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144 もってて 良かった ポコ豆

豆+鳥=混沌

 一番最初に降りてきた大きい鳥を中心に据える様に、それよりも一回りサイズの小さい鳥が周りを取り囲むような形で、何故か私の方を何か気にするかの様な雰囲気でじーっと見ております。


 金縛り状態のままたっぷり10秒程経過したでしょうか。

 その後、何故かジリジリと寄ってくる鳥の団体さんにもう声もありません。


 何故にガッチリと隊列を組んでこちらに寄ってくるのか……動きは普通に寄ってくる小鳥っぽくて地味に可愛い感じがするのですが。うんサイズがでかい、でか過ぎる……これはもう私は駄目かもしれません。


 置きっぱなしで【死に戻り】したら、ココに破棄した事になってしまうかもしれませんので、先ほど取り出したまま横の岩の上に置いてある水筒を、ギシギシと身体の関節を強引に動かす感じで掴んで、小声で【ボックス収納】を宣言、しっかり忘れずに回収しておきます。


 さあ、これで刺激的な帰還手段を試みる準備は整いました……ああそうだ、これってある意味で羽毛天国に飛び込めるのですから、その時は出来れば笑顔で迎える様にしましょう。

 行きがけの駄賃です! 折角ならばギリギリまで堪能してくれるわ!


 私が脳内である意味悟りを開きつつ、一丸となって此方にワサワサと微速前進してくる鳥の集団に、諦観の視線を向けておりますと……一つ、おかしい事に気が付きました。


 鳥達の視線が……私に直接注がれていると言うよりは何か違う所に……あれっチョット待ってくださいよ!? これもしかして?


 私は左手に持ちっぱなしにしていたポコ豆の袋を、すすーっとゆっくり頭の上に持ち上げてみました。すすーっと移動する鳥達の視線。

 今度は下に動かすとそれに追随する様に首を動かしつつ、鳥達がまたこちらに寄って来ました。

 なになに何ですか!? 君達ポコ豆食べたいの!?


 取りあえず、現在残っているポコ豆残量を確認する為に、袋の口を大きく開けて中を覗き込んで見ましたが、迫り来る鳥集団全員に行き渡らせるとしても……恐らくは一羽に対して数個程度になりそうです。


 こ、コレで満足してくれるのなら儲け物なのですが、どうだろうか?

 ええい、尻込みしていても仕方がありません! ココは一つ気合で!


 袋に右手を突っ込んで一気に豆を掴み、ついに手が届きそうな距離で私を取り囲み始めた鳥達の、大体足元辺りにパラパラっと振り撒いて見ました。ポコ豆つぶてを喰らえ! ちゃんと食べると言う意味で!


 途端にワラワラと群がる鳥の大群! おひょー!?

 痛くないけど! 羽毛モコモコだけど!


 ちょ、ちょっと強烈過ぎませんかね!? ぬぁー!

 一羽のサイズが大きいから、完全に羽毛の海で荒波に揉まれている様な状況にっ!?

 ……あーっこらキミ! 袋に顔を突っ込むんじゃない! 直に食べないのー!


 なんとか腕は動かせる状況なので、もみくちゃにされつつも、直に食べられないうちに第二射目を投射します。貧弱な腕力では余り遠くへと飛ばせないし、この状況だと思い切り振りかぶれないので、結局また足元あたりにばら撒く事にします。凄い勢いで豆を啄ばむ鳥達。キミたち元気だね……


 右手を袋に突っ込み、ポコ豆第三射目を投射した頃には袋の中身がほぼなくなっている状態に。

 ああーやっぱり半分位しか残っていなかったから、あまり食べさせられなかったですね。


 残っているポコ豆の方向に向かって、あっちへ移動したりこっちに移動したりしていた鳥達、私が袋をひっくり返して残っていた少量のポコ豆を右手に持ったタイミングで、何故か全員同じタイミングでピタリと動きを止めました。あれ? みんなお腹一杯になった?


 この後、私を啄ばむ算段でも視線で語り合っているのでしょうか?

 出来れば生還したいんですが如何でしょうかね。


 全身細かくて柔らかい抜けた羽毛まみれになっていた私は、ばら撒いたポコ豆がどうなったか確かめるため地面を見回してみたのですが。もう生き残っているポコ豆は存在していない様ですね。

 君達食べるの早くて綺麗で、かつ器用に一個づつ全部残さず啄ばんだのかね。


 あんな細くて鋭いクチバシで、何とも上手に食事が出来るものですね。


 最後に残った一掴み分のポコ豆も、辺りに撒いてしまおうかなーと思っていたのですが、何やら様子のおかしい鳥達が気になったので一旦行動を停止して、周囲を見回して確認します。

 何か脅威でも迫ってきているのでしょうか? 大いなる敵が現れたとか。


 岩の上の座ったままで、辺りをざっと確認してみましたが……特になにか変化があったようでは有りませんでした。何だったんだろうと思っていたら、ささっと二つに割れる鳥の塊。


 開けた場所から先ほど一番最初に降り立ってきた大きい鳥が、ゆっくりとした動きで此方に寄ってくるのが確認できました。ああ……これはついに最後の時が近づいてきているのでは無いでしょうか?


 判決を待つ被告人の気分で座った私が、一歩一歩と此方へ近寄ってくる鳥の動きに注目しておりますと……あれ、そういえばさっきの鳥の塊地獄の中に、キミ居なかったよね?


 鳥の集団に揉みくちゃにされている時の状況を、今一度思い返してみましたが……半分以上視界が羽毛と翼で埋まっていた記憶はありますが、やっぱりこの一番大きい鳥はあの狂乱の宴に参加していなかったはず。


 となると……私は残った右手のポコ豆に視線を向け。

 正面で私を見下ろしている大きい鳥に差し出しました。


 ええ、もう観念しておりますのでどうぞどうぞ、ご堪能下さいませ。


 手のひらごと突かれてしまうのでは、という気持ちで恐る恐るポコ豆の乗った手のひらを正面に突き出したのですが、その手の上から器用に豆だけをクチバシで素早く正確に一部の隙もなく、あっというまに全部啄ばんでいった大きい鳥さん。なんというクチバシ捌きですか。コレは強い。


 一応左手のポコ豆が入っていた袋をひっくり返して『もう無いですよー』というアピールを、最後にしておく事を忘れない様にします。いや実際もう在庫ないですし。


 私がバサバサと袋を逆にして振っている様子を、じーっとその鋭い目で観察していた一番大きい鳥さん、ふいっと顔を横に背けると近くに居たサイズの小さい鳥に向かって、小さくて短い鳴き声を出しています。

その鳴き声を受けて、周囲を取り囲んでいた鳥壁の中から一羽の鳥さんが進み出て、大きい鳥さんの近くに寄ってきます。な、なんでしょうかね?


 下手に動いて刺激してしまうと逆に危なそうですので、取りあえずこの後何が起こるのかを、大人しく観察する事にします。既に覚悟は完了しておりますので大丈夫。痛いのはなるべくノーサンキューですけど。


 一応羽毛でひゃっほい! する事は出来ましたしね! 中々に暴力的な接触でしたけど!


 近寄ってきた鳥は大きい鳥の後ろの方へと移動すると……なにやらゴソゴソと行動しております。

 正面に居る大きい鳥が視界を遮っているせいで、先ほど呼ばれて寄ってきた鳥が何をしているのか良く判りませんね。


 その後、さほど時間も掛からずに私の前に戻ってきた鳥のクチバシに、何やら長くて綺麗な羽? が一つくわえられているのが確認できました。あれ、何処から持ってきたんだろう……あっ!? もしかしてさっき大きい鳥の後ろでモソモソしてたのって、アレ引っこ抜いてたの!? 痛くないの!?


 私が自分の後頭部あたりの髪の毛を、プツっと一本引っこ抜かれる状況を想像して身悶えていると、その羽をクチバシで受け取った大きい鳥さんが、岩の上に座った状態で大人しく待っていた私の膝の上に、それをヒョイっと置いてきました。


 ……うん? これはーえっと? 私が貰っても良いってこと?


 周りで円陣を組んで私を眺めている鳥達をビックリさせないように、ゆっくりとした動きでその長くて綺麗な青っぽい色をした羽を右手で摘み上げます。

 指で撫でると滑らかで柔らかい手触りがしますね。何処の羽でしょうね。


 私が羽を手で摘み上げたのを確認した大きい鳥さん、短く鳴き声を上げると周囲をグルリと見回しました。その動きに追随する様に、周囲に集まっていた鳥達が順次空へと飛び去っていきます。


 この流れは……何とか命拾いした感じでしょうか!? 助かった!


 持ってて良かったポコ豆! 流石メディカさんのお菓子だ! 鳥にも大人気!


 周囲の鳥が全部上空へと帰っていった後、私の目の前で大きい鳥さんがブワサっとその大きい羽を広げました。や、やっぱり大きいなぁ……羽を広げた状態は、既に私の身長と同じ所の話じゃ無いくらいの威圧感で。私くらいのサイズの相手なら、その足で引っ掴んで上空に持って行かれてしまうのでは、と思えるくらいには凄い雰囲気です。


 あっそうだ! 一応【従魔】スキルを試させて貰おう……かな!?

 怒られたりしないよね!? だ、大丈夫かな?


 でも折角のチャンスですので【従魔】スキル使用を宣言、思い切ってスキルを大きい鳥さん相手に発動させてみます。ど、どうでしょうか?


 スキルの反応に気が付いたように、ヒョイっと此方に顔を向けた大きい鳥さん。

 此方に向き直るとバサァッ! と一度大きい羽ばたきをしました。


 途端に私の方へと吹いてくる強い風。のわー!? おわっとっと!?


 唐突に強い空気の壁に押された私は、座っていた岩からズルリと滑り落ちて背中を打ってしまいました。あいたた。結構強めにビターンしてしまいましたが、それほど痛まないのがVRゲームのいい所。


 急いで起き上がると、正面で私の方を見ていた大きい鳥さんがヒョロロロ、とあまり大きくない鳴き声を出しつつクリクリと首を左右に動かしていました。これは……笑われていますね?


 そのタイミングで、ポン♪ という音と共に私の正面に現れるメッセージ板。

 うわぁ!? もーまた唐突に出てくるー!


 メッセージ内容を確認しようとした矢先、地面に正座している状態な私の前で、再び姿勢を正した大きい鳥さんは、バサリと大きく羽ばたくと凄い速度で飛び去っていってしまいました。あーさようならー!

 見逃してくれて有難うねー!


 おっと、早くメッセージの方を確認しないと! 明日のメンテナンスに関する情報とかだったら、しっかりと確認しておかないと危ないからね! どれどれー?


 半透明な板に書いてある文章内容を目で追いますと。


『【二つ名】持ちの魔物に対して【従魔】は効果を及ぼしません ご注意ください』


 ……うん!? あの大きい鳥は何やら名高い存在だったの!?

 ポコ豆で一応懐柔はできたのかな? 捧げ物を差し出す感じで。

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