156 危険な モノが 飛んできた!?
ここにも居ました。
ロマンあふれる攻撃。
明かりの燃料補給を完了させ、進む先に視線を向けますと……あああ、また分かれ道が存在しているのを確認しました。丁字路というかY字路っぽい感じでしょうか。
ホンノリと斜めに分かれ道が続いている感じです。
これこのままだと……物凄い回数の分かれ道選択を迫られ絶望する未来が、否応無しに私の脳内に浮かんできたんですけれど。
迷路、という言葉に恥じぬその構造に……早くも心が折れそうになります。
要所要所の壁に、行き先を示した案内板とか貼り付けて無いですかね。
簡単な場所の名称とかでも良いですよ? 一丁目二番地とか。
何といいますでしょうか……これマップを表示させつつ通路確認しながら進んでも、漏れなく迷ってしまいそうな気持ちが止め処なく溢れ出てきたんですけれど!? 人数が多ければ記憶に頼って進むことも可能でしょうけども……こんな所でも多人数の方が楽な部分があったとは……不覚、不覚ですぞ!
それに先ほど岩虫君が私の前に出現したという事は、恐らくですが華やかパーティが進んだ方向では無く、ほぼ確実に未踏破区域のはず!
未知なる魔物という危険がワンサカ待ち構えているデンジャーゾーンですよ!
思わずアイテムボックスから水筒を取り出して、ゴクリと一杯やってしまう位には緊張。
まぁ中身は水なんですけどね。美味い。
移動せずに立ち止まって考え込んでいた事により、先ほどの戦闘で消費したスタミナも回復したようですので、数回深呼吸をした後、分かれ道をどちらに進むか決めて進む事にしました。
それにしても、今の所は特に危険もなく普通に進めているお陰で、魔素迷宮冒険の止め所を失ってしまいますね……まぁ多分警戒して進めば大丈夫でしょうし、どこか行き止まりにでも遭遇したら戻って脱出しましょうかね?
そうしないと、このままでは歯止めが利かず、採取出来るアイテムに釣られて……延々と進み続ける事になりそうな予感が有りますので。
あれです、等間隔で餌が地面に落ちているのを見つけた動物が、餌を追いかけつつそのまま落とし穴まで到達! あなたのぼうけんは ここで おわってしまった! みたいな。
うん、そんな絶望的なお別れエンドの結末はお断りなのです。
ちゃんと切りのいい所で戻りましょう!
それにしても……こうやって、何時もちゃんと迂闊な事をしないように、脳内で計画を立て心の中でしっかりと念押ししつつ、今後起こり得るであろう出来事に身構えているつもり……ではあるんですけど。
何故だか何時も、不本意ながら色々な不測の事態に巻き込まれている気がするんです。
神様の陰謀でしょうか。
あの悪戯好きの神様のせいにしておきましょう。私の心の平安の為に。
マップやアイテムボックスの恩恵をお与えくださる、安寧の女神様の敬虔な信者になりつつある私は、どこぞの古の神様ポジションにいるお方のご加護はノーサンキュー! な精神で進むことにします。
さて、今回もこの棒が指し示す方向へ行きましょうか。よいしょっと。
床へ垂直に立てた棒から、支えていた人差し指を離しまして……倒れた方向は壁と言うかYの尖っている部分。いやいや、流石に棒のご加護とはいえそちらには進めないのでは。進めないよね? 進めと仰る?
一応棒の先端でコンコンと壁を叩いて確認してみます。
んんー? 返ってくる音を聴いてみるに、薄い壁っぽい感じはしますけれど。
無理してぶち抜かなくても道なりで良いですよねコレ。
でも確か……私の記憶が確かならば【ガイド】さんの説明で『町以外のフィールドやダンジョンなどに存在する殆どの設置オブジェクトは破壊、取得可能なアイテム』だって言っていた様な。
……一応叩いて様子見してみましょうか。判らない事は取りあえず実践あるのみで。
本当ならば、誰か詳しい人に聞くという選択肢もあるのですが。
あって無きが如くの選択肢に、思考を割いている余裕は私には御座いませんので、思い切り良く壁に向かって棒を振り下ろしてみます。ゴツンという良い音が響き渡り……一応ダメージの数字が飛び出しましたが。
一桁……一桁でしたよ。8というダメージが……あっこれ無理だ。
適切な道具がないと、コレ絶対無理でしょ!
どう見ても数字だけしか出てなくて、小さい破片すら飛び散ってないですよ?
ほぼノーダメージと一緒ですよね?
うん諦めましょう。
せめて2桁ダメージが出ていれば微かに望みがあったかも知れませんが、これは流石に私でも(?)無理だとわかりますよ。
こういう掘削作業実験は、物好きで屈強な肉体をお持ちな男性のプレイヤーさん達にお任せしましょう。
迷宮の壁を壊したら、なにか珍しい素材が出るかもしれませんし、きっと誰かが試してますよね。公式掲示板には、そういったチャレンジャーな精神を持つプレイヤーさんが後を絶ちませんし。
本当に皆さん心からこのVRMMOを楽しんでいる空気があって、見ているだけで応援したくなりますよね。例えば世界の果てを目指して道半ば倒れたあのプレイヤーさんとか。
私もあれ位色々と面白いことが出来ていれば、何かしら検証のお役に立てたかもしれないんですけどね……無駄に目立った行為なら、そこそこの頻度で体験している気はします。嬉しくないです。
おっと、こんな所で一喜一憂して意識を飛ばしている場合では有りませんでした!
棒の加護で指し示された方向には進めなそうですので、先ほど右に来た流れで今度も右へと進んでみる事にしました。延々と右に進み続ければ、いつかは行き止まりに到達するのでは? という……何とも根拠の薄い思考を放棄した理由ではあるんですが。
まず判りやすく一方方向へ進み続ける、というこのコンセプトは私の脳にある道順記憶領域という観念から考えても適切な処置だと確信しております。
『覚えるのが面倒』という単純な理由を、無駄に単語を羅列してそれっぽい言葉に仕上げただけですけどね! それ以上突っ込まないで下さい。泣いてしまいますよ。
右にひたすら突き進む決意を胸に秘め、棒を握り締めて先へと進みます。
少し進むと、なにやら迷宮のスタート地点の様な……丸くて広い場所が前方に存在しているのを確認しました。通路だけじゃなくて小部屋っぽい場所もあるんですねぇ……取りあえず中に進むのはこのコケを剥がしてからで……よし、一応警戒しつつ先に進みましょう。
腰に提げていたランタンを取り外し、通路と部屋を繋げている部分の角を利用する感じで身を隠し、中に手だけ突っ込んで奥の方を照らし出して、何か危険なものが無いか確認します。
床や地面の感じは、やっぱりスタート地点と酷似している様で、上は丸くドーム状になっていて、下はある程度均されたむき出しの石床になっております。
そしてスタート地点と違うのは……こう、あれです、もうあからさまに怪しいと判る、大き目の岩がゴロゴロ沢山転がってるんですよ。
ええ、私にだって判ります。何度も見た覚えの有るあの岩の群生地帯。
近寄ると絶対ゴリゴリと音をたてて、そこらじゅうの岩が集まり始めますよ。
あれは確実に、安らかにご就寝中のゴーレム君でしょう。
試しに部屋の外から、入り口に一番近い岩に対して【風の刃】を飛ばしてみました。
私の予想が的中しているなら、これで何かしらの反応を示す筈……どうだろう?
ゴリっと良い音を発して命中する【風の刃】……数秒後にゴリゴリと動き始める岩!
ほーらやっぱり!
無警戒で侵入すると、ゴーレム君が颯爽と立ち上がって酷い目に遭わされるっていう算段でしょう?
此方に反応している様なので、一旦視線を切る為に通路の奥へと引っ込みます。
あの巨体ではこの狭い通路までは来れない筈! というか来ないで下さい!
ズゴゴと硬いもが擦れる音が鳴り響く中、ゴーレム君のほうへ視線を固定してじーっと待つ事、だいたい10秒程……何やら大きい岩? が部屋の出入口に、ひょいっと振り子の動きで姿を現しました。
ん? なんだろうあれ。
首を傾げつつ、その微細に動いている岩を数秒眺めた後……それがゴーレム君の手首? 部分だと言う事に気が付いた瞬間に、スポーン! とその手首が!
切り離されて飛んで! きましたよ! あっぶない!!
凄いこれロケットパンチ!? ロケット手首かも!? ええいどうでもいい!
こんなの直撃したら、一撃でもれなく移動費無料で町に帰還する権利を進呈されちゃうんですけど!? しまったっ通路に逃げ込んだのは悪手だった!? 逃げ場が殆どない!
今の攻撃は間一髪と言うか、恐らくゴーレム君の狙いが予め逸れていたのが原因なのか、私が屈んでコッソリと部屋を見ていた場所の、左を抜けていったので大事には到らなかったんですが。
このままでは岩が命中して、フワモ煎餅の完成! となりそうな予感。
この場は迅速に逃げねばならぬぅ! 脱兎の如く……脱狐の如く?
第二射が来る前に立ち上がり、警戒しつつ後ろに後ずさっている最中に……射出された手首部分が、何か不思議な力をもってして、結構な速度で本体のゴーレム君に吸い寄せられているのを確認。
……それどうやってるの!? 見えない紐とか付いてるのかな?
そのまま、思いっきり道を戻って、先ほどのY字路に無事到達、壁に背を付けてズリズリとへたり込む感じで地面に座ります。尻尾が足の間から前に出てきていますが気にしない方向で。ついでにモフっておこう。落ち着く……うむ。
それにしてもビックリしたぁ……初めて見る攻撃パターンで反応が遅れた!
武器を地面に置いて水筒を取り出し、何はともあれ一服です。
やっぱり迷宮は怖い所でしたよ。
素材沢山で楽しいー! と若干楽観視していた自分をペチコンして差し上げたい。
※ ある4人パーティの会話 その2※
ハンマー「コイツで終わり!」
魔法使い「今日も冴え渡る我が火炎魔法よ! 素晴らしい戦果ではないか!」
エルフ「回復魔法かけますねー」
ハンマー「ありがとう! お! 一気に魔石が3個も出たよ! はじめて見た!」
ウサギ「迷宮特有の補正、みたいなものが有るのかもしれないね」
エルフ「先ほどから採取してる鉱石も、多めに取れたりしてますよ」
魔法使い「やはり、大いなる力が我らに福音を齎しているのだ!」
ハンマー「はいはい『ラッキーだね!』って事ね」
エルフ「それにしても、狭い通路でゴーレムとの戦闘になるような場面がなくて助かりますね」
ウサギ「ちゃーんと広めの部屋で、戦えるようにしてくれてるみたいだよねー」
ハンマー「そのせいで、ゴーレム待ち伏せがモロ判りになっちゃうのが可哀想だけどね!」
魔法使い「楽なのは善である、そう魔道書にも書いてある」
ハンマー「……本当にー?」
魔法使い「……ランダム発生した特異点による、事象の歪曲が発生した可能性も否定できない」
ハンマー「はっきり『適当言った』っていいなさいな!」
魔法使い「ずごーん」
エルフ「翻訳できるのが凄いです」
ウサギ「私は何となく慣れてきたかも!」




