142 置き去り 作戦 成功です
駆け抜ける(動悸息切れ
取りあえず、視線が合ってしまうと気まずい感じですので、しばらくは軽く俯いた状態で後ろを振り返らずに足早に山道を進みます。ありがたいことに周囲に動く影は見当たらないみたいです。
ある程度進んだかな? と思える場所まで進むと、コッソリとフードの端っこから横目で後ろを確認してみました。どうやらアチコチに点在する岩のお陰で、先ほどの方々の視線はもう私に届かない状態になっている様です。よし、精神的窮地を脱する事に成功した模様です!
思わずほっと一息ついてしまいました。
どうも何といいますか、別に悪い事はしていないと思うんですが、無駄に緊張するんですよね。
良いんです、これからも無駄に目立ち過ぎない様に、ゆったりと密やかにVRゲーム世界で生きていくのです。でもそのうちで良いので、何かしらパーティで冒険する事にチャレンジしてみたいですね。
きっと各地の素材アイテム採取の旅! とかになるんじゃないかな。
脳内で想像してみると、中々楽しそうな雰囲気を感じる事ができます。想像の中だけですが。
うう、微妙に気持ちが沈んでしまいました。
自分の想像で勝手に落ち込むとか豆腐メンタルですね。ぐぬう。
気分を変えるために、アイテムボックスからポコ豆の袋を取り出して軽く摘みます。ぽりぽり。
中身が半分位になっちゃってますね。この遠征が終わったら買い足しておきましょう。
それにしても、本当にこの辺り一体岩だらけで周囲の確認が難しいですね。
何と言いますか、ゴーレム君の為にあるような場所という感じがします。ゴーレムの名産地。
金属素材を集めたい人にとっては、ある意味お宝満載の夢フィールドなのかもしれません。
そんな事を考えつつポコ豆を消費しておりますと、山道の左側のあたりで岩が動き始める気配を発し始めました。ぐわー! また現れましたねゴーレム君!?
素早くポコ豆をアイテムボックスへ収納して、腰に提げている棒武器を引き抜きます。
しかし、先ほどプレイヤーさんと出会った場所から余り距離を取れているとはいえない、この場所の微妙な位置関係。
ここで戦闘を開始してしまうと、恐らく確実に後ろから進んでくるあの4人パーティの方々と、接触事故を起こしてしまいます。有り体に言うと後ろから追突です。
条件反射で取りあえず武器を構えたは良いものの、そんな事を脳内映像として思い描きつつ、どうしたものかーと逡巡しておりますと、みるみるうちにゴリゴリ組み上がって行くゴーレム君の頑丈な身体。
うーむ、先ほど戦った相手とはまた組みあがった後の形状が違いますね。
今回のはなんと言いますか、背が高めでスレンダーな感じ。
そうだ! ここはあの手段で行きましょう! というか今咄嗟に思いつきました!
細長いタイプの岩が集まり組みあがったゴーレム君の、恐らく位置的に腰の辺りだと思われる場所に『◎』マークが表示されたので、振り向かれる前に背後から急いで近づいてガツン! と棒で叩きます。
私の攻撃を受けて、グラリと背中を逸らすようなポーズを取ったゴーレム君。
ズズンと尻餅をつくように倒れました。
危うくダウンに巻き込まれる所でしたが、間一髪回避する事に成功しました。冷や汗物ですよ!
そして、この後私が取る行動といえば!
そう、つまり戦えないなら放置すれば良いのです!
一目散にこの場所から逃亡するのですよ! つまり俗に言う逃げるが勝ち!
倒れた状態で動きを止めたゴーレム君の脇をすり抜けると、小走りでその場を離れます。
大体10メートル程離れた所で岩陰に隠れた私は、岩と岩の隙間からコッソリ顔を半分だけだす感じで、ダウンさせたゴーレム君の動向を観察する事にしました。
た、多分コレだけ離れたら向こうも諦めて……くれるよね?
私が隙間からゴーレム君に視線を向けてから数秒後、再起動を開始したゴーレム君。
周りを確認するようにゴリゴリと身体の向きを数度変更した後……バラバラと身体のパーツを分解して、恐らく私が近寄る前と同じ状態になって地面に散らばりました。
……その後、頭の中でゆっくりと10数える間見続けてみましたが。
スレンダーゴーレム君が、再度動き始める気配はありませんでした。
よ、よし! 名付けて『転んでいるうちに置き去りにする!』作戦成功かな!?
ごめんよーゴーレム君、私は金属素材を取りに着たのでは無いのですよ……むしろ硬そうな鉱石類ではなくて、柔らかそうな何かを入手するべくココに来たのです。君の相手は出来るならば次回で。
早足と駆け足のダブル移動が続いて、スタミナゲージが大分減っていた様でしたので、軽く休憩してから再度先へ進むことにします。岩の隙間に陣取っていますので景色を眺めたりは出来ません。
仕方ないので、唯一視界が通る青い空を見上げました。
あー天気いいですねー……でも、ちょっと日が傾いてきた感じがしますね。
ああーそうか、夜になったらどうするか、今のうちにしっかりと決めておかないといけませんね。
リーナさんから頂いた結界アイテムを使用するのは確定として……一旦ログアウトして朝になるまで時間を潰すか、それとも夜も何かしら活動するか。
携帯ランタンをお借りしているので、日が落ちても行動出来るとは思うのですが。
ああそうだ! この際ですし、このVRゲーム内にログインした状態で『睡眠』を取る事が可能なのか、そこの所を自分の身体で実験してみるのはどうでしょうかね?
もし無理ならばログアウトしてしまえば良いと思いますし。うむ、我ながらナイスアイデアでは。
おっと、空を眺めつつ色々と考えていたらスタミナ回復が完了しましたね。
休憩を切り上げて先を急ぎましょうか!
その後、数回に渡り色々な形状のゴーレム君に遭遇したのですが、全部『転んでいるうちに置き去りにする!』作戦を敢行してスルーすることに成功しました。そのたびにスタミナのゲージが悲鳴を上げるので色々大変でしたが。無茶をしている感が満点ですね。
あとですね……良く考えると先ほど出会った方々に、放置したゴーレム君を押し付けている様な感じなのでは!? と結構な距離を進んだ後でちょっと申し訳無い気持ちに。
逃亡手段を取ったのは計画的犯行ですが、あれです、押し付けるつもりでは無かったんですよ?
動いている状態のゴーレム君をわざと擦り付けたりしていないから、一応セーフなのでしょうか。
ううううう、こういう場合のマナーってどうなっているんだろう?
MMORPGマナー虎の巻とか無いんですかね!?
書店販売税込み1980円位までなら、余裕で購入しちゃう自信がありますよ!?
ああう、今頃私の事を噂しているかもしれません……ゴーレム叩き捨て狐人とか、実は嫌がらせを敢行する為に先に登っていったんだとか。そんな感じの。
うぐぐ……大丈夫かなぁ……不安です、物凄く不安です。
やっぱり今から戻って倒した方が良いのかな、あーでももう戦闘が始まってる可能性が!?
駄目だ、一度考え始めるとネガティブな方へドンドン思考が流れていってしまう! ええい! 次からは倒す様にしよう! そうしよう!
……と、そう決意したのは良いんですが。こういう時に限って出てこないんですよねゴーレム君。
空気読みすぎじゃないかなゴーレム君よ。いやまぁ、戦闘せずに進めて楽なのは非常ーにありがたいんだけれどもね。素直に喜べない私。
思わずため息が出ます。こういう時はあれですね、セルフ尻尾で癒しを求めましょう。
……うん、今日もモフモフです。ちゃんとお手入れしている甲斐がありますね。落ち着ける場所に着いたらまたブラシでお手入れしてあげよう。
その後、暫く進んでいくと山道の左側が切り立った崖になりました。
覗き込んでみましたが、落ちた先は木々が生い茂って森になっている様で、下がどうなっているのか良く確認出来ません。うん、取りあえず足を滑らせて落ちないように気をつけましょう。
まぁたとえ足を滑らせたとしても、ネックレスの落下制御パワーで大事には至らないとは思いますが。折角ここまで登ってきたのに、落ちたらダイナミック下山になってしまいますので!




