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閑話 01 ある 男二人の会話

十一話の裏のお話。

三人称です。

ちょっと短め。

 ここはcompound world onlineの運営会社本社ビル三階。

 白を基調とした大会議室に大きな円卓が据えられている。

 臨時でこの場にて仕事をしている十数人の女性オペレーターが、インカムで会話をしつつ事の対応に追われているようだ。


 なぜ大会議室でこのような対応に追われているのかというと、正式にcompound world onlineの相談質疑対応部署が設立されるのが来週となっているためだ。

 

「いやー何気に大盛況じゃないか」


 そういって火の付いていないタバコを唇で揺らしながら、目の前のディスプレイを眺め、無精ひげまみれの一人の男がつぶやく。

 銜えているタバコはこの席に座った際、癖で取り出したは良いものの、この大会議室は禁煙であったため行き場を失ってしまっていた。


 彼のつぶやきに反応して、男の右隣に座っていた眼鏡をかけた痩身の男性が顔を上げる。

 独り言だと思われた先ほどの台詞は、横に座っている同年代の男へ向けた言葉だったようだ。


「まぁ、ようやくここまで来たか、と感慨深いものがありますね」


 無精ひげの男の隣に姿勢正しく腰を据えている男は、全く表情を動かさず、かけていた眼鏡の位置をクイっと持ち上げ調節する。


「最大負荷状態での稼動も問題なさそうだし、良かった良かった」

「開始時に大量の同時インが見られましたが、遅延等も発生していないようです」


 眼鏡の男は自分に割り当てられたディスプレイを眺めつつキーボードを叩く。


「まぁ開発に大分時間つかったからなぁ」


 そういってニヤリと笑った無精ひげの男は、火の付いていないタバコを器用にタバコの袋へと戻し、うーんと大きく背伸びをする。

 バキボキ、と骨のなる音がオペレーターの声以外に殆ど音の聞こえない大会議室へ響く。


「プレイヤーとして乱入したいんじゃないんですか?」


 ディスプレイから目を離さずに眼鏡の男が問いかける。表情は全く動いていないが、少量の疑問がその言葉の裏にこびり付いているのが、長年一緒にやってきた無精ひげの男は理解できた。


「なんつーかさ、完璧にネタの判ってるゲームは楽しめない性質なんだよね俺」


 眼鏡の男の質問にそう答えると、無精ひげの男は少し残念そうな顔をして、自分の目の前にあるディスプレイに目を向ける。そこに表示されるのは街中を闊歩する様々な姿のプレイヤー達。


 そこに映し出されたその光景は、自分でプレイできない悲しさを紛らわすために、と表示させているリアルタイムで映像処理された稼働中VRゲーム内の状況であった。


「攻略は見ないタイプですか」

「俺はどうしても判らないときは、攻略サイト見るよりは知り合いにそれとなーく、聞きにいくタイプかな」

「それ、大して変わらないような気がするんですけど」


 眼鏡の男がディスプレイから顔を上げ眉をしかめる。


「まぁ気にすんなよ!」


 大雑把な性格なのであろう無精ひげの男は、眼鏡の男の右肩をバシリと叩くと右手側においてあった未開封の缶コーヒーに手を伸ばす。


 そのタイミングで唐突になりだすアラーム音。

 無精ひげの男はコーヒーに口を付けながらディスプレイに目を向ける。


「ん? 判断難易度Exの問題来たか。まさかバグでもあったか?」

「稼動初日ですから何があってもおかしくはないですよ」


 眼鏡の男がそう返すと、無精ひげの男は缶コーヒーの中身を一気に半分口に放り込み、ガリガリと頭を掻き毟る。

 取り外していた会話用インカムを頭に引っ掛け、統括AIからの報告を確認する。

 しばらく口を歪めて眉をしかめつつ報告内容を聞いていた男の口から、先ほど口に含んだコーヒーが噴出しそうになる。


「げっほごほ! 採取と自由行動?」


 咳き込んだ男は外れかけたインカムを付け直し、報告内容をもう一度復唱させ、しっかりと把握する。

 

「おいおい、チュートアルで早速採取開始とか! どんだけ持ってくつもりだよ! 生産がんばれ! うはは!!」

「イレギュラーに対して、嫌になるほどご機嫌ですね……」


 隣で作業していた眼鏡の男が、心底面倒くさそうな表情でため息をつく。

 無精ひげの男にはその言葉は届いていないようだ。


「うん、採取散策はOKだって伝えといてくれ。そうだな、理由としては『運営が自ら千差万別、多種多様のプレイを謳っている以上、初日早々に起きた異例の事態とはいえ『チュートリアルだから』と突っぱねるのは夢が無さ過ぎるし、なにより楽しくない!』って感じでどうよ? それっぽいだろ? それじゃ後の対応はよろしく!」


 無精ひげの男はそう伝えるとインカムを頭から引き抜く。先ほどまでのつまらなそうな表情は息を潜め、にやにやと笑みを浮かべ始めた無精ひげの男に眼鏡の男が問いかける。


「ほんとに良いんですか? 主任」


 聞こえていた内容から有る程度なにが起こったのか把握した眼鏡の男が、無精ひげの男……プログラム主任に確認の声をかける。

 男はコーヒーの残りを一気に消費し、また癖で懐からタバコを取り出した時点で動きを止め。

 そっとそれをポケットに戻す。


「まぁ、問題ないだろ? パッとデータの流れ確認してみたけどバグでもチートでもない訳だし」

「でも確かチュートリアルのフィールドって、楔の島のマップの流用でしたよね?」


 目まぐるしい速度でキーボードを操作しながら眼鏡の男が眉をひそめる。


「大丈夫だろ、採取って言ったってどうせ時間がたって、ある程度攻略が進んでくれば入手出来るものばかりだし。初日に持ってるってなるとちょいとレアリティ高いけどな……ああー巫女の先着報酬があったが……確か壊れ性能の装備は無かった……筈だし良いだろ!」

「まぁそれを言ってしまうと、例えばゲームクリア報酬を初日に受け取ってもOKという話になりますが?」

「んなぁこまけぇこたぁ良いんだよ、ゲームは楽しまなきゃな」


 空っぽの缶コーヒーをカツンとテーブルの上に置いたプログラム主任は、腰を動かして椅子に座りなおす。


「それにチュートリアルは第二陣がきたら削除する予定だったろ」

「まぁそうですが……」

「今やってるチュートリアルは、二陣が来る前のアップデートで実装する『訓練所』で必要になるデータの収集が目的だからな!」


 そういうとプログラム主任はにやりと笑う。ヒゲまみれではあるが年齢はさほど行っていないようだ。


「招待制で正式サービスとみせかけて、こっそり裏でデータ収集とかどうなんですかねぇそれ」

「ゲームとしては自信を持って送り出してるんだから問題ないだろうさ。開幕早々課金要素前面に押し出してるわけでもないしな。データ収集して随時調整、皆様のチュートリアルに対してのご意見反映してます! って感じだろ?」

「それ、言ってる方に都合が良すぎる気がしますけどね」


 そういってため息をついた眼鏡の男はそれ以上言及せずに仕事を再開する。

 どうやらこの手の言葉の応酬は二人には日常茶飯事のようであった。

しばらくは一日~数日空きの不定期更新になりますー

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