153 コケを 剥がして お客様
不測の事態(予想通り
空いている左手で足の埃を払いまして、改めて明かりに照らされて浮かび上がった周囲の状況を確認します。多分この迷宮って自然に出来た洞窟と言うよりは、何かしらの手が加わった場所の様ですね。
床が良くある自然洞窟っぽいデコボコ状態ではなくて、ある程度整備された物なのが私の目でも判ります。
そういえば、迷宮のボスを倒さずに戻るにはどうしたら良いのか、未だ方法が判明していない事に気が付きましたので、先に進む前に周囲を確認して戻る方法を模索する事にします。
魔素迷宮入り口からワープして来た場所を基点に、余りあちこち移動しないように心がけつつ……視界だけでグルリと周囲を見回してみます。
すると、大体私が移動してきた場所のほぼ真後ろに当たる位置に、外と同じようにスッパリと途中で切断されたかの様な滑らかな断面を見せている、見覚えのある形状の鍾乳石がドドン! と鎮座しているのを発見しました。
おお、きっとアレで外に戻れるんでしょうかね。一応チェックしてみよう!
明かりを頼りにスッパリ鍾乳石に近寄り、切断面にペタリと手を触れてみますと。
予想は的中していた様で、外と同じ感じでメニュー板が出現しました。
内容は簡潔に一言『魔素迷宮から脱出しますか? はい いいえ』という物。
よーしよし、これで退路は確保出来たも同然ですね!
私がこの迷宮内で迷わなければですが! あからさまなフラグか!
さてさて、このままスタート地点にいても仕方がありませんし、気合を入れなおして少し周囲を探索してみる事にしましょうか。面白そうな素材を発見できると良いのですが。
出入口である鍾乳石から手を離して振り返り、改めて迷宮の先へと延びている通路に視線を向けます。良く見ると、壁も所々何かしらの手が加えられている感じがしますね。
足元を注意しながら壁際や床を調べてみましたが、何やらそこかしこに沢山石ころが落ちているのに気が付きました。コレはもしかしなくても迷宮名に記載がある鉱石だったりするのかな?
普通の石っぽい色ではなく、ゴーレムや岩虫君から取得した記憶のある、鉄鉱石と同じ感じの色合いをもった石が幾つか転がっているのを発見しました。
これはもしかして……金属加工系等の生産スキルを持っている人にとっては、その名の通り宝の山! な迷宮なんじゃないでしょうか? 私には少々恩恵が無い気がしますけれど。
必ずしも、発見者に都合が良い様な迷宮が出現する訳では無いのでしょうから。
うん、仕方がないといえばそうなのですが。
まぁ良いのです! 他のプレイヤーさん達が楽しそうに冒険している姿が見れただけでも、報告してメッセージを全域に発信した甲斐があったという物です!
私には必要ないものかなー? とも思ったのですが、折角ですので鉄鉱石っぽい色の石は拾って保管していくことにしました。おっと、地面ばかり見ていると周囲に対しての警戒が疎かになりそうですので、たまに進行方向へ意識を向けつつ、気をつけて進みませんと。
スイッチ式の落とし穴とかあるかもしれませんし。
迷宮って言うと落とし穴! というイメージが何故か有るんですよね?
なんでだろう。迷宮存在に対する無意識の産物なのかな。適当考察ですけど。
無駄な思考をめぐらせつつ、迷宮のスタート地点周囲の石を、ガシっと掴んではアイテムボックスに捻じ込む……という単純作業を始めて数分が経過した所で……何やら岩壁にコケっぽい物体を発見!
しかも何と表現したらいいのか判りませんが……ああそうそう! あれです!
カサブタをペリペリっとする感覚で、岩壁から剥離出来るんですよ!
その後、アイテムボックスに投入した後にアイテム名を確認してみますと……このコケは【薬効ゴケ】という名前でしたよ……名称からひしひしと伝わってくる、この【調薬】スキル感!
うんうん! こういうのを待ってたんですよ!
思わずフンフーン♪ と鼻歌を奏でつつ、再度鉄鉱石の採取を再開した、ご機嫌状態な私の背後で……唐突に七色の怪しい光が収束しつつ、徐々に大きな存在となっているのを確認しました。
……えっ!? 何々なんなの!? 幽霊の魔物とか出現しました!?
鉱石拾いポーズの中腰で硬直した私の視線の先に……恐らくは他のプレイヤーさん? っぽい格好をした方が姿を現しました。
あれ!? 他のプレイヤーさんと一緒になったりするんだ!?
そのプレイヤーさんはお二人で、壁際で石を拾っている最中の、妙ーに中腰な格好で硬直した私にまだ気が付かない様子で……目をパチパチしながら、迷宮の先に続く通路を眺めています。
一人は右手に大きいハンマーっぽい武器を持った、髪の長い女性プレイヤーさんで……その隣で白い色のローブ? の様な物を身に付けた格好で、両手でギュっと魔法使いの杖っぽい物を持った……こちらも女性のプレイヤーさんでした。
暫くは、私の腰に付いているランタンから漏れ出す明かりに照らされた、迷宮スタート地点を見回していましたが。魔法使いのプレイヤーさんが、照明の光が何処から来ているのか確かめるように、ゆっくりと私の居る斜め後ろに向かって顔を向け。
当然の事ながら……硬直中の私と視線が噛み合います。
ビクリと体を震わせる魔法使いさん。
あーいえー あのー
怪しい者では ごぜーませんですよー
良い狐人ですよーはいー。
少々硬い感じになってしまったかもしれませんが、一応何とか笑顔を浮かべる事に成功した私は、両手に持っていた鉄鉱石をダブルガッツポーズの要領で掴み上げ、顔の両側にもって行きます。
ほらほら、鉄鉱石、鉄鉱石を採取していただけです!
何処からどう見ても、生産を嗜む優良プレイヤーですよ!
怖くないですよ!
私の決死の行動で、怪しくなく安全度が高いと納得してくれたのかは判りませんが、魔法使いさんが隣でいまだキョロキョロと周囲を見ている、ハンマーお姉さんの右手の袖を掴んで、グイグイと引っ張っております。
促される様な動きで此方を見るハンマーお姉さん。再度視線が絡み合います。
どうも、しがない鉱石拾いです。以後宜しくです、はい。
再度訝しげな視線に晒された私は、先ほどと同じ様に鉱石採取中のアピールを開始します。今度は拾った鉱石をアイテムボックスに捻じ込むという、何時も私がしている採取行動の実演も、しっかりばっちり披露いたしましたよ! コレで安心です。
私が魔物ではないという事が判ってくれた様で、ゆっくりと此方に歩いて近寄ってくるお二人。
「こんばんわー」
「あっえっと、ど、どうもです! 採取中です!」
ハンマーお姉さんがご挨拶してきましたので、今何をしているのかを簡潔に述べつつ、ご挨拶をお返ししておきます。魔法使いさんにもペコリとお辞儀をば。
お二人が何やら小声でゴニョゴニョとご相談を始めましたので、何時までも両手に鉄鉱石を持っている訳にも行きませんし、アイテムボックスに収納しますと一旦メニューを閉じます。
汚れているような気はしませんけれど、一応床から石を拾い捲っていましたので、埃を落とす感じで両手をパタパタと擦り合わせておきました。
するとお二人の相談事は済んだようで、ハンマーお姉さんが私に向かって再度お声を掛けてきました。
「パスが掛かってなかったので合流メンバー募集中かなー、と思って来たんですけど、もしかして違ったりしましたか?」
……うん!? ちょ、チョットお待ちくださいね!? 今なんと!?
もしかしてパスワードの有無とはそういう感じで使用する項目なんですか!? そうなんですか!? うわーうわー! これは物凄いご迷惑お掛けしている感じでは! あああああ!
「あっえっと、こういうゲームをプレイするのって初めてでその! パスワードと言うのが良く判らなくて、そのまま無しを選択しちゃったんです、けど、不味かった、でしょうか!?」
「ああ! なるほどそうだったんですか! こちらこそ、変に勘違いしちゃったみたみたいで御免なさいね!」
私の微妙ーにつっかえ気味な応答応対に、眩しい笑顔で返答して下さるハンマーお姉さん。
ああ、これは凄い良い人だー!
第一印象で姉御肌で凄い面倒見が良さそうな方というイメージで固定されました!
もちろんご本人にそんな事は言わず、私の胸の内にこっそりと秘めておきましょう。
※ お知らせという名の懺悔 ※
予約投稿の日付が明日になってたぁー!
まさに不測の事態!(何
やらかしましたスミマセンorz
 




