返事をしてくださいます。


「それでー、コレはアレでナニがドウなってコウなってるの?」

「えーっと話すと長いというか難しいと言うか……」

「4人で2周目行こう! ってなって列に並んでたんだけどね、唐突に箱っぽいナニかが出現したーって、人だかりが出来て大騒ぎになって……気になってみてたら箱? から声が聞こえてさ、そしたらフワモちゃんの声じゃない? びっくりしてさー」


 ヒラヒラと右手を動かしつつ、口を尖らせるようにしてそう仰っています。

 気になったから他の方々に断りを入れてから、わざわざ追いかけてきてくれたとの事でした! ありがたや!


 笑顔でユラユラと頭を動かしつつ、フワフワ兎耳を揺らしていたティムリンさんが、強く意識を向けた方向で発生した会話や物音が良く聞こえる、っていう特殊能力が兎人にはあるんだよー! と教えて下さいました! なるほど、それで私の声を判別したと言う訳ですか。


 そういえば図書館のファルトゥラさんにも、確かそんな感じで私の悶絶アクシデント音を聴かれた覚えがありますね。主に胃袋関係の。


 そんな恥かしい過去を思い出しつつ、今度こそちゃんと普通の状態でご挨拶しようと思い……宝箱からお尻を引っこ抜く為にギッタンバッタンと箱相手に奮闘していますと。


 何やら私を見ていたティムリンさんが、またもやムホォ! という特徴的なボイスを口から噴出しつつ、左手で顔を覆いながら私の手を右手で掴んで引っ張って下さいました。


 それにしてもやっぱりと言うか……私の逃亡が完了するまでに、無駄に大きめな騒ぎになってしまっていた模様ですね!?

 無事お尻を宝箱の中から引っこ抜く事に成功した私は、手を貸して下さったティムリンさんにお礼を言いつつ宝箱の縁に腰を下ろし、こうなった経緯を身振り手振りを交えて簡単に説明する事にします。


 とはいっても、宝箱の作りが綺麗だったので持って帰りたかったから、頑張って持って出たんです! と言った感じで、特に脚色も隠し事も無く事実を話しただけですが。


「ほほー、生産職は目の付け所が違うねー」

「あー、私が無駄に拾いすぎなのかもしれませんです、はい」

「それはそれ! これはこれで! 良いんじゃないカナ!」


 ポンポンと私の肩を叩きながら慰めのお言葉を掛けて下さるティムリンさん。

 お優しい。心に染み渡りますよ。


 等と、私がシンミリといった心持ちでハートの奥底に届く温かいお言葉に対する、代えがたい有り難味に対して感じ入っておりますと、唐突に私の前に現れるメニュー板と共に、笑顔でポンポンと宝箱のふた部分を叩いたティムリンさんが一言。


「じゃあこれ、私が持ち上げるから収納しちゃいなよ! パーティ要請送ったからよろしくぅ!」

「えええ! 良いんですか!」

「兎人だけど無駄に筋力重視のキャラだからね! 余裕余裕!」

 

 笑顔でそう言って、どうみても凄い柔らかそうな二の腕をグイっと曲げて見せてくださるティムリンさん。全然筋肉モリっと出てないですよ!? 力瘤に見えないですよ!?


 でも折角のお申し出ですし、駄目そうでも二人で持てばきっと行けるはずです!

 ありがたくティムリンさんの提案を受けさせていただく事に。


 先ほど見たパーティ加入のメッセージをササっと承諾、二人パーティ状態となったティムリンさんは、グリグリと右肩を回すようなジェスチャーをしますと……結構軽々と宝箱を持ち上げて下さいました。


 うわぁ! 大丈夫かなーなんて勝手に見くびって心配してスミマセンでした!


「ほいな! 収納コマンドどうぞー」

「は、はい、それでは失礼して……!」


 ペタリと宝箱の側面に手のひらを添えてボックス収納を宣言すると、スッと消え去る宝箱。


 ふぃー何だか色々大変でしたが、無事に宝箱アイテムゲットです!

 ティムリンさんにも盛大な感謝を送りたい気持ちで一杯です!

 台風の目から頭上に一筋の太陽が差し込むくらいには神々しいです!


「ど、どうもありがとうございました!」

「なんのなんの! 袖刷りあうのも何とやらってね! それじゃー、皆が首を長くして待ってると思うから戻るねぃー」

「はーい! 魔素迷宮二周目、頑張ってくださいと皆さんにもお伝え下さい!」


 まーっかせて! と笑顔で答えつつビシリと親指を立ててコブシを突き出すティムリンさん。お返しに私もガッツポーズを! 次元の裂け目に戻っていくティムリンさんの背中を手を振りつつお見送りします。


 ふと気が付いて上を見上げると、日の出で白み始めてきていました。ああー……VR世界の朝が来ますね。


 と言う事は多分、現実時間で夕方から夜辺りですかね、ふむふむ……ってイカーン! 魔素迷宮でハッスルしすぎて残り時間がマズイ事になってるじゃないかぁ!


 と、取り合えず明るくなって来た事ですし、魔素迷宮入り口前に戻るのも先ほどのアレがアレですし、このままの流れで山登りを再開してしまいましょう! ある意味で戦略的撤退とも言えますが!

※ ある4人パーティの会話 その4※


ティムリン「ただいまー! お待たせ!」


シャーリー「おかえりー それで気になる事って一体何だったの?」


ティムリン「ちょっとねー それにしても……ムフゥ!」


エリナ「何か楽しそうだね?」


デミウルゴス「享楽に身を委ねたか……詮無き事よ」


エリナ「えーとね『何か笑っちゃう様な面白いことでも?』だって」


ティムリン「いやちょっとね、うちで飼ってる猫がー小さめのダンボールにめり込んでる光景思い出して……」


エリナ「猫?」


シャーリー「ああーはいはい、メヨちゃんね! 黒猫なんですよー」


デミウルゴス「小さき者か……愛い奴め」


エリナ「へぇー! 何だかよく判らないけど楽しそうね!」

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