162 無事に 登った その先は
そんな宝箱に釣られ……わーい!
そして先は長い。
微妙に実現可能かどうか疑わしい決意を胸に秘め、今現在もポツポツと増えていっているスレッドへの書き込みをざっと流し読みしながら、お好み焼きを口に捻じ込みます。もぐもぐ。
私一人で硬く胸に誓っても、パーティを組んでいただけるかどうかは、他のプレイヤーさんのプレイ事情が絡んできますからね。実際問題、たとえば私が数人でパーティプレイをしたとして、この生産と棒を振り回すことしか出来ない私に一体何が出来るのか、という事です。
一人で活動しているから『楽しければいいや!』というスタンスで行動できますが、パーティで一緒に冒険活動をするとなると、そうも言っていられません。
現地で採取からの調薬スキル行使で、モリモリポーション等を補充できたりすれば、ある程度活躍? っぽい事は出来るかもしれませんが、なにせポーションを作るにはお水が必要なのです。
出先で気軽に『ポーション作るよ!』と、右腕に力瘤をだして強調する訳にも行きません。
やっぱり、両手で持ち上げられる程度の入れ物に、携帯できるだけ水を準備して冒険行動した方が良いのでしょうか。小さめの樽とか良さそうではあります。私が一人で持ち上げられるサイズでないと、取り出しや収納に難が出てしまいますから。
【調薬】スキルは、施設と言うか器材を持ち運びできる所等は、大掛かりな設備が必要そうなスキル群に比べると楽なのかもしれませんが、水という必須材料が存在すると言うのは少々ネックですよね。
すり潰して混ぜるだけで完成する感じの、粉薬タイプ回復薬とか存在しませんでしょうかね。
うむ、お薬の事ならメディカさんに聞くのがいいでしょう。
でも結局飲み込むのにお水が必要になるから、先に水が必要か後に必要か、の差だけですかね……難しいものです。
あとパーティで活躍できそうな事と言えば……例の的当てゲームっぽい攻撃でしょうか。
あの攻撃って、確実に相手が眩暈を起こしたり倒れたりしてくれるのなら、凄い安心安全なのですが……試行回数が少なくて、そのあたりの確率が殆ど把握できていないのですよね。
調子に乗って叩いていたら相手が怯まなくてギャー!
なんて大惨事確定な事態に陥ったら目も当てられません。
これも一人プレイなら笑ってというか苦笑いして済ませられる出来事ですが。
パーティですと超絶謝罪案件なのでは。胃が痛くなりそう。
でも、逆に人数がいる状態だから皆さんがフォローしてくれる、という考え方もあるのでしょうか。私も頑張りますから皆さんもどうか宜しくお願いします! といった感じで。
想像すると楽しそうだなと思えるのですが、プレイスタイルやMMORPGゲームのセオリーとして、どの辺りまで踏み込んでお願いして良いものやら、全く見当が付きません。
この辺りは人に聞いても千差万別のお答え返ってきそうで、調べても意味が無さそうではあります。余り役に立てていない本人が、頑張っていれば許される! なんて自分では言い難いですよね。
多分想像ですが、こういうのは恐らくパーティのリーダーさんのご意見にに追随して、一緒にくっ付いて行動するのがきっと得策ですね。うむ、脳内で色々とシミュレートする事が出来たぞ!
こう、ポーションや魔法を惜しまず使う感じで、リーダーさんのご意見に従って頑張る方向で行けばきっと大丈夫! 最初に生産職っぽいプレイをしています、と告げておけばトラブルも無い筈です!
誰にとも無く力強く頷きながら、お好み焼きを食べる手は止まりません。もぐもぐ美味い。
あと掲示板の記載内容を見ていると、魔素迷宮内部には宝箱の様な物? が稀に置いてある場合があるそうです。
『何で魔物の巣窟っぽい場所にご丁寧に宝箱があるんだ?』という、疑問に思うのも当然といった感じの書き込みがありました。
私も同じ様に思っており、思わず賛同の頷きをしておりますと……その下の書き込みで『そりゃお宝目当てのプレイヤーを釣る為だろう』と書いてあって、さらに納得。
恐らく私が宝箱を発見したら確実に釣られて開封します。
そりゃそうですよね、お宝があったらゲットするのは普通ですよね。
開封時に発動する罠が掛かっていて、当然の如く引っかかるまでがセットだと思います。
定番と言うかお約束と言う奴ですね。
となると、今進んでいるこの怪しい隠し通路? っぽい場所はお宝ポイントに通ずるトレジャールートなのでは! と淡い期待が胸に溢れてきます。
お宝関連の書き込みでも『あからさまに怪しい行き止まりを調べたら隠し部屋に宝が』とか『ゴーレムが破壊した壁の向こうにスペースがあってソコに宝箱が』という感じのご報告が幾つか。
これは期待できる!? でもこの魔素迷宮の名称から察する事の出来るイメージで言うと、なんと言うか肌触りの硬そうな財宝の予感しかありません。
もしかしたらお得な鉱石詰め合わせパック! が出てくる可能性だって高いのでは。
こう、クッキーの入った進物箱な感じで、綺麗な鉱石が並んでいる光景を思い浮かべてしまいました。いやいや、色彩的には意外と美味しそうだけど食べれないよね。歯が欠ける。
次のスレッドが作られていたのでそちらへ移動、宝箱からのアイテム入手報告が幾つか発見できましたので確認してみましたが、大体は防具や武器等の装備品が出てくるとの事。なるほど、それならば使える装備は使う、必要ない物は何方かにお譲りすると言う手段が取れますね。
こういった迷宮産の装備品等もギルドで買い取りしてもらえるのでしょうか。
多分必要としているプレイヤーさんと直に売買交渉した方がお得なんだろうなー、とは思うのですが。
そうだ、今なら迷宮入り口に沢山いらっしゃる買取の人にお願いするのもアリですね!
きっと何かしらの装備品目的で買取露店を出してる人も居るはず! 期待しておきましょう!
お好み焼きの最後のひとかけらを口に放り込んで咀嚼し、お水で流し込みます。
さあ、こんな所でノンビリしている場合じゃありませんね!
お宝が私を待っている可能性が五分五分、いや七分三分くらいの可能性で存在する事が実証されました! スタミナ残量もバッチリ、階段を登る作業を開始するにはいいタイミングです!
残量の少なくなってきた水筒をアイテムボックスへ収納し、尻尾とお尻を両手ではたきながら立ち上がります。微妙に埃っぽいんですよねこの辺り。やっぱり人通りがないから埃っぽいのかな。
でもこの魔素迷宮って、タイミングで言うと私がメニューから項目を入力した時間帯……つまりは、ついさっき出来上がった場所だと思うんですよね。このあたりどうなってるんだろうか。
あまり深く突っ込みを入れては駄目な部類の疑問なのでしょうか。
ゲーム的な事情と言う事にしておきましょうかね。
階段の一段目に右足を掛けて、踏みしめ心地を一応確認してみます。
唐突に、こんにゃくみたいな足触りになったら危ないですからね。
足の裏から帰ってきた反応は、しっかりとした石造りの階段の感触。
うん、これなら問題なく上まで登れそうです。私のスタミナが持つ限りはですが。
次にスタミナが悲鳴を上げ始めたら、流石にポーションを使用することにしましょう。スタミナポーションは使用後暫くスタミナの回復速度が向上する、という副次効果がありますからね。
こういった、継続的に運動というか足を酷使しなければならない場所であれば、その効果が顕著に現れるのでは無いでしょうか。
魔法のポーチに入りっぱなしになっている、自作スタミナポーションの取り出し番号を確認するために、一番から順に取り出しワードを使って収納物を再チェックします。
えーっと、お財布代わりの布袋とーライフポーションとー……あったあった、スタミナポーション! 2本収納されていました。
良かった良かった、ちゃんと忘れずに魔法のポーチへ仕舞いこんでいましたね。
階段のぼり作業で動悸息切れが激しくなってきたら、栄養ドリンク代わりにこれを服用しましょう。
すぐ取り出せるように一番と二番に収納しなおして……さて、階段のぼり本番を開始しましょう。足を滑らせて落ちないように、壁に手を突いてしっかりと段を踏みしめて行きます。
先ほど保険で置いておいた【風の壁】は解除して退かしまして。
んーこれは中々骨の折れそうな段数ですね。
……滑落して骨折と言う意味ではないですよ?
でも確か、前にどこかの本で見た説明か何かで、階段で筋肉に与えられる負荷が大きいのは、頑張って登っている時よりも、軽快に降りる時の方とかなんでしたっけ?
重力が影響して筋肉組織に強い負荷が云々、とかどこかで聞いたような……
ええい、どっちにしろ疲れることにかわりはありません。
取りあえず黙々と登る作業に従事する事にしました。
無駄にアレコレ考えると余計な体力を消耗してしまう感じがしましたので。
ああ、勿論途中の壁にくっ付いていた【薬効ゴケ】は剥がして進みましたよ。
予想通りといいますか、やっぱりスタミナの消費が激しかったので、途中でスタミナポーションを一本取り出し、私のVR胃袋へと流し込んだ後……大体階段が3桁の数に到達した辺りまで登った所で、ようやく登りの終点に到着しました。
いやぁー長かった、長かったよぉ!
螺旋階段とか、ビル等にある途中で折り返しがあるタイプの階段じゃなくて、一本の凄く長ーい階段だったから、慣れて無いせいなのか普通に登ってるだけなのに無駄に疲れた気がしますよ。
ランタンの光が遠くまで届かなくて、視界の先や後ろが薄暗いのも余計に精神に響きました。
さてさて、気を取り直しまして……周囲の確認をば。
えーっと……何だか広めの通路? に到着したみたいです。
階段の終点から左右に丁字路っぽく、カーブを描く通路が見えまして……左右の通路途中の壁面に、大き目の出入口っぽい穴? があいてますね。階段から上がってきた地点から左右を見て、ほぼシンメトリーな造りの通路です。
取りあえずアイテムボックスから魔石を一つ取り出して、ランタンに追加投入してっと。こんな所で真っ暗になられたら一歩も動けなくなってしまいますからね。気をつけて行かないと。
それでは、ココも毎度お馴染みの『迷ったら取りあえず右に行こう!』精神を発揮して右から探索する事にします。この緩やかカーブから察するに……ぐるりと丸い通路になっていて、左右の通路は最終的に繋がっているのでは! という予想を立てております。あくまでも予想ですけど!




